大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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潮騒の夏 その153

2011-06-16 19:27:39 | E,霧の狐道
  潮騒の夏 その153


それで、洋子ちゃんは話を続けた。

「 やまてつのこと、本当よ!
あそこ、もともと、“民宿やまふじ”だったんだ。
やまふじの大女将のご主人、板前さんだったんだけど、病気で亡くなってしまって、板前さんが居なくなってしまって困ってたんだ。
 それで、大女将が亡くなったご主人の友人の伝手を頼って、頼み込んでやってきたのが、今のやまてつよ。
なんでも、大阪の老舗で腕がいいって評判だったらしくって・・・・。
来たときはビビッたそうよ。
なにしろ、強面だから。
それに、あまり、喋らないし。
 しかし、料理はメチャ美味い。
硬派だから、女将さんにも余計な話をしないし。
謎の人物。
それでも、女将さん、ちょっと気に入っていたようなんだなァ。
 でも、腕はいいが、人間が分からない。
そこで、やまふじの女将さんが浜崎の女将さんに相談したら、ヨシマサがやって来たってこと。
 やまふじの女将さんが、やまてつを誘い出して砂浜を二人で散歩していたとき、浜崎の女将さんがヨシマサの散歩で、偶然通り掛ったことにしたの。
それで、そこで浜崎の女将さんがヨシマサにリードのワッカを渡したら、ヨシマサはやまてつにワッカを渡して、やまてつを引っ張って走り出したのよ。
やまてつ、“わォ~~~~~!”って叫んで、カニ走り。
 普通、引っ張られて終わりなんでけど、やまてつ、引っ張られてカニ走りから、徐々に体勢を立て直して、リードを持ったまま、ヨシマサを抜かそうと必死で走ったそうなのよ。
それで、ヨシマサ、大喜びしてさらにスピード上げて。
やまてつ、もっと、スピード上げて。
ハハッ!
想像しただけで、可笑しい。
 浜辺を競争してるのよ。
砂煙を上げて競争。
そんなことした人、今まで居なかったから。
そのうち、見えなくなってしまったって。







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霧の狐道274

2010-01-09 18:08:38 | E,霧の狐道
 俺は、妹のニコニコした顔を見ながら思った。

“ 俺は、完全に失敗した。
 妹に期待したのが間違っていた。
 こんなものを見たら、あの女の子は一緒に遊ぼうなんて言い出すんじゃ
 ないか・・・。
 タダでさえ遊びたがっていたのに・・・。”

俺は、キティちゃんの袋を持ち、コックリさんの紙をベッドに広げたまま、途方に暮れた。
 沙織が満足そうに言った。

「 じゃ~、用が済んだから帰る。
 退院したら、このお礼はたっぷりしてね。」

俺は放心状態で答えた。

「 ああ・・・・・。」

妹は、俺が満足したと思って陽気に帰って行った。

“ まあ、遠い所を来てくれたから・・・。
 感謝・・・。
 感謝・・・・。
 感謝・・・・・。
 くそ~っ、やっぱりダメだァ~、もう・・・。”

俺は、再び、途方に暮れた。
 切羽詰るともう、何がなんだか分からない。

『 そうだ、脱走しよう!!!!』

俺は、突然、そう思った。






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霧の狐道273

2010-01-02 19:47:37 | E,霧の狐道
 俺は、沙織に言った。

「 これ、コックリさん?」
「 それは、表よ。
 裏に、おまじないが書いてあるでしょ!
 こっちの方が、お守りなの。」
「 俺は、まともなお守りって言ったんだぞ!」
「 だって、キツネのお守りって言ってたじゃん。
 友達にキツネのお守りちょうだいって言ったら、コックリさんの紙の裏
 に書いてくれたのよ。
 すごいでしょ!」
「 どっかの神社に行って買って来いよォ。」
「 だって、お金無いもん。」
「 親に、おやつを買うから、お金ちょうだいって言えば、いくらかくれ
 るだろ。」
「 ダメダメ、もう、来月分も前借りしてるんだもん。
 言っても、くれる訳無いじゃん。
 ホラ、キティちゃんの袋に入れてあげたでしょ。
 ちょっとは、感謝しなさいよ!」
「 これ、効き目はあるのか?」
「 失恋した時に、とっても効くって言ってたわ。」
「 それ、効く分野が違うんじゃないか。」
「 何に効けばいいのよ?」
「 女の子から、逃げるんだよ!」
「 へ~、そうなんだァ。
 貴志、やるじゃん!」
「 貴志と言うな。
 お兄ちゃんと言え。」
「 いいじゃん、貴志。」
「 俺は、兄貴なんだぞ!
 もっと、尊敬しろ!」
「 アハハハハハハ。」





