大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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A,日々の出来事

☆( 1年間366日分の日々の出来事  )

B,日々の恐怖

☆( 日々の恐怖 )

C,奇妙小説

☆(  しづめばこ P574 )                          

日々の恐怖 7月30日 牛丼屋(3)

2019-07-30 11:47:27 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 7月30日 牛丼屋(3)




 後ろ姿だけだったが服装も同じだし、靴も履いてない、傘も持ってないから、すぐにさっきの婆さんだとわかった。
店の外で雨を凌ぐように、ボーっと店とは反対方向の道路を見て立っている。
 俺は、このままではまた店に入ってくる可能性もあるし、ボケていて住所も言えない老人を大雨の中に置いていった警察の態度にも腹が立ち、すぐに警察へ電話した。

「 さっき電話したS家~店の者ですけど、さっきの婆さんがまた店に戻って来てるんですけど・・・・・。」
「 わかりました。
10分くらいで警官の者が行くと思うので、少々お待ちください。」

“ ガチャ。”(電話を切る)

5分後、店の電話が鳴った。
 電話に出ると警官Bからだった。

「 さっきお伺いした者ですが、先ほどの婆さんなら、まだ住所がわからないので、今もパトカーに乗ってますよ? 」

” ふへぇえ?!”(急に怖くなって裏声になった)

「 そんなはずありません、ちょっと確認してくるので待っててください。」

俺はゾッとしながらカウンターへ行き、店の外を見るも誰もいない。
 信じられないので店外に出ても、大雨で歩いている人すらいない。
もう半泣き状態で、電話に戻って返事する。

「 いません、勘違いだったみたいです。」(震声)
「 気味悪い人だから、精神的に怖くなって幻を見ちゃったのかもね。
じゃあ、バイト頑張ってね。」

“ ガチャ。“(電話を切る)

もう怖くなって、一生懸命店内掃除して時間をやり過ごした。
 ちなみに深夜1時~警官との電話終わった深夜4:00くらいの3時間、誰も客来なかった。
さすがに台風でも、3時間来ないなんてことはないから、さっきの体験と重なって余計気味悪かった。







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しづめばこ 7月28日 P563

2019-07-28 15:08:43 | C,しづめばこ


 しづめばこ 7月28日 P563  、大峰正楓の小説書庫で再開しました。


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日々の恐怖 7月26日 牛丼屋(2)

2019-07-26 18:33:11 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 7月26日 牛丼屋(2)




 大雨なのに傘も持ってないし、よく見ると靴も履いてない。

「 いらっしゃいませー。」(婆さんの前に水を置く。)
「 ・・・・・・・。」(何も言わず席を立ち、持帰コーナーへ歩いていく。)

気味が悪いと思いつつ、俺も持帰コーナーのレジ前へ移動した。

「 いらっしゃいませ。ご注文は何にしますか?」
「 あなた、こんな若いのに何で戦争行ってないの?」
「 え・・?? 」
「 今は戦争で大変なんだから・・・・。」(ずーっと戦争の話をしてくる。)

 その後も、俺が何を言っても注文も言わないし、戦争の話を止めないため、ボケてると判断して警察に通報した。
警察が来る間も、俺が持帰コーナーにいないのに1人で戦争の話を続けている。
 10分くらいして、自転車で来た警官Aとパトカーで来た警官BとCが同時に入ってきた。
案の定、警察が話しかけても住所を言わないし何言ってるのかわからないので、警官Bが、

「 お婆ちゃん、ここは飲食店だから注文しないといちゃいけないんだよ。」

と説明して、少し強引にパトカーに乗せて帰っていった。
同時に警官Aも自転車で帰った。
 婆さんが消えて15分くらいした後に、カウンターの醤油交換をしようと思って、カウンターに出て、店の入り口の方を向くと、店のガラス越しに誰か立っている。








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日々の恐怖 7月25日 牛丼屋(1)

