大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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☆(  しづめばこ P574 )                          

日々の恐怖 4月30日 箱(1)

2022-04-30 12:55:56 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 4月30日 箱(1)




 Sさんの家には、古くから受け継がれる箱がある。
サイズは30㎝×30㎝×30㎝というから、それなりに大きい。
見た目は船箪笥のようなもので、上面に持ち手がある。
 前面に取っ手と錠前がついており、開け閉めができる構造になっている。
ただし、錠についた鍵穴はなんらかの金属で埋められていて使えない。
 一応、鍵も一緒に伝わってはいるが、こちらはひどい錆でやはり使えない。
施錠された状態で受け継がれているため、中身はその有無も含めて不明である。
いわゆる開かずの箱だった。
 Sさんの家は女系で、箱は母から子へ受け継がれてきた。
それは、この箱を受け継いだものが当主となるという意味でもある。
 Sさんがこの箱の存在を知ったのは高校生の時だったが、その時すでに、箱を受け継ぐのは彼女であると決まっていた。
彼女には兄と弟がいたが、姉妹はいなかったからだ。

「 当主の証、なんて言うから緊張したよ。
でも、別に特別になにかすることなんてない、たまにホコリ払うだけでいいって言われて安心したんだよね。」

Sさんは当時のことをそう語った。









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日々の恐怖 4月28日 新聞の集金

2022-04-28 19:12:23 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 4月28日 新聞の集金





 集金に行ったその家は、オートロックタイプのワンルームマンションでした。
玄関ホールから呼び出しチャイムを鳴らしました。
 鳴らしてしばらく経って、

「 はい。」

と男の人の声がしました。
寝起きなのか、ひどくテンションの低い声でした。
集金に来たことを告げたら、黙ってオートロックのドアが開きました。
 エレベータで目的の部屋へ行き、玄関のチャイムを押しました。
チャイムの後にちょっと間があって、

” かちゃり。”

と鍵を開く音がして、ドアが少しだけ開きました。
 しかい、いくら待っても人が出てきません。
仕方ないのでドアを引いてみました。
やっぱり玄関には誰もいません。

「 すいませ~ん、○○新聞です~。」

声をかけましたが、反応がありません。
 何度声をかけてもチャイムを鳴らしても、反応がありません。
奥の部屋からはテレビの音が聞こえています。
 人がいるのは分かっているので、

「 あがらせてもらいますよ。」

と言いながら靴を脱いで上がり込みました。
 居間のドアを開けると、やはりテレビがついていました。
けれども、部屋には誰もいません。
念のためトイレ兼シャワーも音を確認してから開けてみましたが、誰もいません。
さすがに気味が悪くなってきたのですが、開き直って押入まで確認しました。
 結局、人がいないのであきらめて帰ることにしました。
無人の家なので、余計なこととは思いましたがテレビは消しました。
鍵はかけられないのでそのままです。
 玄関を出てドアを閉めてエレベータへ向かいかけたのですが、気が変わって引き返しました。
最後の確認のため、ドアを引いてみました。
が、鍵がかかっていました。
ホテルのドアと同じようなものでしょうか。
 誰もいないのは分かっていましたが、ついチャイムを押してみました。

” かちゃり。”

音がして、ドアが開き始めました。
 今度はすかさずドアをつかんで自分で開きました。
しかし、そこには誰もいませんでした。
全身に鳥肌が立ち、猛烈な寒気に襲われ、階段を駆け下りてマンションから飛び出しました。
 帰って、店長に今までの出来事を話しましたが、

「 勝手に家に上がるな!」

と全力で怒られただけでした。
 それから他のバイトがその家に行ってみたようですが、最初から何の応答もなかったそうです。
仕方がないのでその家への新聞の配達は止めて、あとは店長に措置を任せました。
問題の部屋はすぐに空き部屋になったようですが、その後ずっと人が入ることはありませんでした。










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日々の恐怖 4月24日 兄が見たもの

2022-04-24 15:01:14 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 4月24日 兄が見たもの




