ネタは降る星の如く

とりとめもなく、2匹の愛猫(黒・勘九郎と黒白・七之助)やレシピなど日々の暮らしのあれこれを呟くブログ

労働観を問い直す……のが今の課題だろうか

2007-01-05 12:51:58 | 時事
 ホワイトカラー・エグゼンプション導入の是非を巡る論争には直接役には立たないけど、一方では非常に重要な指摘を含んだ対談だ。

2007年を斬る: 「働く」って何だっけ?
世界に誇るべき日本人の労働観、その誇りと自信を取り戻せ

NBO 労働法制の大改正が進められようとしていますが、制度論のところになると労使が対立して前になかなか進めない。日本人の労働観、つまり「働く」ということに対する考え方を徹底的に議論することが前段にあるべきなのに、そこが抜け落ちているような気がします。

田坂 その通りですよね。「ホワイトカラー・エグゼンプション(労働時間規制の適用除外制度)」を巡る議論ひとつ取っても、労使の対立軸の中で議論しているとどこまで行っても平行線で交わらない。「第3の軸」というか、何か違った角度から話を進めていかないと良い方には向かわないと思います。
 日本人の労働観の根底には、「働くとは傍(はた)を楽(らく)にすること」というものがあるんですね。たとえ言葉にしなくても、そんな雰囲気をどこかに持っている。「世のため、人のため」なんて、子供の頃からよく聞いた言葉でしょう。最近はちょっと聞かなくなりましたが…。「死ぬまで世の中のお役に立ちたい」という意識がどこかにある。2007年に団塊の世代が定年を迎えるようになると、この感覚が非常に強くなって再び出てくると思うんですね。

(中略)

 欧米における労働観は、もちろん欧米がすべてそうだと言い切るつもりはないんですけど、働くということは「苦役」だという感覚がある。レイバー(labor)という言葉の語源は苦役に近い意味で、必要悪に近いとらえ方をする時があるわけですね。働き過ぎはいけないということで、キリスト教では安息日が設けられているわけです。

 ちょっと脱線しますが、西欧で社会主義が起こった時、マルクス主義なんかの根本には労働疎外という考え方があった。原始の時代から労働には喜びが伴っていたのにその喜びがなぜ消えてしまったのかということが論じられた。アレクサンドル・ソルジェニーツィンがノーベル賞を取った『イワン・デニーソヴィチの一日』なんかを読むと、スターリン時代の収容所でさえ働くことに喜びを感じる人間の本性が描かれている。労働の根本には喜びがあるというのは世界共通なんだと思うのです。

 ただ、表層的な傾向で言えば、欧米の「報酬観」というのは、2つの報酬、「給料や年収」「役職や地位」を軸にとらえている。「ペイ、インカム」と「プロモーション、ポジション」です。特に米国でこの傾向が強い。シリコンバレーなんかの成功物語を聞いても年俸がいくらとかいう話ばかりでしょ。最近では、ゴールドマン・サックスのCEO(最高経営責任者)が63億円もらったとか。

(中略)

 では、日本人の報酬観はどうかと言うと、これらの2つはもちろんなのですが、これら以外の目に見えない「4つの報酬」を重視しているんです。第1に「働きがいのある仕事」。これは「仕事の報酬は仕事」という考え方に通じる。第2に「職業人としての能力」というもの。腕を磨くことそのものに喜びを感じるのです。日本人って何でも「道」にしちゃう人たちで、例えば“編集者道”というようなものがあるでしょうし、私は“シンクタンク道”なんて言っています。「求道、これ道なり」という名言があって、道を歩むことそのものが幸せな状態だと思っていたりするわけです。

 第3が「人間としての成長」。腕を磨くということは、イコール、己を磨くことにつながる。「人間成長」が報酬だと思っているんですよ。だから、定年退職の時に、「おかげさまでこの会社で成長させてもらった」なんてつぶやくんですね。そして第4が、「良き仲間との出会い」です。「縁」という思想です。

 これら4つが、日本人が働くことの喜び、つまり報酬になっている。そのことをしっかり見つめ直しておかないと、日本における労働論議というのは非常に浅いものになってしまう気がします。

NBO ホワイトカラー・エグゼンプションなどの議論がかみ合わないのは、欧米的な報酬観のところしか見ていないからなのかもしれませんね。

田坂 はい。労働者の方は労働時間が少なくてペイが高い方がいいと思っている。経営者は安いペイでたくさん働いてもらった方がいいと思っている、この本音をエグゼンプションという美しい言葉でくるんでいるだけだから、交わるわけがないんです。第3の軸を持ち込まないと不毛な議論のままで終わってしまう。


 「労働者の方は労働時間が少なくてペイが高い方がいいと思っている。経営者は安いペイでたくさん働いてもらった方がいいと思っている、この本音をエグゼンプションという美しい言葉でくるんでいるだけだから、交わるわけがないんです」という指摘は正しいのだが、一方ではそれが本来の問題なのかという疑問が生じる。成果主義の適用の仕方とか、ホワイトカラー・エグゼンプションの対象となるべき職種や前提条件が余りにも無茶苦茶だから問題なのだ。

田坂 日本は高齢化社会だから大変だ、お先真っ暗だって言うでしょ。逆なんですよ。世界一の健康長寿国で、世界第2位の経済大国で、科学技術が最先端で、高学歴社会で、こんな豊かな国は世界中どこを探してもほかにないんです。だから、世界のモデルケースになるような素晴らしい高齢化社会の模範を作ろうと言ってほしいんですよ。熟練人材と先端技術を駆使して、心配りの利いた最高の高齢者向けサービスを提供する。それを世に未来志向で示していこうよと語られたら、国民の気持ちだって変わってくるはずです。

