日々の恐怖 10月17日 ユニットバス(2)
実はこの階にある部屋は全て禁煙で、煙草の匂いがすると言うことは、誰かが部屋の前で煙草を吸うこと以外に考えられないのだが、こんな夜中にしかも禁煙の部屋しかない階で、しかも一番端の部屋の前に来て、煙草を吸うなどと言うのはありえないことのように思える。
ここで耐えきれずに目を開け、ベッドに座った状態で照明を点け、辺りの状況をしばらく伺っていたが、煙草の匂いは、どうもユニットバスの中から漂ってきてるようで、気は進まなかったが、ユニットバスの中を確認する必要があると思うようになってきた。
今何時かと思い時計を見ると、まだ夜中の午前2:53だった。
ベッドから立ち上がり、ゆっくりユニットバスのドアを開けようとドアノブを回したがノブが回らない。
どうやら内鍵が、かかっているようだ。
当然、寝る前に使った時は問題なく開閉できて、施錠してドアを閉めると言った凡ミスは犯していない。
意味不明にガチャガチャとドアノブを回したが、やはりドアはビクともしない。
煙草の匂いはついに部屋の中に充満し、部屋の中かユニットバスの中で誰かが煙草を吸っているような気がする。
さすがに気味が悪くなり、部屋を飛び出そうかとも思ったが、何もしないまま時間だけが過ぎて行った。
すると突然、ベッドの脇あるアラームが午前3:00を指して鳴り出した。
疲れきっていたので、部屋備え付けのアラームを確認せずに寝ていた。
ビックリしてベッドに戻り、アラームを消した。
すると、不思議なことにさっきまで充満していた、あの煙草の匂いが嘘のように一瞬で消えた。
壁の向こうの騒音も、ひそひそ話す声も聞こえてこない。
それで、もしやと思い、ユニットバスのドアを急いで開けてみると、これも何事もなかったかのように開閉できる。
中に煙草の匂いもない。
狐につままれたような感じだったが、耳を澄ますとホテルの同じ階に設置してある自動販売機の冷凍機のブーンと言う音が聞こえ、この階全体が普通になったと言う実感が湧いてきた。
翌朝、睡眠不足のままホテルを経つことになったが、フロント係にあの部屋について尋ねたところ、しばし考えた末、就職して間もないから分からないと言う回答が返ってきた。
結局、ドンドンと言う騒音が何なのか、話声の正体は何だったのか、煙草の匂いは何処から来て何処に消えたのか等、謎ばかりが残ったが、何となく、わざと誰かがアラームを午前3:00にセットし、怪現象が止むようにしたようにも思えてしまった。
伊丹空港周辺で、格安ホテルに宿泊するとき、同じような現象に遭ったらこの話を思い出して下さい。
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