大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 1月29日 昔の友達(2)

2022-01-29 19:11:30 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 1月29日 昔の友達(2)





 一度それに抗議したことがあった。
それに対し彼は、

「 僕は君のことが大好きだからね。」

と、よくわからない理由を述べた。
 彼お得意の皮肉かとも思ったが、皮肉を言う時はいつもはね上がる右眉は動かないままだったという。
何か理由があることを察し、それ以降は家に入れてとねだることはやめたそうだ。
 しかし、そんな彼との楽しい時間は、二年たらずで終わってしまった。
親の転勤という子供にはどうにもならない理由で、彼ら一家は再び引っ越すことになったのだ。

「 絶対また会おうな。」

最後の別れの日、知人は手作りのプレゼントを渡しながら彼に言った。

「 会っても、もう君はわからないと思うけどね。」

彼はいつものように皮肉を言ったが、それは寂しさをごまかすためのものだったのだろう。
新しい引っ越し先に何度か手紙を書いたが、返事が返ってきたことはないという。
 やがて大人になった知人は、故郷を遠く離れて仕事につき、家庭を持った。
ある日、近所のショッピングモールに家族で買い物に行った時のことだ。
妻と子供の買い物を待っていた知人は、一人の美少年に目を止めた。
彼は、あの子供の頃の親友にそっくりだったのだ。
 思わず、少年に気がつかれないようにそっと近づいた。
近くから見るとますます似ている。
堪えきれずに声をかけた。

「 いきなりごめんね。
もしかして、きみのお父さんは、〇〇っていう名前じゃないかな?」

知人は、目の前の少年がかつての親友の息子か、もしくは親戚なのではないかと思ったのだ。










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日々の恐怖 1月25日 昔の友達(1)

2022-01-25 18:16:45 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 1月25日 昔の友達(1)





 知人が小学校三年生の頃、隣の家にとある家族が引っ越して来たという。
両親と兄妹という家族構成だったが、皆テレビドラマから抜け出て来たような美形揃いだった。
そのため、やって来た当初は隣近所から遠巻きに見られ、知人も子供ながらに最初は近づき難い雰囲気を感じたという。
 しかし、その家族は外見こそ浮世離れしていたが、中身はごく普通の中流家庭だった。
むしろ愛想はいい方で、夫婦揃ってよく地区の清掃活動や子供の学校行事に参加していたので、やがてすぐに近所に溶け込んだという。
 兄の方は知人と同級生だったため、こちらもすぐに仲良くなった。
彼は女の子と見まごう可愛らしい顔立ちだったが、中身は腕白で、不思議なほど知人と馬があったという。
 腕白な反面、妙に大人っぽい口調で皮肉を言うこともあり、そんな時にはいつも右の眉をピクリと上げた。
その仕草に知人は憧れたのだそうだ。
 彼の妹はまた負けず劣らずの美少女で、お人形のようなという形容句がよく似合った。
兄に似てお転婆で、よく三人で日が暮れるまで遊んだそうだ。
 知人にとって彼は親友とも呼べる存在だったが、一つだけ不満があった。
それは、決して彼の家に入れてはくれないことだった。
庭で一緒に遊ぶことはあっても、玄関の内側には入ったことがなかったそうだ。
 彼の両親は愛想よく、

「 中で遊びなさいよ。」

と、しょっちゅう声をかけてくれたそうだが、その度に彼が、

「 僕たちは外で遊ぶよ。」

とか、

「 もう帰らなきゃいけないんだって。」

とその誘いを遮ったのだそうだ。










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日々の恐怖 1月22日 山の神様(2)

2022-01-22 11:19:47 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 1月22日 山の神様(2)





 彼は、

” そうか・・、俺はもうだめなのか・・・。”

と絶望状態になった。
 すると、直後に彼女が再び現れた。
手には、あちこちが欠けた湯呑みを持っている。
 それを、彼の方にグッと押しやった。

” 飲めということか・・・・。”

