コロナ禍などでの需要の低迷や、餌の価格高騰で苦境に置かれている酪農
国はこれまで、大規模化や効率化を進め、生産量を増やす政策をとってきた。
しかし、去年(2022年)11月、需要と供給のバランスをとるために、乳牛を減らすことを促す政策を新たに打ち出した。(政策の方針を180°転換した)
――由利本荘市の酪農家の場合――
3年前、5億円余で牛舎を新設し、搾乳ロボットなどの最新機器を導入
……牛の乳頭をレーザーで探し当てて、すべて自動で搾乳し、首輪に取り付けたセンサーで牛の動きを把握する。モニターで示されるデータで“反芻”や“行動”を把握する……
……夢と希望に満ちていて、いよいよこれから始まるという高揚感を感じていたが……
後押ししたのは、国の“畜産クラスター事業”
――畜産の大規模化や効率化を進めるため、飼育する牛を増やした酪農家に補助金を出す――
この酪農家さんも、飼育する牛を約2.5倍のおよそ300頭に増やし、補助金を受けた。
ところが、国は去年、生乳の生産抑制の政策を打ち出した。
新型コロナウイルスの影響もあって、牛乳や乳製品の消費が落ち込んでいるため、
――乳牛を1頭減らすごとに15万円の奨励金を出す――
「(国は)目標として《増産しろ》と言われ、皆がそれに向かって頑張ろうとやってきたものが
ちょっと情勢が悪くなって、耐えられなくなってくると、減らそうと……
………どうしたらいいのか……」
牛を減らすかどうかの選択を迫られた……
……《奨励金を受け取っても、経営状況は改善しない》と判断し、牛の頭数を維持することを決めた。
しかし、円安やウクライナ侵攻の影響で、飼料や燃料の価格が高騰。
1ヶ月にかかる飼料価格が1年前より300万円以上増えていて、生産を続けても赤字が膨らんでいく……
「従業員の生活もあり、経営者の責任もある……
これからどうするか、先が見えない。どうしていったらいいのかなあ?」
重要な副収入である子牛……1ヶ月で15,16頭生れてくる
今は、子牛も買い手が見つからない。値段の付かない子牛もいる。
ホルスタインの牡で1頭17~18万円だったのが、今は1万円しないとか、1000円とか……最悪1000円でも買ってもらえない。
来年の夏以降は、新牛舎のために受けた数億円の融資の返済も始まるという。
逆方向の政策を採ったのは何故か?
農林水産省は
《新たな政策は、消費が落ち込む中で生産を抑制して需要と供給のバランスを採るための一時的な措置》で、
《大規模化・効率化を進め生産量を増やす目標は、今も変えていない》と説明
「牛を簡単に減らしたり増やしたりできるものではない」という生産者の声に対して
農林水産省は
《酪農の現状は理解している。
だからこそ、直近の経営を支援するために奨励金を出すことにした》
《牛を減らせば、その分の飼料や経費も減り、一定の支援になるはずだ》
《需要や供給のバランスをとるために、生産の計画を立てるのは生産者団体であって、国はあくまでそれを支援するのが役目》と主張
専門家は
「酪農家が安定した収入を得られるようにするためにも、国が緊急措置として一時的に生乳を買い入れて調整する仕組みを導入するべきだ」と指摘している
東京大学大学院・鈴木宣弘教授(農業経済学が専門)
「“目の前の需給バランスが崩れると、それに対して非常に短期的な視点でいろんな要請をする”というのが政策の特徴である。
それに酪農家が振り回されている感が否めない。
需給のバランスが崩れた時には、政府の責任で酪農家・メーカーから買い上げるなど、最低限の需給調整をやるということが必要である」
解説記者(取材者)
「生産コストの増加に見合うほど牛乳などの価格に反映できていないというのが現状である。
今後、もし価格が上がったとしても、牛乳を手に取るときには、“多くの酪農家が廃業の危機に追いつめられている”と言うことを思いを馳せられたらと思います(“高い”と文句を言ったり、棚に戻さないでくれ)←私の意訳」
キャスター
「もちろん、応援したいという気持ちはあります。ただ、この物価高の中で、消費者の負担にも限界があると思うんですよね。
そんな中で価格を上げて、もしも販売が落ち込むとなったら、また、生産者にとって大変なことになってしまうのではないかと思うのですが」
解説記者
「それは一番難しい問題だと思います。
今回取材の中で印象に残っているのは、《牛乳は蛇口をひねったらすぐに出てくるわけではないんだ》という酪農家の方の言葉です。
乳牛として生乳を搾れるようなるには、子牛を育てたうえで、妊娠・出産を経る必要があるため、およそ3年間かかると言われているんです。