 政治家でも官僚でも経営者でも、リーダーの究極の役割というのは、どんな厳しい状況でも光を見つけて、それを語るということなんじゃないですか。物事をポジティブにとらえられるかどうかです。高齢化社会の負の側面を軽視しているわけではありません。難題山積です。でも「2人の石切り職人」の寓話のように、とらえ方によって全く違う見え方になってくる。

 これからは「知識社会」だと言われますが、これは知識が価値を失う社会なのです。つまり、言葉で表せるような知識は誰でも手に入れられるようになる。インターネットで検索できる、電子辞書には100冊分もの辞書が入っている。知識がコモディティー化して、逆に価値を失ってしまうのです。これからは言葉にならない知恵、マインド、人間力という方向に進んでいきます。

 そういう意味では、賃金と引き換えに労働時間を提供するという労働観から卒業しなければならない。自分が「労働者」だと意識する人は少なくなるんじゃないですか。方向としてはもっと「プロフェッショナル」ということを重視していくべきだと思います。時代は個人カンパニーとかフリーエージェントに向かっていきます。お金ではなく、働きがいを求めて人々が移動していくような時代です。


重要な指摘だと思う。ただ、進行していく格差社会においては、「プロフェッショナル」という意識でやっていける層は中流以上の所得を得られる賃金労働者で、中の下以下の所得しか得られない層はますます「労働者」意識を強めていくように思う。

 宋さんの方がまともに議論してくれていると思う。

宋文洲の傍目八目残業大国ニッポンを憂う
 起業した大きな理由の1つは、最初の職場で体験した金太郎飴的なワークスタイル、中でも最も納得できないのは残業の多さでした。残業は勤勉の象徴のように受け止められていて、残業しない人は仕事に熱心ではないかのように感じられました。これは何も僕が勤めた先だけに限った話ではなく、当時は他の企業も同じような状況が多かったのだと思います。

 それから時代が変わり、日本にも多様な経営者が出現し、真剣に残業の撲滅に取り組む企業が増えました。労働基準局も不法残業の摘発に躍起になり、大きな成果を上げつつあります。不法残業にメスを入れるような状況が90年代初めから浸透していれば、14年前、僕は創業せず宮仕えを続けていたかもしれません。

 と思っていたのですが、先日、新聞から残業に関する調査数字を知って、やはりサラリーマンを続けなくてよかったと思い直しました。「正社員の4割超が『不払い残業』をしており、平均で月約35時間に上る」と労働政策研究・研修機構が発表したのです。

 僕が問題にしてきたのは残業そのもので、就業時間外の労働をすることだけでも理解しにくいのに、残業代を払わないで残業させることなどは想定外のことでした。貴重な人生の時間を犠牲にして働かなくてはならないことだけでも納得できないのに、時間に加えてお金まで犠牲にさせて働かせることなどは全く問題外のことです。


 後半の少子化問題との関連については論理が少し甘いような気がするが、この部分だけで十分にパンチがある。

 そして、寄せられるコメントも読みがいのあるものが多い。

ホワイトカラー・エグゼンプション 法案の行方

2007-01-05 12:51:09 | 時事
 片や見送り論、片や提出意欲。

[残業代不払い制]通常国会提出見送り論強まる
 個人が働く時間を自らの裁量で決められる一方、残業代は一切支払われないという「日本版ホワイトカラー・エグゼンプション」制度の導入を盛り込んだ労働基準法など労働法制改正案について通常国会(25日召集)への提出見送り論が4日、与党内で強まった。「残業代を取り上げ、働き過ぎを助長する」など労働側からの批判が極めて強く、4月の統一地方選や7月の参院選への悪影響は避けられないとの判断からだ。厚生労働省は今国会提出を目指す構えだが、協議会を設置することで「時間切れ」を狙う案も与党内には浮上している。


労働時間規制除外「法案提出する」…厚労相が意向 (読売新聞)
 柳沢厚生労働相は5日午前の記者会見で、一部の事務職らを法定労働時間規制から外す「日本版ホワイトカラーエグゼンプション」制について、「日本経済の前進のため事務職の生産性を高めることが大切だ。次期通常国会に関連法案を提出する考えに変わりはない」と述べ、あくまで導入を目指す考えを強調した。


<エグゼンプション>厚労相、法案「国会提出方針変えない」
 厚生労働省が通常国会への提出を目指す「日本版ホワイトカラー・エグゼンプション」を盛り込んだ労働基準法改正案について柳沢伯夫厚労相は、5日の定例記者会見で「通常国会に法案を出す方針は全く変えない」と述べた。
 日本版ホワイトカラー・エグゼンプションは、同法の時間規制(1日8時間など)を除外し残業代を支払わないもの。同制度については反対の野党だけではなく与党からも慎重論が出て提出見送り論が高まっていた。


 野党は徹底的に戦ってください。

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<民主党>格差是正法案提出へ エグゼンプションの反対案
 民主党は、次期通常国会に「格差是正緊急措置法案」(仮称)を提出する方針を固めた。内容は労働、教育、社会保障などの分野にまたがり、正規・非正規雇用者間の格差を改善するための「同一労働・同一賃金」制度の創設▽奨学金の対象者拡大▽年金生活者の負担を減らすため所得控除を元に戻す――などを柱に法案化作業に入る。