としをへて すみこしさとを いでていなば いとどふかくさ のとやなりなむ
年を経て 住みこし里を 出でていなば いとど深草 野とやなりなむ
在原業平
何年もの間ともに住んできたこの里を出て行ったならば、深草という名のとおり、いよいよ草深い野になってしまうだろうか。
詞書には「深草の里に住みはべりて、京へまうで来とて、そこなりける人によみておくりける」とあります。「まうで来」は移り住む意。地名の「深草」を詠み込むとともに、「いとど」という副詞を付することで「草深い」意ももたせています。次の 0972 がこの歌への返しになっており、合わせて伊勢物語第123段に収録されています。