大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 12月30日 気配

2022-12-30 16:59:13 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 12月30日 気配





 彼は転勤族で、若い頃からあちこちを転々としていた。
今までで一番良かったところはどこかと聞くと、面白い話をしてくれた。
彼なりに誇張した部分はあるだろうが、話されたままを書いてみる。
 彼がまだ三十代初めだったころのことだ。
二回目の転勤で住みはじめたアパートは、築年数の割にはきれいな洋風の建物で、白い壁に赤い屋根という、少々少女趣味の物件だった。
家は寝る場所、程度の認識しかなかった彼は、特に気にすることもなく住みはじめたそうだが、すぐにここは何かあると気が付いた。
 時々、自分以外の何者かの気配がするのだ。
リビングで夕食を食べていると台所に、風呂に入っていると脱衣所に、朝目覚めると洗面所に。
 そして気配を感じた場所には必ず、小さな変化があった。
台所にはお茶が、脱衣所には着替えが、洗面所には新しいタオルが、という具合に、彼が心地よく生活できるようフォローしてくれているようだった。
 はじめこそ驚き、気味悪がって、家探しをしたりビデオカメラを仕掛けたりした。
しかし、どう考えても自分以外の人間が部屋の中にいるとは考えられなかった。
 やがて彼は思いなおした、これは便利だ、と。
謎の気配は、悪さをするどころか痒いところの手が届くような絶妙さで、彼を助けてくれる。
洗濯物にアイロンをかけてくれるようになったころには、彼はその存在が無くてはならないものになってしまった。
 上司から、

「 最近身綺麗だが、彼女でもできたか?」

とからかわれることもあったという。
 いったいどんな存在がこれらのことをしてくれているのかはわからなかったが、おそらく女性だろうと友人は確信していた。
細やかな気遣いもさることながら、時折感じるやさしい気配は、確実に自分に寄せられる好意だった。
妖怪か幽霊かは不明だが、不思議と悪い気はしなかった。
 そんな生活は三年ほど続いたが、彼は転勤族、やがてまた辞令が下った。
最後の夜、彼は姿のない同居人に話しかけた。

「 今までどうもありがとう。
よかったら、次の場所にも一緒に来てくれないかな?」

冗談半分、本気半分だったという。
しかし、自分に向けられている好意から、来てくれるのではないかと期待していたそうだ。
 返事はなかった。
友人はそのまま、翌日そのアパートを後にした。
 新しい住まいは、巨大な墓石にも見えるそっけない建物だった。
そこで、食後の茶や風呂上がりのタオルが用意されることは、一切なかった。

「 俺についてきてくれるかもと思ったんだがなぁ。
やっぱり、家に憑いていたらしい。」

彼は残念そうにため息をついた。

「 一度だけ、姿を見たことがあるんだ。
と言っても、手首から先だけだがな。
てっきり白魚のような手かと思っていたが、意外とごつかったよ。
しかし、あの手で入れるお茶は、すごく美味かったなぁ。
もう十何年も前の話だが、いまだに忘れられんよ。」

懐かしそうに言う彼は、いまだ独身である。










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日々の恐怖 12月25日 不動産の営業

2022-12-25 09:41:41 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 12月25日 不動産の営業





 不動産の営業をしていたときのことだ。
中古住宅の買取、という仕事をしていると、時折事故物件にも出くわす。
そのころ自分がいた会社は大手の会社で、事故物件はあまり積極的には扱わない会社でもあった。
 当時自分の後輩だった彼は、この事故物件がなぜかやたらと集まるヤツだった。
事故物件を買い取って、販売まできちんとこなす、というのは非常にハードルが高い。
それをこなした彼のことを、もしかしたら周りの不動産業者さんが評価をしていたからかもしれないが、買う物件の殆どが事故物件だったし、会社全体で取り扱うそういった物件の殆どは、
彼が買取りを行った物だったから、ある種全国会議などで話題になるほどだった。
 ところで、彼はアメフトだったかラグビーだったかをずっとやっていたらしく、入社当時は明らかにでかい体をしていたし、性格も豪気なヤツでエリア内でも相応の人気者だったのだが、入社後半年もすると、だんだん元気もなくなり、どんどんやつれていった。
 自分も出来る限りのサポートをしていたが、営業として求められるノルマはなかなか厳しく、プレッシャーも強い。
くじけそうなのかもしれないと、心配をしていたある日の事、彼から急に飲みに行こうと誘われた。
 自分の行きつけのバーに行って話を聞いていたのだが、しばらくすると彼は、

