日々の恐怖 9月20日 ペチペチペチ
十年くらい前、埼玉で病院の改築したときの話です。
解体工事中にまだ事務所を構えてなかったから、解体予定の診察室Aに仮に事務所を構えて仕事をしていた。
家が遠かったし若かったから帰るのもめんどくさくて、しょっちゅうその街で飲んで事務所で寝ていた。
ある夜、いつものように飲んで事務所に戻ったものの眠気が来ず、図面チェックしてたら、
“ ペチペチペチ・・・。”
って拍手みたいな音が聞こえてきた。
現場に浮浪者侵入とかあったもんで、音のする方に確認しに行った。
場所は、1フロア上の診察室Bからのようだった。
その時は心霊現象とかそういうのは頭の片隅にもなくて、泥棒だったらひっぱたいてやると、バール片手に部屋に入った。
すると、さっきまでしてた音がピタリと止まった。見回しても異常はなし。
ところが、部屋を出てしばらくするとまた聞こえる。
入るとやはり誰もいない、出るとまた音がする。
俺は次に、そーっと部屋に入った。
すると音はしてる、でも誰もいない。
これはきっと屋鳴りだと思い部屋を出ると、微かに笑い声がした気がした。
それで流石に怖くなって、ダッシュで現場を出て駅前のビジネスホテルに泊まった。
で、情けないけど怖かったもんで本気で事務所を探して、現場から歩いて3分くらいのマンションの一室を借りて事務所にした。
一週間くらいだったかな。
なにもなく、やはり飲み歩いて新しい事務所に泊まっていた。
そしてその日も飲んで帰ると、
“ カチャカチャ・・・。”
って小さい音がする。
まあ、あんまし気にせずにいた。
それでトイレに大をしに行った。
洋式便所に腰かけて用を足してると、目の前の壁から、
“ ペチペチ・・。”
って例の音がしてきた。
“ え?マジかよ?”
とビビって、また駅前のビジネスホテルに逃げた。
翌朝、事務所に戻ってトイレに行ってみると、昨日音がしてた壁の腰かけた目の高さくらいのところに、小さい手形がうっすらついてた。
血とかそう言うのじゃないんだけど、赤錆びのような泥のようなうっすらとした小さい手形だった。
流石にこれは普通じゃないと怖くなって、近所の寺を探して住職さんに状況を話して部屋に来てもらった。
すると住職さんがボソッといった。
「 小さい子だからね、迷子でついてきちゃったんだね、帰らせてあげないと・・・。」
それで、お経をあげてくれた。
「 他の人もいるかもねえ。」
と、そのあと現場の病院にも来てくれてお経をあげてくれた。
それ以来そういうことはぱったりなくなり、無事に工事は完了した。
で、不思議なもんなんだけど、坊さんに来てもらった後日、気付くとトイレの手形は掃除もしてないのに消えていた。
あと、坊さんへのお布施は現場経費として認めてもらえず、懐の痛さにも泣いた。
現場やってると色々あるもんです。
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