 Kさんの祖父の家は能登の方のけっこう立派な農家だそうで、毎年お盆時期には家族総出で里帰りする。
その家の奥の仏間には立派な透かし彫りの欄間があり、Kさんとそのお兄さんはよくおじいさんから、

「 この続きの間から欄間を通して仏間を覗くと、不思議なものが見えると言われている。」

と聞いていました。
 そこである日、Kさんとお兄さんが他の家族が不在の際、脚立を持ちだしてそれを決行しようとしました。
まずはお兄さんの番、ということで脚立を上り、欄間の彫刻の間から隣の仏間を覗いたお兄さんは、5秒ほど無言で覗いた後、静かに脚立を降り、それを畳んでしまいました。
不思議に思ったKさんが何度聞いても、お兄さんは無言のままでした。
結局、Kさんは覗かせてもらえいないまま、お兄さんも一言も何を見たかを話さないまま、その夏の里帰りは終ってしまいました。
 後日、家に帰って来てから、Kさんがしつこく聞くと、そのお兄さんは、

「 長い白髪を垂らした老婆が、背を向けて座っているのが見えた。」 

とKさんに白状したと言うことです。









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日々の恐怖 4月21日 中古の家(4)

2022-04-21 19:35:18 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 4月21日 中古の家(4)





 帰省した日に友達と待ち合わせをしたら、他に男が1人やってきた。
友達の会社の後輩だそうで、ご丁寧に名刺までいただいた。
 友達が、

「 彼、おまえが夏に言ってたあの家の話を知ってるんだよ。
あの地域の出身で、今もそっちの地域の支店にいるんだけど、最近、俺がそこの支店に立ち寄ることあってさ。
その時、飯ついでに聞いたら話に食いついてきてくれて、おまけに独自に調べてくれたんだって。
けっこうすげえよ。」

わざわざその日も電車で出てきたそうで、ちょっと唖然とした。

 それで、3人で飲みながら聞いたことだ。
その家は、所有者はたしかにあのご夫婦だった。
その旦那さんは、小学生のころに両親を亡くしてしまい、独り者の叔父に引き取られて育った。
就職するまで叔父と二人暮らしだった。
 その旦那さんが結婚し、その後、賃貸のアパートから、自分の家が欲しいということになった。
しかし旦那さん、かなり低収入なのでローンも断られてばかりで、見かねた育ての親である叔父が購入資金を出してあげることになった。
 ただそれには条件があり、

「 俺はおまえが出て行ってからまた独り者なわけだ。
もう高齢だから、一緒に暮らせるなら全部出してやってもいい。
俺になにかあったときにちゃんと面倒見てくれ。」

と言うことだった。
 結果、奥さんも同意してそうすることになり、無事家を建てた。
しかし奥さんがあまりその叔父のことを好きではなく、暮らし初めて数ヶ月後に、老人ホームに入れようということになった。
 それで、これまた叔父のお金から捻出して、無理矢理老人ホームに入れた。
老人ホームに入れられた、つまり裏切られたショックで叔父は精神に異変が生じ、毎日毎日、

「 あの家は俺の家だ・・・。」

とブツブツ呟いていた。
 それで老人ホーム側にも多々迷惑がかかるんで、3つほど転々とさせられ、そのあげくに病気で入院した。
次は、末期患者の方が入るようなところに入れられてしまい、しばらく放置されてしまったそうだ。
 その間、奥さんは家の中で階段から転げ落ちて流産してしまったり、他にも良くないことが続くので、気になってお祓いとかしたが効果がなかった。
それでご夫婦で別の場所で賃貸アパートか何かへ住み、家は売ることになった。
 しかしなかなか決まらなくて、とりあえず貸家も考えた。
貸家にすると2組ほど家族が住んだが、すぐに出て行ってしまった。
そして最期までその叔父は、

「 あの家は俺の家だ。」

と言い続けながら、結局病院で亡くなったということだ。
 いまだにその家は空き家で手つかずな状態だった。
その付近の住民がよく、家の中に誰かいるのが外から見えるとか、家の前に老人が立っているなど、いろいろ話があり、それで現状幽霊屋敷ということになっていると言うことだった。
 あのときに弟が見たのと、父が聞いたのは本物だったらしい。
弟は一切覚えていないけど、

