山本爺は、弁当の端にあった黄色い御新香を一切れ、サッと摘んで口に放り込んだ。
“ あらっ!?
トンカツじゃなかった・・・。”
山本爺は、クルッと向きを変えて自分のベッドに向かった。
俺は唖然として、去って行く山本爺の姿を眼で追った。
“ ポリ、ポリ、ポリ、ポリ・・・。”
横から見える顎がモゴモゴ動いている。
右手は持っている箸を∞の形にクルクル動かしている。
そして、ベッドに戻って、箸を持ったまま、再び、布団を被った。
座ったまま布団を被ったので、ベッドの真ん中に布団の山が出来ている。
“ 遠慮したのかな?
でも、箸は御新香に一直線だったよな・・・・。”
俺はせっかくトンカツを一切れあげようと決心した手前、一応、揺れている布団の膨らみに訊いてみた。
「 あの~、トンカツ、一つどうですか・・・?」
ベッドの膨らみからは、ポリ、ポリ、ポリと御新香を齧る音が聞こえるだけで返事は無い。
“ 返事無いし、まあ、いいか・・・、エヘッ!。”
俺はトンカツを一つも取られなかったことに喜びを感じながら、トンカツから弁当を食べ始めた。
時間が遅かったせいか、俺の胃は満足そうにそれらを吸収して行った。
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