大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 8月30日 小さくて白っぽい動物(1)

2021-08-30 13:45:20 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 8月30日 小さくて白っぽい動物(1)




 どこの職場でもあることなのかもしれないが、私の勤め先では新年会というものがある。
三が日も明けぬうちから全職員が集められ、理事長の訓示と新年への決意を聞くのだ。
 さして広くもないホールにそれなりの人数がひしめきあい、おまけに一時間弱立ちっぱなしなので、貧血で倒れる職員が毎年一人は必ず出る。
職場側でも椅子を用意したり無理はしないよう勧告はするものの、この行事自体は無くなる気配はなかった。
 その年も、朝早くから集められた大勢の職員は、葦のように並んで冗長な理事長の訓示を聞かされていた。
私は少し俯いて、自分や周りの職員の足元に視線を泳がせながら、欠伸を噛み殺していた。 
 急に、私の斜め前の方から小さなどよめきが起こった。

「 大丈夫?」

と気遣う声。
 また今年も、誰かが倒れたようだった。
理事長はというと、チラリとどよめく辺りに目を遣っただけで、話を中断することはなかった。

” そういうところがダメなんだよ・・・。”

内心そう毒づきながら、視線を足元に戻した時だった。
小さくて白っぽい動物が、誰かが倒れたらしい方向から、職員の足の間を縫うように駆けてきた。








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日々の恐怖 8月25日 鈴の音(3)

2021-08-25 16:45:29 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 8月25日 鈴の音(3)





「 わかんないの?」
「 はい。
一回、先輩たちと音の出所を探したんですけど、それらしいものは見つからなかったんですよね。
物置から聞こえてくるのは確かなんですけど、中に入ると音が変に反響して、細かい場所がわからないんです。」
「 ちょくちょくって、どれくらい?」
「 毎日一回か二回です。
でも時間帯はまちまちで、午前中だったり夕方だったり・・・。」
「 なんかちょっと、怖くない?」
「 もう、慣れちゃって。
先輩たちも、鳴ってても全然気にしないんですよ。
三分くらいで止まりますし。
あ、ほら・・・。」

Aさんの言葉を待つように、その音はピタリと止まった。

「 ね。」

とAさんはこちらを見て笑った。
 私はなんとなく気味が悪くて、そそくさと総務課を後にした。
気味が悪かったのは、耳にこびりついたあの鈴のような音だけではなく、あの音がもはや全く気にならないという、Aさんをはじめとする事務職員もだった。
怪物の口の中にいて、そうとは気付いていないような、不気味さと危うさを感じたのだ。
 つい先日、総務でまたあの音を聞いてしまった。
心なしか、前回よりも音が大きくなったようだった。

「 あの音、まだするんだね。」

Aさんにそう言うと、彼女はやはりなんでもないように、

「 そうですね。」

と頷いた。
 頷いたあと、

「 でも、なんか鳴る回数が増えてきたかも・・・・?」

と、少し眉をひそめた。
それを聞いて、私の背筋にはまた悪寒が走ったのだった。








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日々の恐怖 8月22日 鈴の音(2)

2021-08-22 18:33:32 | B,日々の恐怖



 日々の恐怖 8月22日 鈴の音(2)




 か細いけれど甲高く、やけに鼓膜を刺激する音だった。
火災報知機や家電のエラー音に似ていたが、それよりもずっと鈴に近い音だ。
なんとなく、お守りについている安っぽい小さな鈴を降り続けているのを想像した。
 はじめは、コピー機の調子が悪いのかなとそっと耳を近づけてみたが、そうではないようだった。
ではどこから、とキョロキョロするうちに、室内の隅にある扉が半分開いているのに気がついた。
 その扉の向こうは、物置のはずだ。
鈴のような音は、その扉の中から聞こえていた。
 印刷が終わり、コピー機は静かになった。
しかし、もう一つの音はまだなり続けている。
 静かな室内に響く甲高い音は、かなり異質で耳障りだった。
ふいに、背筋がぞくりとした。
なんの根拠もないのだが、何か悪いものが近づいてくるような、この鈴のような音は、そのことを警告しているような気がしたのだ。

「 あの、変な音してない?」

私は、何を気にする風でもなくパソコンを使っているAさんにそう声をかけた。

「 鈴みたいな音・・・。」

自分の変な想像を振り払うためでもあるし、Aさんがあまりに平然としているので、もしやこの音が聞こえているのは私だけなのかと、不安に思ったからでもあった。
 すると、Aさんはなんでもないことのように、

「 ああ・・・・。」

と、ちらりと物置の方を見た。

「 あの音、ちょくちょくこんな風になり出すんですよ。
なんの音なのかわかんないんですけど・・。」








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日々の恐怖 8月20日 鈴の音(1)

