英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

電王戦雑感 その6「電王戦のシステムなど」

2014-04-29 20:40:40 | 将棋
第2回電王戦からの変更点
①統一ハードウェア
 出場ソフトは主催者が用意した東一のハードウェアを使用する
②対戦ソフト研究
 プロ棋士が、本番と同じソフト&ハードで事前に練習対局できる環境を主催者側が用意する。開発者はソフト提供後、プログラム変更ができない。
③持ち時間
 プロ棋士とコンピュータの持ち時間は、それぞれ5時間のチェスクロック方式。使い切ると1分将棋。


 ①については、プログラム等に関する知識は皆無なので、見当違いのことを言っているのかもしれない(用語も誤用の可能性あり)が、あえて述べさせていただく。
 「人間対コンピュータ」という視点においては、コンピュータのマシンパワーに制限を設けるのは公正じゃないような気がする。ただ、あまりにもコンピュータのパワーが強大だと、抵抗を感じてしまう。今回供給されたマシンでは1秒間に400万局面、手の深さとしては20手~30手先に相当とのこと(YSSに於いて)なので、人間にとっては十分すぎる脅威なので、適正に感じる。
 横道に逸れるが、「コンピュータソフト対コンピュータソフト」だと、使用するコンピュータに差があるのは「ソフトを競う」という観点で公平ではないように思える。ただ、「クラスタを組んで読みのスピードを上げるというのも、プログラムの技術である」という考え方も一理ある。ただ、将棋ソフトのプログラムとは別の技術のような気がする。
 ちなみに、統一ハードウェアにした主旨は「ソフトが再現できること」だそうだ。かつてチェスの世界チャンピオン・カスパロフを破ったディープブルーは、その後解体されてしまい、再戦は実現しなかった。ある程度のコンパクトさがあれば、たとえば、2020年の小学生名人が「2014年に屋敷九段を破ったポナンザ」に挑戦という企画も可能である。
 もっと突き抜けて考えると、羽生三冠とコンピュータソフトとの対戦が実現し羽生三冠が勝利したとして、その30年後に21世紀最高の天才が表れて、そのコンピュータソフトと対局する……なんてことも可能である。

 ②については、この制限はソフト開発者にとってはかなりのプレッシャーになったようだ。
 ソフトを徹底的に研究されて、ソフト(プログラム)の弱点や穴を見つけられてしまったらアウト。それは避けるため、指し手にランダム性を加えたい。しかし、「電王トーナメント」から1週間でうまく組み込めない(バグが生じる可能性がある)。そもそも、指し手のランダム性は対勝負強さにおいては有効だが、将棋の強さにおいては必要ない要素であろう。
 主催者としては、電王トーナメントとで勝ち上がったものと別物のソフトとなってしまっては、トーナメントの意義が薄れてしまうと考えたからのようだが、どんな世界でも予選を勝ち抜いてからの進歩が大きな要因なので、こだわる必要はない。
 今回、立候補した棋士から選出している。立候補してソフトの穴を突くようなことはしないとは思うが、対人間用の調整期間をしっかり設けるほうが良いように思える。
 棋士にとっては、本番と同じソフトを事前に体験できるというのは、相手の棋風やクセ、得意な戦型などを研究できるのは有難い。戦型を絞り込めるのも大きい。