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霧の狐道272

2009-12-16 18:36:59 | E,霧の狐道
 電話をして3時間ほどで、妹の沙織がやって来た。
沙織は、不服そうな顔をして俺に言った。

「 ここ、メッチャ遠い!」
「 ああ、ご苦労ご苦労。
 はい、出して、出して。」

沙織はポケットから小さな赤い布袋を出して俺に渡した。

「 ほらっ!」
「 なんじゃ、こりゃ?」

 お守りの布袋の表は、キティちゃんが歩いている絵だった。
袋には、青い紐がついている。
沙織が言った。

「 お守りじゃん!」
「 ど~見ても、お守りには見えないが・・・・。」

 俺は、布袋の口を開けて中に入っている紙を引っ張り出した。
そして、折り畳んである紙を開いて驚いた。

「 これって・・・・?」

開いた紙の表には、訳の分からないグニョグニョした文字がサインペンで書いてあった。
そして、裏には鳥居のマークとあいうえおが並んでいた。






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霧の狐道271

2009-12-11 19:20:30 | E,霧の狐道
「 あ~、もう分かりました。
 沙織様、どうかお守りを持って来て下さい。」
「 お願いしますは?」
「 あ、お願いします。」
「 布袋にキツネがポイントね。」
「 ああ。」
「 分かったわ。」
「 じゃ、よろしく!」

“ ガチャ!”

 俺は急いで電話を切った。
これ以上話すと、沙織のヤツ、何を言い出すか分かったもんじゃない。
俺は妹に弱みを握られてしまった。
これはかなり高くつきそうだと思った。
 でも、これはこれで仕方が無い。
このままでは、この病院からタダでは帰れないから。
とにかく、由紀ちゃんのお守りの代わりをキープしなければ。
俺は取り敢えず、これで一安心とタカを括っていた。


 俺は病室で、今か今かと沙織の到着を待つ。
待っているうちに、山本爺がトイレなのかフラフラと出て行った。
田中爺は一向に帰って来ない。

“ おせぇ~なァ~~!”

一人取り残された俺はただひたすら沙織の到着を待つ。





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霧の狐道270

2009-12-07 19:38:54 | E,霧の狐道
「 沙織に電話したんだよっ!
 親には言うなよ、カッコ悪いからな。
 あのな、お守りを持って来てくれ。」
「 お守り?」
「 ああ、お守りだ。」
「 どうしたの?」
「 失くしてしまった。」
「 今まで、お守りなんて気休めだって言って、持ったこと無かったのに、
 信じられな~い。
 お守りなんて、持っていたの?」
「 いや、昨日、隣の吉沢さんに貰ったんだ。」
「 どんなの?」
「 布袋にキツネの絵が描いてあるお守りだよ。」
「 ふ~ん、それで、もう、失くしたの。」
「 とにかく、お守り持って来い!」
「 ダメよ、そんな言い方じゃ。
 “お守り持って来て下さい、沙織様”って頼まなきゃ!」

“ クソッ、足もと見やがって・・・。”

「 うるせ~!
 今日、持って来い!」
「 いいのかな~、そんな偉そうな言い方して・・・。」
「 いいから、持って来い!」
「 何よ、生意気な。
 失くしたこと、吉沢さんに言ってやろ!」
「 ゲッ!
 それは、止めろ!」
「 アハハハハハ、ど~じゃ、参ったか!」

俺は観念した。






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霧の狐道269

2009-12-03 18:47:31 | E,霧の狐道
 俺はジタバタしながら、ナースステーションの前にある赤電話に行った。
そして、チャリンチャリンとお金を入れ、自宅に電話を掛ける。

“ トウルルルル、トウルルルル、トウルルルル・・・・。”

呼び出し音は鳴っているが、なかなか人が出ない。

「 遅いぞ、早く電話を取れっ!」

“ ガチャ。”

ようやく、受話器を取る音がした。

「 もしも~し、貴志で~す!」
「 あ、貴志、何よ?」

出てきたのは、ちょうど妹の沙織だった。

「 いつも言ってるだろ!」
「 何よ、貴志?」
「 だから、いつも言ってるだろォ~!
 貴志じゃない、お兄ちゃんと言え。
 俺は、兄貴だ、同級生じゃない。」
「 アハハ、貴志、それで何?」

あまりブツブツ言うと、頼みごとをする手前マズイかなとも思えたので、用件に入ることにした。





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霧の狐道268

2009-11-28 18:04:33 | E,霧の狐道
 俺はヤッパリ山本爺を触らないでおこうと思った。

“ 苦しいんだろな・・・・・。
 う~~~~ん、よし!”