2019-07-25 09:36:46 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 7月25日 牛丼屋(1)




 俺が会社辞めて、転職活動中にやっていたバイトでの話です。
1年半位前に牛丼チェーンのS屋で深夜バイトしてたとき、 うちの店はかなり暇な店で、夜22:00~朝9:00まで1人でまわしていた。
 その日は大雨で、ただでさえ暇な店がより暇になっていた。
深夜1時に配送できた食材を冷蔵庫に移して、その後に厨房の掃除もやって時計を見ると深夜3時だった。
 この間の2時間でお客さん0人だ。

“ まぁ、雨降ってなくても1時間誰も来ない事はよくあるし、楽な日に入ってよかったな・・・。”

と思っていると、

“ テュルルルルルーン♪”(ファミリーマートと一緒)

入店音が鳴った。

“ チッ!2時間ぶりに客がきちまったか・・・・。”

と思って厨房からカウンターに行くと、カウンター席にずぶ濡れで貧乏臭い70歳くらいの婆さんが座っていた。







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日々の恐怖 7月22日 デイケア

2019-07-22 10:02:37 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 7月22日 デイケア




 施設までの通勤路に何軒か利用者さんのお宅があって、たまにデイケアのお迎えの時間を間違えて外で待っておられる時がある。
そういう時は熱中症とかの危険もあるので、一度室内に入り待って貰うよう促す。
 駄目なら一人暮らしとかの場合は、同伴出勤もありということになっていました。
田舎なので、農作業一段落したしデイケアに行くかって感覚なんだと思う。
 その日、Aさんが家の玄関前で、かばんやらデイケアに行くセットを持って立っていたので、

「 まだですよ~、待ってて下さいね。」

と言うと、

「 そっか、ほな後でな。」

と玄関に入って下さった。
 職場について確認事項見てたら、

「 Aさんが昨晩亡くなったって連絡が、家族さんから入った。」

とリーダーが報告する。

「 いやいや、私、さっき話したんですけどね・・・・。」

それで、

「 お葬式の準備とかで来た親戚じゃないか?」

ってことで一件落着されたけど、どうも納得がいかない。
 お迎えの時間になったから、他の方のお迎えに大きい車で運転手さんと二人で出たんだけれど、Aさんの家の前を通ると、Aさん玄関で待っている。
 運転手さんも、

「 亡くなったって、朝の申し送りで言ったよな・・・・?」

で、一応停車してみると本人さんが見当たらない。
 丁度、家族さんが出ていらして、

「 今まで、ありがとう。」

と言って下さり、外から手を合わせさせて頂いた。
 その後もしばらく玄関前で待っているAさんが目撃されてたけど、なんとなく薄くなっていって、いつの間にか消えていたから、ちゃんと彼岸へ行けたと信じている。
デイケアのお風呂が大好きだったAさん、今年もお盆にかえってきているのかな。









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日々の恐怖 7月20日 映画館(4)

2019-07-20 09:26:09 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 7月20日 映画館(4)




 そこでようやく、自分の身体が小刻みに震えて立ち上がれないんだと気付いた。

“ なんだったんだ、あれ・・・?”

幻覚かと疑ったが、青い顔をした若い女性が逃げるように出ていったから、たぶんアレを見たのは私だけではなかったんだろう。
私もフラフラになりながらも、天井を警戒しつつ映画館から逃げ出した。
 おばさんには悪いと思ったが、その日から数年は映画館には通えなかった。
あれだけ疎外感や不満を覚えていたのに、念願の非常口の幽霊の怪談話には加われなかった。
目が合っていた、という感覚が忘れられず、体験を語れなかったというのもある。
 その後も怪談話は続いていたが、都市部にできたシネコン式の映画館に客を奪われ、地元の映画館は潰れてしまった。
 最終日に顔を出したら、おばさんは私のことを覚えてくれていた。

