大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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なんじゃもんじゃ物語 1-1  (なんじゃ王国にて)

2006-06-30 10:04:18 | なんじゃもんじゃ物語
   なんじゃもんじゃ物語

なんじゃもんじゃ物語 1-1  (なんじゃ王国にて)

なんじゃもんじゃ物語 1 

 太平洋の南の南これまた南、3つの島がありました。
東から順番になんじゃ島、ほんじゃ島、もんじゃ島という名前が付けられていました。
どんな世界地図にも載っていません。
とっても、とっても小さい島だったのです。
この3つの島には、2つの王国がありました。
なんじゃ島には、なんじゃ王国、もんじゃ島には、もんじゃ王国がありました。

(なんじゃ王国)
 なんじゃ王国のなんじゃ王123世が、大臣のホイに言いました。

「 おい、大臣、早くもんじゃ島を、我領地にしろ!
 早くしないと、クビにするぞ。」

ホイ大臣は、オロオロして答えました。

「 はい、明日にでも・・・・・・。」
「 もう、明日にでも、明日にでもと言って、8年になるぞ。
 お前が大臣になったのが、8年前だから、・・・・・・・。
 お前、今まで何をやっとったんだ。
 今度こそ、クビにするぞ!」
「 王様だって、8年前から、毎日、クビにする、クビにするって言って・・・。」
「 今度は、ホンマのホンマだぞ。
 おい、大臣、聞いとるか。
 分かったら、お城のてっぺんに登って、兵を集めろ!!。」

王様は、興奮してきました。

「 はい、今直ぐにでも。」

ホイ大臣は、兵隊を呼びに走りました。



なんじゃもんじゃ物語 2

 ホイ大臣は、ゼイゼイ息を切らせてお城のてっぺんに登って叫びました。
「兵隊、集まれ~!!。」
大臣は今まで何回ももんじゃ島を我領地にしろ言われて、始めの頃こそ兵隊を呼びに走りましたが、7年前から言われても何もせず、ただ、王様に聞こえるように階段の所で、あたかも階段を駆け上がっているかのように足踏みをするのでありました。
だから、大臣就任当時の中肉中背の体は、もう既に老化現象をきたし、腹が太くなるかわりに、足が細くなっていきました。
「 はぁ~、疲れた、疲れた、しかし、兵隊は、来るかなぁ~。
 何しろ、ここ3年程兵隊を見ていないからな。
 最後に見たのが、確か、我が家の家宝である時計がつぶれた時だったかな。
 王室の技術長官兼兵隊隊長にしてやると言って、ただで直させて以来だからな。
 それ以前にいた兵隊はどうしたかな。
 もう顔も覚えとらんぞ。」
総人口50人の島ですから、大臣は、老若男女、片っ端から全員兵隊にしたことを忘れていたのです。
どうも、頭のほうも老化現象をきたしているようです。
 さて、その声を久しく聞いた国民兼兵隊は、反応しました。
「 なんじゃ、ありゃ~。
 あれは、確か8年前にお城で大臣に任命された男じゃなかったか。
 そのお祝いの時、パンをいっぱいポケットにつっ込んで、隠して帰ったのをおぼえているぞ。」
「 ああ、俺は、ぶどう酒のビンを隠して持って帰ったのを思い出したぞ。」
わいわいがやがやとお城の前に集まってきました。
「なんだ、こりゃ~。これでも兵隊か。」
ホイ大臣は、自分のことは棚に上げたまま、落胆で口を開けて放心状態に陥りました。
国民兼兵隊たちも、何で呼ばれたか分からず、お城の塔の上にいる大臣を見上げて、口を開けてぽかんとしていました。


なんじゃもんじゃ物語 3

 そんな状態が数分続いた後、一羽の鳥が飛んでまいりました。
そして、あほーと一声鳴いて、ホイ大臣の開けた口に糞を落としていきました。

「 ぺっ、ぺっ、汚い。
 むっ、あの鳥は、何だかスキのない身のこなしをしておるぞ。
 わしの明晰な頭脳から判断すると、あれはきっと、もんじゃ国のスパイに違いない。」

ホイ大臣は、鳥を捕まえようとして、塔から身を乗り出しました。
腹が出ているから、体の重心が前のほうにあります。
バランスを崩して、塔から落ちかけました。
全国民は、ハッとしました。
でも、ホイ大臣は、かろうじて塔の端にぶら下がりました
思わず、国民から拍手が沸き起こりました。
そして、大臣は叫びました。

「 やっぱりあれは、スパイだ。
 恐ろしい奴だ。
 わしを落とそうとした。
 うーん。
 おい、みんな、あの鳥を捕まえろ。」

国民は、鳥のほうへ眼をやりました。
鳥は、もんじゃ島とは反対の方向に、あほーと鳴きながら飛んでいました。

「 あっぱれな、スパイだ。
 スパイでないことを証明しようとして、もんじゃ国とは反対の方向へ飛んで行くではないか。」

今までのいきさつを見ていた国民は理解しました。

「 さすが大臣様じゃ。
 みごとあの鳥が、スパイであることを見通しなさった。」

国民の拍手が沸き起こりました。
でも、大臣はぜんぜん笑えませんでした。
なぜなら、さっきから塔の端にぶら下がっているのです。
普通の人ならよじ登るところですが、何しろ太っているものだから、腹がつかえて一向によじ登れません。
足をバタバタさせていました。



なんじゃもんじゃ物語 4

ホイ大臣は、手がしびれて来て叫びました。
「引っ張り上げろ~。」
でも、国民の拍手にかき消されて、誰も助けに来てくれません。
とうとう我慢できなくなって、手を離してしまいました。
ヒュー、ガサッ。
幸い下に木があって、その木の枝に引っかかって助かりました。
「 さすが大臣様じゃ。
 よじ登るなんて野暮なことはなさらない。
 ちゃんと引っかかりなさった。」
全国民であり、兵隊でありなんじゃ島民である民衆は、いっせいに拍手をしました。
木に引っかかったままで大臣は、叫びました。
「おい、何をしとる。
 戦だ、戦だ。
 戦争だぞ~。
 槍を持て~、弓を持て~。」
なんじゃ島民は、武器を取りに家に走っていきました。





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なんじゃもんじゃ物語1-2 もんじゃ王国にて

2006-06-29 10:08:41 | なんじゃもんじゃ物語
なんじゃもんじゃ物語1-2 もんじゃ王国にて


なんじゃもんじゃ物語 5

(もんじゃ王国)
 
 「 もんじゃ王国、国旗掲揚~。」

 真っ白な旗がするするとポールに揚がりました。
もんじゃ王は、近くに居る召使に言いました。

「 おい、おまえ、何時見ても真っ白なすばらしい国旗じゃのう。
 なんじゃ王国の薄汚れた、ボロ赤国旗とは、えらい違いじゃなぁ。」
「 ははー、王様、いい洗剤を使ってますから。」
「 そうじゃろ、そうじゃろ。
 わが国の開発した洗剤を使っているからのう。
 わが国の科学技術庁長官は、知能指数180じゃからのう。
 この前も蚊取り線香を作ると言って、すばらしい胃の薬を発明したからのう。」

 もんじゃ王国の王様の名前は、正式には、どんな・もんじゃ王と言う名前でした。
言い伝えによると、この島にまだ名前がついていなかった頃、北の方から白い旗を立てたいかだに乗ってやってきた一人の神様がおりました。
そのころ、まだ、この島の島民は、自分たちで火をおこすことができませんでした。
海岸から上がってきた神様は、木と木をこすり合わせて火をつける方法を島民に教えました。
炎がついたとき、神様は言いました。

「 どんな、もんじゃ。」

その最初の言葉が、あまりに感動的だったので、島の人たちは、神様をどんな・もんじゃ様と呼びました。
そして、島民は島の守り神になっていただくように、神様にお願いしました。
承諾した神様は、この島で妻をめとり代々王として、島を統治するようになったということです。
それと同時に、島の名前は、もんじゃ島となりました。
 もっとも、なんじゃ王国にも同じような伝説が残っています。
なんじゃ王国にやってきた神様は、赤い旗を立てたいかだに乗ってやってきました。
木と木をこすっても、なかなか火がつかなかったので言いました。

「 なんじゃ、こりゃ~。」

あとは、まったく同じです。



なんじゃもんじゃ物語 6

「 大臣、チカーメ大臣はおらんのか。
 あいつ、また寝ておるな。
 王より遅く起きるとは、けしからん。
 早く、呼んで来い。」

もんじゃ王は、近くに控えている召使に言いつけました。
直ぐに、大臣がやってきました。

「 まだ、11時だと言うのに起こされては、困りますわ。」

もんじゃ王国のチカーメ大臣は、女性だったのです。
大臣は、渦を巻いたメガネをかけ、表紙だけ汚れた辞書を片手に、長いスカートにがに股の足を隠して王室に現れました。
このチカーメ大臣は、この3つの島の真ん中の島であるホンジャ島に建てられた、ホンジャ大学出身と言われていました。
 ホンジャ大学は、なんじゃ王国ともんじゃ王国の中立地帯のホンジャ島にある学校で、ふたつの王室が昔仲の良かった頃、資金を折半してできた3島唯一の学校でした。
創立当時は非常に難しく、入学試験を受けたもの全てが不合格で、入学者が一人もいませんでした。
しかし、もんじゃ王のおじいさまにあたるもんじゃ大王様が18歳の桜が咲く頃に、決断をされました。

「 わしは、ホンジャ大学に絶対入るぞう。
 入りたいぞう。
 わしが、入れなかったらこんな大学つぶしちゃうぞう。」

この話を聞いてホンジャ大学の、ただ一人の教授であるワールシュタットヒンデンブルグノーベル教授、略して教授が、頭を痛めました。
この大学の危機を如何に乗り越えるか。
3日間昼も夜も寝ず、ワレビッチの同型定理を使って考えました。
そして、3日目の朝、頭を使いすぎ、ろくに食事を摂っていず、頬は痩せこけ、目は落ち窪んでいましたが、気分はうれしさにあふれていました。
大王様は、入試の前の日、教授にそっと耳打ちされました。

「 あの~、僕、入れるでしょうか?」

教授は、何も答えずにっこりされました。
そして、合格発表の日、合格者掲示板を見た受験生は小躍りして喜んだのでした。
全員合格。
大王様も合格していました。
なにしろこの大学ができて以来180年間一人の合格者もいなかったのに、この年には一挙に25人の合格者が出たのです。
中には、もう72回目の受験で合格した受験生は、目から鼻から口から涙をぼろぼろ流して感涙にむせんでおりました。
大王様は、掲示板を見ながら感慨深げにつぶやきました。

「あ~、難しかった。」

でも、テストの問題と言うのは、

第一問
自分の名前を書きなさい。
第二問
なんじゃ島ともんじゃ島にある王国の名前を、それぞれ書きなさい。
第三問
ロンドンについて知っていることを書きなさい。

と言うものでした。



なんじゃもんじゃ物語 7

 大王様は、第一問、第二問は即座にお書きになりました。
しかし、第三問については、何かおかしいと考えられました。

「 何、ロンドンについて書け、とな。
 ロンドンならばイギリスの首都だろう。
 まてよ、我もんじゃ国が維持費を半分も出しているホンジャ大学だ。
 何か裏があるに違いない。
 もっと難しいに違いない。
 そうだ、絶対そうだ。」

そこで、全知識を総動員してお考えになりました。

「 わかった、わかったぞ。」

大王様は、うれしくなって教壇に座っている教授の方を見て、ニタッと笑いました。
教授も安心して、ニタッと笑い返しました。
「 そうだ、あれは確か日本とか言う国の・・・。
 大阪だ。
 大阪の天王寺にロンドンと言う喫茶店があったと言うことを島に流れ着いた男から聞いたことがあるぞ。
 きっとそうだ、ムフフフフ。」

そこで、大王様は、大阪の天王寺の喫茶店の名前とお書きになったのです。
答案を見た教授は、頭を抱え、結局2問以上正解の者を全員合格にしたのです。
そして、それ以来、大学合格者が山ほど出るようになりました。
 今のもんじゃ王も、28年前、同じような苦労を経た後大学に合格しました。
この時、アルバイトで大学の教室掃除をしていたのが、チカーメ大臣なのです。
しかし、もんじゃ王は、同じ学生と勘違いし、学校にただ一人の女学生として
尊敬していました。
 四年経って卒業式の日、このチカーメ大臣は名前を呼ばれもしないのに勝手に卒業証書をとりに壇上へ行き、まんまと卒業証書を手に入れました。
名前をホワイトで消してチカーメと書いて一丁出来上がりです。
その時、一人の男の学生と教授が卒業証書が足りないと言って式場をウロウロしていたことを王様は覚えていましたが、何故そうなったかは、もとより知りませんでした。
そして、その次の日、もんじゃ王は、チカーメを大臣に抜擢したのでした



なんじゃもんじゃ物語 8

 もんじゃ王が、困った顔で言いました。

「 おい、チカーメ大臣。
 困りますわ、では困りますでありまするぞ。
 だいだい、お・・・・。」

その言葉が、終わるか終わらないうちに、一人の漁師が王室に飛び込んできました。
この城は、王と后と王女と大臣と日帰りの召使が2人いるだけでしたから、誰でもお城に入れるのです。
漁師は、目を白黒させてあわてて言いました。

「 た、大変です。」
「 どうしたんじゃ。」
「 なんじゃ王国で、ホイ大臣が戦争再開だと叫んでいたという情報が入りました。」
「 おお、七年ぶりじゃのう。
 どうせまた、声だけじゃろうて。
 久しぶりに、我軍勢を出してみるか。」

もんじゃ王は、軍勢を呼ぶために天井からぶら下がった紐を思いっきり引っ張りました。
プツッという音をたてて紐は切れましたが、呼び鈴はけたたましくなりました。
五分と経たないうちに、漁師の格好の男が5人王室に集まりました。
5人の男は、順に喋りました。

