潮騒の夏 その153
それで、洋子ちゃんは話を続けた。
「 やまてつのこと、本当よ!
あそこ、もともと、“民宿やまふじ”だったんだ。
やまふじの大女将のご主人、板前さんだったんだけど、病気で亡くなってしまって、板前さんが居なくなってしまって困ってたんだ。
それで、大女将が亡くなったご主人の友人の伝手を頼って、頼み込んでやってきたのが、今のやまてつよ。
なんでも、大阪の老舗で腕がいいって評判だったらしくって・・・・。
来たときはビビッたそうよ。
なにしろ、強面だから。
それに、あまり、喋らないし。
しかし、料理はメチャ美味い。
硬派だから、女将さんにも余計な話をしないし。
謎の人物。
それでも、女将さん、ちょっと気に入っていたようなんだなァ。
でも、腕はいいが、人間が分からない。
そこで、やまふじの女将さんが浜崎の女将さんに相談したら、ヨシマサがやって来たってこと。
やまふじの女将さんが、やまてつを誘い出して砂浜を二人で散歩していたとき、浜崎の女将さんがヨシマサの散歩で、偶然通り掛ったことにしたの。
それで、そこで浜崎の女将さんがヨシマサにリードのワッカを渡したら、ヨシマサはやまてつにワッカを渡して、やまてつを引っ張って走り出したのよ。
やまてつ、“わォ~~~~~!”って叫んで、カニ走り。
普通、引っ張られて終わりなんでけど、やまてつ、引っ張られてカニ走りから、徐々に体勢を立て直して、リードを持ったまま、ヨシマサを抜かそうと必死で走ったそうなのよ。
それで、ヨシマサ、大喜びしてさらにスピード上げて。
やまてつ、もっと、スピード上げて。
ハハッ!
想像しただけで、可笑しい。
浜辺を競争してるのよ。
砂煙を上げて競争。
そんなことした人、今まで居なかったから。
そのうち、見えなくなってしまったって。
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