 ③については、変更の動機は、「ソフトは設定すれば上手に切り捨ての59秒を利用できるので不公平になる」というものだが、これは真剣に考えなくてもいいだろう。59秒にこだわると、読みを打ち切って妥協する回数が増えるのではないだろうか。
 チェスクロック制にすると、その心配は解消できるが、正味の時間が減ってしまう。そこで、考慮時間を1時間増やしたわけだ。持ち時間が1時間増えたと言っても、チェスクロック使用(1分未満の切り捨てなし)なので、実質はそれほど変わらない。棋士は普段と時間の減り方の感覚が違うので、変更なしでもよかったのではないだろうか。
 「持ち時間は長い方が有難い」という考えが多数派のようだが、渡辺二冠は、「人間同士だと自分がミスしても相手もそのあと間違えるから、その1回のミスが致命傷にはならない。しかし、ミスのないコンピュータ相手だと、その1回が許されない。その緊張感が夜まで続くかどうか」という理由で昨年の4時間でも長いくらいだと述べている。
 余談になるが、渡辺二冠は
「自分は夜の9時、10時までは無理(集中力が続かない)。遅くとも7時には終わってほしいし、それ以上は続けてもパフォーマンスは落ちると思う。
 終局が夜7時を過ぎるのなら、2日制にした方が人間のパフォーマンスは上がると思います。いったん読みは途切れてしまうけど、しっかり休んで翌日を迎えれば、また中盤から終盤を乗り切れる集中力が戻るので。朝から夜遅くまで、ノーミスで乗り切れっていうのはきついですよ」
 これは「人間対コンピュータ」の一般論を言ったものだと思うが、なんとなく、渡辺二冠が竜王戦七番勝負に強くて、順位戦はそれほどではないという現象に合点がいく。

 その他の電王戦のシステム(ルール)であるが、対局場が適当であったかどうか?
 興業的には人目を引き成功と言えるが、プレッシャーを感じているうえ、指し慣れていない環境、しかも、相手は“電脳手くん”(ロボット)。長時間、この環境では、プロ棋士とはいえ、平常心で指し続けるのは難しかったのではないだろうか。

 出場棋士の選出についても不満が残る。
 今回、対局場の設定はあるものの、前回よりは棋士に緩めのシステムであった。なので、連盟としては何としても勝つ必要があったはずだ。
 なので、最強メンバーとまではいかなくても、豊島七段クラスの若手トップを並べるくらい必勝を期すべきであった。前回も不満だったが、全盛期を過ぎた九段というのは悪手である。世間的には「九段」=「将棋がものすごく強い大御所」である。その辺り、連盟は認識が甘いと言わざるを得ない。

 出場棋士がすでに決定していた竜王戦の解説の場で、「リレー質問」というコーナー(前日の解説者からの質問を答える)があって、解説者の羽生三冠に、田中寅彦九段から「電王戦へはいつ出たいですか?」という質問があり、
「分かりません!ハハハ…」
とやや強い口調で答えた。さらに、
「そんなこと聞かれても、わかるわけないじゃないですか?ハハ、ハハハ…」
と重ねて述べた。聞き手の藤田女流が
「羽生先生の意思だけでは、決められないことも多いですからね」
と、とりなそうとした言葉に
「それはそうでしょうね。谷川先生に聞いた方がいいかもしれませんね」
とにこやかに答えていたが………

 邪推すると……
 羽生三冠、電王戦に立候補したのじゃないかな?
 これを理事会は止めたか、スルーして選出しなかった。
 なのに、理事会の立場にいると目される田中九段(前専務理事)にこんな質問をされて、羽生三冠もムッとした。
 藤田女流の話の向け方もせいもあったが、谷川会長の名も出してしまった……


 すごく悩ましい問題ではあるが、
現在の羽生三冠、森内竜王・名人、渡辺二冠とコンピュータソフトとの将棋を見たい
気がする。
 羽生三冠がコンピュータに敗れ去るなんて絶対見たくはないが、どんな将棋が繰り広げられるか……好奇心が強い。羽生三冠が敗れるのなら、仕方がないんじゃないか。

 「その3」でも触れたが、ボナンザ開発者の保木氏が、渡辺竜王が電王戦出場の意思をほのめかした場面で
「それは今すぐにもやってほしいですね。今年ならまだ渡辺先生がガチンコでやれば勝つ可能性が高いですから」
と、不敵?意味深?な発言をしていた(対談は今年の1月16日)。
 だとすると、ここ1、2年しかチャンスはない。


 もう、この際、棋士20人、将棋ソフト20の対抗勝ち抜き戦にしてはどうだろうか?
 
コメント (2)
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