「 ハハー。」
「 王様。」
「 何か。」
「 用で。」
「 ござい。」

もんじゃ王は、怒りました。

「 わしは、王様だぞう。
 王様に向かって、ございとは何事だ!!」

5人は、また順に喋りました。

「 ハハー。」
「 それは。」
「 最後の。」
「 ますか、と言う男。」
「 が、風邪で寝込ん。」

そこまで言って、5人はじゃんけんをしました。
そして、じゃんけんに勝った第一の男が言いました。

「 でいるのです。」


なんじゃもんじゃ物語9

 キョトンとしているもんじゃ王に、チカーメ大臣が言いました。

「 王様、王宮の経済は困窮しております。
 少しでも節約するため、優秀そうな男を6人だけ選んで、あとはみんなクビにしました。
 そして、私は6人の男に、これからは6人が一心同体であると言いました。
 だから、どんな仕事をするにしても、みんなで分担しなければならないと強く申し渡しておきました。
 故に、今、王様に申し上げた言葉も、みんなで分担して言ったのでございます。
 ただ、6人目の男が悪性のインフルエンザにかかりまして、今日は参上しておりません。
 だから、言葉尻が抜けて”ござい”になったのでございます。
 第6の男がいると、ちゃんと”ございます”になるのです。
 どうか、ご了承ください。」

もんじゃ王は眼を細めて、満足して言いました。

「 世は、満足じゃ。
 チカーメ大臣ご苦労であった。」

 いつも、王宮の経済は、困窮しておりました。
クビにした男たちの給料は、みんなチカーメ大臣の給料に加算されておりました。
その上、王室の金庫から、常に持っている辞書に、お金をはさんで持って帰って使っていたのです。
それに、この6人の男たちは、大臣直属の部下でした。
もんじゃ王は、もとよりチカーメ大臣を信頼していたので、疑う気持ちはさらさらありません。

「 チカーメ大臣、指揮をそちに任す。」
「 ありがとうございます、王様。
 必ず、ご期待に沿うように努力いたします。
 それでは、作戦をたてますので、これにて失礼いたします。
 皆の者、ついておいで!!」
「 はい。」
「 わかり。」
「 ました。」
「 チカーメ。」
「 大臣。」

そこで、再びじゃんけんをしました。
勝ち残った、第三の男が言いました。

「 様。」

なんじゃ王は、にっこりしました。

「 あっぱれ、あっぱれ。
 これからも職務に励めよ。」

五人の男たちは、そろって礼をしました。
そして、チカーメ大臣の後ろについて、王室を出て行きました。




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なんじゃもんじゃ物語 1-3 なんじゃ王子

2006-06-28 13:19:12 | なんじゃもんじゃ物語
なんじゃもんじゃ物語 1-3 なんじゃ王子


なんじゃもんじゃ物語10 

(なんじゃ王国王宮)

 なんじゃ島では、戦争再開を大臣が発令してから4時間たっても、誰一人として王宮の前の広場に再び姿を現しませんでした。
ホイ大臣は、イライラしていました。

「 もう4時間と13分経ったぞ。
 誰も来ないじゃないか。
 どうなっちょるんやんけ。
 そこの召使、ちょっと見て来い。」

 さらに時間は、経過しました。
真っ赤に燃えた夕日が、ホンジャ島の中北部にあるホンジャ山に沈みかけていました。
ホイ大臣は、怒りを込めて、また、ぼやきました。

「 もう、戦を始めると言って、半日も経つんだぞ。
 ああ、それなのに、それなのに、なんたること。
 兵隊は、一人もやって来ない。
 兵隊を呼びにやった召使までも、帰ってこんじゃないか。
 あいつ、またさぼっとるな。
 この前も、夕食にわしの大好物のマグロの刺身を食おうと思って、あいつを買いにやったんだ。
 そしたら、次の日の夕方頃帰って来よった。
 おかげで、マグロの刺身が、柿のへたみたいになっとったぞ。
 あの時は、許してやったが、今度はそうはいかんぞ。
 わしがまだ若かった頃、タイに留学していた時に覚えたムエタイの強烈な飛び膝蹴りを食らわしてやるぞ。」

ホイ大臣は、召使が帰って来たときのリハーサルとして近くに置いてあった鉢植えのタコの木に向かって、エイヤッと飛び掛りました。
ガサガサ、ヒュー、ガシャン、ベタ。
ホイ大臣は、飛び上がろうとしたのですが、腹が邪魔をして足が上がりませんでした。
そして、タコの木に真正面から激突したのです。
植木鉢をひっくり返し、勢い余って植木鉢の後ろの壁にぶち当たりました。
さらに、当たった反動で、床にひっくり返り、踏まれたカエルのようにへたばってしまいました。

「 やばい。」

ホイ大臣は、起き上がって、植えてあったタコの木と、木っ端微塵に散らばった植木鉢のかけらと、中に入っていた土を拾いながら言いました。

「 ちょっと、目測を誤ったな。
 王様に見つかると、また、クビだと言われるから、早く接着剤で貼ってしまわねば。」



なんじゃもんじゃ物語11

ホイ大臣が植木罰の修理を急いでいるところへ、なんじゃ王の唯一の跡継ぎである、なんじゃじゅにあ王子が入ってきました。

「 見いちゃった、見いちゃった、お父ちゃんに言ってやろ。」
「 あ、これは王子様、どうかご内緒に。」
「 じゃ、お城の外へ連れてってよ。
連れてってくれなきゃ、言っちゃうから。」
「 そ、そればかりはなりません。
なんじゃ王から、何回も言われています。
絶対に、天地がひっくり返ろうが、キリンが空を飛ぼうがだめです。
そんなことをしたら、完全にクビになってしまいます。」
「 じゃ、言っちゃうから。」

王子は、王室の方へ走っていきました。

なんじゃ王には、王子が一人おりました。
なんじゃ王は、非常な晩婚で43才の時、初めて島の漁師の娘と恋愛し、25才という年の開きを跳ね除けて結婚しました。
そして、后は、数年間の楽しい生活の後、一人の王子と引き換えに天に召されて行ったのです。
なんじゃ王はもちろん、なんじゃ国民、ほんじゃ島民、遠くはもんじゃ島の端に住んでいるオランウータンまで、深い悲しみに陥りました。
その中で、なんじゃ王は誓いました。

「 后よ、天から見ておいてくれ。
わしは、きっとこの子を立派な王に育て上げるぞ。」

そして、なんじゃ王は、生後4日目から、ほんじゃ大学の学生をアルバイトに雇って王子に教育をしたのでした。
なんじゃ王の家系は、代々賢い人が多かったのですが、王子もその例に漏れず、いや、その例以上に聡明でした。
王子の特徴は、頭が非常に大きかった事が上げられます。
だから、よくコロンコロンと床に転びました。
なんじゃ王は、たいそう心配して、お城の床という床をすべて分厚い絨毯をひかせ、庭には、柔らかい芝を一面に植えました。



なんじゃもんじゃ物語 12

聡明な王子は、一才のとき言葉を流暢に喋りました。
二才のときは、なんじゃ王国、もんじゃ王国の共通言語であるホモホモ文字を何の苦も無く覚え、右手などはいざ知らず左手、はては足で書くまで上達したのです。
もう、ホンジャ大学文学部国文科のアルバイト学生は、教える事が無くなり、その明晰な頭脳にもかかわらず、二才の子供に自分の専門分野である国文の知識を全て吸収されたので、職を辞しすごすごと大学へ戻っていきました。
なんじゃ王が、王子の二才の誕生日のお祝いに絵本を渡したとき、王子は言いました。

「 僕、絵本より三島由起夫の本がいいや。」

この言葉に、なんじゃ王はひどく驚き、また喜びもしたのでした。
三才のときは、漢文を習得しました。

「 夫天地者万物之逆旅、光陰者百代之過客。
而浮生若夢、為歓幾何。
古人乗燭夜遊、良有以也。
況陽春召我以煙景、大塊仮我以文章。
そうか、人生はもっと楽しく生きるべきものなのかな。
ええと、こっちの本は、何、何?
死諸葛走生仲達。
難しいな。
まず、諸葛と言う男が死んだんだな。
仲達は、葬儀屋に違いない。
だから、誰よりも先に注文を取ろうと諸葛の家へ走ったんだ。」



なんじゃもんじゃ物語 13

王子が五才になったときは、天文学、数学、物理学、化学、生物学、法学、経済学、哲学、歴史学、ものまね学まで学びました。
中でも、ものまね学の分野においては抜群の成績を修め、その中でも特にベンジョムシのものまねが非常に御上手でありました。
このものまね学は、王家にとっては非常に重要な学問で、革命などが起こった時、逃げ延びるために、あらゆる物に化けられるようになっておかなくてはなりません。
だから、もう数える事ができないほど昔から王家の学問として習われてきたのです。
今のなんじゃ王は、ゾウリムシのまねが、ことのほかうまく20年前に起こった革命の時などは、誰一人としてころがっているゾウリムシがなんじゃ王だとは思いませんでした。
その時の様子は、今も記録に残っています。
革命軍の兵士が叫びました。

「 なんじゃ王は、何処だ。」

なんじゃ王は、王室の床に転がって、手足を縮めてぶつぶつ言いました。

「 ゾウリムシ、ゾウリムシ。」

それを見た革命軍兵士は言いました。

「 なんだ、ゾウリムシか。
他の部屋を探せ。」

革命軍のボスが叫びました。

「 なんじゃ王を早く捕まえろ。」

それに答えて兵士は言いました。

「 まだ、見つかっておりません。
王宮には、ゾウリムシが一匹いるだけです。
もう少し御待ちください、必ずや吉報を持ってまいります。」

なんじゃ王は、二日間の間、夜も昼も、ゾウリムシ、ゾウリムシと城の中をウロウロしていました。
もう二日目には、くたくたに疲れておりましたが、いまにきっと王党軍が助けてくれると信じて頑張ったのです。
二日目の夜が明ける頃、お城の西にワーっと言う声が上がりました。
そうです、ついに王党軍がやってきたのです。
王党軍は、あっという間に、革命軍を鎮圧して王宮に入っていきました。
すでに革命軍は、四散して王宮は静まり返っておりました。
その静けさの中をどんどん進んで大広間に入りますと、何処からともなく、ゾウリムシ、ゾウリムシ、ムニャ、ムニャ、と言う声が聞こえてきました。
調べますと、大広間のタコの木の横で仰向けに倒れているなんじゃ王を発見したのです。
ここで、ムニャ、ムニャとなんじゃ王が言ってなかったら、見つからなかった所です。
そして、その日のうちになんじゃ王は、再び王座に座りました。



なんじゃもんじゃ物語 14

このように、大切なものまね学が得意である王子を、なんじゃ王は頼もしく感じておりました。
だからことあるごとに、なんじゃ王は王子に言いました。

「 お前の得意なベンジョムシの術をやってくれ。」

王子は、ぽっちゃりと太った体を丸込ませて、ベンジョムシ、ベンジョムシとなんじゃ王に見せたので、ますます上手くなっていきました。
そして、この術が王子の18番となりました。
さて、このベンジョムシなのですが、王子がそれを始めて見た場所は、お城の北の端の庭だったのです。
その日、王子は北の庭を散歩していました。
青々とした空に真っ白な雲がふんわりと浮かび、お日様の光りが王子の背中を柔らかく包んでいました。

「 本当に、今日は気分のいい日だなあ。」

肺の中をすみからすみまできれいにするような、清々しい空気を胸一杯吸い込み王子はつぶやきました。
そして、空を見上げました。
その時、王子はバランスを崩しコロンとひっくり返りました。
ひっくり返った王子は、柔らかい芝生の絨毯にふんわりと包まれ、ふと左を見ました。
すると、アルマジロを上下左右から圧縮して手足をいっぱい付けた変な虫が、王子の背中から逃げようと手足をばたつかせているのが見えたのです。

「 むっ、これは確かベンジョムシ、我が国のなんじゃ大百科全集に載っていたのを覚えているぞ。
別名ダンゴムシとか言ったな。触るとダンゴみたいに真ん丸になるとかいてあったけど本当かな。
試してみよう。」

好奇心の強い王子は、人差し指で突付いてみました。
驚いたのは、ベンジョムシ君です。
くるくるっとまるこまって、じっとしていました。
王子は、じっと見ていました。
一分たち、二分たち、三分たった頃、ベンジョムシ君は、もういいかと体を伸ばして早くこんな危ない所から逃げようとしました。
王子は、また突付きました。
ベンジョムシは、また驚いてまるこまりました。
一分たち、二分たち、ベンジョムシ君は、もういいかと体を伸ばし始めました。
また、王子は突付きました。
一分がたちました。
ベンジョムシ君は、疲れた感じで体を伸ばし始めました。
王子は、しつこく突付きました。
ベンジョムシ君は、疲れたにも関わらず我慢して、まるこまりました。
30秒がたちました。
ベンジョムシ君は、あほらしくなって体を伸ばしました。
王子は、それでも突付いてみたのです。
今度は、何回触ってもまるこまりませんでした。
ベンジョムシは、悔しかったらお前まるこまってみろと、じっとしていました。
その時、王子は初めて自分の体をまるこませました。
ベンジョムシは、これはチャンスとばかりに、たくさんある足をもつれさせないように逃げていきました。
王子が、顔を上げた時は、もうベンジョムシはいませんでした。
その一部始終を見ていた、ものまね学のワールシュタットヒンデンブルグノーベル教授が絶賛したことに気を良くして、それ以来ずっと得意技として王子は磨いてきたのです。



