なんじゃもんじゃ物語 2-5 海賊
なんじゃもんじゃ物語 74
なんじゃ王子とエレーヌ姫が岩の上に座っている頃、沖から島に向かって一隻の海賊船が走っておりました。
舳先で、海賊のお頭ブラックが、大声で命令しました。
「 それでは、海賊のテーマソングを行くぞ。
いち、にいの、さん!
ひとつ出たほいのよさほいのほい、人の物品取る時は、覆面結んでせにゃならぬ!
ふたつ出たほいのよさほいのほい、二人一度にやるときにゃ、糞で目潰しすればよい!
みっつ出たほいのよさほいのほい、ん、おい、船の速力が落ちたぞ、どうした?」
「 お頭ぁ、燃料のウランが、あと少ししかありません。
出力が落ちてきましたぁ。」
「 それはいかん。
とにかく、この船は,ヤマタイ国に向かっておる。
ヤマタイ国には、ウランがある。
それを奪うんだ、急げ!!」
「 おーっ!!」
海賊船は、コバルト色の海を白い波をけたてて、滑るようにヤマタイ国ならぬ、もんじゃ島に進んで行きました。
「 お頭ぁ、島が見えますぅ!」
マストの見張りが大声を張り上げました。
お頭ブラックは、黙って望遠鏡で島を見ていました。
“ おかしいな、フジヤーマが見えんぞ?
ゲーシャも見えんぞ?
おかしい?”
なんじゃもんじゃ物語 75
海賊船は、どんどんもんじゃ島に近付いていきました。
「 おっ、岩の上に人影が見える。
男と女だぞ。
女は可愛らしいぞ。
男は、ボケた顔をしてるぞ。
だんだん、大きくなってきたぞ。
うわっ、大きな眼。
おっとっと、ドチン。」
「 お頭、島にぶつかりました。
お頭、お頭、返事をして下さい。
お頭~、あっ、お頭、そんな所で寝ている場合ではありません。」
哀れお頭ブラックは、船が島にぶつかった反動で岩の上に真っ逆さまに落ちて気絶していました。
「 お頭、しっかりしてください。」
頭に毛の無い男がゆすり起こしました。
「 う、い、はっ、島に着いたな。」
お頭ブラックは、周りをぐるっと見まわしました。
そして、岩の上でキョトンとこちらを見ているなんじゃ王子とエレーヌ姫を発見しました。
「 おい、お前達、ここはヤマタイ国だろう。
原子力発電所へ案内しろ。」
お頭ブラックは、恐ろしい顔にさらに凄みを利かせ低い声で脅しました。
なんじゃもんじゃ物語 76
なんじゃ王国も、もんじゃ王国も、いや、今はもんじゃ王国が全島を統一したのですが、もともと平和な島国だったので海賊は何処にもいませんでした。また、世界地図にも載っていない国でしたので、今まで、島の外から海賊がやってきた事もありませんでした。
だから、あの偉大ななんじゃ大辞典にも、海賊の項は省いてあったのです。
そして、今でこそ少しはボケていますが、一応なんじゃ大辞典に精通して博学のなんじゃ王子や、エレーヌ姫も彼らがいかなる人間か知る由もありませんでした。
ドクロのマークを旗につけた船が近付いてきても、ただ、ポケッと見ているだけだったのです。
無知ほど強いものはありません。
でも、今こんな状況になってしまったので、彼らが恐ろしそうな人間であることだけは、理解出来ました。
なんじゃ王子は、エレーヌ姫に自分が怖がっていない事を見せるために懸命に答えました。
「 原子力発電所なんて無いよ。
第一、 ここは、ヤマタイ国じゃ無いよ。
ここは、もんじゃ島だよ。
ヤマタイ国なら、ここからずっと北の方に行った所だって漁師ポチから聞いたけど。」
「 なんとおっしゃる、お前さん。
ここが、ヤマタイ国じゃ無いってか………。
そう言えば、そうかな。