俺は山本爺にお守りを貸してあげることに決めた。
盗って行ったとは思いたくない。

“ 貸してあげるけど、早めに返してネ!”

俺は盛り上がった布団に声を出さずに言った。
そして、山本爺の代わりに自分で自分に返事をする。

“ うん。”

もちろん、山本爺は微動だにしない。

“ まあ、これでいいか!”

 でも、お守りが無いとかなり不安だ。
俺はどうしたもんかと考えて良い考えを思い付いた。

“ そうだ!
 自宅に電話を掛けて、妹にお守りを持って来させよう!!
 おお、グッドアイデア!
 そうと決まったら、急がなきゃ!”







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霧の狐道267

2009-11-22 19:08:10 | E,霧の狐道
 俺は困った。

「 あっ!」

俺は思わず声を出して、その口を手で覆った。

“ 今の声、聞こえたかな・・・?”

俺は声を山本爺に聞かれたくなかった。
山本爺に動きは無い。

“ 山本爺が小物入れの前に立っていたんだ・・・・。”

俺は山本爺のベッドを見た。

“ 怪しい・・・・。”

山本爺は布団を被って動かない。

“ ・・・・・・・・・・。”

俺は山本爺を疑った。
あの感じは限り無くクロだ。

“ 絶対、そうだ・・・・。”

俺の疑惑は確信に変わった。

“ でも、なあ・・・・。”

確信に変わっても、山本爺を問い詰めることは躊躇われる。
それは、龍平の話を思い出したからだ。






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霧の狐道266

2009-11-17 18:35:00 | E,霧の狐道
 山本爺は膨れた布団の中でジッとしている。
眼の端には入院手続きの書類が見える。

“ ま、いいか・・・・。
 取り敢えず、書類を書いてしまおう。”

 俺は“よっこらしょ!”っとベッドに座り直した。
そして、ボールペンを取るため引き出しを開けた。

“ あれっ、無い・・・。”

俺の引き出しから、由紀ちゃんのお守りが消えていた。

“ 確かに、ここに入れた筈なのに・・・。”

俺はベッドから降りて、小物入れの引き出しを大きく開け中を探した。

“ ガサガサガサ・・・。”

引き出しの奥から下に落ちたのかもしれないと、最下段の引き出しを引っこ抜いて奥を調べた。

“ ガタッ、ガサガサガサ!”

でも、探し物は見付からない。

“ 無い、無い・・・・・。
 ヤバイヤバイヤバイ!
 あれが無いと、あの女の子と楽しく遊ばなければならない!
 マズイ、これはとんでもなくマズイぞ!”






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霧の狐道265

2009-11-14 18:31:03 | E,霧の狐道
その姿は扉の陰に一瞬で消えた。
 車椅子はゴロゴロ進み、ナースステーションに到着した。
俺は井上さんから入院に関する書類を受け取り、軽く説明を受ける。

「 じゃ、これに必要事項を記入しておいてね!」
「 うん。」

相槌を打ち、受け取った書類を膝に乗せて、再び病室に出発だ。
井上さんに車椅子を押されて病室に戻る。
 病室に戻ると、山本爺はいつものようにベッドで布団を被っていた。
もう、果物を齧っている音は聞こえない。
布団も動かないので、起きているのか寝ているのかも分からない。
田中爺の方は、何処かに遊びに行ったようで姿は見えない。

「 よく書類を読んで書いてね!」
「 うん。」
「 じゃ、後で貰いに来るからね。」
「 うん。」

井上さんは、いそいそと出て行った。
でも、俺は山本爺が気になって生返事ばかりだ。
 俺には先程の山本爺の後姿が思い出される。

“ 俺の小物入れの前で何をしていたんだろ・・・?”




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霧の狐道264

2009-11-06 19:10:26 | E,霧の狐道

    お守り2



 今日も午前中、主治医の狸小路の診察を受けた。
俺は看護婦の井上さんに車椅子を押されてタヌキの所に行った。
鎖骨固定帯の調整と足の湿布が主な治療だ。
 治療をしながら、タヌキが言った。

「 昨日、夜に電話を掛けたんですけど、手術はダメだって言われました。
 でも、安心して下さい。
 必ず、説得して見せますよ。」
「 いや、説得も何も、手術はダメだって死んだお婆ちゃんの遺言で・・・。」
「 あれっ、お爺ちゃんじゃなかったのですか?」
「 いや、この前のは、母方のお爺ちゃんで、今度は父方のお婆ちゃんで
 すよ、ハハハ・・・。」

どうも、まだ、手術を諦めていないようだ。
机のスクリーンには、まだ俺のレントゲン写真がしぶとく貼ってあった。
 程なく治療が終わり、俺は井上さんに車椅子を押されて、4階の通路をナースステーションに向かって移動していた。
ナースステーションで入院当初の書類を貰うためだ。
途中、自分の病室の前を通過した。