なんじゃもんじゃ物語 15

そんな王子が、12才を迎えた時、異変が起こりました。
なんじゃ王が、王子の12才の誕生パーテイ―を盛大に開いた時の出来事です。
なんじゃ国はもちろん、もんじゃ国、ホンジャ島の貴族、知識人から平民に至るまで、ありとあらゆる人をお城の大広間に招き、色々な国の豪華な料理から珍酒まで振るまったのです。
この席で、王子は珍酒をがぶ飲みし、パーテイーが終わって部屋へ帰る途中、階段を踏み外しました。
がらがらどすんと言う大きな音に隠れて、聞こえるか聞こえないか分からないほどの小さな歯車が転がる音が、コロンとしたのです。
その音がした直後、王子は、ものまね学以外の学問は忘れてしまいました。
医者は、一時的な記憶喪失だから、だんだんと記憶は戻ってきますと言いましたが、なんじゃ王は心配でたまりません。
なんじゃ王は、これまでも王子をお城からださなかったのに、さらに強く王子がお城から出る事を固く禁じたのです。
王子は、お城で一番高い塔の上から、お城の外を眺めました。
東に見える青々とした海、西に見える小さなナンジャ山をぐっと押さえつけて上から覗き込んでいる背の高いホンジャ山、南の方には町に続く一本道が、ナンジャ山の中腹にあるお城から遠く下の方へのびていました。
その道の終点にある町では、蟻を十分の一に縮めた様な人がうごめいているのが見えました。
お城に続く一本道の利用者は、ホイ大臣とお城に勤めている2人の男の召使、それにお城の修理にやって来る大工たちのみで、エッチラオッチラ道を上ってきては、夕方頃帰っていく彼らを見ながら、王子は外に出てみたいなあ、と何時もつぶやいていたのでした。





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なんじゃもんじゃ物語 1-4 なんじゃ王国作戦会議

2006-06-27 11:36:41 | なんじゃもんじゃ物語
なんじゃもんじゃ物語 1-4 なんじゃ王国作戦会議


なんじゃもんじゃ物語 16

(なんじゃ王国作戦会議)

 がやがやと言う騒がしい声や、鉄の金具がぶつかり合う音がだんだんと大きくなってきました。
ホイ大臣は、植木鉢のかけらを拾うのを止めて南の窓に走りました。
見ると召使を先頭に、鍋や釜を頭に被った島民たちが20人程かたまりになってやって来つつありました。

「 な、なんだ、こりゃ。」

 ホイ大臣は、半分泣きそうになりました。
鍋のふたの盾とすりこぎを見れば、誰でもそうならざるおえません。
しかし、兵士たちは違いました。
この前、招集をかけた時とは打って変わって真剣な顔付きで答えました。

「 われわれは、正々堂々と戦う事を誓います、ホイ大臣様。」

ホイ大臣は、島民たちを見直したのでありました。

「 それでは、作戦をたてる。
王宮の特別会議室へ行くぞ。
ついてまいれ。」

ホイ大臣と、21人の男はゾロゾロと王宮の絨毯を敷き詰めた床をどた靴で歩いて行きました。
 真ん中に丸い大きなテーブルがでんと据え付けられた大きな部屋に入り、机の周りに22人は座りました。
ホイ大臣は、言いました。

「 今、ほんじゃ島は、実質的にはもんじゃ王国によって統治されている。
ほんじゃ島には、多くの知識人がおる。
それが、みんなもんじゃ王国に連れて行かれて、我が王国に来るのはアホばっかりである。」
「 そうだ、そうだ。」

鼻を垂らした男が納得して言いました。

「 だから、我が国は何時まで経っても進歩しないのだ。」
「 そうだ。そうだ。」

別の男が、よだれをすすりながら納得して言いました。

「 我が王国の繁栄と進歩はこの一戦にかかっておる。
心してかかってくれ。
それでは、まず、実質もんじゃ王国の領地となっているほんじゃ島の何処から攻めれば良いか、意見を出してくれ。」




なんじゃもんじゃ物語 17

「 南だ。」
「 東の方がいい。」
「 バカ、北だ。」
「 誰が何と言っても西だ。」
「 南がいい。」
「 うるさい、北西だ、絶対に北西だ。」
「 だまれ、このくそがき!」
「 やかましい、この屁こき!!」
「 西だ、西だ、馬鹿野郎!!!」

みんな興奮して来ました。
それぞれが何の根拠もなく気分で言い出すので、会議は紛糾して来ました。
ホイ大臣は、大声で叫びました。

「 やめろ!!!」

古池にかわずが飛び込んだ後のような、静寂が訪れました。
ホイ大臣は、厳かに言いました。

「 このままでは、作戦がまとまらない。
古来より、戦の前には、戦勝祈願に神社に行って勝利の行方を占う、という言い伝えが外国にある。
残念ながら、三つの島には神社が無い。
しかし、占い師は一人おる。
なんじゃ山の裏に住む占い師のシミコだ。
素性ははっきりとはしないが、なんでも外国の大昔の有名な占い師のヒミコの子孫であると言っているらしい。
なんじゃ島民の何人かは、みてもらって見事解決したともいわれている。
シミコをここに呼んで、神の意見を聞こうではないか。」
「 おお、そうだ、そうだ、それがいい。」
「 神様が、言うなら絶対だ。」
「 そうしよう、そうしよう。」
「 おい、召使、ちょっと呼んでこい。
今度、遅れたらクビだぞ。」
「 はい、ちょっとお待ちを!」

召使は、シミコの所へ飛んで行きました。
ホイ大臣は、言いました。

「 召使が帰って来るまで、休憩!!」

時は、どんどん過ぎて行きました。
ホイ大臣は、怒りながら言いました。

「 くそ、あいつ、またサボっとるな!
もう、日が暮れかかっているぞ。
しかたがない、みんなでシミコの所へ行ってみよう。」

ホイ大臣と21人の兵隊たちは、王宮の苔むした裏門を後に、なんじゃ山の道無き道をかき分けて歩いて行きました。




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なんじゃもんじゃ物語 1-5 占い師シミコ

2006-06-26 09:55:30 | なんじゃもんじゃ物語
なんじゃもんじゃ物語 1-5 占い師シミコ


なんじゃもんじゃ物語 18

 お日様は、もう海の彼方に沈み、かわりにお月様がホイ大臣たちの行方を照らしていました。
鼻を垂らしながら、先頭を歩いていた男が、人差し指をさして言いました。

「 大臣、あそこに明かりが見えます、えへへ。」
「 あれがそうに違いない、ものども急げ!」

山賊になったような気分で、21人は答えました。

「 おーっ!!」

 月の光に青白く照らされたシミコの小屋の破れ目から、ちろちろと赤い火が見えました。
シュッ、シュッと何かを磨く音が聞こえて来ます。
小屋の中から、うめき声が聞こえて来ました。

「 う~、う~っ、あ~、あう、はあ、はあ。」

みんな気味が悪くなって、しり込みが始まりました。

「 おい、お前、入れよ。」
「 やだよ、お前こそ入れよ。」
「 俺は、だめだ。
シミコの家に絶対入るなと言う死んだおじいちゃんの遺言があるからなぁ。」
「 お前、この前言った遺言と違うじゃないか。」
「 うるさい、おじいちゃんは2回死んだんだ。
それより、シミコの所へ行こうと言い出した人が先頭に入ればいいじゃないか。」

みんなの視線が、いっせいにホイ大臣の方へ向きました。

「 わしは、今日はちょっと耳鳴りと頭痛がして。」
「 さっきまで、ホイ大臣元気だったじゃないですか。」
「 わしは、今日は、とにかく都合が、悪いんじゃ。」
「 だめ!!」

しかたなく、ホイ大臣は、シミコの小屋に近付いて行って、おそるおそる戸を開けました。
戸は、引っ張るとギーと言う音と共に開きました。
中を覗き込んだホイ大臣は、叫びました。

「 わーーーっ!!!!」

その声を聞いた21人は、クモの子を散らすように逃げてしまいました。




なんじゃもんじゃ物語 19

一人取り残されたホイ大臣は、戸口の所にしゃがみ込んでしまいました。

「 大臣様、大臣様。」

枯れて葉のなくなった小枝を擦りあわせた様なしわがれ声が聞こえて、ホイ大臣は、震える指と指のわずかな隙間から前に立っている物体を見上げました。
雪のように真っ白な髪が肩のあたりまで伸びて顔が隠され、所々破れた着物が青白い手を印象的にしていました。

「 大臣様、どうぞお入りくださいでございますじゃ。」

長く伸びた白髪を両手で暖簾のように左右にかき分け、人間の顔の道具は全て揃っているのだが、その一つ一つの相関関係があまりにも無造作に作ってある顔がのぞいていました。
ホイ大臣は、気味の悪い気持ちのまま勇気を出して言いました。

「 お、お前がシミコか?」
「 はい、大臣様。
あなたが今日ここに来る事は、朝の占いに出ておりましたんじゃ。
何を聞きに来たのかも、分かっておりますじゃ。」

まともな会話をしていることが分かり、ホイ大臣は気を取り直しました。

「 そ、それじゃ、入ろう。
しかし、さっきの、あー、あうーと言う声は、一体なんだ?」
「 はあ、それはですじゃ。
昨日、ニーポン国から物質電送機で取り寄せたインスタントラーメンを食べまして、何だかお腹の調子が悪いんですじゃ。
今も、ちょっと苦しいんですじゃ。
ああ、お腹の中でラーメンが暴れている。
うわー、トイレ、トイレじゃ。」

シミコは、小屋の裏に走って行きました。
ホイ大臣は、少し残っていた恐怖心をもう取り除いていました。

「 ふー、驚いた。
それにしても世にも奇怪な顔をしとるな。
フランケンシュタインと雪男と狼男を足して3.5で割ったような顔をしとる。
しかし、割と人の良さそうな男、いや女かな、シミコと言うから女のような気もするが。
まあいい、小屋の中に入ってみよう。」




なんじゃもんじゃ物語 20

小屋の真ん中には、なんじゃ島では何処の家に行ってもあるようないろりがありました。
しかし、その他のものは変わっています。
スイッチの付いた同じような四角い箱が沢山積み上げてあるのですが、どれも一つ一つ少しづつ違い一風変わった調和をなしていました。
小屋の中を珍しげに眺めていると、シミコが戻ってきました。

「 はー、少し治まったですじゃ。
それじゃ、大臣様、占いにとりかかりますじゃ。」

シミコは、腹をおさえヨタヨタといろりの側へ行ってぺたっと座りました。

「 大臣様、早くお座りなされ。」

ホイ大臣は、シミコと反対側に座りました。

「 占いをする準備に取り掛かりますじゃ。
今日は、1970年代バージョンで呼び寄せますじゃ。」

シミコは、ボタンだらけの四角い箱を取り出して一番上の左端のボタンを押しました。
いろりを中心に小屋が五倍に広がりました。
ホイ大臣は、空間が広がった事に眼を丸くしました。
次に、二番目のボタンを押しました。
デユーンと言う音がして、今まで何もなかった空間に、うっすらと人影らしいものが現れました。
1人や2人ではありません。
10数人ほどだったでしょうか。
霧が晴れて来るように、徐々にはっきりしてきました。
どの人間も1970年代に流行ったヒッピーらしい様相でした。
中心には、ギターを持った男やボンゴをかかえた男などが五人のグループを作っていました。
バンドの他にいる男や女は、現れるやいなや、床にへたり込んでしまい、口を半開きにして、トロンとした眼で天井を眺めていました。
その中で、顔中髭だらけの男が、よろよろと立ち上がりシミコに言いました。

「 やあ、シミコ、今日もやるのか。」
「 ああ、そうじゃ、マイダーリン。」

シミコは、並びの悪い黄色い歯を薄い唇の間からちらつかせて、ニヤッと笑いました。





なんじゃもんじゃ物語 21

「 ほんじゃー、行くか。
ワンツゥ~の Break out!!]

その声を合図にバンドの演奏がいっせいに始まりました。
山小屋をバラバラにしそうな程のビートのきいたベースギターは単調なそれでいて人間の意志を全て無視して、体がムズムズ動き出すようなリズムを奏で、ドラムの規則正しいインパクトのあるパッションは、天にもとどきそうなリードギターのシャープな響きとあいまって、なんじゃ島にはかつて無かったような別天地をつくりあげました。
次にシミコは、三番目のボタンを押しました。
床以外の部屋のまわりの全ての平面がスクリーンと化し、天井のコーナーにある色とりどりのライトが点滅を始めました。
天井には、無限に広がる星空がうつり、左右の壁には怪しい男女の影、前後の壁には、鏡の様に部屋の中の人物をうつし出しているのですが、その人物自身の動きとまったく違う動きをしていたのです。
さらに、シミコは、四番目のボタンを押しました。
天井の星は、無限の距離を持って遠ざかり、前後左右の壁の人影は立体的に見えるようになり、壁という概念が破壊され、遠くの方から走って来るもう一人の自分とぶつかりそうな感覚を膚に受けるほどになったのです。
部屋の中では、先程までうつろな眼差しをしていたどの目玉も、異様な光を放ち、一人、また一人と体を起こし、激しい音圧によって身をうたれ体をよじり、男も女も、また、シミコ自身もその長い白髪を振り乱し踊り始めました。
彼らの体に染み込んだ大麻タバコと異様な服から発せられる色の刺激と臭いと音楽が、あたり一面渦をまいて取り囲んでいました。
次にシミコは、いろり横の小箱から白い粉末の入っているビンを取り出し、紫色をした酒らしいものにぶち込んで飲み始め、踊っている者はそれを引ったくるように取って飲みました。