フジヤーマが、見えんからな。
うーん、暑すぎる。
ヤマタイ国は、今、冬の筈だ。
誰だ、こっちなんて言った奴は!」
「 それは、お頭です。」
「 うっ、あっ、そうか。
天才も稀には間違う、ガハハハハハハ。
いや、笑っている場合ではない。
こうしている間にもウランは、減っているのだ。
ここには、原子力発電所は無いと言っていたな。
それでは、早速、ヤマタイ国に行かなければ。」
「 お頭、あいつらどうしやす?」
「 俺がふんづかまえる!!」
なんじゃもんじゃ物語 77
二人は、とっさに逃げました。
しかし、なんじゃ王子は、逃げ足が遅く、エレーヌ姫は彼の手を引っ張って何とかこの場を逃れようとしましたが、岡に上がった海賊のお頭ブラックはカッパどころか、あの懐かしいエチオピアのアベベの如く軽やかにかつより早くより強くだんだんと差を縮めて行ったのです。
もはや、なんじゃ王子は観念しました。
引っ張ってくれるエレーヌ姫の手を振り解き、振り返った彼女に逃げろと叫びました。
エレーヌ姫は少しためらいましたが、分かったらしく心配そうな顔をしながらも頷いて熱帯樹の繁みの中に消えて行きました。
もう、その時には、海賊ブラックは、なんじゃ王子の襟首を取っ捕まえていました。
「 ガハハハハハ。
捕まえたぞ、この小僧。
女は逃げられてしまったな、残念。
可愛かったのに仕方が無い。
この小僧、こき使ってやる、逃げやがって。
あっと、こうしている間にも燃料が減って行く。
おい、小僧来るんだ!
丁度、雑役夫がいなくて困っていた所だ。」
なんじゃ王子は、ババタレ猫のように襟首を掴まれ海賊ブラックに連れて行かれました。
「 おーい、出港だあ!!」
海賊ブラックの声と同時に、重い響きをたててエンジンが動き出しました。
原子力海賊船は、ゆっくりゆっくり岩から離れました。
そして、向きを変え、次第に速力をあげ、白い波をけたてて沖に出て、小さく小さくなって、やがて水平線の彼方へと消えて行ったのです。
エレーヌ姫は、海賊ブラックに分からないように、海岸のビロウの影から、じっとその去って行く様子を見ていました。
青い海と青い空は水平線を折り目にして接していました。
ヤドカリは海賊が去った海岸を何事も無かったかの様にガサゴソ歩いていました。
白い波は繰り返し海岸に打ち寄せていました。
エレーヌ姫は、海岸に立ち、海の彼方を見ていました。
そして、一筋の涙が頬を流れて行くのを感じました。
なんじゃもんじゃ物語 78
次の日、チカーメ大臣の戴冠式が全島あげて行われました。
チカーメ女王の誕生です。
なんじゃ王国に代々仕えていた人々は、表面では祝っているかのように見せ掛けておりましたが、何時かきっと、なんじゃ王国を再興させようと機会を窺っていました。
今は、タコ焼き屋の二階に居候しているホイ大臣は、世間の目を欺くため放蕩生活を送っていました。
今日も、ホイ大臣は、趣味と実益を兼ねて茶屋に来ておりました。
「 鬼さん、こちら。」
「 ホイさん、こっちよ、キャー、ハハハハハハハ。」
「 よーし、捕まえてやるぞ。
捕まえたら、わしのものになれ、分かったな、歌奴に熊奴。
ホーラ、ホラ、ホラ。」
「 キャー。」
テケテン、ベンベン、テケテン、ベンベン。
太鼓や三味線の音も華やかに、障子に映るホイ大臣や女達の影や楽しそうな嬌声を路地から聞いていたもんじゃ軍の五人は、ホイ大臣に反乱の意志が無い事を感じその旨をチカーメ女王に報告したのでした。
チカーメ女王は呟きました。
「 元なんじゃ国民は、反乱なんかしそうも無いわね。