2021-08-20 18:23:44 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 8月20日 鈴の音(1)




 半年ほど前、職場で体験した話だ。
私は特別養護老人ホームに勤めているのだが、介護の仕事に休日は関係ない。
世間が休みの日に働くというのはなんとも切ない気分になるが、その分平日に休みがもらえるので、どっこいどっこいという感じだ。
 その日も日曜日だった。
昼食後、利用者の大半が落ち着いてゆっくりと過ごす時間を見計らい、私はたまっていた事務仕事を片付けることにした。
利用者の家族へ送付する行事案内の書類が、中身はできていたものの印刷がまだだったのだ。
 現場には、パソコンはあるがそれをプリントアウトするものがなく、もう一人の職員に断りを入れて、私はコピー機のある総務課へと向かった。
総務課ではいつも数名の事務員が賑やかに作業しているのだが、休日は電話番として一人しか出勤しない。
 その日の出勤は、その年入社したばかりのAさんだった。

「 休みの日は、一人だから寂しくない?」
「 そうなんです。
でも、たまった仕事ははかどるかな。」
「 どこも大変よねぇ。」

そんな軽口を叩きながらコピー機を操作する。
 枚数を設定すると、やがて規則正しい音をたて始めた。
ぼんやりとその音に耳を傾けていると、ふと、何か違う音がしているのに気がついた。









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日々の恐怖 8月18日 ばばちゃ(2)

2021-08-18 12:09:45 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 8月18日 ばばちゃ(2)




 またある時、祖母の夢枕に立つものがあった。
それは数日前に死んだ近所の女性だった。
祖母とは茶飲み友達で、生前はとても仲が良かったという。 

「 おう、なにしよっとるか。
おめえ、死んだろうが。
なにをこんなとこに残っとる。
ちゃっちゃと川渡らんと駄目だでに。」

そう言ってみたものの、幽霊はそこに立ち続けている。
祖母はむうっと顔をしかめて怒鳴り付けた。

「 おう!さっさと逝かんか!
あんま迷っちると、おめえ、ただじゃ置かんで!
こうして、こうしっちるで、覚悟しとけど!」

ぶんぶんと拳を振り回す祖母に恐れをなしたのか、幽霊はささっと消えてしまった。

「 ばばちゃはなあ、あれは、こわいもんがなかったんだなあ・・・。」

私が小さい頃、祖父は何度もそんな風に言っていた。
 祖母は、私が生まれる前に亡くなっていた。
だから私は、祖父の語る話でしか、祖母のことを知らなかった。

「 むか~し、まだちいこいころにな、神様のところにお嫁に行けっち言われた時も、そりゃあもう暴れて暴れてなあ。
神様のお社行って、ボロクソに怒鳴りまくっとったで。
結局、お嫁に行くっち話はパアになったでな。」
「 代わりに、じじちゃのとこにお嫁に来たんだね。」
「 そうだで。
ありがてえやら恐ろしいやらで、祝言挙げる間、震えっぱなしだったなあ。」

 祖父の語る祖母は、いつも強く、怖いものなしだった。
迷いがなく、堂々とした有り様の人だった。
湿っぽい話などひとつも聞いたことがない。

「 ばばちゃはなあ、死ぬ瞬間までそんなだったで。
最後まで怒ったり笑ったり、忙しくっちなあ。
そんで、ぽっくり逝っちまった。
ろくに、お別れもできんかった。
あれっきり、化けて出てもこねえで。
一回くらい、化けて出てくれたって、いいだろうに・・・。」

涙まじりにそんなことを言っていた祖父は、その数年後に死んだ。
 川の向こうで、再会はできただろうか。
さっぱり化けて出てこない祖父のことを思うと、なぜだか少し笑ってしまう。









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日々の恐怖 8月16日 ばばちゃ(1)

2021-08-16 21:14:22 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 8月16日 ばばちゃ(1)




 祖父が昔、よく言っていた。

「 この世で最も恐いのは、ばばちゃだ。」

祖母は、それほど恐れられた存在だった。
 私が生まれる前の話だ。
ある時、祖母は朝からタケノコを取りに山へ入った。
 ずいぶん調子よくタケノコが集まり、ほくほく顔で帰ろうとしたところ、気づけばあたりが霧に包まれていた。

” おやっ・・・・?”

と思いながらも帰途についたが、なかなか集落が見えてこない。

” ははあ、これはキツネか、ムジナか・・・。
なんにせよ化かされているな・・・。”

そう気づいた祖母は、背負っていたタケノコのかごを下ろすと、鍬を構えて、

「 おう!」

と霧に向かって怒鳴った。

「 どこのどいつか知らねえけんど、おらを化かすっちゃあえ~え度胸だあ!
おらぁ、ここらじゃ名の知れた猟師の嫁だで!
それが獣に負けたとあっちゃ、名が廃る!
見てろ!
しっぽ、ちょんぎってくれっからなあ~!」

そう言って、

” ぶん!”