「 おい、大臣、飲めよ。」

顔中髭だらけの男が、隅の方にしゃがみ込んでいるホイ大臣に言いました。





なんじゃもんじゃ物語 22

ホイ大臣は、質問しました。

「 そんなの飲んで、死んでしまわないか?」

近付いて来た妖艶な女が、ラテンリズムに乗りながら言いました。

「 ちょっと気持ちがよくなるだけジャン。
とってもハッピーになりらりらん。」
「 よし、飲むぞ。
最近、ストレス溜まってるからなあ。」

ホイ大臣は、ぐっと一気に紫色の液体を飲み干しました。
甘いような辛いような刺激を舌に受けました。
しばらくすると、口の中と喉が溶鉱炉となって、胃のあたりから熱いものが徐々に上に登ってきました。
効いてきました、効いてきました。
ホイ大臣は、だんだん気持ちが良くなってきました。
なんじゃ王の人使いの荒さとクビ宣言に、毎日悩まされていたホイ大臣の精神が解き放されました。
今まで、隅の方にへたばっていたホイ大臣が、よろよろと立ち上がり両手を高々と上げVサインを掲げながら言いました。

「 こらー、お前らあ、わしを誰だと思ってんじゃ。
ホイ大臣様じゃぞー。
我々はー、断固戦うじょー。
ふむらむりな、分かったかー、お前ええ―。
何時も何時も、クビだ、クビだ、と言いやがって、あのなんじゃ馬鹿王め。
くそー、くそー、あほんだらあー。
ぼけー、ぼけー。」

ホイ大臣は、バンドのリズムにあわせて体がのりはじめました。
言葉が音楽に乗っかり始めました。

「 うわー、綺麗な天の川が見えてきた。
すうげえーーーー。
すうううげえーーーー。
ん、ん、ん、ん。
だー、だー、だー、ん。
わしが折角、ん、ん。
アラビアンナイトのハーレムを作ろうと言ったのにい。
あの馬鹿野郎、ボス、ん、バカボス。
絨毯作っちゃ、だめ、だめ。
絨毯じゃないでしょー、ボス、ボス。
馬鹿野郎、それは無いでしょう、ボス、ボス。
勘違いだよ、ボス、ボス。
とっても困って、ボス、ボス。
いえいー。
これだけが楽しみだったんだよ、ねえ、ねえ。
分かってくれよー、ねえ、ボス。
クソしてねろよ、ボス、ボス。
あー、あー、あー、ハーレム。
とっても、とってもハーレム。
へそかんで、くたばれ、ボス、ボス。
わあー、綺麗なねーちゃん、来る、来る。
わしの頭も、クル、クル。
こっちへおいでよ、来い、来い。」

ホイ大臣の体は、スイングしておりました。
踊り狂っている連中は、口々に叫びました。

「 よー、大臣、すげーじゃんよー。
話せるじゃねーかよー。」
「 仲間じゃんかよー。」
「 一緒に、やろうぜえー。」

さらに、追加の紫色の液体がまわし飲みされました。
ホイ大臣は、すっかり出来上がってしまいました。

「 わー、綺麗なねーちゃん。」

ホイ大臣は、綺麗なねーちゃんの方へ走って行きました。

ガツン!!

ホイ大臣は、壁にぶつかってしまいました。
それが、壁に映っている映像であることを理解していなかったのです。

「 うーん。」

ホイ大臣は、口から泡をふいて倒れてしまいました。




なんじゃもんじゃ物語 23

音楽は、まだまだ続いています。
さらに激しく、さらに強烈に、大地を破壊し、地球を壊滅させ、宇宙に存在する全ての物質を揺るがすように鳴り響いています。
より多くの紫の酒を飲んだ彼らは、自己の存在を実感し、彼らの言う、彼ら自身の崇高な悟りの境地へと導かれて行ったのです。
延々、数時間の狂気と混乱の時の流れの後、いよいよクライマックスが近付いてきました。
彼らは、口々にThe Fifth Dimension の Let The Sunshine In をある者は口ずさみ、ある者は狂ったように叫びました。
シミコも同じように叫んでいました。
シミコが、体をよじりながら足を踏ん張ってさらに大きく叫んだ時です。

「レット、ザ、サンシャイン、レット、……・・、あっ、あっ、きたー、きたー、きたー。
うわー。」

そうです、シミコは、インスタントラーメンで腹をこわしていたのです。
きたー、きたー、と叫びながら山小屋の裏のトイレに行こうと出口を探して部屋の中を走り回りました。
でも、周りはみんなスクリーンになっていて、出口が分かりません。
走り回っているうちに、倒れているホイ大臣の顔をぐちゃっと踏みつけました。
はっと、ホイ大臣は気が付きました。

「 なに、なにー、北、北だと。
そうか、北か、北から攻めればいいんだな。
神のお告げはくだった。
早く王宮に帰らねば。」

ホイ大臣は、壁にぶつかりながらも、やっと出口を見つけシミコの小屋から飛び出したのでした。





なんじゃもんじゃ物語 24

ホイ大臣は、王宮への帰り道、だんだんと薬が切れてきてはっきりし始めた頭で考えました。

「 家来は、みんな逃げてしまいよるし、帰ったら、お仕置きだ、ブツ、ブツ。
それにしても、とんでもない奴等だった。
さっきの不思議な現象は、いったい何だったんだろう。
シミコは、物質電送機とか言っていたな。
そうか、人間が急に現れたのは、それだな。
70年代とも言っていたぞ。
過去の人間も呼び出せるのかな。
くそっ、道が分からん。
物質電送機だったら、王宮まで電送してくれと言えばよかったな。
いや、まてまて。
一秒もあんな所にいるのはこりごりだ。
しかし、あれが一台あればいいなあ。
いや、まてよ。
そうだ、思い出した。
二年前、ホンジャ大学から物質電送機や他の機械が、倉庫ごと盗まれた記事がかわら版に載っていたぞ。
迷宮入りしたが、きっとあれに違いない。
さすが、我が国が誇るワールシュタットヒンデンヅルグ教授、わしにもあんなのを作ってもらおう。
たいがい、予定の物じゃ無い物を作ってしまうので、蝿叩きとかを依頼しておけば、もっと凄い物を作ってくれるぞ。
あっ、あの召使は、何処へ行ったのだ。
帰ったら今度こそ、飛び膝蹴りを食らわせてやるぞ。
それにしても、最後に出てきた女の子は好みだったのに惜しい事をしたな。」

王宮に戻ったホイ大臣は、いよいよ総攻撃の号令を発するべく、例の塔の上へ駆け上りました。
そして、大声で叫びました。

「 ゼイゼイ。
全なんじゃ国民に告ぐ。明日の日の出とともに、我々は、我々の、進歩を勝ち取るため、ホンジャ島の北側より総攻撃を開始するうー。
うにゃー、ふにゃー。」

ホイ大臣は、塔の上で寝込んでしまいました。
薬の副作用が現れてきたのです。
空には、この一部始終をみていた満月が浮かんでいました。
そして、なんじゃ王国の夜は、静かにふけていきました。




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なんじゃもんじゃ物語 1-6  (もんじゃ王国にて)

2006-06-25 11:00:09 | なんじゃもんじゃ物語
なんじゃもんじゃ物語 1-6  (もんじゃ王国にて)


なんじゃもんじゃ物語 25

(もんじゃ王国地下室)

 ホイ大臣が、塔の上で寝込んでいる頃、もんじゃ王国では、チカーメ大臣と五人の男が、王宮の地下にある部屋で秘密の相談をしていました。
ろうそくのゆらゆら揺れる火で、チカーメ大臣の顔は絶えず変化して、渦をまいた眼鏡の奥に光る眼は、黒く鋭く悪意に満ちていました。
机の上に広げられたなんじゃもんじゃ地図を指で押さえながら、チカーメ大臣は言いました。

「 このなんじゃ王国を倒すのは、たやすい。
しかし、なんじゃ王国を倒しても、どうせ私は大臣のままでしょう。
仕事も更に増えるし、給料を上げる交渉をしても何時ものように、のらりくらりと、うやむやになってしまいます。
お前たちの給料も、私の給料が上がらないのに上がる筈はありません。
これ、聞いてますか!!」

チカーメ大臣は、居眠りしている男たちに興奮して、思わず大きな声を出してしまいました。
そして、しまったと言う顔をして部屋を見まわして言いました。

「 おっとっと。
誰にも、聞かれてないでしょうね。」

大きな声は、二度、三度と部屋の中で響き、余韻を残して小さくなっていきました。
五人の男は、びくっとして背筋を伸ばしました。
チカーメ大臣は、五人の顔を一人ずつ確認しながら、普段より声を低めて言いました。

「 そこで、相談があります。
手っ取り早く言いますと、私はもんじゃ王を殺して、女王になります。
王女は、そなたたちで殺しなさい。
 もうすぐ、なんじゃ王国が攻めて来る。
今まで、平和過ぎてチャンスが無かったのです。
今回、長く待っていたチャンスがやって来ました。
この機会を逃したら、もう二度とありません。
 そして、次には、なんじゃ王国も併合してチカーメ王国をつくるのです。
成功した暁は、あなたたちとインフルエンザで休んでいる男とを、政府の要職につけてあげましょう。
給料も今までより、2倍にはしてあげます。
もし、嫌と言うなら、この場で射殺します。」

チカーメ大臣は、机の下に隠してあった拳銃を取ろうとしました。

「 あれっ、ない。
ない、ない。
何処へいってしまったんでしょう?」
「 チカーメ大臣、これですか?」

横に座っていた男が、拳銃をポケットから取り出しました。

「 何時の間に取ったんですか!
油断も隙も、あったもんじゃない。」
「 いや、さっき大臣が、喋っている時、床に落ちたので拾ってあげようと思っただけで。」
「 おだまり!!
どうせ、持って帰って売るつもりだったんでしょう!!」
「 あはは、ばれたか。」

チカーメ大臣は、拳銃をひったくって五人に銃口を向けました。
五人は、順に、うん、うん、と肯きました。

「 そう、みんなオーケーなのね。
それじゃ、今日の事は、他言してはいけませんよ。」

チカーメ大臣は、満足そうに、にやっと笑いました。





なんじゃもんじゃ物語 26


(もんじゃ王国王室にて)

「 た、た、た、た、た、た、たい、たい、たい、大変だべ!!
お、お、お、お、お、王様!!」

もんじゃ王国の漁師ポチが、片手に朝食のバナナ、片手でずり下がったモモヒキを引っ張りあげながら、もんじゃ王の寝室の扉を蹴破って入ってきました。

「 な、なんじゃ、お前は?
わしの寝間着姿は、亡くなった后にしか見せた事がないんじゃぞ。
お前は、わしの后になりたいのか!!」
「 ならせてくだせえますか?」
「 ヨーロッパあたりの開発途上国ならいざ知らず、わしは、その気は無いぞ。」
「 そうだか、おしかったなー。
ほな、さいなら。
モグ、モグ。」

漁師ポチは、朝食のバナナを食べて、ポイと皮を床に捨てて出て行こうとしました。
もんじゃ王は言いました。

「 おいこら、ちょっと待て!
まだ、急用を言っとらんぞ!!」
「 そうか、いや、別にたいした事じゃないんでございますだがね。
なんじゃ王国の軍勢が100万人ほど、ホンジャ島の北側から攻めて来てるだけの事でございますだ。」
「 なんだ、そんなことか。
ん、ん、な、な、なんと!!
それを早く言え、ばか。
おい、お前、チカーメ大臣を呼んで来い。」

その時、チカーメ大臣が辞書をお盆代わりにして、モーニングコーヒーを持って部屋に入って来ました。

「 どうなされたのですか、王様。」
「 なんじゃ王国が攻めて来たぞ、チカーメ大臣。」
「 ひえっ!!」

漁師ポチの捨てたバナナの皮に滑って、チカーメ大臣は毒入りのコーヒーをカップごと床に落としてしまいました。
そして、床にひっくり返って、腰を打ってしまいました。

「 こんな所に、バナナが。
いてててて、腰を打った。」

チカーメ大臣は、腰をさすりながら、心の中で考えました。

「 しまった、こぼしちゃった。
あれっ、漁師ポチがいる。
危なく、殺す所を見られる所だったわ。
なんで、こんな時に、ここに居るの、ばか・・・・。
なんじゃ王国が、今日攻めてくることは、なんじゃ王国に潜入させてあるスパイから聞いて知っているわ。
今、もんじゃ王を殺しておいて、なんじゃ王国が攻めて来た時、戦場でほっぽり出しておけば、誰が見ても戦死と思うでしょうに。
毒入りコーヒーもこぼしちゃったし、拳銃は音が聞こえるし。
漁師ポチは、しぶといから殺しても、一週間は死なないわ。
でも、もう時間がないわ。
…………・。
ええい、もう後回しだわ。
とりあえず、戦いに勝たなければ。
もんじゃ王国が負けて潰れれば、大臣のポストも危ないわ。」





なんじゃもんじゃ物語 27


もんじゃ王が言いました。

「 おい、何だ、これは霧か、朝もやか、公害か?」

チカーメ大臣が、さっきこぼした毒入りコーヒーは、床を溶かしてモクモクと煙を出していました。

「 王様、朝霧でございます。」
「 ゴホン、ゴホン、最近の霧は眼にしみるなあ。」
「 ゴホン、本当にそのとおりでございま、コホン、すわ。」

モヤがうっすらと晴れて来ますと、床に大きな穴が開いていました。
チカーメ大臣は、とっさに側にあったテーブルを引っ繰り返して穴の上に置き、誤魔化したのであります。

「 ふー、危なかったわ。」
「 何か言ったか、チカーメ大臣?」
「 いえ、何でもありません。
それより、早速防衛対策をいたしましょう。
部下の六人は、それぞれ特技を持っております。
あっと言う間に、なんじゃ軍を打ち負かしてくれます、では。」

チカーメ大臣は、部屋を大股で急いで出て行きました。
もんじゃ王は、満足げにつぶやきました。

「 ほんに、頼りになる奴じゃのう。」





なんじゃもんじゃ物語 28


チカーメ大臣は、ちぎれて短くなったもんじゃ軍呼びだし紐に一生懸命飛びついていました。
紐が短くって、なかなか引っ張れません。
いつのまにか、漁師ポチが、それを見ていました。