なんじゃ王子は、なんじゃ城に閉じ込めてあると報告を聞いているし、それに、頭が弱いから反乱を起こす力は無いわ。
ホイ大臣もフニャフニャの様だし………。
これで、チカーメ王国が出来上がったわ、ふふふ。」
チカーメ女王は、状況に満足し、ふがい無いなんじゃ王国を嘲笑したのは言うまでもない事でした。
なんじゃもんじゃ物語 79
海賊船は、青い海の上を滑るように走っていました。
「 ねえ、コックのおじさん、この船には何人の人が乗っているの?」
なんじゃ王子は涙をポロポロ流して、料理を作っているコックに聞きました。
別に痛い目にあわせられたのではありません。
今晩の料理、カレーに入れる玉ねぎを剥いていたのです。
グツグツといい臭いを辺り一面に撒き散らしているカレーをかき混ぜながら、中国人風のコックが答えました。
「 そうあるね、あなたを寄せて7人あるよ。」
「 どんな人?」
「 そうね、まずポクの名はね、チンギスチン。」
「 えっ、ジンギスカンに似てるよ。」
「 そうよ、ポクはジンギスカンの子孫あるよ。
マストの上で見張りをしているのが、ノゾーキ。
何でも一時はニューヨークの覗き魔と言われたほどの奴あるね。
視力8.3よ、凄いあるね。
それから、研究員のエッチソン。
これ、エジソンの末裔あるよ。
今、彼は女性用の携帯トイレを研究してるあるね。
医者のべンケー、この人は、よく分からんあるね。
昔、アメリカで流行ったべンケーシーと言う医者の映画から名前をとったとか言ってたけど。
次に聞いた時は、牛若丸と弁慶のベンケイの子孫だとか、聞くごとに言ってる事が変わるんだから。
でも、医者の腕は確かね、みんな助かってるよ。
それに、呪術も使えるからね、凄いよ。
機関士のたまちゃん、本名は言わないあるよ。
これ、ヤマタイ国人よ。
エンジニアの腕前は一級品あるよ。
武術の達人あるよ。
そして、お頭のブラック。
大海賊ブラック・バートの子孫あるよ。
これで、みんなよ。」
「 ふーん、この船はエッチソンが作ったの?」
「 そうある、そうある、彼、頭良いあるよ。」
なんじゃもんじゃ物語 80
「 でぇーきたっとぉ。」
なんじゃ王子は、玉ねぎをみんな剥き終り、涙を拭きながら台所から飛び出しました。
なんじゃ王子は、輝く太陽の光の中でデッキに立って青い空を見上げました。
「 こらっ、坊主、こっちに来い!」
上の方からお頭ブラックの声が聞こえます。
なんじゃ王子が、振り返ると操舵室の窓から、お頭ブラックが首を出して呼んでいました。
なんじゃ王子は、この船に乗り込んでから実際ろくな事を命令されません。
一日目から、便所掃除、甲板洗い、船室の掃除はもちろんの事、食事の用意までありとあらゆる事をやらされました。
今日も、何かいやらしそうな眼をして、ニタニタ笑いながら呼んでいるので、嫌な予感がしましたが仕方がありません、諦めて行く事にしました。
操舵室に入ると古風な回転椅子に座り、口髭モジャモジャの中からパイプを突き出したお頭ブラックが、なんじゃ王子を待ちかねたように口を開きました。
「 おい、坊主、お前あの島で、ここはヤマタイ国だろうと尋ねた時、確かここはもんじゃ島だと言ったな。」
「 ああ、言ったよ、ブラック。」
「 馬鹿、俺はお頭の船長の親分の首領のボスのブラックだぞ。
呼び捨てにするな、今度呼び捨てにすると海に放り込むぞ。」
「 分かったよ、ブラック。」
「 もうー、馬鹿にしやがって、海賊生活長い中こんなに馬鹿にされた事はない!