と鍬を振り回すと、霧は恐れをなしたかのように、

” サア~ッ!”

と、引いて行ったという。









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日々の恐怖 8月12日 遺品整理(2)

2021-08-12 21:24:12 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 8月12日 遺品整理(2)




 本棚の本を整理していた時だ。
一枚の封筒が本の隙間から滑り落ちた。
友人は何気なく中身を確認し、息を飲んだ。
そこには、まるで浮気の証拠のお手本のようなツーショットがあったのだ。
 誰とも知れない若いの女性と、壮年の男性。
男性はもちろん、父親だった。

『 なぁに、これ?』

そう言ってヒョイと写真をつまみあげた母親に、友人は戦慄した。
母親は、ひどいヤキモチ焼きな性格だったのだ。
 父の生前、あらぬ疑いでよく父を問い詰めていた。
しかし、この写真はどう見ても疑いでは済まない。
 てっきり眦を上げて喚き散らすかと思ったが、母親はしばらく写真を眺めた後、大きく鼻を鳴らした。

『 もう死んでから何年も経って、今更怒るのもバカバカしいわ。
ようやくテンポよく片付き始めたんだから、こんなことで足止めされないわよ。』

そう言いながら、写真を細かくビリビリに引き裂いて、ゴミ箱に押し込んだという。

「 それを見た時ね、父はこの言葉を待っていたのか、と思ったの。
ほとぼりが冷めるというか、浮気への怒りより、片付かない苛立ちが勝るのを待ってたのよ。
だから遺品整理が進まないよう、邪魔してたんだと思うわ。」

その後も片付けは順調に進み、残すものは後わずかだという。

「 何もかも捨てそうな勢いの母が、少し怖いけどね。」

友人はそう言って笑った。









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日々の恐怖 8月6日 遺品整理(1)

2021-08-06 19:24:51 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 8月6日 遺品整理(1)




 友人の話です。

「 亡くなった父の遺品の整理が、全然進まなかったの。」

ある時彼女が私に言った。
 彼女の父親が亡くなったのは五、六年も前だったので、片付ける気があるのなら確かに進捗は遅い。
いつも、片付けようとはするのだという。
 気持ちだけではなく、家族で予定を合わせ計画を立て、業者に依頼したこともあった。
それなのに、その度に邪魔が入り、作業が遅々として進まない。

「 邪魔って、どんな?」
「 色々だけど。
家族がそろってインフルエンザとか、母が足を怪我したとか。
アルバムを眺めて一日が終わったり、大きな荷物を処分するはずが台風が来たり。
思い切って遺品整理の業者を頼んだら、予定日の一週間前に倒産だなんて、そんなことある?」
「 普通はないかも。」

鼻息荒い友人に、私はそう応えた。

「 実はね、理由があったみたい。」
「 理由? 作業が進まないことの?」
「 そう。」

 友人によればつい先日も、父親の遺品整理の作業に母親と共に取り掛かったという。
その時は、今までの遅々とした作業が嘘のように、何もかもが順調に進んだ。









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日々の恐怖 8月3日 トレイルランニング

2021-08-03 11:42:46 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 8月3日 トレイルランニング




 山本は、トレイルランニングを趣味にしています。
トレーニングとして、近所の山に走りに行くことがあるそうです。
 ある日、いつものように頂上まで走って登り、駆け下りていると、後ろから同じように走る足音がします。

” 同好のヤツでもいたんだろうか・・・?”

と思いつつ、走り続けていると、徐々に足音が近くなります。

「 ハッ、ハッ、ハッ!」

と荒い息遣いまでが聞こえてくるので、

” あらら、邪魔だったのか・・・?”

と思い、道の端に寄り通り道を開けましたが、一向に抜いていく気配がありません。
しかし、息遣いはさらに近くなり、足音までも真後ろで聞こえてきました。
 振り向いて確認したい気持ちになりましたが、一向に抜いていかないのと、なんとも気味の悪い感じがしたので、下りの勢いに任せて全速力で駆け抜けました。
 上り口まで100メートルの看板が見え、

” もう少しだ!”

と思った瞬間、ふっと背後の気配が消え、

「 お前、ヒトのクセに足速いな。」

ボソボソっと聞こえたそうです。

「 そのまま全速力でウチに帰ったよ、足がパンパンになっちまった。
今度から、山には御守りでも持っていくことにするよ。」

山本はそう言って渋い顔をしました。









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