「 柳に飛びつくカエルみたいだんべ。」
「 ばか、ただで見ないでちょうだい。」
「 でも、おもろいだんべ、10もんじゃ払うから、もっとやるだんべ。」
「 お金を貰ってる場合じゃないわ。
これよっ!!
この紐はもんじゃ王国の命運を背負った紐なのよ。
見てないで、手伝いなさい。
あはははは。
私の足を引っ張るんじゃない。
くすぐったいじゃないの。
紐、紐よ。
ばか、自分のモモヒキの紐を引っ張ってどうするの!
変な物、出さないで。
これよ、これっ!!」

ようやく、漁師ポチは、紐に飛びつき呼び出しの鐘が鳴りました。
チカーメ大臣は、漁師ポチを見ながら言いました。

「 はー、時間がかかる。
もーいいから、ポチ、どっか行きなさい。」
「 面白そうだから、もうちょといるべ。」

そこに、待機していたチカーメ大臣の五人の部下が入って来ました。
チカーメ大臣は、言いました。

「 また、一人足りないけど、どうしたの?」





なんじゃもんじゃ物語 29


「 今度は、」
「 歩けなくなるほど、」
「 ひどい、」
「 悪性の、」
「 水虫、」

そこで、五人はじゃんけんをしました。
第一の男が、勝ち残って言いました。

「 です。」
「 まあ、いいわ。
作戦変更よ、先になんじゃ王国をぶっ潰すのよ。
殺すのは、それから。
なんじゃ軍は、ホンジャ島の北側から攻めて来たわ。」
「 100万人だべ。」
「 わっ!!
漁師ポチ、お前まだいたの。
なんじゃ島民は、全部で50人ほどよ。
100万人もいるわけないでしょ。
もう、人手不足だから、お前も欠席者一名の代わりよ。
一緒に戦いなさい。」
「 おらは、乱視で人間がたくさん見え…。」
「 うるさい!!
おだまり、漁師ポチ!
あんたが喋ると話しが混乱する。
それで、ホンジャ島の北側は崖になっている。
崖の上から石を転がし、なんじゃ軍を蹴散らして、その勢いでナンジャ王国を一気に攻め取るのよ。
分かった!!」
「 はい、分かりました。」

第一の男が、一人で喋ってしまいました。
残りの男の拳骨が飛んで来て第一の男の頭にコブが五個できました。
第一の男は、頭をさすりながらいいました。

「 一つ多いぞ、ばか。」

みんなの視線はチカーメ大臣に行きました。
でも、チカーメ大臣ではありませんでした。
チカーメ大臣は、漁師ポチを指差して言いました。

「 あれ、あれよ!!。」
「 みんなやったから、おらも一緒に。
付き合いがいいのが、」

漁師ポチが、喋っている途中に頭にコブが増えていきました。
五人は言いました。

「 それでは、」
「 チカーメ大臣、」
「 行って、」
「 まいり、」
「 ます」

そこで、何時もどおり六人目の男が喋る分を、じゃんけんをして決めました。
第三の男が勝ちました。
しかし、第三の男は苦しみだしました。
言う事が無くなってしまったのです。
しばらく苦しんでいて、やがてハッと気がついて笑顔が現れました。
そして、大きな声でいいました。

「 まる。」



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なんじゃもんじゃ物語 1-7ホンジャ島北壁にて

2006-06-24 11:42:00 | なんじゃもんじゃ物語
なんじゃもんじゃ物語 1-7ホンジャ島北壁にて


なんじゃもんじゃ物語 30


(ホンジャ島北壁にて)

 ザザザザーン、チャポ、チャポ。
ザザザザーン、チャッポ、チャポ。
寄せては返す波が、激しくホンジャ島の北壁の崖にぶつかっていました。
海から切り立った50メートルも続く崖を、なんじゃ軍21人は、ぶつぶつと文句を言いながらよじ登っていました。

「 おい、我々はなんでこんな崖から攻めなければならないんだ?
こんな北側から攻めずに、なんじゃ島とホンジャ島を直接つないでいる橋から攻め込めばいいのに。
朝から、ずっと登っているぞ。」
「 それはそうだけど、何しろホイ大臣がシミコのお告げを信じ込んじゃってるから。
しかし、ひどい所だな。
あと20メートルも登らなければならないし…。
まだ、半分ちょいだぞー。
登ってから町に行くのに、まだ、かなり歩かなければ行けないし…。
もー、いや。
朝早くたたき起こされて、ねむいよー。」

ホイ大臣の声が、下の方から聞こえて来ました。

「 おーい、そこの2人。
話しなんかしてないで、早く登れ、ばか!!」

ホイ大臣は、波に揺れる舟にかろうじて立ち、メガホンを持ってなんじゃ軍を指揮していました。
 その様子を崖の上では、五人のもんじゃ軍と漁師ポチが眺めていました。
第一の男が言いました。

「 しかし、なんじゃ軍は、アホばっかりだなあ。
何で、こんな崖から攻めて来るんだ?
ホンジャ島となんじゃ島には、橋がちゃんとあるし、南から攻めても砂浜だから、ここより楽だと思うけど…。」
「 ホントだよなぁ。」
「 そうだべ、そうだべ。」

もんじゃ軍の五人は、チカーメ大臣の前では言葉を分けて話しをしていたのですが、チカーメ大臣がいなければ、普通に話しをしていました。





なんじゃもんじゃ物語 31


もんじゃ軍の五人と漁師ポチは、石を崖の上に準備しました。
第四の男が言いました。

「 早くやっつけてしまおうぜ。」
「 いや、まてまて。
高い所に登って来てから、落とした方が確実に勝てる。
折角、登って来ているんだから、もう少し登らせてやろうじゃないか。」
「 そうだべ、そうだべ。」
「 お前は、うるさいぞ。
10もんじゃやるから、あっちへ行け、ばか。」
「 20もんじゃやるから、ここにいさせて。」
「 ほっとけ、ほっとけ、相手になるな。
アホが、うつるぞ。」
「 なんだべ?」
「 いや、何でもない、何でもない。」

もんじゃ軍の五人は、タバコを吸い始めました。
漁師ポチは、タバコが無いから木切れに火をつけて、口にくわえました。
空は薄暗く、少し風が出て来ました。
五人は崖っぷちに座って、眼下に広がるはてしない海、はるか下に見える幾つかの小舟、遠くの方から段々と近寄って来て岩にぶつかり白く砕け散る海のうねり、その雄大な自然の力に圧倒されそうになりながらも、じっと耐えて登って来るなんじゃ軍の21人の姿を見ていました。
風が、段々強くなって来ました。
しかし、それにもめげず蟻のように力強く少しづつ、少しづつ上へ上へとなんじゃ軍は登って来ます。
そんななんじゃ軍の姿を見ていると、時間が経つに従って、落としてしまうのが可哀相な気持ちが五人の頭の中に広がっていきました。
なんじゃ軍が、あと少しで登り切れると言う時に、五人の内の一人が言いました。

「 止めようか…・。」





なんじゃもんじゃ物語 32


  一方、なんじゃ軍は、崖を登ることに苦戦しておりました。

「 ふー、もうちょっとだ。
うわっ!!」

先頭の男が掴んだ岩が崩れました。

「 わーっ!!」
「 わーっ!!」
「 わーっ!!」

先頭の男が、ずるずると滑り落ちて行きました。
全員ロープで繋がれているので、21人が順にずるずる滑り落ちて行きました。
そして、崖の途中に突き出している大きな岩に引っかかりました。

「 ばかやろー、もうちょっとで上にあがれたのに!!」
「 掴んだ岩が、もろくなっていて崩れてしまった。」
「 また、崖の半分まで戻ってしまった、くそっ、このばか!」
「 いいかげんにしろよなあ、ばか!」
「 うるさい、ばか、ばか言うな。
そんなに言うのなら、お前が先頭を登れ、このばか!」
「 落ちておいて、なに言ってるんじゃ、このばか!」
「 やかましい!!」

なんじゃ軍は、崖の途中にある大きな岩の上で喧嘩を始めました。
海面に漂っている舟に立って、指揮をしていたホイ大臣がメガホンを使って大声で言いました。

「 こらあー、喧嘩をするな!!
もういい。
お前らに任せておれん。
わしが行くぞ。
ロープを降ろせ。」

ロープがするすると下に降ろされました。
ホイ大臣は、ロープを体に巻き付けて言いました。

「 引っ張りあげろ!!」

岩の上のなんじゃ軍は困った顔をしました。

「 おい、引っ張りあげろって言ってるぞ。」
「 自分で上がって来いよなあ。」
「 もー、面倒くさい。」
「 崖の上から21人全員で引っ張りあげりゃ楽なのに。
こんな狭い岩の上じゃ足場が無いから、三人ぐらいでしか引っ張りあげられないぞ。」
「 どうする?」
「 どうしよう…・・。」

舟の上でいらいらしているホイ大臣が、叫びました。

「 早くしろー、このー!」

仕方が無いので、なんじゃ軍はホイ大臣を引っ張りあげる作業に取り掛かりました。





なんじゃもんじゃ物語33


 なんじゃ軍は、ホイ大臣を何とか崖の途中の大岩まで引き上げました。
ホイ大臣は、言いました。

「 わしが来たから、もう大丈夫だ。
わしが先頭を登る。
しっかりロープをつけておけ。」

なんじゃ軍は、ロープを腰にしっかりとつけました。
再び、なんじゃ軍は崖を登り始めました。
それを見ていた崖の上のもんじゃ軍の五人は相談していました。

「 おい、また登り始めたぞ。
下に降りて、橋から来ればいいのに。」
「 ほんとだよな。」
「 上まで来たら、石と一緒に、また海に落ちるのにな…。」

眼下に広がる海を背景に、少しづつ登って来るナンジャ軍をもんじゃ軍は、ぼんやりと見ていました。

「 あっ、危ない、あいつもっと右の岩を掴めばいいのに。」
「 ほんとだな、右手が届きそうだ・・・・。」
「 ・・・・・・。」
「 ・・・・・・・。」
「 ・・・・やめようか。」

もんじゃ軍の五人は、置いてある石の横に座り直して相談を始めました。

「 石を落とすのは、やめようか。
俺たちは、こんな卑怯な方法を使わなくても勝てるじゃないか。
正々堂々と刃を交わらせるのが武士道だ。」
「 そうだな、そうしよう。」
「 べつに殺さなくっても、まいったと言わせておけばいいんじゃないか?」
「 それも、そうだな。」
「 あれじゃ、なんじゃ軍は崖を登りきったところでバテバテだから、ここで休憩して野営になるだろう。」
「 あいつらのことだから、そうだろな。」
「 今日は、もう町には攻めてこないな。
明日の朝、正々堂々と戦おうじゃないか。」
「 石で殺すのはやめよう。
明日、まいったと言わせて懲らしめておけば殺さなくても済むしな。」
「 そうしよう。」
「 そうしよう。」






なんじゃもんじゃ物語34


  その話しを聞いていた、漁師ポチが言いました。

「 言ってやろ、言ってやろ。
チカーメ大臣に言ってやろ。
ばらしたら、きっと何か御褒美を貰えるなあ。」

五人は、即座に円陣を組み、漁師ポチの方を指差したり、ちらっと見たりしました。

「 何の相談だんべ?」
「 それっ!!」

その言葉を合図に五人は漁師ポチに近づき、みんなで一斉に崖の方へ蹴っ飛ばしました。

「 おっとっとっと、とっとっとっ。」

漁師ポチは、前のめりになって崖から身を乗り出しました。
そこに運悪くホイ大臣が、崖から顔を出しました。

「 ふう、やっと登れたぞ。
や、やや。
うわっ!!
こっちへ来るな、ばか。」
「 そんなこと言ったって、止まらないだんべ。
あ、あああ、あ、あ。」
「 うわっ!!」

漁師ポチは、もう少しで崖の上に登り切れるホイ大臣の体にしがみつきました。

「 はあ、止まったべ。」
「 ばか、早くどけ、重いいい。」
「 何べ?」
「 も、もう、だめだあ。」

ホイ大臣は、漁師ポチの重さに耐え兼ねて崖の岩から手を離してしまいました。






なんじゃもんじゃ物語 35


 ホイ大臣と漁師ポチは、抱き合って崖から落ちて行きました。

ひゅ~~っ。

ホイ大臣の後ろから崖を登ってきた兵士が言いました。

「 おい、今、落ちてきたのは、先頭に登っていたホイ大臣じゃなかったか?」
「 そのような気がしたけど。
何か変な物が、くっ付いて来たようなも気がするぞ。
すれ違った時、こっちの方を見てニタッと気持ち悪く笑っていた様な感じだったが。」
「 うーん?
あら、あらら、ホイ大臣ロープを付けたままじゃなかったか?」
ほら、このロープ。」
「 そうだ、早くほどいて、うわっ。」
「 うわっ。」

ひゅ~~っ。

下の方から登ってきた兵士が、上を見上げて言いました。

「 何か、落ちてきたぞ。」
「 こんちわべ。」
「 な、何だ。」
「 ホイ大臣が変な物にくっ付かれて落ちた!
みんな、岩にしがみ付けぇ!!」

なんじゃ軍は、崖の岩に必死にしがみつきました。
しかし、なんじゃ軍は、上の方から順に岩から剥ぎ取られて行ったのです。
最後には、ロープ一本に繋がれたなんじゃ軍は、上に登るという意志に反して、下へ下へと空中を急いだのでありました。
ホイ大臣が、この事態を何とかしようと叫びました。