人間の都合で簡単に調整できるものではないという、当たり前のことを改めて感じました。
そのうえで長期的な視野に立って、安定的な経営ができるようにしていくことの重要性を強く感じました」
============================================
酪農家が国(農林水産省)の出した甘い蜜に誘われ乗ってしまったという感があるが、省の実績を上げたいという見栄から、長期的な展望を立てず、場当たり的な“畜産クラスター事業”を打ち出した。
新型コロナウイルスやウクライナ侵攻などの想定を超える事態が発生してしまったが、そういうリスクを考慮していなかったとしか思えない。コロナ禍、侵攻による需要低下やコスト上昇による生産者の窮乏に直面し、これまでの方針とは真逆の“頭数削減の奨励金”を打ち出した。
机上の計算的なあまりに短絡的な所業だ。
専門家の唱える“一時的に生乳を買い入れて調整する仕組み”というのも、場当たり的な施策である。
キャスターの指摘した“価格を上げることによる消費(需要)の低下”に心配も、消費者オンリーの偏った視点によるもので、コストがアップしたのなら価格を上げないと商売が成り立たない《原価+利潤=売価》の大原則が欠落した主張である。(おそらくキャスターの言葉は台本通り)
最後の記者の言葉は、酪農家(生産者)たちの気持ちを代弁した言葉だが、理想論で実現は難しい。
ともあれ、その“長期的な視野に立って、安定的な経営ができるように”とはかけ離れた農林水産省の政策であり、“畜産クラスター事業”+“牛頭削減奨励金”は全くの税金の無駄遣いであり、牛の虐殺行為(以前もNHKのコーナーで、酪農家が育ててきた子牛を泣く泣く殺処分していた事例が紹介された)である。
借金を返せず廃業する酪農家が多数出てくるのだろうか?その債務はどうなるのか?
利益を上げたのは、自動搾乳機やオペレーションシステムのメーカーか?(その搾乳機なども、制作反転により計画倒れで苦境に陥っているかもしれないし、制作反転の情報をいち早く察知して、難を逃れているかもしれない)
票に結び付きやすい補助金より、直接のコスト削減になる消費税率を下げる方がはるかに効果的だ。
………焼け石に水にもならないが、牛乳をたくさん飲むようにしている………
国はこれまで、大規模化や効率化を進め、生産量を増やす政策をとってきた。
しかし、去年(2022年)11月、需要と供給のバランスをとるために、乳牛を減らすことを促す政策を新たに打ち出した。(政策の方針を180°転換した)
――由利本荘市の酪農家の場合――
3年前、5億円余で牛舎を新設し、搾乳ロボットなどの最新機器を導入
……牛の乳頭をレーザーで探し当てて、すべて自動で搾乳し、首輪に取り付けたセンサーで牛の動きを把握する。モニターで示されるデータで“反芻”や“行動”を把握する……
……夢と希望に満ちていて、いよいよこれから始まるという高揚感を感じていたが……
後押ししたのは、国の“畜産クラスター事業”
――畜産の大規模化や効率化を進めるため、飼育する牛を増やした酪農家に補助金を出す――
この酪農家さんも、飼育する牛を約2.5倍のおよそ300頭に増やし、補助金を受けた。
ところが、国は去年、生乳の生産抑制の政策を打ち出した。
新型コロナウイルスの影響もあって、牛乳や乳製品の消費が落ち込んでいるため、
――乳牛を1頭減らすごとに15万円の奨励金を出す――
「(国は)目標として《増産しろ》と言われ、皆がそれに向かって頑張ろうとやってきたものが
ちょっと情勢が悪くなって、耐えられなくなってくると、減らそうと……
………どうしたらいいのか……」
牛を減らすかどうかの選択を迫られた……
……《奨励金を受け取っても、経営状況は改善しない》と判断し、牛の頭数を維持することを決めた。
しかし、円安やウクライナ侵攻の影響で、飼料や燃料の価格が高騰。
1ヶ月にかかる飼料価格が1年前より300万円以上増えていて、生産を続けても赤字が膨らんでいく……
「従業員の生活もあり、経営者の責任もある……
これからどうするか、先が見えない。どうしていったらいいのかなあ?」
重要な副収入である子牛……1ヶ月で15,16頭生れてくる
今は、子牛も買い手が見つからない。値段の付かない子牛もいる。
ホルスタインの牡で1頭17~18万円だったのが、今は1万円しないとか、1000円とか……最悪1000円でも買ってもらえない。
来年の夏以降は、新牛舎のために受けた数億円の融資の返済も始まるという。
逆方向の政策を採ったのは何故か?