” GJだったんだなあ~。”

と思いました。
調べた友達の後輩も、ほんとよくやったと思いました。









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日々の恐怖 4月17日 中古の家(3)

2022-04-17 17:33:03 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 4月17日 中古の家(3)





 それでいろいろと思い出した俺は、友達にその話をしてみた。
ちょうどそれくらいのときに、ばったりその家を発見した。
まあ遠目からだったもんで、友達に、

「 たしかあそこだ。」

と教えた。
 ビビリな俺はちょっと怖くなっていたので、すぐに、

「 帰ろう。」

と言った。
 すると友達は住所だけ確認して、

「 おもしろい話聞いたら教えるわ。」

と付け加えた。
 友達はずっと地元にいて、金融系の営業をしているので顔が広く、仕事でもわりと広範囲で動くため、

「 なんか聞けたらいいねえ~。」

と言っていた。


 それからちょっとして去年の冬だ。
その友達から、

『 冬は帰省すんの?』

とメールが来た。

『 たぶんする。』

と返すと、

『 日にち決まったら教えて。
飲もうぜ。』

ということになった。
まあいつも帰省時に電話一本で会ってるし、家も近いのに、

” 何を今更・・・・?”

と思った。
結婚でもするんで、婚約者でも紹介するのかな?と考えていた。








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日々の恐怖 4月12日 中古の家(2)

2022-04-12 19:48:52 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 4月12日 中古の家(2)





 父は後部座席の母に、

「 母さんわかった?」

と聞いた。
母は、

「 いや、私は特になかったけど、雰囲気重いなぁ・・・、とは思った。」

と返事した。
 それで父が言うには、弟が泣き出したときに指さした方向を見たら、見えはしなかったが、

「 出て行け。」

という声が確かに聞こえたと言った。
その声は、すごくじめっとした老人っぽい感じの声だったそうだ。
 父は、

「 いやあ、あそこ絶対いるだろ、やばかったな。」

と言った。
 その後、父と母は終始、事故物件がどうのとかいう話をしていた。
俺はそれを聞いて、あそこだけは住みたくないな、と思った。
結局、翌年に一軒家はわりと近所の物件に無事決まってホッとした。


 それから10数年後。
地元を離れて就職している俺は、毎年夏休みがある。
去年も1週間休みを取り、帰省した。
 すぐに高校時代の友達と会うことになった。
会ったのはいいがまだ時間的に15時とかだったので、飲むのも早いし、かといって他にやることもないので、友達の運転でドライブに行った。
それでブラブラ遠くまで回っていたら、なんとなく見覚えのある景色があった。

「 俺このへん来たことあると思う、なんだっけ・・・?」

考えてみると、高1の頃に見に来てすぐに帰ったあの家へ近づいているようだった。










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日々の恐怖 4月10日 中古の家(1)

2022-04-10 15:56:22 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 4月10日 中古の家(1)





 高1の頃に父がちょっと出世して、一軒家を買おうかということになった。
それで日曜を利用して不動産巡りみたいなことをしていた。
 その中で見た中古の家があった。
両親と俺と弟(当時5歳)で行った。
 所有者はたしか40歳くらいのご夫婦で、夕方に現場で待ち合わせた。
そのときに住んでいたのは、ざわついた繁華街の賃貸マンションだったので、郊外のその一軒家は、外から一見するととても魅力的だった。
 家の中に入れてもらったら、やけに光が弱くて雰囲気が悪い気がした。
それでもご夫婦は、