「 家に一人でいると、声や物音がする。
リビングにいると、自室で布を摩る音が聞こえる。」

と震えながら話した。
金縛りにあったり、ふと人の気配を感じたりすることもあったらしく、落ち着いて眠ることも出来なくなっていたらしい。
 しばらく休暇を取るのと、事故物件が原因かはわからないけれど取扱いのを避けたらどうだ、と話すと、彼は笑顔なんだか泣き顔なんだかよくわからない顔をしてこう言った。

「 でも、物件が呼んでるんです、なんとかしてくれって。
耳元で囁くんですよ。」

 彼は半年後に体調を崩して、退社してしまい、その後は行方知れずじまいだ。
彼がいなくなってからは、会社が事故物件を取り扱う機会は再び減ってしまった。
怪談は幽霊を寄せ付ける、なんて話もあるが、彼は事故物件を自分に寄せ集めてしまっていたんだろう。










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日々の恐怖 12月20日 新入り(2) 

2022-12-20 13:45:05 | B,日々の恐怖






 日々の恐怖 12月20日 新入り(2) 






 そんな新入りだったが、半年ほどで塾を去ることになった。
なんでも夫の転勤で引っ越すのだという。
おおっぴらには言わないが、友人を含めた全職員が、ほっと胸をなでおろした。

「 短い間でしたがお世話になりました。」

新入りはそう言って、職員一人ひとりに別れの品をくれた。
それは定番のハンカチだったが、包装紙の中には小さなメッセージカードも入っていた。
 仕事終わりに、同僚と二人で何気なくそのメッセージカードを開こうとした時だった。

「 ひっ!」

同僚が小さな悲鳴をあげ、メッセージカードを取り落とした。
友人は自分の足元に落ちたカードを拾おうとして、目を疑った。

『 彼とのデート、〇〇モールはやめたほうがいいですよ。
保護者もたくさん来てるんだから。』

そう、カードには書かれていた。
 ありがちな話だが、同僚は生徒の保護者と浮気をしていた。
友人はそのことを本人から相談されて知っていたが、他は誰も浮気のことは知らないはずだった。
秘密のデートを、新入りはこっそりどこかで見かけていたのだろうか。
 友人は恐る恐る、自分の分のメッセージカードを見た。
そして、先ほどの同僚と同じような悲鳴をあげたという。

「 カードには、職場ではもちろん、家族にも話したことのない秘密について、アドバイスめいたことが書いてあったの。
ゾッとしたわ。」

友人はその時のことを思い出し、恐怖と嫌悪感からか眉をひそめた。

「 なんでその新入りさんは、秘密を知ってたのかな?」
「 知らないわよ。
でも、他の職員のカードにも、同じようなことが書かれてたみたい。
そのあとは、もう大変。
みんな疑心暗鬼でギスギスして、結局、半年後には職員が総入れ替えになってたわ。」

それもそうだろう。
私は頷いた。

「 ところで、書かれてた秘密って?」
「 言うわけないでしょ。」

私の問いかけを一蹴した後、

「 でも・・・・。」

と友人は続けた。

「 あの時書かれてたアドバイス、あれだけは的確だったわ。
後になって、正直助かった。
仕事できなかったくせに、そういうところが余計気持ち悪いんだけどね。」

友人は身震いをしてそう言った。











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日々の恐怖 12月14日 新入り(1) 

2022-12-14 22:28:47 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 12月14日 新入り(1) 