農林水産省は
《新たな政策は、消費が落ち込む中で生産を抑制して需要と供給のバランスを採るための一時的な措置》で、
《大規模化・効率化を進め生産量を増やす目標は、今も変えていない》と説明
「牛を簡単に減らしたり増やしたりできるものではない」という生産者の声に対して
農林水産省は
《酪農の現状は理解している。
だからこそ、直近の経営を支援するために奨励金を出すことにした》
《牛を減らせば、その分の飼料や経費も減り、一定の支援になるはずだ》
《需要や供給のバランスをとるために、生産の計画を立てるのは生産者団体であって、国はあくまでそれを支援するのが役目》と主張
専門家は
「酪農家が安定した収入を得られるようにするためにも、国が緊急措置として一時的に生乳を買い入れて調整する仕組みを導入するべきだ」と指摘している
東京大学大学院・鈴木宣弘教授(農業経済学が専門)
「“目の前の需給バランスが崩れると、それに対して非常に短期的な視点でいろんな要請をする”というのが政策の特徴である。
それに酪農家が振り回されている感が否めない。
需給のバランスが崩れた時には、政府の責任で酪農家・メーカーから買い上げるなど、最低限の需給調整をやるということが必要である」
解説記者(取材者)
「生産コストの増加に見合うほど牛乳などの価格に反映できていないというのが現状である。
今後、もし価格が上がったとしても、牛乳を手に取るときには、“多くの酪農家が廃業の危機に追いつめられている”と言うことを思いを馳せられたらと思います(“高い”と文句を言ったり、棚に戻さないでくれ)←私の意訳」
キャスター
「もちろん、応援したいという気持ちはあります。ただ、この物価高の中で、消費者の負担にも限界があると思うんですよね。
そんな中で価格を上げて、もしも販売が落ち込むとなったら、また、生産者にとって大変なことになってしまうのではないかと思うのですが」
解説記者
「それは一番難しい問題だと思います。
今回取材の中で印象に残っているのは、《牛乳は蛇口をひねったらすぐに出てくるわけではないんだ》という酪農家の方の言葉です。
乳牛として生乳を搾れるようなるには、子牛を育てたうえで、妊娠・出産を経る必要があるため、およそ3年間かかると言われているんです。
人間の都合で簡単に調整できるものではないという、当たり前のことを改めて感じました。
そのうえで長期的な視野に立って、安定的な経営ができるようにしていくことの重要性を強く感じました」
============================================
酪農家が国(農林水産省)の出した甘い蜜に誘われ乗ってしまったという感があるが、省の実績を上げたいという見栄から、長期的な展望を立てず、場当たり的な“畜産クラスター事業”を打ち出した。
新型コロナウイルスやウクライナ侵攻などの想定を超える事態が発生してしまったが、そういうリスクを考慮していなかったとしか思えない。コロナ禍、侵攻による需要低下やコスト上昇による生産者の窮乏に直面し、これまでの方針とは真逆の“頭数削減の奨励金”を打ち出した。
机上の計算的なあまりに短絡的な所業だ。
専門家の唱える“一時的に生乳を買い入れて調整する仕組み”というのも、場当たり的な施策である。
キャスターの指摘した“価格を上げることによる消費(需要)の低下”に心配も、消費者オンリーの偏った視点によるもので、コストがアップしたのなら価格を上げないと商売が成り立たない《原価+利潤=売価》の大原則が欠落した主張である。(おそらくキャスターの言葉は台本通り)
最後の記者の言葉は、酪農家(生産者)たちの気持ちを代弁した言葉だが、理想論で実現は難しい。
ともあれ、その“長期的な視野に立って、安定的な経営ができるように”とはかけ離れた農林水産省の政策であり、“畜産クラスター事業”+“牛頭削減奨励金”は全くの税金の無駄遣いであり、牛の虐殺行為(以前もNHKのコーナーで、酪農家が育ててきた子牛を泣く泣く殺処分していた事例が紹介された)である。
借金を返せず廃業する酪農家が多数出てくるのだろうか?その債務はどうなるのか?
利益を上げたのは、自動搾乳機やオペレーションシステムのメーカーか?(その搾乳機なども、制作反転により計画倒れで苦境に陥っているかもしれないし、制作反転の情報をいち早く察知して、難を逃れているかもしれない)
票に結び付きやすい補助金より、直接のコスト削減になる消費税率を下げる方がはるかに効果的だ。
………焼け石に水にもならないが、牛乳をたくさん飲むようにしている………