「 飛べーっ、飛べーっ!!」
「 何か、ホイ大臣が言ってるぞ。」
「 飛べだって。」

なんじゃ軍は、一斉に手足を広げて鳥のようにパタパタさせました。






なんじゃもんじゃ物語 36


 崖の上から見ていたもんじゃ軍の五人は言いました。

「 漁師ポチの奴、一人で落ちればいいものを。」
「 せっかく正々堂々と戦おうと誓ったのに、どんどん落ちていくぞ。」
「 しかし、なんじゃ王国の大臣も大臣なら、部下も部下だな。
 一生懸命に手足を、鳥のようにばたばたさせとるじゃないか。
 あーあっ、全部落ちちゃった。」
「 もう、なんじゃ軍も全滅だな。
 早くもんじゃ王宮に戻ってチカーメ大臣に報告しよう。
 褒美がたくさん貰えるぞ。」
「 そうだな、もう、なんじゃ王国の王宮には、なんじゃ王と王子しかいないから、
 たいしたことはない。
 先に、なんじゃ軍が全滅したことで褒美を貰ってから、
 後でなんじゃ王と王子を捕らえれば、もう一回褒美を貰えるぞ。
 もう一度、全滅を確認してから、帰ろう。」

五人が、崖の下を覗き込みました。

「 あれっ、あれを見ろ!」

海面に一人、また一人となんじゃ軍が浮かんできます。
それが、誰一人として傷を受けている様子もありません。
おまけに、漁師ポチまで、カエルの様に泳いでいます。

「 1、2、3、…・、おい、全員生きているじゃないか。
 恐ろしい奴等だ、普通、この高さから落ちれば、一発コロリなのに、死なないぞ。
 とんでもない生命力だ、アメーバと互角だ。
 帰るのは、止めだ。
 こんな奴等が、なんじゃ城に立てこもれば、我々はひどい損害を被るに違いない。
  この状況では、作戦の立て直しで、なんじゃ軍は、いったん城に戻るだろう。
 幸い、奴等は、海路で城に戻るしかない。
 我々は、陸路で行けば、奴等より早くなんじゃ城に到着できる。
 城には、なんじゃ王と王子の二人しかいないから、占領するのはたやすい。
 二人と城を取れば血を流さずに奴等も降伏するだろう。」
「 それがいい、早速出発しよう。」

その言葉が終わるか終わらないうちに、五人の姿は崖の上から、かすかな砂塵を残して消えていました。






なんじゃもんじゃ物語 37


一方、なんじゃ軍は、海面を漂っておりました。
ホイ大臣は、叫びました。

「 おーーい、みんな大丈夫かあー!」
「 大丈夫だベ。」
「 やや、お前は、わしにくっ付いてきた奴。
お前は、何者だ。」
「 漁師のポチだべ。
生まれは、ホンジャ島の浜辺だベ。
おとーちゃんは、漁師だべ。
おかーちゃんも、漁師だベ。
おじーちゃんも、漁師だべ。」
おばーちゃんは、・・。」
「 漁師だろ。」
「 残念、海女。
ひいじーちゃんは、・・。」
「 ええい、うるさい。
お前の家族の話しをしている場合じゃない。」
「 何をかくそう、生まれてからずっと、漁師を、・・」
「 もういい、先に進まん、だまれ。
漁師ポチ以外の者、みんな生きているかー。」
「 ホイ大臣様、生きてますうー。」
「 生きてますよおー。」
「 崖を登って汗をかいたから、海で泳ぐときもちいいですうー。」
「 クロールの練習してますうー。」
「 おおみんな、無事か。
さすが、我がなんじゃ軍。」
「 わしも、生きてるべ。」
「 だまれ、漁師ポチ。
お前のせいで、作戦を失敗したじゃないか。
もういい、お前も我が軍を手伝え。
なんじゃ城に帰って、作戦を立て直すぞ。
シミコに頼ったのも失敗じゃった。
あれっ、舟は、何処だ?」
「 流れて行ったべ。」
「 ええい、もう、仕方が無い。
泳いで帰るぞ。
みんな、気合を入れろー。」
「 おーっ!!」

なんじゃ軍は、もんじゃ軍の予想通り、ホイ大臣を先頭に、一列にロープを付けたまま、なんじゃ城へ向かって遠泳を始めたのでした。




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なんじゃもんじゃ物語 1-8 なんじゃ城にて

2006-06-23 12:56:38 | なんじゃもんじゃ物語
なんじゃもんじゃ物語 1-8 なんじゃ城にて


なんじゃもんじゃ物語 38

(なんじゃ城にて)

 もんじゃ軍の五人は、なんじゃ城への道を急いでおりました。
ホンジャ島となんじゃ島をつないでいる橋を過ぎると、今まで完全舗装のアスファルトの道にかわって、野草の咲く砂利道になりました。
そして、人目に付くなんじゃ町を迂回して避け、足の裏にゴツゴツした石ころの感触を感じながら、なんじゃ城への坂道を登っておりました。
数分後、五人は、もんじゃ城とは比べ物にならないくらい、荘厳で豪壮ななんじゃ城に到着しました。
 戦いの最中だと言うのに、なんじゃ城は静かでした。

「 今まで、馬鹿にして、来たことが無かったけれど、すげーなあ。」
「 昔は、なんじゃ王国の方が、力を持っていたらしいぞ。
 いつのまにか、しょぼくれてしまったけれど。」
「 なんか、静かだな。」
「 みんな、戦いに出て行ってしまって、やはり、人がほとんどいないな。」
「 なんじゃ王のことだから、城門さえ閉めておけば大丈夫だと思って、昼寝でもしてるんじゃないかな。」
「 なんじゃ王国だから、そんなところだろ。」
「 まあ、話しはそれくらいにして、早く占領してしまおうぜ。
 それにしても、入りにくい城だな。
 周りの掘は水がたっぷりで深そうだし、城の中に水源があるのかな?
 城門は閉まっているな。
 それに、城門の前にある、堀を渡る橋も跳ね上がってしまっているし渡れない。
 堀を泳いで行っても、城壁が切り立っているから滑って登れない。
 困ったな、…。
  開門、なんて叫んでも、我々がなんじゃ軍では無い事は、
 どんな馬鹿が見ても分かるしな。
 困ったな、どうする?」
「 うーん、弱ったな。」
「 そうだ、堀の水の中を潜って、城の下水から入ったらどうかな。
 案外、目に見えない所は、手薄かもしれないぞ。」
「 そうだな、試してみるか。」

青く澄んだ堀の一部に、水底の泥を巻き上げてどす黒く濁っている部分がありました。
そこに向かって、一人が水しぶきを上げて飛び込みました。
そして、下水の出口には、柵も何も無い事を発見したのでした。





なんじゃもんじゃ物語 39


 堀に飛び込んだ男が叫びました。

「 おーい、柵はないぞ、おそらく、台所まで行けると思う、早く来い。」
「 よし!!」

残りの男も堀に飛び込みました。
ドボン、ドボン、ドボッ、ドボン。

「 うおっ、冷てえなあ。」
「 文句を言うな、さあ、行くぞ、息を大きく吸って。
 しばらく、息ができないぞ。」
「 いち、にいの、さん、それっ。」

五人は、堀に潜りました。

「 ぼこぼこ、ぼこ。」
「 ごぼごぼ、ぶくっ、ごぼり、げほっ、げほっ。」
「 ごぼ、ごぼごぼぼ。」
「 げぼ、ぼくぼく、ごくっ。」
「 ずぼっ、ずぼずぼ、あぼ、ぼけぼけ。」
「 ぼこ、ぼこぼこ。」

第三の男が、目を白黒させました。
 なんじゃ城では、召使が掃除を命じられていました。

「 もう、ホイ大臣の奴、ちょっとサボったからって、城中の掃除をお仕置きにするなんて。
 ああ、もう、腹が立つ、くそっ。
 それにしても、この台所の下水、詰まってしまって水が流れないぞ。
 このぉ、このぉ、何か詰まっているみたいだ?」

 なんじゃ城の召使は、直径90cmもある下水口に、大きなゴムの吸出しをあてて奮闘しておりました。
ずぼっ、ずぼずぼ。

「 はあー、やっと流れた。」

召使が、水が流れてホッとした後、突然、真っ黒い人の頭がみかんの皮と一緒に浮かび上がってきました。

「 えっ?
 えっ??
 うわあー、王様ぁ、変な者がぁ!!」

召使は、なんじゃ王の所に走って行きました。





なんじゃもんじゃ物語 40


もんじゃ軍は、一人、また一人となんじゃ城の台所に侵入しました。

「 おい、このグラタンうまいぞ。」
「 このコーヒーは、ブラジルだぞ。」
「 こらっ、ものを食っている場合ではない。
早く、占領するんだ、行くぞ。
おやっ、一人足らんぞ?
どうしたんだ、探せ!」
「 あっ、足が下水の穴から出ているぞ。
それっ、引っ張れ!」

ズルズルズル。

「 あっ、こいつ、水中で俺に話し掛けた馬鹿だ。
口から泡を吹いて気絶してやがる。」
「 おいっ、眼を覚ませ、おいっ、こらっ。」

両手でぺたぺた顔を叩きました。

「 うーん、あっ、おはよう。
ゴホン、ゴホン。」
「 何が、おはようだ、水中で喋る馬鹿があるか。
何を、喋っていたのだ?」
「 喋ってなんかいるもんか。
俺は、泳げない事をすっかり忘れていた。
調子に乗って飛び込んでしまって、大失敗。
助けてくれって言ったんだ。
こいつ、俺が溺れているのに、足を引っ張りやがった。」
「 いやー、俺はてっきり体が浮くから、引っ張ってくれと言ってるんだと思った。
ははは、許せ、許せ。」
「 もう少しで、溺れ死ぬところだった、ばかやろー。」
「 まあまあ、押さえて押さえて、とにかく城に潜入できたじゃないか。
そんなことより、早く、なんじゃ王を探すんだ。」

五人は、下水を滴らせながら、なんじゃ城の分厚い絨毯の上を走ってなんじゃ王を探しました。
大広間を通り抜け、無数にある部屋を調べて、奥へ奥へと急ぎました。
すると、一番廊下の奥にある金の取っ手のある部屋から声が聞こえてきます。

「 王様、王様、昼寝なんてしている場合ではありません。
変な者が、下水から上がってきたのです、王様。」
「 うるさい、人が気持ち良く昼寝をしているのに。
うるさあい、だまれ。」

五人は、その声を聞いて剣を準備しました。

「 踏みこめえ。」

五人は、一斉に王室の扉を押し開け、猛虎のごとく突入しました。





なんじゃもんじゃ物語 41


 召使は、突入してきたもんじゃ軍の五人に驚いて、蛇に見つめられたカエルの様に立ちすくみました。
召使は、たいしたことがないことを見て取った五人は、なんじゃ王のベッドを取り巻き、剣を突き付けて言いました。

「 おい、なんじゃ王、起きろ。
 こらっ、なんじゃ、起きろ!」
「 あーあ、なんじゃ王に向かって、なんじゃとは何じゃ。
 おりゃ、見かけない顔だな、誰じゃ?」
「 なんじゃ王、我々は、もんじゃ軍だ。」
「 何じゃとて!」
「 我々は、今、あなたを捕虜にした。
 動けば、あなたに、剣が突き刺さります。
 言っておきますが、ゾウリムシの術は我々には通じませんぞ。」
「 くそっ、仕方が無い。
 いまさら、じたばたしても見苦しい、どうなとするがいい。」
「 さすが、なんじゃ王、物分かりがいい。
 王子は、何処だ。」
「 そのへんで、遊んでおるじゃろう。」
「 俺は、ここでなんじゃ王と召使を見張っている。
 四人で手分けして王子を探してくれ。」
「 よし、分かった。」

 四人は、手分けして城の中を捜しました。
しかし、塔の天辺から地下の倉庫まで探したのですが、王子は見つかりませんでした。





なんじゃもんじゃ物語 42


四人が全員戻ってきました。
なんじゃ王と召使を見張っていた男が言いました。

「 おかしい、王子は今まで一度も城から出た事は無いと言う噂を聞いている。
絶対、いる筈だ。
さては、なんとか虫の術を使っているかもしれないぞ。
もう一度、探すぞ。
俺と見張りを代わってくれ。」

再度、もんじゃ軍は、なんじゃ城の中をくまなく探しましたが王子は見つかりませんでした。
王室に集まった五人は、なんじゃ王に言いました。

「 おかしい、なんじゃ王、何処に王子を隠した。」
「 馬鹿め、わしは目が覚めるまで、お前たちが来た事など知らなかったのだぞ。
隠しているだけの時間が、何時作れたと言うのだ。」

なんじゃ王は、捕虜であると言う事を跳ね返すような自信に満ちた声で答えました。
なんじゃ王にとって、王子が見つからなかった嬉しさは、たとえようも無く大きなものでした。
五人は、相談を始めました。

「 くそっ、なんじゃ軍がそろそろ帰って来るだろうし、城から出て王子を探しに行く訳にはいかない。
王子が見つからなかったなんて、チカーメ大臣に言ったら、鬼のような形相で真っ赤になって罵倒の言葉を止めど無く、あの大きくて歯並びの悪い下品な口をパクパクさせて言うに決まっている。
最後には、給料を値切るんだ。
手におえないくらい、抜け目がないんだから。」
「 どうする?」
「 見つかった事にしておこう。
なんじゃ軍を降伏させてから、なんじゃ王一人をもんじゃ城に連れて行けばいい。
王子は、なんじゃ城の地下牢に放り込んで監禁してあるとでも言っておこう。
連れて来い、なんて言ったら、またその時誤魔化し方を考えよう。」
「 なんじゃ王は、喋らないかい?」
「 喋る筈が無いさ。
王子がまだ見つかってないなんて言ってみろ、チカーメ大臣は目を血走らせて三つの島中くまなく探す事だろうよ。
そうすりゃ、王子は今までよりも、もっと危険な状態に陥る事になるだろ。
なんじゃ王は、一応、賢そうに見えるから、そのくらいの事は分かるさ。」
「 わしは、本当に賢いぞ。
そんな事ぐらい、王子がいないと分かった時に、さっと閃いたわい。
今頃分かるとは、馬鹿な奴等じゃ。」
「 うるさい、なんじゃ王、鼻噛んだろか。」
「 そう興奮するな、大事な人質じゃないか。
もうそろそろ、なんじゃ軍が帰って来る頃だぞ。」