「 あれっ・・・・。」

俺は、開いた扉越しに山本爺が俺のベッドの小物入れの前に立っているのを見た。

「 ん、何してんだろ・・・?」





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霧の狐道263

2009-10-27 22:10:33 | E,霧の狐道
 面会の終わった山本爺の小物入れの上には、大きな果物カゴが置いてあった。
俺は素直に、それがスゴイナァと思って言った。

「 う~ん、果物、いっぱいだ!!」

 山本爺はチラッと俺を見ると、布団から片足を下ろして体を支え、左手を伸ばして、果物カゴからリンゴを一つ取り出した。

“ あ、俺にくれるのかな・・・。
 そりゃ、当然だよな。
 この前、リンゴあげたもんな。
 あらっ!?”

甘かった。
 山本爺は取り出したリンゴ一つを持ったまま片足をベッドに戻し、再びゴソゴソと布団に入っていった。
そして、枕で上半身を支え、布団を頭から被ってリンゴを齧り始めた。

「 シャリシャリシャリ。」

斜めに盛り上がった布団の頂上辺りからリンゴを齧る音が聞こえて来る。

“ やっぱ、くれないな・・・。
 そうだよな、くれるわけ無いよな。”

俺は山本爺と大学生風の面会人との会話を思い出して考えた。

“ 山本爺って、大学の先生、かな?
 なんとか関数とか言ってたから、数学か・・・?
 あの訳の分からない性格は、数学者だったら、それで普通かも・・・。”

相変わらずシャリシャリと言う音が続いている。
 山本爺を眺めていても仕方ないので、俺はベッドまで戻った。
そして、ベッドの枕元にある小物入れの引出しを開けた。
由紀ちゃんのお守りを仕舞うためだ。

“ お守り、キチンと仕舞っておこう!
 これ、何処かで落としたりしたら大変だ。
 これがあるおかげで、昨日は無事だったんだから・・・・。”

俺は大事なお守りをベッドの小物入れに仕舞い込んだ。






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霧の狐道262

2009-10-18 18:59:24 | E,霧の狐道
 面会人は大学生風の男二人で、山本爺にノートを見せていた。
山本爺はベッドの布団から眼だけを出しながら、何かモゴモゴ言っている。
布団で口が隠れているから、山本爺の声はくぐもって聞き取れない。
 大学生風の男二人のうちの一人が山本爺に言った。

「 先生、この数式は、モジュラー関数を使って解けばいいんですか?」
「 モゴモゴモゴ・・・。」
「 えっ・・・・。」
「 モゴモゴモゴ・・・。」
「 あ、そうか・・・。」
「 モゴモゴ・・・。」
「 あ、そうなんですか、分かりました。」
「 モゴモゴモゴ・・・。」
「 ホントに、ありがとうございました。」
「 モゴモゴ・・・。」
「 助かりました。」
「 モゴモゴモゴモゴ・・・。」
「 はい、じゃ、帰ります。
 先生も早く良くなって下さい!」
「 モゴ・・・。」

 山本爺のモゴが終わると、大学生風の男二人は大きく礼をして帰って行った。
どうも、面会の終わりの方に戻って来たようだ。

“ もう少し早く帰って来たら、山本爺の素性が分かったのに・・・。”

俺は惜しいことをしたなと思った。







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霧の狐道261

2009-10-13 18:41:02 | E,霧の狐道
 俺は諦めて窓の正面を見る。
川の向こうの太い道には、多くの自動車が元気にせわしなく走っている。

“ あれと比べりゃ、駐車場の自動車は、しばしの休憩ってとこか・・・。
 そうだよな、この敷地の外は普通の生活があるんだよな。
  俺もどっちかと言うと休憩か・・・。
 それに・・・、ずっと休憩ってイヤだな。
 長いの困るよな。”

 俺の頭の中の引出しから、狸小路やお揚げ婆や女の子や訳の分からん黒いヤツが顔を出す。
引出しがパタンパタンと開いたり閉まったりしながら、順にこいつ等の顔がヒョコヒョコ出たり入ったりするのだ。

“ ううう、気が滅入る。
 取り敢えず、病室に戻ろう。”

 俺は窓から部屋へと車椅子の向きを変えた。
のどかな風景と裏腹に、俺の心は重く沈んでいた。




 俺は談話室から病室に戻った。
病室に一歩入って、俺は立ち止まった。

“ あれっ!?
 面会者がいる・・・。”

驚いたことに、病室には山本爺の面会人が二人もいたのだ。

“ 誰かな?
 山本爺の子供にしては若すぎるような・・・。”






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