中国共産党は、長期的な経済政策運営の方針を決める重要会議「三中全会」 を開いている。発表される一連の政策は市民の購入ムード改善や市況回復に繋がると思われる。短期的な反発で終わる可能性も否定できないが、不動産指標はいったん下げ止まるかもしれない。その流れが継続するかどうかは未知数だが、何も手を打たず、一気に転げ落ちるとは考えにくいが、本格回復への道のりは30年以上かかるかもしれない。
先に発表された4月30日開催の中国共産党の中央政治局会議では、不動産市場について「在庫の消化と供給の最適化に向けた措置を研究する必要がある」と強調された。これを受け、中国人民銀行(中央銀行)が5月17日に市場支援策を公表。
①売れ残り住宅の買い上げ支援
②住宅ローンの頭金比率の引き下げ
③住宅ローン金利の下限廃止
の3点が中心となる。
①の買い上げ支援は、中国人民銀行による国有商業銀行など向けの再融資3,000億元が“原資”となる(実質的に5,000億元規模となる見通し)。
そして銀行から融資を受けた地方国有企業が合理的な価格で住宅を買い取り、低・中所得層向けの保障性住宅に転換する方針だ。何立峰副首相は「経営難に直面する不動産デベロッパーの難局を助ける」と強調。「国による開発業者の救済策」と捉えられよう。
②は、住宅ローン金利の最低頭金比率を1軒目購入時で20→15%、2軒目で30→25%に引き下げる。23年9月に続く措置で、購入ハードルを低くした。
③の住宅ローン金利は、これまでの「1軒目は5年物ローンプライムレート(LPR)より0.2%低い水準」「2軒目は5年物LPRより0.2%高い水準」という規定を廃止する(5年物LPRは足元で3.95%)。
これについて中国人民銀行は、「商業銀行は顧客のリスク状況に応じて自主的に金利水準を決定することができ、住宅ローン金利の市場化が実現する」とした。
1.必要額約3兆元も、融資額3,000億元…買い上げ資金が「全然足りない」
一応、政策は出揃ったが、懸念点はいくつかある。まずは在庫買い上げの融資額3,000億元という点だ。
現地メディア「財新」の論評記事5/18付)によると、在庫消化(在庫消化期間を「合理的期間の上限≒14ヵ月」まで引き下げる)には2兆7,000億元の資金が必要とされる。また、別の試算では6兆3,000億元あまりが必要という結果も出た(「住宅在庫面積×100都市の新築住宅価格」で単純計算、24年5月末時点)。
計算方法や基準の取り方で試算額に幅が出るものの、いずれにせよ政府融資額とはケタが大きく異なる。「資金が全然足りない」のが現実だ。
2.需給のミスマッチ…売れ残り住宅は「地方」にあるが、需要は「大都市」に
次に、保障性住宅の需給ミスマッチ懸念。在庫住宅は地方都市に多いが、そこでは保障性住宅のニーズは比較的小さく、むしろ大都市で必要とされている。
また、「持ち家信仰」が強い中国では賃貸住宅を避ける傾向があり、メンツや周りの目を気にして安価な住宅購入を望まない層も一定程度いるとされ、保障性住宅自体のニーズに不透明な点もある。
デベロッパー側が低い売却価格を敬遠し、適切な価格の設定が難しくなるかもしれない。安易な設定は周辺マンションの値崩れを誘発しかねず、住民の不満が高まる可能性もあるだろう。
3.買い控えムードの高まりで「市民のマインド」も暗雲
最後は市民のマインドだ。中国人民銀行のアンケート調査(24年13月期)によると、不動産価格の見通しで「下落」が22%と「上昇」の11%を上回っている。「下落」が上回るのは4四半期連続。
「価格はまだまだ下がるかも」「買うのはいまじゃない」という買い控えムードの高まりが気になるところだ。