まあいい、小僧、その島がもんじゃ島なら、その島を領土としている国は?」
「 もんじゃ王国だよ、ブラック。」
「 また、呼び捨てにしやがった、お頭とでも呼べ、お頭と。
それじゃ、もんじゃ映画会社を知っているか?」
「 知っているよ、潰れちゃったけど……。」
「 何、潰れた!
うーん、残念だ。
あんな素晴らしい映画を作った会社が潰れてしまうなんて。
おい、なんじゃ王国の裸女の乱舞と言う映画を見たことがあるか?
帰って来た名画と銘打った映画祭が、150円均一の映画館で上映されていた中にあったのを見て、思わず身を乗り出したほどだったんだぞ。
あの、暗闇に流れるヒソヒソ声、そして、感激が頂点に達した時、映画館全体に鳴り響くほどの、ヤッターと言う声、今、思い出しただけでもゾクゾクする。
俺は、何とか見ようと、毎日映画館に通って一番前に席をとって食い入るように眺めたあの映画、上映が終わると、明るくなって、スクリーンの前の小さい台の上に観客みんなが折り重なるようにいたのをライトが照らしているのを覚えているぞ。
俺は、いつも一番下に敷かれて、苦しかったのも覚えているぞ。
ああ、あの映画を作ったもんじゃ映画会社が潰れたか…………。」
「 なんじゃ王国も知っているよ。」
「 何、なんじゃ王国まで知っているのか!」
「 僕、なんじゃ王国の王子様だよ。」
「 このぉ、クソガキ、なめてるとお尻モミモミするぞ、このぉー、クソガキ。」
「 ほんとだよ。」
「 まだ、言ってやがる。
それが王子様の面か、服もよれよれじゃないか、うそがきめ。」
なんじゃもんじゃ物語 81
お頭ブラックの王子様に対するイメージは、凛々しい顔立ちに金ぴかのぱりっとした服を着た人間と言う物でした。
今の王子様にこの条件を求めることは少々無理と言うもの。
何処か、とぼけた顔に服もいただけません。
彼方此方でコロコロひっくり返るので泥だらけ埃だらけ綻びだらけ。
お頭ブラックの言い方になんじゃ王子は、不服そうな顔をしましたが、これ以上言っても信じて貰えそうも無いと口を噤みました。
お頭ブラックの顔は、だんだん赤みを帯び、喋り方も早くなってきました。
「 そ、そ、そ、そんな嘘でこのブラック様を騙せると思っているのか、このガキ、出て行け!」
お頭ブラックの手がすっと消え、何かがキラッと光ったと思うとヒュッと言う音がしました。
なんじゃ王子は思わず首を竦め、カツッと言う音を耳にしながら、扉から外に飛び出しました。
反動でバタンと閉まった扉の窓枠には青いインクのついた付けペンが鋭く光っていました。
「 小僧、なかなかやるな・・・・・・・。」
お頭ブラックは、口髭に隠れた口の一方を吊り上げてふふっと笑いました。
「 フー、怖かった。」
何か殺気を感じて首を竦めて飛び出したのが功を奏したようです。
なんじゃ王子が、ドキドキする胸を抱えながら船尾のほうに歩いて行くと声が聞こえました。
「 あっ、小僧はん、ここにいたん。
ちょっとこっちに来いなあ。
やっと発明が完成したんや。
実験台になってえな。」
白い服を着たエッチソンが呼んでいました。
なんじゃもんじゃ物語 82
なんじゃ王子は、再び嫌な予感がしました。
でも、これを断るとお頭ブラックに言いつけられて、又、怒られます。
嫌々エッチソンに付いて船室の中に入っていきました。
「 ねえ、エッチソン、今度は何を作ったの?