 彼女は数年前、とある学習塾に勤めていた。
小中学生対象の、進学塾というよりは苦手補強のための塾だ。
田舎だったこともありのんびりとした雰囲気で、夏には肝試し大会、冬にはクリスマス会が催されるような、家庭的な塾だった。
 職員は、塾長を含めた女性ばかりの四人。
女性同士の付き合いにありがちな面倒臭さも多少はあったが、和気あいあいとした雰囲気で、友人は気に入っていたという。
 ある時、その塾に五人目となる職員が入ってきた。
友人より少し年上の、やはり女性だったのだが、この新入りがなかなかに曲者だった。
 新入りは悪い人ではないこともすぐにわかったが、頓珍漢というか間が抜けているというか、やることなすことどこかズレており、失敗も多かった。
そのくせ、とにかく何でも知りたがり、首を突っ込んできた。
受け持ちでない授業や生徒のことだけでなく、塾で過去に起こったこと、生徒や職員の家庭の事情、職員同士のたわいもない雑談の中身まで、新入りの耳に届く範囲の話題には、呼ばれもしないのに全て首を突っ込んで、求められてもいない、しかもどこかズレたアドバイスをしてきた。
 他の職員がどんなに眉を顰めても、

「 ちょっと遠慮して・・・。」

とはっきり口にされるまでは、決して引き下がらなかった。
 いつしか新入りは煙たがられ白い目で見られるようになったが、まるでそんなもの意に介さないように、相変わらずどの話にも首を突っ込み、わかっているのかどうかわからない相槌を打っていた。










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日々の恐怖 12月10日 ヒョウ

2022-12-10 12:39:43 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 12月10日 ヒョウ





 彼は、大変寒がりな男だった。
夏でも長袖を着ていたし、冬になればまるで雪男のように着ぶくれていた。
中高生の時の制服はどうしたのかと聞くと、日光アレルギーと嘘をついて長袖を通したらしい。

「 なにかの病気じゃないのか?」

そう尋ねると、声を潜めて教えてくれた。

「 実はな、これ、家で飼ってるトカゲのせいなんだ。」
「 はぁ?」

 友人の家では昔から、ヒョウと名付けたトカゲを飼っているそうだ。
大きさは二十センチほどというから、なかなか大きい。
青みがかった灰色をした、綺麗なトカゲらしい。
 このトカゲは不思議なトカゲで、友人が言うには、口からポロリと小さな氷の塊を吐き出すらしい。
体温も、変温動物とはいえとても低い。
まるで冷水に触れているようだという。
 友人がまだ幼稚園に通っていたある日、ぼんやりと水槽の中のトカゲを眺めていた。
するとトカゲは呑気そうにあくびをした拍子に、またポロリと、朝顔の種ほどの大きさの氷を吐き出した。

「 ヒョウ、寒くないの?
お腹に氷があって・・・・。」

友人がそう訊くと、トカゲはまるで言葉を理解したかのようにじっと彼の顔を見つめた。
そして、

「 じゃあ、おまえの温みを少しくれよ。」

と、旧来の友のように気安く言った。
その気安さにつられて、というよりは、よく意味を理解しないまま、友人は、

「 うん、いいよ。」

と頷いてしまった。
トカゲは、満足そうに頷いていたという。
 次の朝、初夏だというのに友人は寒くて目を覚ました。

「 あら、今日のお熱は低いわね。」

登園前の検温で、母親は体温計を見ながら呟いていたという。

「 なんだって、そんなものまだ飼ってるんだ?」

呆れて言うと、友人は、

「 だって・・・・・。」

と口を尖らせた。

「 可愛いんだぞ。
ひょうきん者で、俺になついてる。」
「 トカゲって、なつくのか?」
「 もう何十年と一緒だからな。
当然だ。」

果たしてトカゲとは、何十年も生きるものなのだろうか。
そもそも、それがトカゲなのかどうかも疑問に思ったが、当の友人は、

「 厚着すればいいんだから、平気だ。」

と、涼しい顔で言った。









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日々の恐怖 12月7日 百物語(2)

