漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 017

2023-05-03 04:58:49 | 貫之集

志賀の山越え

ひとしれず こゆとおもひし あしひきの やましたみづに かげはみえつつ

人しれず 来ゆと思ひし あしひきの 山下水に 影は見えつつ

 

志賀の山越え

人知れず志賀の山越えをしたと思っていたが、実は山の麓を流れる水に私の姿が映っていたのだったよ。

 

 「志賀山」は長野の山ではなく、京から近江に至る、峠越えの街道のこと。写本によっては次に「返し 兼輔」として藤原兼輔からの返歌が収載されています。

 

かはぎりの たちしかくせば みなそこに かげみるひとも あらじとぞおもふ

川霧の 立ちしかくせば 水底に 影見る人も あらじとぞ思ふ

 

 藤原兼輔(ふじわら の かねすけ)は古今集に4首、勅撰集全体は56首が入集している歌人で、百人一首(第27番)にも収録された次の歌はつとに有名ですね。

 

みかのはら わきてながるる いずみがわ いつみきとてか こひしかるらむ

みかの原 わきて流るる 泉川 いつ見きとてか 恋しかるらむ

(新古今和歌集 巻第十一「恋一」 第996番)