面会の終わった山本爺の小物入れの上には、大きな果物カゴが置いてあった。
俺は素直に、それがスゴイナァと思って言った。
「 う~ん、果物、いっぱいだ!!」
山本爺はチラッと俺を見ると、布団から片足を下ろして体を支え、左手を伸ばして、果物カゴからリンゴを一つ取り出した。
“ あ、俺にくれるのかな・・・。
そりゃ、当然だよな。
この前、リンゴあげたもんな。
あらっ!?”
甘かった。
山本爺は取り出したリンゴ一つを持ったまま片足をベッドに戻し、再びゴソゴソと布団に入っていった。
そして、枕で上半身を支え、布団を頭から被ってリンゴを齧り始めた。
「 シャリシャリシャリ。」
斜めに盛り上がった布団の頂上辺りからリンゴを齧る音が聞こえて来る。
“ やっぱ、くれないな・・・。
そうだよな、くれるわけ無いよな。”
俺は山本爺と大学生風の面会人との会話を思い出して考えた。
“ 山本爺って、大学の先生、かな?
なんとか関数とか言ってたから、数学か・・・?
あの訳の分からない性格は、数学者だったら、それで普通かも・・・。”
相変わらずシャリシャリと言う音が続いている。
山本爺を眺めていても仕方ないので、俺はベッドまで戻った。
そして、ベッドの枕元にある小物入れの引出しを開けた。
由紀ちゃんのお守りを仕舞うためだ。
“ お守り、キチンと仕舞っておこう!
これ、何処かで落としたりしたら大変だ。
これがあるおかげで、昨日は無事だったんだから・・・・。”
俺は大事なお守りをベッドの小物入れに仕舞い込んだ。
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