彼が湯飲みを受け取ると、薄闇の中でも、それが薄黄色の透明な液体だということがわかった。
 独特の香りがする。
なんだかよくわからない者からもらったなんだかよくわからない物だが、喉がカラカラだった彼にはありがたかった。
色も匂いも全く気にならず、一気に流し込んだという。
 まさに甘露ともいうべき味が、喉を伝い落ちていった。
礼を言おうと顔を上げると、そこにはもう少女の姿はなく、持っていたはずの湯飲みも、いつの間にか消えていた。
 不思議なことに、しばらくすると体力が回復してくるのがわかった。
足の痛みも和らぎ、これなら下山できそうだと、彼は慌てて立ち上がった。
そして様々な疑問はさておき、山を降りたのだという。
 次の日、足の痛みのため病院に行くと、脛にヒビが入っていた。
医者から、こんな状態でよく歩けたなと呆れられたそうだ。

「 あの時の怪我の回復は、俺の中での最短記録だよ。
きっと、山の神様が助けてくれたんだろうな。」

彼は笑ってそう言った。
 不思議な話に訊きたいことは多々あったが、私が一番気になったのは、少女が彼に渡したという飲み物についてだ。
色と香りの話を聞くと、

” まるでそれは・・・・・。”

と、思い当たるものがあったのだ。
 私の考えていることがわかったのだろう、彼はみなまで言うなと苦笑した。
しかし、

「 いやでもあの時、団子を出されたんじゃなくて、本当に良かった。
あの状況じゃ、きっと食っちまってただろうからな。」

と、自分から言って、また笑った。










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日々の恐怖 1月18日 山の神様(1)

2022-01-18 09:26:50 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 1月18日 山の神様(1)





 彼は若い時から登山が趣味で、日本各地の山々を標高の高低に関わらずあちこち登り歩いていた。
当然いくども危ない目にはあったらしいが、その中でも、

「 これはとびきりだ!」

と彼は少しだけもったいぶった。
 とある、北のほうの山に登った時のことだ。
険しい山ではなかったので、日帰りのつもりで大した装備はしていなかった。
しかし舐めていたつもりはなかったのだが、下山途中で足を滑らせて痛めてしまい、動けなくなったという。
 あたりは夕方の気配が立ち始め、気温もどんどん下がっていく。
足の痛みはいや増し、座っているだけでも体力は削られていった。
 あたりが薄闇に覆われる頃、何かが彼の元に近づくような、枯葉を踏む足音が聞こえて来た。

” この上に野生動物か・・・・・。”

彼は近づいてくる何かを刺激しないよう、目を瞑り息を潜めた。
 足音は彼の目の前で止まった。
舐め回すような視線を感じる。
しかし不思議なことに、獣の吐息も匂いも感じなかった。
 恐る恐る目を開けて、彼は仰天した。
目の前にいたのは、十にも満たないような少女だったのだ。
おかっぱに赤い着物という、時代と場所にそぐわない格好ではあったが、それは明らかに人間に見えた。
 声も出ない彼を無視し、彼女はジロジロと無遠慮に彼を検分していた。
そしてしばらくすると、ため息をついて首を横に振った。

「 こいつはだめだ・・・。」

そう言うと彼女は、薄闇に溶けていった。









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日々の恐怖 1月14日 ねこ(2)

2022-01-14 19:47:06 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 1月14日 ねこ(2)





 見えないねこは息子に誘導され、軒の下に古いクッションを敷いてもらい、そこを居場所にしたようだった。

「 ねこちゃん嬉しいって! お母さんありがとう。」

満面の笑みの息子に、家の中には入れないことを約束させたという。

「 まぁ、イマジナリーフレンドとか言いますしね・・・・。」

小さな男の子の可愛らしい様子にほのぼのしながら、私は言った。

「 そのねこちゃんがおうちに来てから、何か変わったことは?」
「 それがあるんですよ」

私の問いに、彼女は身を乗り出すように言った。

「 お恥ずかしいんですけど、うちは古い家で昔からよくネズミが出るんです。
色々対策してもなかなか駆除できなかったんですけど、息子が猫を連れて来た途端、ネズミが姿を見せなくなって。」
「 それはそれは。」
「 こんなことなら、もっと早く来て貰えばよかった、なんて。
葉っぱとネズミだけじゃ、と思って、時々鰹節なんかもあげるんですけど、すぐにお皿は空っぽになってます。
まぁ、全部他の猫の仕業かもしれませんけどね。」

 その時、ふと足元を何かが通り過ぎた気がした。
体を擦り付けながら歩く、猫特有の歩き方。
しかし、足元を見ても何もいない。

「 もしかして、ねこはお家に上がって来ます?」
「 あら、ごめんなさい。
息子がこっそり何度か上げたら、玄関を自分で開けて入ってくるようになったみたいで。
私は全然わからないんですけど、お客様に時々ちょっかいをかけるみたいなんです。
大丈夫ですか?」
「 ええ、ねこは好きですから。」
「 ならよかった。」