「 久しぶりに来てくれたけど、ゴメンねえ・・・。」

と存続できないことを謝罪された。
 不純な動機で通い続けた挙げ句、勝手に足を止めたのは私だ。
謝らなければならないのは私の方だ。
 最後の上映作品は、おばさんが大好きなローマの休日だった。
身構えていたが、幽霊は出なかった。
 今は月極の駐車場になっている。
未だに大半が未契約のままなのは、車の中を覗き込む女という怪談のせいではないと思いたい。








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しづめばこ 7月17日 P562

2019-07-17 11:04:19 | C,しづめばこ


 しづめばこ 7月17日 P562  、大峰正楓の小説書庫で再開しました。


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日々の恐怖 7月15日 映画館(3)

2019-07-15 15:45:40 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 7月15日 映画館(3)




 スクリーンの光と非常灯の緑を頼りに非常口を凝視する。
誰かが立っていた。
 私は非常口と壁が作る隅に収まる調度品でございとばかりに、影深い隅に誰かが立っていた。
たぶん、そのときは背の高い女性だったと思う。
 驚いて視線をスクリーンへ移し、もう一度非常口を見たときは腰の曲がった老人のように見えた。
輪郭が不明瞭な影。
 一定ではない間隔で伸び縮みし、膨らみ萎み、見ようによっては男にも女にも見える、不確かな何か。
ただ、目は合っていたと不思議と確信している。
 その視線が外れたと感じた次の瞬間、それは人の形を辞めると、

“ クンッ!”

と天井まで伸びて影の中へと消えた。
 映画はクライマックスを迎えていた。
主人公が悪役をビルから突き落としたシーンの、悪役の悲鳴を聞いて我に返り、そこでようやく肺から呼吸の塊を吐き出せた気がした。
映画が終わって照明が増えても、なかなか立ち上がれなかった。






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日々の恐怖 7月13日 映画館(2)

2019-07-13 11:22:53 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 7月13日 映画館(2)




 なので日曜日になると、見れるものなら見てみたいと映画館に通い続けたのも無理もないと思う。
 すっかり顔馴染みになった受付のおばさんに、

「 今日も来たのかい。」

と、驚異のハイペースぶりを笑われたりしつつ、映画そっちのけで非常口を凝視するが、やはりというか何も出ない日々が続く。
 それを半年は続けていた。
言い換えれば半年で限界が来た。
 元々信じていないことや、小遣いにも限度があるので、段々とペースが落ちてきた、落とさざるを得なくなったのだ。

“ そろそろ、この馬鹿げた行動を辞めようか・・・。”

冷静になり始めると、おばさんの笑顔が脳裏にちらつき、不純な動機で映画館に通っていたことに罪悪感を覚えたのも、その頃からだった。
 だから本来の映画を見るという目的に立ち返ろうと、新しく公開された映画を見ようと足を運んだ。
もっとも、悲しいことに田舎なので都会より何ヵ月か遅れて最新映画はやって来るのだ。
 サスペンス映画だったと記憶している。
後半に入ってもなかなか面白くならなかったこともあって、何度目かの欠伸を噛み殺した時、非常口を示す緑色の光がチカチカと黒く遮られたのに気付いた。

“ 途中から入ってきた客かな?”

と思ったが、非常口というキーワードが引っ掛かった。






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日々の恐怖 7月11日 映画館(1)

2019-07-11 11:36:09 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 7月11日 映画館(1)




 今はもう潰れてしまい月極の駐車場になってしまっているが、地元には単館系の昔ながらの映画館があった。
これはそこで噂され、そして私自身もそれらしきものを目撃した中学生の時の話である。
 要は、

上映中、スクリーン近くにある非常口に幽霊が出る。

という全体的にぼんやりとした幽霊話である。
 ぼんやり加減は相当なもので、幽霊の性別はもちろん身長や体型も語る人間によってバラバラだった。
それは、

・喪服を着た初老の女性がこっちを見ている。
・双子の男の子が恨めしそうに睨み付けてくる。
・やたら髪の長い太めの女性だった。
・背の高いリーゼントの老人男性だった。
・坊主頭のガリガリな少女が何か呟いている。