「 日中はけっこう光入りますよ。」

みたいなことを。
 1部屋ずつ見てたら、いきなり弟が、

「 ビヤアアアア!!!!!」

って泣き出した。

「 あそこに怖い顔した男の人がいて、こっち見てる。」

って。
廊下の隅っこを指さし、母にびったりくっついて、ヒックヒックと嗚咽が止まらなくなってしまった。
 父がとっさに、

「 すいません、この子ちょっと変わった子で。
外で一度こうなると家に帰るまで収拾つかないんですよ。
申し訳ないんですけど、また後日お願いしてもいいですか?」

みたいなことを言い、すぐ帰ることになった。
 父は深々と頭を下げて、家族で車に乗り込んだ。
弟は泣きやんだ。
堅い表情をした父は、

「 ちょっとコンビニ見つけたら入るからな。」

と。
そしてすぐ見つけたコンビニへ入り、塩(食卓塩)を買ってきた。
そして、

「 みんな外出ろ。」

と俺らを車の外へ出し、いきなりふりかけ始めた。

「 お清めだからちょっとだけ我慢しろ。」

と言い、車にもぱらぱらと。
 鈍感な俺はそれでようやく、

” あ、あの家に変なのがいたのか!”

と悟り、父に聞いてみた。
母はまだ弟をぎゅっと抱きしめていた。










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日々の恐怖 4月5日 村岡君(4)

2022-04-05 18:54:38 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 4月5日 村岡君(4)





 大学を関西で過ごした私はそのまま関西で就職し、月日が経ちました。
まだ交友が続いている村岡君が所要で関西に出てくることになり、大阪の梅田で久しぶりの再開を果たしました。
まあ、メールや電話でのやり取りは結構あるので、まあまあの感激でしたが。
 私は二人で飲みがてら、あの時何が起こったのか長年気になっていることを聞いてみました。
あの時、竹林で何かを探していた女は、雷光と共にすべる様に教室の方角に向き直り、そのまま、

” すう~っ。”

と、こちらに移動してきたそうです。
古い着物姿に何かを入れた袋、うつろな瞳、着物のカスリ模様まではっきりと見えたそうです。
 そしてそのまま廊下の壁と窓をすり抜け、教室の窓もすり抜け、そのまま空中で雪が解けるように消えたそうです。

「 お前、ホンマに見えたんか?」

私の問いに酒を飲みながら何度も村岡君はうなづきました。

「 確かにな、見たわ。
でも、もうええわ。」

その後は二人ともおいしい料理と酒を十分堪能しました。
 JR大阪駅に村岡君を送って行く途中で村岡君がつぶやきました。

「 なあ、あの時の女性な、こんな風に空中移動してたわ、ゆっくりとなぁ・・・。」

その視線の先には、阪急梅田の動く歩道がありました。

「 歩かずに乗ってる人は、まさにあの時の女性の移動スガタそのままや。」

大阪駅のいつも私が行かない長距離用のホームで、村岡君は笑いながら私の肩をグウで軽く殴りながら何回も言いました。

「 また、帰って来いよ~~、智頭急乗ってなっ!待っとるよ!!」

あの怖かった経験も、今ではふるさとの甘い思い出なのかもしれません。











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日々の恐怖 4月1日 村岡君(3)

2022-04-01 18:52:23 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 4月1日 村岡君(3)





 突然大きな雷光があたりを照らし出しました。
と同時に、生徒たちや隣組の先生が悲鳴をあげました。

「 うわっ、こっちに来よるっ!」

見える生徒たちが悲鳴をあげながら教室を逃げ回ります。
廊下の生徒達も恐怖で泣きながらあわてて教室に入ってきます。

「 なんじゃあ、こりゃあ!」

と隣組の先生もまるで松田優作のジーパン刑事みたいな声をあげて、でも体が動かないのかそのまま立ち尽くします。
 教室には怒号と悲鳴と泣き声の生徒達が逃げ惑います。
まるで長い時間のように思えましたが、実際は数十秒だったのでしょう。
 やがて、

「 消えたっ!」

と誰かの声が聞こえ、教室にはパニック状態だけが残りました。
 泣いている生徒、腰が抜けてへたり込んでいる生徒、そして立ち尽くすジーパン刑事。
ただ、見えない私達にはまったく何も見えませんでしたし、感じませんでした。
結局このことはかなりの騒ぎになり、その日保護者に急遽連絡が取られ、すぐにそのまま帰宅となりました。

 後日、全校朝礼で校長からの厳しいお叱りがありました。
そのときは見たと言った隣組の先生も、それ以降見たとは言わなくなりました。

” 思春期による集団ヒステリーである。”

そんな言葉でこの一件は片付けられてしまいました。










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