2022-12-07 10:33:38 | B,日々の恐怖






 日々の恐怖 12月7日 百物語(2)






 明るくなった部屋では、ある意味悲惨な光景が広がっていた。
部屋の隅でうずくまる者、抱き合う二人、逃げるつもりだったのか窓に手をかけて固まる者、布団をかぶる者、なぜかズボンを脱ぎかけている者、すでに半泣きの者。
そして、整然と並べていたはずの盃は、見事なまでに散乱していた。
 誰かが噴き出した。
それをきっかけに大爆笑が巻き起こった。
それは多分に照れ隠しも含まれていたが、それでようやく彼らは落ち着いて息をすることができた。
 大笑いした後は、片付けタイムだ。
部屋のあちこちに盃が転がっていた。

「 なぁ・・・・。」

ふと、誰かが言った。

「 なんで、酒が零れてないんだ?」

 彼の言う通りだった。
電気が消えた際、酒の入った盃はまだ十杯残っていたから、床には当然それがこぼれているはずだ。
しかし、床はカラカラに乾いていて、何かがこぼれた形跡はなかった。
 彼らは互いに顔を見合わせ、床や壁や部屋のあちこちに視線をさ迷わせた後、我先にと部屋を飛び出したのだった。

「 酒好きの幽霊でも呼んだのかな。」

愛すべき大学生たちの思い出話に、私は笑いを禁じ得なかった。
友人も一緒に笑いながら、

「 実は、おまけがある。」

と言った。

「 おまけ?」
「 あの時、よく考えたら俺は八話しか話してないんだ。
最後の二つはとっておきのやつだったから、それを話していないのは間違いない。
俺だけじゃない、他の奴らも同じことを言った。
おかしいだろ?
盃は九十杯空になってたんだ。」
「 つまり?」
「 俺ら、幽霊と一緒に酒盛りして、幽霊の怖い話を聞いたことになるんだ。
でもなぁ、酔ってたし、どんな話だったのか、全く思い出せないんだよ。」

勿体無いよなぁ、と友人は本当に悔しそうに言った。









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日々の恐怖 12月3日 百物語(1)

2022-12-03 20:39:26 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 12月3日 百物語(1)





 彼は大学生の時、オカルトにはまっていたらしい。
大学生のご多分に漏れず暇と体力だけはあった彼は、ある日同じような仲間を集めて、百物語を決行することにした。
 場所は彼の部屋。
古式に則るなら百本のろうそくを灯さなければならないのだが、アパートでそれをするのはさすがに憚られた。
ではどうするかと頭を悩ませたところ、ある酒好きが名案をひらめいた。

「 百個の盃を用意して、一話語るごとに語った奴が一杯飲み干す、ってのはどうだ?」

それはいいと、皆一も二もなく同意した。
 各人の家やバイト先の居酒屋などを頼り、なんとか百個の盃を揃えた頃には、時刻もちょうどよい頃合いになっていた。
部屋の中心に酒を注いだ盃を並べ、その周りに車座に座った。
部屋の四隅に置いた懐中電灯が、ぼんやりと室内を映し出す。
 メンバーはちょうど十人。
一人十話ずつの計算だった。
そうして百物語が始まった。
 時間帯と環境づくりのおかげで雰囲気だけは恐ろしげだったが、素人が語る怪談なので、そう怖くはない上にどこかで聞いたような話ばかりだった。
おまけに一話終わるごとに盃を煽るので、だんだん皆酔いが回ってくる。
酒に弱い者などは、早くも船を漕いでいた。
 わかりやすくするために、飲み干した盃は伏せて置いた。
話が途切れたり同じ話が続いたりしながらも、なんとか盃が残り十個になった時だった。
なんの前触れもなく、懐中電灯が全て消えた。

「 なんだ⁈」
「 電気つけろ電気!」

十人の男たちは慌てふためき、狭い部屋はパニックに陥った。
暗闇の中でまさに踏んだり蹴ったりの状態になりながら、なんとか家主である友人が部屋の電気をつけた。









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