この前の自動鼻糞取り機なんて嫌だよ。
二日も鼻の穴から抜けなかったんだもの。」
「 いやー、あれはちょっとした手違いでおました。
直径二cmもあるものを無理矢理突っ込んでしもうたもんやから……・。
だから、それを抜き取るために特別に自動鼻糞取り機抜き取り機を作ってやったやおまへんか。」
「 でも、作ってやるて言っても、どんな素晴らしい物かと思っていたら、先が輪になっている一本の紐じゃない。
あんなものデパートのバーゲンで買った品物にグルグルいっぱい巻いてあるような、何処にでもあるような物じゃない。
二日もかかってあんなものを作っていたの?」
「 よう、聞きや。
あの紐は、ただの紐やないんやでえ、わいのパンツのゴムの伸びた奴や。
おかげで十分毎にパンツがずって来よるにゃ。」
エッチソンは、さも気持ち悪そうにズボンの上からパンツをたくし上げました。
「 お前が、ポイと海に捨ててしまうからこの始末や。
それにあの紐の結び方はなあ、二日かかったほどの芸術的なもんや。
えっ、聞いてるか?
疾行には、善迹なしと言うやろがな。」
「 うん、でも、あの輪を自動鼻糞取り機に引っ掛けて引っ張るだけの物じゃない。
べンケーが僕の頭を後ろから持って動かないようにして、エッチソンが前からその紐を引っ張っただけだろ。
あれ、すごく痛かったんだ。
あんなの絶対嫌だよ、金輪際!」
「 いやいや失敗は成功のもとと言うやんか。
かの有名なエジソンだって失敗しておるよ。
初めて白熱電球を作った時、火が着きもしないのに、電球に映った助手の禿げ頭を見て、やったと思わず叫んだそうなんよ。
ああ、パンツがずる。」
エッチソンは、又、気持ち悪そうにズボンの上からモゾモゾとパンツをずり上げました。
なんじゃもんじゃ物語 83
なんじゃ王子は、部屋の真ん中に大きな機械があるのを見つけました。
「 あれ、なあに?」
なんじゃ王子は、大きな機械を指差してエッチソンに尋ねました。
「 あれはやなあ、カッテイングマシンや。
レコードを作る機械や。
音楽のレコードやがな。
懐かしいやろ。
レトロな感覚でプレミアが付いて高く売れるんやで。
おまはんも知ってるやろ、海賊版言うレコードやがな。
あれみんな非合法にここで作ってるんやで。
他の品物も海賊版やったらみんなここでつくってるんや。
この海賊団の大きな収入源や。
そのお金でウランを買おうとコンゴのカタンガ州に行ったんや。
高い値段ふっかけよったで。
おまえらのウランなんて安物いらんわって言うたら、今後、ウランやて、うまい事言いよるやろ、ははは。
それで、ヤマタイ国に行くんや。
もう、お金出すのもったいないから、お金を出さずに貰って来るんや。」
「 それ泥棒するんじゃない!」
「 泥棒や無い。
何も言わずに貰って来るんや。
そんな事より、ほら、これや。」
なんじゃもんじゃ物語 84
エッチソンは、大きな機械を通り過ぎ、隣の小部屋に入って電気のスイッチを入れました。
そして、青白い蛍光燈が照らし出しているテーブルの上のプラスチック製の器具を指差しました。
光線の加減で薄赤く光ってテーブルの上に鎮座している物を見ながらなんじゃ王子は、さっきの嫌な予感がさらに大きくぶり返して来るのを感じました。
「 これは?」
なんじゃ王子は、エッチソンを見上げて聞きました。
エッチソンは、興奮ぎみに答えました。
「 これこそ、我が人生最大の発明、原子力海賊船なんて眼じゃない、眼じゃない。
名付けて携帯女性用トイレ。
これは心理学の本を読んでいた時、思い付きましたんや。
それはですな、男性は何処ででも放尿出来るのに女性は出来まへん。
女性は、そんな不便な出来事を幼少より長年感じる事により女性の深層心理に男性に対するある種の劣等感が植え付けられまんねん。
それが女性の心に残って来ると他の事にも、劣等感が影響して来まんにゃわ。
これさえあれば、全ての女性は心の真の解放を得られるんですわ。
今に、これを着けた女性が、世の中の革命を起こすんちゃいまっか。
これこそ、ほんに最高の発明でおます。
そこで、…………・」
エッチソンは、なんじゃ王子をじろっと変な目付きで見ました。
なんじゃもんじゃ物語 85
なんじゃ王子は、殺気を感じました。
「 やだよ、こんなの!
