やまのかひ たなびきわたる しらくもは とほきさくらの みゆるなりけり
山の峡 たなびきわたる 白雲は 遠き桜の 見ゆるなりけり
山々の間にたなびいている白雲は、実は遠い桜がまるで白雲のように見えたものだったのであるなあ。
遠い山間に密集して咲く桜を雲に見立てての詠歌。「見立て」は古今和歌集を特徴づけるレトリックの一つですが、鈴木宏子著「『古今和歌集』の創造力」に「見立ての達人・貫之」と題した記述があるように、貫之は中でも際立った手腕を発揮しているようです。
古今集 0059 には類歌と言って良い作も採録されていますね。
さくらばな さきにけらしな あしひきの やまのかひより みゆるしらくも
桜花 咲きにけらしな あしひきの 山のかひより 見ゆる白雲
紀貫之