第三の男が、窓に近寄ってなんじゃ城へ来る道を目を細めて見ますと、モクモクと土煙を巻き上げて帰って来るなんじゃ軍の集団が見えました。

「 おい、みんな、来たぞ。
なんじゃ王と召使をベランダに出せ、急げ。」

もんじゃ軍の五人は、なんじゃ軍の帰還を待ちました。






なんじゃもんじゃ物語 43


(なんじゃ軍、なんじゃ城に到着)
なんじゃ軍は、ホイ大臣を先頭に捕虜の漁師ポチを連れて、なんじゃ城に急いでおりました。
ホンジャ島の北から海を遠泳し、なんじゃ島の西から上陸した後、陸路で森の中を走りました。
ホイ大臣は、漁師ポチに言いました。

「 早く走れ。」
「 もう、くたびれたべ。」
「 捕虜のくせに口答えするな。
なんじゃ城まで、もう直ぐだ。
それにしても、こいつの為にひどく時間を浪費した。
海で泳げば、イルカと遊ぶし、走らせると直ぐにひっくり返るし、とんでもない奴を捕虜にした。
もう、早く走れ、このー。」
「 はあ、はあ、はあ。」

森を抜けると、青い空を背景にしたなんじゃ城が、徐々に見えてきました。
先頭を走っていた、ホイ大臣がなんじゃ城を見て声を上げました。

「 おや、あのベランダに出ているのは、王様じゃないか?
わざわざ、出迎えてくれているぞ。
急いで帰るぞ!!」

なんじゃ軍は、なんじゃ城の前の広場に到着しました。
ホイ大臣が、なんじゃ王に向かって叫びました。

「 王様、出迎えありがとうございます。
橋を降ろして、城に入れてください。
作戦の立て直しをいたします。」

そのとき、なんじゃ王の後ろから、剣を持ったもんじゃ軍の五人が現れました。
ホイ大臣が、驚いて言いました。

「 お前たちは、何者だ。」

もんじゃ軍の第一の男が、なんじゃ王に剣を向けて言いました。

「 我々は、もんじゃ軍の特殊部隊だ。
ふふふ、戻って来るのが遅かったな。
我々は、既になんじゃ城を占領した。
なんじゃ王も捕虜にしたぞ。
速やかに降伏しろ。
お前たちは、既に包囲されている。」





なんじゃもんじゃ物語 44


 なんじゃ王を捕虜にされ、その上包囲されていると言われてなんじゃ軍は動揺しました。

「 俺たち包囲されているらしいぞ?」

なんじゃ城の前の広場にいるなんじゃ軍は、周りをきょろきょろ見回しました。
広場の周りは、森に囲まれていましたが、人影は何処にも見えませんでした。
ホイ大臣は、もんじゃ軍に叫びました。

「 何が、包囲されているだ、誰もいないじゃないか。
もんじゃ軍の、嘘つき!!」
「 うるさい、お前たちは包囲されているのだ。
足元を見ろ、足元だ。」

ホイ大臣は、足元を見ました。
足元には、蟻がウロウロしていました。
なんじゃ軍の第一の男の声が響きました。

「 我々は、特殊部隊だ。
我々は、蟻を自由に操る事が出来るんだぞ、まいったか。」

なんじゃ軍の第四の男が第一の男に言いました。

「 おい、お前、本当に出来るのか?
お前とは、長い付き合いだけど初耳だ。」
「 シッ、黙れ、これは、計略だ。」

第一の男が、ホイ大臣に向かっていいました。

「 とにかく、降伏しろ!!
お前たちは、包囲されている。」
「 もんじゃ軍の奴等、本当に蟻を自由に操れるのか、試してみようじゃないか。
おーい、蟻に何か命令しろ、絶対動くもんか、この嘘つきめ。」

もんじゃ軍の第一の男が、蟻に命令を下しました。

「 蟻A,B,Cは、右に動け。
蟻D,E,Fは、左に動け。
蟻G,H,Iは、なんじゃ軍に近付け。
反対に蟻J,K,Lは、なんじゃ軍から離れろ。
その他の蟻は自由に動いてよろしい。
はい、スタート、GO!!」

蟻は、食物を求めて勝手にウロウロしていましたが、なんじゃ軍はもんじゃ軍に言われた通りに蟻の行動を理解してしまいました。
ホイ大臣に漁師ポチ、また、鍋や釜で身をかためたなんじゃ軍は、一斉にギャ、ギョ、ギュと驚きました。

「 本当だ、動いている。」
「 ホントだべ。」
「 うーむ、もんじゃ軍は、恐ろしい奴等だ。」
「 でも、ホイ大臣様、蟻なんて踏み潰しちまえばいいんじゃないですか?」
「 いや、待て待て、わしの話しをよく聞け。
わしは、子供の頃、飛び出す絵本で読んだ事がある。
アフリカの兵隊蟻は、たくさん集まって象をも倒すらしい。
一匹、二匹なら問題はないが、一斉にたくさんの蟻に攻撃されてみろ、象より小さい我々はひとたまりもないのは明らかじゃ。
おお、あの絵本を思い出す。
象が飛び出したページの、次のページを開いたら、細かい蟻の集まった塊が黒く巨大な蟻の形を作って、大きな象にたかっている絵が飛び出してきた時は、心臓が止まるくらい恐ろしかった。
蟻が来る、蟻が来ると三日間寝られなかった事を覚えている。
そんな蟻が、周りの森からゾロゾロ出て来るのだぞ。
ああ、恐ろしい、ああ、恐ろしい、うううう。」

ホイ大臣には、大きなトラウマが、心の中に残っていました。

「 ホイ大臣様、涙ぐんでいる場合では、ないんじゃないかえ。」
「 おっ、しまった、恐ろしい過去を思い出してしまった。
そうだ、我々には、人質の漁師ポチがいたではないか。
こいつで、なんとかこの場を逃れよう。
こら、ポチ、こっちへ来い、役に立つ時がきたぞ。」

漁師ポチは、なんじゃ軍の先頭に立ちました。





なんじゃもんじゃ物語 45


ホイ大臣は、なんじゃ城のベランダにいるもんじゃ軍に向かって叫びました。

「 やい、蟻が我々を襲えば、捕虜の、この男の命はないぞ。」

もんじゃ軍の第一の男が、ホイ大臣に言いました。

「 馬鹿め、そんな奴いらねえわ。
返してもらったら、こっちの迷惑になる。
早く降伏しろ、こっちには、なんじゃ王が捕虜なんだぞ。」
「 くそっ、こんな奴、連れてくるんじゃなかった。
もう、捕虜だと言うのにヘラヘラ笑って。」
「 何べ?」
「 うるさい、漁師ポチ。
こうなったら、残念だが、降伏するしか無いか…・。」

ホイ大臣が、躊躇していると、足元に蟻が一匹近付いてきました。
ホイ大臣は、その蟻を見て、過去のトラウマが頭の中で暴れだしました。

「 うわっ、蟻が来る、蟻が来るぞ、恐ろしい、うう。
この蟻、とりわけ獰猛な顔をしているぞ。
ひゃあ、顔に傷がある。
うわーっ、わしの毛脛を登ってきた。
降伏する、降伏するぞ、早く蟻を退けてくれー!!
もう少し、上まで来て噛まれたら、うう、恐い、早くぅ!!」

もんじゃ軍は、満足して言いました。

「 よーし、分かった、蟻を引き上げさせよう。
もう、お前たちは町に帰れ。
これからは、お前たちはもんじゃ王国の国民として暮らすが良い。
しかし、反乱などは考えてはいけない。
なんじゃ王は、我々の捕虜だということを忘れるな。
分かったなら、早々に立ち去れ。」

ホイ大臣の毛脛を登りかけていた蟻は、食物らしきものが無い事が分かったらしく、そそくさと毛を避けながら、地面へと戻って行きました。





なんじゃもんじゃ物語 46


ホイ大臣は、ホッとしてつぶやきました。

「 はあ、良かった。
蟻が来た時は、もう、どうなるものかと思った。
えっと、何だったっけ?」
「 ホイ大臣様、大丈夫ですか?」
「 ん、何だ。
おっ、そうそう、降伏したんだ。
おい、みんな!!
なんじゃ王が、捕虜では戦えない。
しかし、いつかきっとなんじゃ王を助け出し、なんじゃ王国を再興しようではないか。
時期を待とう。
それまで、町に戻って力を蓄えよう。
それにしても、王子様が見えないのはおかしいぞ。
捕虜になっているかどうかも分からない。
捕虜になっていたら、ベランダに出されているだろうが…・。
よし、とにかく、町に戻ろう!!」
「 はい、ホイ大臣様。」

鍋や釜の武装もむなしく、なんじゃ軍はホイ大臣を先頭に漁師ポチを連れて、なんじゃ町にトボトボと帰っていきました。
もんじゃ軍の五人は、なんじゃ城のベランダから、その様子をじっと眺めていました。
遠ざかるなんじゃ軍のだんだん小さくなる後ろ姿は、夕焼けに照らされて、町へ行く道と周りの風景に溶け込み、やがて見えなくなりました。
もんじゃ軍の第一の男が言いました

「 ふー、助かった。
何とか、なんじゃ軍を追い払った。
無駄な血を流さずに済んだのは幸いだった。
なんじゃ王、もう喋ってもいいぞ。」
「 くそ、一言でも声を出せば、剣を突き立てると言われるとどうしようもない。」
「 ふふふ、なんじゃ王、いい心がけだ。
おい、みんな、王子の事は、気がかりだが、一応、我々の目的は達成された。
俺と、そうだな、お前は、これからなんじゃ王をもんじゃ城まで連れて行く。
残りの、三人は、この城と召使を見張りしていろ。
それから、もう一度、城の中に王子がいないか探しておいてくれ。
王子が見つかったら、誰か一人、直ぐに知らせに走るように頼む。
我々は、裏街道からもんじゃ城に行くので、少し時間がかかると思う。
なんじゃ軍の様子では、戻って来る事は、今はないと思うが注意はしておいてくれ。
褒美をたくさん貰って来るからな。
それじゃ、行くぞ。」

もんじゃ軍の二人は、なんじゃ王に目立たないように農民の服を着せて、苔むしたなんじゃ城の裏門から密かにもんじゃ城に出発したのでした。




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なんじゃもんじゃ物語 2-1 なんじゃ王子脱出

2006-06-22 11:33:23 | なんじゃもんじゃ物語
なんじゃもんじゃ物語 2-1 なんじゃ王子脱出


なんじゃもんじゃ物語 47


なんじゃ城に残ったもんじゃ軍の三人は、なんじゃ王子を、城中くまなく探しましたが見つかりませんでした。
さて、なんじゃ王子は、何処に行ったのでしょう。
時間は、過去に溯ります。

なんじゃ王子は、なんじゃ城の塔の上から、いつものように城の外の景色を眺めていました。

「 ああ、退屈だ。
何とか、城から出られないかなあ。
あれっ、ホイ大臣、何処に行くんだろう?」

ホイ大臣は、なんじゃ城から、なんじゃ町に続く道を、20人ほどの兵隊を連れて歌を歌いながら意気揚々と進んでおりました。
ホイ大臣は、もんじゃ王国を目指して進んでいたのですが、なんじゃ王子は事情を知りませんでした。

「 相変わらず、下手な歌だなあ。」

ホイ大臣を先頭にした集団が行ってしまうと、また、なんじゃ城は静かになりました。

「 退屈だなあ……。」

なんじゃ王子は、どうしたらこの城から出られるか考えていました。
なんじゃ城の門は、固く閉ざされ、堀の橋も跳ね上がって渡れません。
召使が、門の操作をしているのですが、召使に城から出してくれと王子が言っても、召使はなんじゃ王に、王子を門から外に出すなと厳命されているのでどうにもなりません。
また、なんじゃ城の堀を泳いで渡るには、堀の水は深く、なんじゃ王子はカナヅチで泳げなかったのです。
いつもなら、少し考えて、諦めて部屋に帰ってしまっていたのですが、この日は何故か、塔の上で、何か方法が無いか、遥か彼方のなんじゃ町にうごめく人々を見ながら考えていました。





なんじゃもんじゃ物語 48


その時、なんじゃ城に続く道を、一台のトラックがゆっくり登って来るのが見えました。
トラックが、段々と近付いて来るにしたがって音楽が聞こえてきます。

夕焼け、小焼けの赤とんぼ~♪

なんじゃ王国では、ごみ集めをトラックで行っていました。
トラックが来た事が分かるように、音楽を流していたのです。
王子は、トラックを見ながら考えました。

「 ごみ集めの、トラックか。
あれは、お城に入って、ごみを乗せて出て行くぞ。
あれに乗れば、フリーパスでお城の門を通過できる。
ごみは、いつも樽に詰めて出すから、樽に隠れれば、スイスイと門から出られるぞ。
あそこに見える町に行けるんだ。
あの黒い煙の下では、何を作っていたのだろう。
パンでも焼いていたのかな、イモリの黒焼きでも作っていたのかな。
それもみんなみんな分かるんだ。
早く台所に行って、隠れなきゃ。」

王子は、眼を輝かせて塔の長い階段を一気に駆け降りました。
台所の戸から、そっと中を覗くと、五つの樽の内三つまでが既に積み込まれ、四つ目がまさに積み込まれつつある所だったのです。
ごみ屋さんと召使が、一瞬最後の樽から眼を離した隙に、王子は、戸の隙間から樽に飛び込みました。

