おもふどち ひとりひとりが こひしなば たれによそへて ふぢごろもきむ
思ふどち 一人一人が 恋ひ死なば 誰によそへて 藤衣着む
よみ人知らず
人知れず思いを寄せあう私たちのどちらか一人が恋死にをしたら、誰のためということにして喪服を着たら良いのでしょう。
「一人一人」は現代語と異なり、複数いる人のうちの誰か一人の意。「藤衣」は、0307 では粗末な衣服の意味でしたが、ここでは喪服の意。こちらの意味で用いられることの方が多いようです。詞書には橘清樹(たちばな の きよき)と人知れぬ恋仲になっている女性から清樹にあてて贈られた歌とあり、清樹からの返しが次の 0655 に出てきます。