といった具合だ。
 その映画館には子供の頃から通っていたけれど、そんなものは見たことがなかったので私は全く信じていなかったのだが、他の人が幽霊話で盛り上っているのに自分だけ見ていないという事に何となく疎外感を感じ、不満にも思っていたのも確かだった。










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しづめばこ 7月10日 P561 

2019-07-10 18:08:50 | C,しづめばこ


 しづめばこ 7月10日 P561  、大峰正楓の小説書庫で再開しました。


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日々の恐怖 7月9日 借家(3)

2019-07-09 09:00:00 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 7月9日 借家(3)




 家に残された遺書には、病を得て最期は故郷でと戻って来たが、周りの人間が先に次々死んでしまう、まるで自分が疫病神のようで本当に申し訳なかった、とたくさんの涙の跡とともに綴られていたという。

「 もう、十年以上前の話です。
この家はずっと放置していたのですが、去年リフォームして借家にしたんですよ。
この家で何かがあったわけではないですし、時間も経っているから何もないと思ったんですが・・・・・。」

大家は申し訳なさそうにそう言った。

「 その男というのは、実は私の叔父なんですよ。
男を世話していた兄が、私の父です。
 父は頑固でしたから、叔父に優しい言葉をかけてやることはありませんでしたが、最期まで気にかけていました。
 父の方が先に亡くなりましたから、まだ叔父が亡くなったことを知らないのでしょう。
あなたがあの家に住み始めたので、叔父が帰って来たと勘違いして、食事を運んでいるのかも・・・・。
申し訳ありません。」

頭を下げた大家に友人は恐縮した。
 にわかには信じがたい話ではあったが、大家には非のない話であった。

「 遺書にはね、“にいちゃんの、少し塩辛い筍の煮物がもう一度食べたい”って結ばれてましたよ。」

寂しそうに言う大家につられ、友人も鼻の奥がツンとしたという。

「 まぁ、大家さんには悪いが、すぐにその家は引っ越したよ。」

友人のその言葉に、思わず私は脱力した。

「 引っ越したのか。」
「 引っ越した。
いい話ではあったがな、よく考えてみろ。
大家のお父上が置いているという食事は、誰が回収してるんだ?
そしてそいつは、どこに住んでるんだ?
それを考えると、とてもじゃないがあの家にはいられなかったよ。」

友人が身震いするのにあわせ、私も二の腕が粟立つのを感じたのだった。












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日々の恐怖 7月7日 借家(2)

2019-07-07 09:00:00 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 7月7日 借家(2)




 経緯を話すと、大家は顔を曇らせた。

「 お貸ししているあの家は、もともと僕の祖父母が建てた家で、いわくもないですし、事故物件でもありません。
あの家で何かがあったということはない。
ただ・・・・・・。」
「 ただ・・・?」
「 以前住んでいたのが、少し変わった人物でして・・・・。
あなたの話を聞くと、それが関係あるのかもしれません。」

 大家によると、友人の前に住んでいたのはいわゆるロクデナシの男だったらしい。
若い頃から定職につかず遊び歩き、しばらく姿をくらましたと思えば、還暦間近になって両親の年金をあてに帰って来るような男だった。
 そんな息子でも両親は切り捨てられず、少ない年金で彼を養っていたという。
やがて両親が相次いで亡くなると、男は家に引きこもるようになった。
 男のすぐ近くには、彼の年の離れた兄が住んでいた。
両親が生きている間は援助を惜しまなかった兄だが、何を言っても改心しない弟に堪忍袋の緒が切れたようで、両親の死後は一切の援助を打ち切ると啖呵を切った。
 しかし、実の弟を簡単に捨て去ることは難しかったようで、こっそり自分で作った食事を男の家のブロック塀に置いていたそうだ。
 その兄も、両親の死後一年もしないうちに亡くなった。
もともと癌で闘病中だったそうだ。
兄の四十九日が終わった翌日、男が家から少し離れた林の中で自ら命を絶っているのが見つかった。









