こゑをのみ よそにききつつ わがやどの はぎにはしかの うとくもあるかな
声をのみ よそに聞きつつ わが宿の 萩には鹿の うとくもあるかな
鹿の鳴く声をいつも遠くに聞くばかりで、私の家の萩には鹿はいっこうに寄って来ないことよ。
「わが家の萩に寄って来ない鹿」はもちろん、来訪してくれない愛しい人の比喩。
鹿と萩の組み合わせは多く歌に詠まれ、貫之集の 235 にも類歌がありますし、古今集の 0215、0216、0217、0218 も同様ですね。また、本歌と同じく、鹿が萩を恋するという構図も定着しています。
とめきつつ なかずもあるかな わがやどの はぎはしかにも しられざりけり
とめきつつ 鳴かずもあるかな わが宿の 萩は鹿にも 知られざりけり
(貫之集 第三 第235番)