知人の言葉に被さり、間延びした猫の鳴き声が聞こえた気がした。










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日々の恐怖 1月12日 ねこ(1)

2022-01-12 20:00:08 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 1月12日 ねこ(1)





 彼女のもうすぐ五歳になる息子は、ようやく喋れるようになった二歳前くらいから、自宅の前の側溝に、

「 ねこちゃん・・・。」

と話しかけていたそうだ。
 しかし、母親である知人には何も見えない。

「 ねこちゃん、何してるの?」
「 抱っこしてあげようか?」
「 葉っぱのご飯あげるね、どうぞ・・・。」

 何もないところに甲斐甲斐しくそう話しかける息子に、知人は初めは驚いていたものの、やがて気にしなくなった。
子供によくあるごっこ遊びだと思ったのだ。
 ねこちゃんとやらにかけている優しげな言葉も、全て周囲の大人が息子に普段かけているのと同じだった。
成長すればじきおさまるだろう、それくらいに考えていた。
 しかし、少し気になることもあった。
息子がねこと遊ぶ側溝は道路に面していて、車通りは少ないとはいえやはり少々危ないのだ。
小さいうちは、息子は知人と手をつないだ状態で猫に話しかけていたが、大きくなると自分であちこち行きたがり、おっかなびっくり側溝に降りようとしたり、不安定な格好で雑草を取ろうとする。
そんな時にたまたま車が通ったりすると、こちらも怖いし運転手も驚くだろう。
 ねこと遊ぶのをやめるように言っても、息子は、

「 ダメ! まだご飯食べてないんだもん。」

などと言って聞かない。
 そこで彼女はついに言った。

「 じゃあもう、そのねこちゃんうちに連れてきなさい。
お庭で遊んだりご飯あげたりするんなら、危なくないんだから。」
すると、息子の顔が、

「 いいの?!」

とパッと輝いた。

「 ねこちゃん、前におうちに来たいって言ってたんだ。」

その言葉に、一瞬、

” しまったかな・・・・?”

と思ったが、もう遅い。










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日々の恐怖 1月9日 追憶(2)

2022-01-09 17:57:07 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 1月9日 追憶(2)





 彼女はそこで、頼れる大人は先生だと思いついた。
先生ならきっと園舎の中にいるはずだ。
そう思い、後ろを振り返った。

「 あれ?」

彼女の目の前の園庭には見知った顔の子供たちが遊び、その向こうにはやや色褪せた園舎があった。
 辺りを見回してもフェンスはなく、声をかけてくれた女性の姿もなかった。
なにもかも見知った、いつもの幼稚園がそこにはあった。

「 へんなの・・・・?」

彼女は首を傾げたが、そろそろバスの時間だと自分を呼ぶ友達の声に大声で返事をし、走ってその場を後にした。


「 実はこの前、この話の続きかな、と思えることを体験したんです。」

知人の彼女がそう言ったので、私は身を乗り出した。

「 続きですか?」
「 続きというか、何というか・・・・。
もしかしたら、ただの勘違いかもしれませんけど・・・・。」

彼女はそう前置きをした語った。

「 この前、娘の入園手続きの書類をもらうために、その幼稚園に行ったんです。
自分が通った幼稚園がまだ残っているなんて、懐かしくて嬉しくて。
てっきり古くなってると思っていたんですけど、建物はそのままでも、塗装し直して昔よりずっと綺麗になってました。
園庭は思っていたよりずっと小さくて、子供たちが遊んでいる遊具は知らないものの方が多かったです。
でも、あのナツメの木はまだありました。
懐かしくて、つい声に出してしまったんです。」
「 もしかして、木の下には・・・。」
「 はい、女の子がいました。
泣きそうな顔で、ここはどこかと聞かれて、びっくりしました。
でも、ちょっと目を離したすきに、その子は消えてしまっていたんです。
子供の頃の不思議な記憶のことは、家に帰ってから、

” あれっ・・・?”