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日々の恐怖 7月5日 借家(1)

2019-07-05 09:00:00 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 7月5日 借家(1)




 彼は転勤族で、若い頃からあちこちを転々としていた。
とある田舎町に転勤になった際、せっかくだから田舎暮らしを満喫しようと、会社の用意したアパートを断って築七十年近い小さな借家を自分で探し、そこに住むことにしたという。
外観は古かったが中はリフォームされており、一人で住むには申し分なかった。
 しかし、二、三ヶ月も経つ頃になると、奇妙なことが起こり始めた。
借家には小さな庭が付いており、庭と道路はブロック塀で仕切られていた。
そのブロック塀の上に、時折タッパーや弁当箱に入った食事が置かれていることがあるという。
 中身は、筍や大根の煮物、炊き込みご飯、ご飯とおかずセットなど様々だったが、いかにも田舎のおばあちゃんが作った料理、といった感じだった。
それらは、朝出勤の際にブロック塀に置かれており、帰宅する頃にはなくなっているという。
 最初は近所の人の忘れ物かと気に留めなかったが、月に一回だったそれが二回になり、やがて週に一回のペースになると、さすがに不審に思うようになった。
 いくら何でもこれは忘れ物ではあるまい。
誰かが親切で自分にくれようとしているのかとも思ったが、それなら休日や夜に訪ねてくれれば良い話だ。
 外に置き去りにされたものは、食べる気にはならない。
そもそも、食事がどこに消えているのかも不明だった。
カラスや猫が荒らしても困る。
 彼は大家に相談することにした。
大家は近所に住む中年の男性で、愛想の良い人物だった。









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日々の恐怖 7月3日 チャルメラ(3)

2019-07-03 11:51:54 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 7月3日 チャルメラ(3)




 すると夫は、

「 そんなはずないんだけど・・・・?」

と首を傾げた。

「 だってあのラーメン屋、俺が高校入った年に、事故してやめたはずだよ。
山の方に稼ぎに行って、帰りにカーブ曲がりきれずに谷に落ちたんだ、たしか。
おっちゃんは即死、車は廃車。」
「 え~!?」

しかし、話せば話すほど二人が見たラーメン屋台の特徴は一致しており、違うラーメン屋だったとは思えない。
 そこで彼女は、彼女の母親に確認の電話を入れた。
ラーメンを食べたことこそなかったが、何度もおねだりしたし、母親もあの哀愁漂うチャルメラを当然聞いているはずだった。
 ところが、

「 ラーメン屋台・・・・?
そんなの見たことないわよ。」

と、またもや一蹴された。

「 子供の頃のあのアパートに、時々来てたじゃん!
何度か私、食べたいって言ったでしょ?」
「 夜にラーメン食べたいなんてとんでもない、って断ったことは覚えてるけど?
生協の車と間違えたんじゃないの?」
「 生協はチャルメラ鳴らさないでしょ!」

埒があかないと夫婦揃ってお互いの友人に確認したが、夫側は、

「 あのトラックは事故ってやめた。」

彼女側は、

「 ラーメン屋台なんて見たことない。」

とそれぞれ口を揃えた。
 結局、何も分からなかったそうだ。

「 でもね、旦那に言われました。
そんな得体の知れないラーメン屋台で食べなくてよかったなって。
たしかにそうかなって思ったんですけど・・・・・。」
「 けど・・・・?」

彼女は、プクッと左頬だけ膨らませ、鼻息荒く言った。

「 だってね、

『 俺は本物食べたけどな、うまかったよ。』

ですって!
いい歳して、大人気ないと思いません?」

私は愛想笑いを返しながら、内心、

“ ごちそうさま・・・・。”

と呟いた。










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