第一女性用じゃないか。
僕、男だよ、やだよ!!」
「 この海賊船には、女性はいませんにゃ。」
エッチソンの目付きは酒を飲んで絡み性になった男の眼をしていました。
なんじゃ王子は、じりじりと出口の方に近付き、エッチソンが捕まえようとした瞬間、出口から外に飛び出してドアをバタンと強く閉めました。
ガチャッと鍵が閉まる音が聞こえました。
部屋の中からエッチソンの声が聞こえました。
「 し、しもうた!
自動錠が閉まってしもうた。
これ、24時間も開かへんにゃ。
今頃、閉まりよった。
今まで、一度も閉まりよらへんかったのに。
もうー、あほ。
あけろー。
お頭ブラックに伝えてえなー。」
「 やだよ。」
「 もおー、この坊主。
よーし、ガンガン、ドンドン、ガタガタ、ビシビシ。
くそおー。
もお、まあええわ。
明日これを必ず付けさせるでえ。」
エッチソンの声を後になんじゃ王子は、誰にも見付からないように階段を降りました。
そして、船底の自分に割り当てられた部屋に戻りました。
なんじゃもんじゃ物語 86
コン、コン。
誰かが、部屋の扉を叩いています。
なんじゃ王子は、誰かなと思って扉を開けました。
開けた扉の隙間から、なんじゃ王子の顔に拳が飛んできました。
「 うわっ!!」
なんじゃ王子は、かろうじて突き出された拳を避けました。
扉が蹴って開けられ、壁に当たってバンと言う大きな音が聞こえました。
機関士のたまちゃんが飛び込んで来て、なんじゃ王子の体制が崩れた所に、まわし蹴りを食らわしました。
なんじゃ王子が屈んで避けると、たまちゃんの足は壁に立てかけてある板にめり込みました。
「 ううっ、抜けない!」
「 たまちゃん、止めてよ。
朝から、働きっぱなしなんだから、休憩させてよ。」
「 だめ、僕の練習相手がまだ終わってない!!」
なんじゃ王子は、たまちゃんの武術の練習時間を忘れていました。
「 さあ、練習、練習。
機関室に閉じこもっていると体がなまってしようがない。
甲板に行こう。」
「 ちょっと休憩させてよ。」
「 だめ、ぶつぶつ言わずに早く来い。」
たまちゃんは、板から足を抜きながらなんじゃ王子を部屋から追い出しました。
それからたっぷり二時間なんじゃ王子は、甲板でたまちゃんの相手をさせられました。
たまちゃんからようやく解放されたなんじゃ王子は、部屋に戻って扉の鍵を締めました。
そして、部屋の電気をつけ、固いベッドにゴロンと寝転んでグレーに塗られた天井を眺めながら呟きました。
「 ああ、島に帰りたいなあ。
お父ちゃんどうしてるかなあ。
こんな船から、早く逃げ出さなきゃ。
顔を合わせる度に、何か用事を言い付けられちゃたまらないや。
それに、たまちゃんの武術の練習相手も、もうやだ。
エッチソンの言い方だと、ええかげんにしてやっ!、だ。
エレーヌどうしてるかな。
あーあ、ほんとに早くこんな所から脱出しなきゃ。」
なんじゃ王子は、まだ、なんじゃ王が死んだ事もなんじゃ王国が潰れてもんじゃ王国に吸収された事も知りませんでした。
もちろん、もんじゃ王の代わりにチカーメ大臣が女王になった事も知りませんでした。
ただ、なんじゃ王子の頭の中には、自分がいなくなって心配しているなんじゃ王や、そう思っていて欲しいエレーヌ姫の姿が浮かんで来るだけだったのです。
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