って、思い出したんですけど・・・・。」

彼女はそこで苦笑した。
きっと私と同じことを考えているのだろう。

「 でも、あんまりできすぎてますよねぇ・・・・・。
きっと、偶然なんでしょうけどね・・・?」

そう言って、彼女は頬に手を当て小首を傾げてまた笑った。










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日々の恐怖 1月6日 追憶(1)

2022-01-06 15:50:24 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 1月6日 追憶(1)





 彼女には、不思議な記憶があるという。
それは幼稚園の頃のことだ。
 彼女が通っていた幼稚園には、園庭の隅に大きなナツメの木があった。
毎年夏になるとたくさんの実をつけ、先生に取ってもらうのが楽しみだったという。
 ある冬の日、帰りのバスに乗るまでの三十分の自由時間に、彼女はそのナツメの木を見上げていた。
ナツメの木は、落ちた葉に代わり梢にスズメの群れを休ませ、その賑やかなさえずりでまるで楽器のようだった。

「 あら、懐かしい。
この木まだあったのね・・・・・。」

ふと聞こえてきたそんな声に、彼女は見上げていた視線を戻し、そして違和感に首を傾げながら辺りを見回した。
 そこは確かに彼女の通う幼稚園なのだが、所々が違う部分があった。
園舎の色がいつもより鮮明だった。
遊具も知らないものがある。
木登りをして遊ぶ桜の木が、なんだかいつもより大きい気がする。
ナツメの木の向こうで園庭の周りをぐるりと囲っているフェンスは、さっきまではなかったはずだ。
 そして何より、つい今しがたまで園庭で騒がしくバスを待っていた友達が、誰もいなかった。
いや、園庭ではたくさんの子供達が遊んでいるのだが、その中に見知った顔を見つけることはできなかったのだ。
 突然のことにうろたえ泣きそうになっていると、先ほどの独り言の主と思しき女性が、

「 どうしたの?」

と声をかけてくれた。
彼女の母親と同じか少し若いくらいで、フェンスの外側の道路から彼女を見つめていた。

「 ここ、どこ?」
「 え、あなたの幼稚園じゃないの?」
「 そうなんだけど、違うもん。」

女性は困ったように頬に手を当て、小首を傾げた。









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日々の恐怖 1月4日 コーヒーの缶

2022-01-04 10:17:58 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 1月4日 コーヒーの缶





 そこは、戦後すぐに建てられたという古い精神科病院だった。
その一階にある売店に、先代院長の妻の幽霊が出るのだという。
 先代院長の妻という人は、生前から意識が高いのか意地が悪いのか、判断に困る人だったらしい。
その売店は休憩の職員も利用していたのだが、そこにわざとみすぼらしい格好をして行く。
そして、職員が人を見かけで判断せず、患者もしくはその家族に対して適切な対応をしているかどうかを、こっそり視察していたそうだ。
とある職員などは、院長の妻と気づかず、

「 汚ねぇババアだな・・・。」

と小声で悪態をつき、レジの順番を割り込んでいったらしい。
 そういった、差別的で無礼な職員に対しては、有無を言わさず減給や降格の処分が下されていたという。
注意勧告程度ならともかく、制裁を加えてしまうとは職権乱用に他ならないのだが、処分された職員の方も、人を見かけで判断した上に職員としてあるまじき言動をしてしまった自覚と後ろめたさがあるため、おおっぴらに抗議をしたところで言いくるめられてしまっていたそうだ。
そういう時代だったともいえる。
 しかしその真意はどうであれ、院長の妻は職員の質向上には、一役買っていたといえるかもしれない。
そして彼女は、死して十数年がたった今でも、その視察を時々行なっているらしい。
 数年に一度、理由のよくわからない降格人事があると、長く勤めた職員たちは、

「 まだ出るのか・・・・・。」

と顔を見合わせるのだそうだ。

「 その幽霊って、いつも決まった格好じゃないの?」

私は思わず、話をしてくれた元看護主任に尋ねた。

「 それが違うみたいなのよねぇ。
みんな、どれが幽霊だったかわかんないって言うの。
ほら、精神科って、変わった外見の人が多いじゃない?
確かなのは、売店の客を邪険にした記憶だけ。
そしてある日突然、降格人事が下るのよ。」

彼女は手にしたコーヒーの缶を玩びながらため息をついた。

「 私たちが悪いってことなのかしらねぇ・・・・。
でも、死んでまで、意地の悪いば~さんだと思うわ。」

彼女の名札には、なんの役職も記されていなかった。
その理由は、尋ねないでおこうと思った。









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