2020年8月、中国政府は“3つのレッドライン”を実施し、不動産融資規制を強化した。その結果不動産バブルが崩壊したのは、たびたび報じられている通りだ。
その後、習政権はことあるごとに財政支出を積極的に増やす方針を確認した。内需の減少を阻止し、民間のイノベーションをサポートする考えも繰り返し表明した。
12月11日と12日の両日、中国政府は“中央経済工作会議”を開催し、2024年の経済政策の方針を策定したが、従来の内容を繰り返した部分が多かった。
中国の経済政策は後手に回っている。中央経済工作会議終了後の18日、物流関連企業の華南城控股(チャイナ・サウス・シティ・ホールディングス)は11月の利払いを実施できていないと表明した。
政府による不良債権処理の遅れにより、不動産以外の分野でも資金繰り悪化に陥る企業は増えた。これまでの経済運営方針の継続のみで、事態の改善を目指すことは難しいだろう。
明るい兆しもある。スマホ分野ではファーウェイが5G相当の高速通信に対応可能な“Mate 60 Pro”を発表した。本機は、回路線幅7ナノメートル(ナノメートルは10億分の1メートル)のロジック半導体を搭載する。
チップの開発はファーウェイ傘下のハイシリコン、製造は中芯国際集成電路製造(SMIC)が担った。回路線幅7ナノメートルのチップを自力で設計・開発・製造する力は、現在のわが国にはない。
米国のインテルでさえ、自力での7ナノ級のチップ製造は難しかった。あらゆる手段を用いて米国の制裁をかいくぐり、先端分野の製品を模倣してより安く製造し、市場シェアを高める。
中国のIT先端分野の経営者の成長志向は強い。企業家精神を醸成することによって中国経済が不動産バブル崩壊の苦境を脱することは可能だろうが、それにつながる政策案が見えない。
中央経済工作会議後、中国政府の経済運営に失望し、経済の先行きに弱気になる主要投資家は増加した。
その影響から、本土株は下落した。12月の連邦公開市場委員会(FOMC)で2024年の利下げの可能性が示唆され、新興国全体で株価は上昇したが上海などの株式市場はその流れに取り残された。
起きているのは、過去の記憶(行動経済学でいうアンカーリング)に基づいた中国楽観論の修正だ。
V字回復するはずだったのに
リーマンショック後の4兆元(円換算で約57兆円程度)の経済対策の記憶を頼りに、景気低迷の懸念が高まれば中国政府が大規模な財政出動を打ち出し、景気はV字回復すると思い込む主要投資家は多かった。
しかし、今回の中央経済工作会議は不動産市況の悪化食い止めに効果があると期待させる内容を示さなかった。
会議後の商品市況では、銅の先物価格が年初来の軟調な地合いから抜け出せていない。
電線などの原材料になる銅の価格は、中国経済の成長を支えたインフラ投資の動向を機敏に反映する傾向がある。
原油価格も上値が重い。FOMC後、米金利の低下によって多くの新興国通貨は上昇したが、人民元の反発は限定的だった。
いずれも、中国経済に対する慎重論、悲観論の高まりを示唆する。未来永劫、中国の不動産市況が悪化傾向をたどり、景気低迷懸念が深まることは考えづらい。
ただ、現在の習政権は政治を優先し、結果的に経済政策に十分なエネルギーを避けていないように見える。
経済のリスクを過小評価しているとの見方もある。その姿勢が根本的に改められない間、海外投資家の失望は増え、中国株、債券、人民元への売り圧力は強まることが懸念される。