わすれては ゆめかとぞおもふ おもひきや ゆきふみわけて きみをみむとは
忘れては 夢かとぞ思ふ 思ひきや 雪踏みわけて 君を見むとは
在原業平
現実であることをふと忘れては夢かと思う。かつて思ったことがあったでしょうか。雪を踏み分けてあなたに会いに行くことになろうとは。
長い詞書には「惟喬親王のもとにまかりかよひけるを、頭おろして小野といふ所にはべりけるに、正月にとぶらはむとてまかりたりけるに、比叡の山の麓なりければ、雪いと深かりけり。しひてかの室にまかりいたりてをがみけるに、つれづれとして、いとものがなしくて、帰りまうできて、よみておくりける」とあります。出家して比叡山の麓に隠棲している親王のもとを訪ねると、そこは雪深いところで、物寂しそうな様子の親王を見て、詠んで送った歌、ということですね。伊勢物語では第83段に載っています。