「 おや、今、何か黒っぽい物が樽の中に飛び込んだように見えたが?」

召使が、そう言った時、なんじゃ王子は、身が縮み心臓が張り裂けるようにドキドキしました。
そして、ごみをかぶって小さくなっていました。
ごみ屋さんが言いました。

「 はは、気のせいさ、俺は何も見えなかったぞ。」
「 そうかなあ。」
「 そうさ、時間に遅れるから、もう乗せるぞ。」
「 ああ、いいよ。」

ごみ屋さんは、樽に蓋を閉めてトラックに乗せました。
召使の心には、まだ疑惑が残っていましたが、ごみ屋さんの言葉とごみを引っ繰り返すことの嫌さも手伝って、調べて見ることも断念しました。
トラックは、樽に隠れたなんじゃ王子を乗せて、なんじゃ城の門から外へゆっくり動いて行きました。





なんじゃもんじゃ物語 49


かくして、城を脱出したなんじゃ王子は、ガタガタ、ゴトゴトと言うトラックの不規則な振動に揺られながら、先程の極度の緊張から解放された安心感から、深い眠りの底へと落ち込んで行ったのです。
トラックは、ガタガタ、ガタガタと、なんじゃ城からなんじゃ町への道をどんどん下り、なんじゃ橋を通り過ぎ、ホンジャ島も通過して、もんじゃ橋からもんじゃ国へと走って行きました。
もんじゃ国の東の端に拠点を持つこのごみ屋さんは、今日に限っていつも通るもんじゃ島の南道を走らず、近道をする為、北道を走りました。
南道は、内陸の道幅が広い道だったのですが、北道は、道幅が狭く海沿いのカーブも多い道でした。
南道と同じスピードでいつものように走っているトラックが、急カーブを曲がりました。
トラックは、大きく左へ傾きました。
ガタ、ゴロゴロゴロ。
トラックの荷台に積んであった、一番後ろの樽がひとつ転がり落ちてしまいした。
でも、ごみ屋さんは、樽が落ちたことに気付かず鼻歌を歌いながら行ってしまったのです。

「 うーん。」

なんじゃ王子の睡眠は、即座に気絶へと変化しました。
時間が経って行きました。
そして、太陽は西に傾き、海からのザザーン、ザザザザーンと言う波の音が、幾千幾万と変わることなく騒いでおりました。

「 コン、コン。」

樽の外から、何かが樽の蓋を叩く音が聞こえます。
なんじゃ王子は、ハッと気が付いてスクッと立ち上がりました。
バナナやミカンの皮を頭に被り、口にはキュウリのヘタをくわえ、樽の蓋を突き破り忽然と仁王立ちになったのです。

「 ここは、町?」

なんじゃ王子は、周りを見まわしました。
でも、あの高い煙突も、うごめいていた人達もいません。
見えるのは、ヤシの木やビロウの葉ばかりです。

「 あれっ、ここは何処だ?
変な所に来てしまったな。
トラックはどうしたのかな?
そうだ、トラックから落ちたんだ!
何か、すごいショックを受けたから、頭にコブが出来ている。」
「 あなた、誰?」
「 ん?」
「 誰?」

なんじゃ王子の足元から声がしました。





なんじゃもんじゃ物語 50


なんじゃ王子が足元を見ると、なんじゃ王子と同じくらいの年令の少女が、樽の横に尻餅をついてなんじゃ王子を見上げていました。

「 ここ、何処?」
「 私の質問に答えてからよ!
あんた、誰よ!」

少女は、驚かされたことに腹を立てたのか、口を尖らせて言いました。
なんじゃ王子は、その言葉に圧倒され、鈍くとも少しは回転する頭も今は休止し、反射的にいつも召使から言われている王子様と言う言葉を口走りました。

「 王子様!!」

声がひっくり返って奇妙に高い声になってしまいました。
少女は、ごみだらけのなんじゃ王子を見ながら、ケタケタ、ケラケラ笑いました。
なんじゃ王子は、ムッとしました。
なんじゃ王子は、今までこんな侮蔑と嘲笑は、一度だって受けたことは無かったのです。
王宮にいる時は、なんじゃ王子は物心ついた時から、たとえ彼が鼻を垂らし、よだれを垂らし、逆立ちをして放屁したとしても、誰一人として彼を笑いの対象とはしませんでした。
もともと、なんじゃ王国では、王室の権威は絶対的なものでした。
一例を挙げますと、今のなんじゃ王から数えて、三代前の王様である第23代なんじゃ王が、王位について初めて出した法令があります。
このなんじゃ王は、王国の暑さに耐え切れず、いつもほとんど裸同然で城の中をウロウロしていました。
常に、国民のことを考えているなんじゃ王は、国民の暑さに苦しむ姿を見て、裸で暮らす法令を出したらどうかと当時の大臣に相談しました。
さすがに、これはちょっとまずいと思った大臣は、絶対的権威にダメとも言い切れず、夜になってから夕涼みと言うことで、少々の時間みんなで裸になって涼もうと言う線で、なんじゃ王を説得しました。
法令告知は、役人を通してなんじゃ王国中にくまなく発表されました。

「 明日、午後7時から午後7時15分まで、全員裸になって夕涼みを行う。
これに、違反したものは死刑なのだ。
なんじゃ王、発布。」

この法令は、もんじゃ王国にまで大反響を巻き起こしました。
もんじゃ王国では、乗合バスを借り切って、なんじゃ王国を見学に行こうとする業者の動きが見られました。
この動きに対して、もんじゃ王国では、なんじゃ王国見学反対委員会が結成されました。





なんじゃもんじゃ物語 51


そして、いよいよ当日になりました。
昼過ぎから、もんじゃ王国から、大バスツアーがなんじゃ王国にやってきて、なんじゃ王国の人数が膨れ上がりました。
この時の、なんじゃ王国国営のみやげ物であるなんじゃ饅頭の売り上げは、なんじゃ王国始まって以来の儲けになり王国の経済を潤しました。
午後5時前、なんじゃ城の塔の窓から大臣と共に空を見上げている一人の子供が言いました。

「 そろそろかな。」

後のホンジャ大学教授のワールシュタットヒンデンブルグノーベル君です。
怪しい発明で、何年生きているか分からない教授にも子供の頃はあったようです。
しかし、その頭脳はすばらしく、当時から大臣の相談相手として信頼されていました。
午後5時、満月は徐々に欠け始めました。
1時間後の午後6時、月は地球の陰に入り黒くなりました。
皆既月食です。
皆既月食は、2時間ほど続きますので、午後7時はワールシュタットヒンッデンブルグノーベル君の予想通り月は真っ黒です。
そして、午後7時になって、なんじゃ王国の送電が一斉に停止されました。
なんじゃ王国は、真っ暗になりました。

「 わおー、真っ暗じゃ。」
「 でも、涼しいんじゃ、ないかい。」
「 ほんとだ。」
「 いつも、電気で物を動かしているから、熱が篭ってたんじゃ。
こりゃ、涼しい。」
「 さすが、王様。
省エネルギーの意味をお教えくださった。」
「 ありがたいことじゃ、な、じいさま。
ありゃ、じいさま、何処行った。
真っ暗で見えないが。」
「 おーい、この木に尻をすりすりすると、とっても気持ちがいいぞ。
ばあさまもしてみろよ。」
「 何処何処、嫌だね、じいさま、見えないよ。
あ、これかい。
ほんとだ、ひんやりして、いい気持ち。」

なんじゃ王国の国民もなんじゃ王国に来ていた人達も、服を脱いで短時間ではありますが、開放感に浸ることが出来ました。
午後7時15分を少し過ぎて、送電が再開され、なんじゃ王国が明るくなりました。
その頃には、みんな普段の生活に戻っていました。
それでも、常には出来ない経験をして人々の表情は、より明るくなったように見えました。
なんじゃ城の塔の窓から、この光景を見た大臣とワールシュタットヒンデンブルグノーベル君は、互いにニコッとして頷き合いました。
なんじゃ王は、なんじゃ城のベランダからこの様子を見ながら満足していました。





なんじゃもんじゃ物語 52


みんなが満足している中、落胆している人々もおりました。
もんじゃ王国の映画会社です。
経営不振にあえいでいるこの映画会社は、赤字を埋める絶好のチャンスと大撮影部隊をなんじゃ王国に送り込みました。
そして、イベントの後で、編集しようとしたフィルムには、夕刻のなんじゃ王国の風景、真っ暗な中での話し声、しばらくしてなんじゃ王国の夜景が映っていました。
真っ暗な中での話し声は、じいさん、ばあさんの声が圧倒的に多く入っていました。
映画会社の社長は、映画監督に嘆きました。

「 何だ、これは、10もんじゃのお金にもならない。
困ったな。
このままでは倒産だ。
フィルム代も払えないと言うのに、どうしたものか。」
「 捨てるには、もったいないですよ。
まあ、たいそうな名前でもつけて、外国にでも売り飛ばしてドロンしましょうよ。」
「 それもそうだな。
中身はすごいからお、金を払ってからしか見せられないとか、なんとか誤魔化して売っちゃおうか。」
「 映像は、世界の端っこで作っているような三流映画を貼り付けておきましょう。
声の方は、尻をすりすりとか気持ちいいとか、合成しましょうよ。」
「 よし、早速やってみよう。」

出来上がった作品は、ヨーロッパの映画会社にフィルム代程度の値段で売り飛ばして、作成映画会社の名前も言わずにドロンしました。
題名「なんじゃ王国の秘密の夜」、適当に貼り付け合成した作品は、どういう訳か世界中でバカ当たり、当時のポルノブームの流れの中で、不屈の名作として映画史上にその一ページを飾ったのでした。
この時、なんじゃ王国の名前は、世界中に知れ渡ったのですが、この国が何処にある国か、どんな国かは、誰一人として分かりませんでした。
そして、もんじゃ王国の映画会社は、そのような映画の評価も知ること無く倒産してしまいました。






なんじゃもんじゃ物語 53


 この一例を見ても分かるように、なんじゃ王国の人々は、なんじゃ王に従順であったのです。
そして、なんじゃ王国の王室の権威は大きく、なんじゃ王子は今まで何をしようと笑われたことが無かったのでした。
だから、なんじゃ王子にとって、自分が少女に笑われていることは、衝撃的なことだったのです。
 少女の声が、ケラケラ、ケタケタから、クスクスに変わった頃、少女の険しかった顔は、もとの眼のパッチリした愛くるしい顔に戻っていました。
なんじゃ王子は、心にダメージを受けながらも少女に答えました。

「 僕、本当に、王子様だよ。
 ほんとだよ。」
「 まあ、いいわ。
 王子様と言うことにしておいてあげる。
 何所から来たの?]
「 お城から。」
「 なんじゃ城?」
「 そうだよ。」
「 あなた、頭、おかしいんでしょう。」
「 おかしくないよ。
 僕のお父ちゃんは、なんじゃ第26代目の王様なんだぞ。
 嘘じゃないぞ。」

 なんじゃ王子は、真剣に答えたのですが、お城で階段を踏み外し小さな歯車を頭から転がしてからは、何となく顔に締まりが感じられず、真剣度が大きくなるに反比例して精悍さが無くなって行きました。
 少女は、なんじゃ王子を睨み付けて言いました。

「 頭がおかしくって、嘘付きは嫌いよ。
 あなた、お父様が言っていた痴漢じゃない?
 変なことしたら、大声上げるわよ。」
「 痴漢て何?
 なんじゃ大辞典にも載ってなかったから、ものすごく難しい数学の方程式かな?
 化学にそんなのがあったような気もするし……・。
 あっ分かった、地下を走る電車の事だろ。」
「 それは、地下鉄よ!
 嘘付きで頭がおかしくってバカなら救いようがないわね、もう帰る。」

少女は、クルッと後ろを向いてスタスタ歩きだしました。

「 ま、待って!」

 なんじゃ王子は、追いかけて行って少女の肩に手をかけました。
少女の柔らかい肩に手を触れ、なんじゃ王子は今まで自分が嗅いだことの無いような甘酸っぱい臭いを膚で感じました。

「 キャー、痴漢よー!!」

少女は、なんじゃ王子の手が肩に触れると同時に後ろも見ずに走り出しました。






なんじゃもんじゃ物語 54


なんじゃ王子も、少女の後ろを一生懸命走りました

「 待って!!」

でも、もとより、なんじゃ城の庭をゆっくり歩く程度の能力しかないなんじゃ王子には、追いつける筈もありません。
頭の重さも手伝って、一度転び、二度転び、膝を擦り剥き走ったのですが、少女との距離はどんどん広がりました。
遥か彼方を走っている少女の姿は、段々小さくなって行き、曲がり角でフッと消えてしまいました。
なんじゃ王子がよたよた走って、少女が消えた辺りまでたどり着いた時にはもう少女の影も形もありませんでした。

「 ああ、行っちゃった。」

なんじゃ王子は、じっと少女が消えて行った方向を眺めながら、自分の左手を右肩に当てて見ました。
でも、そこには先程の感覚と違うものしかありませんでした。
なんじゃ王子は、フーっとため息をつきました。

「 すごく、いい臭いだった。」

それがなんであったのかは、なんじゃ王子には分かりませんでした。
ただ、人間の動物的本能をくすぐるものであったことは確かだったのです。
なんじゃ王子は、生まれて直ぐに母親をなくし、何でも屋のホイ大臣と哺乳ビンに育てられました。
また、なんじゃ王は、なんじゃ王子の教育に女性は悪影響を与えると思い込んでおりました。
だから、なんじゃ城には、若い女性はおらず、食事担当のおばさんと稀に訪れる物売りのおばさんを見る程度でした。
それに、なんじゃ王子は、なんじゃ大辞典に精通しているのですが、この大辞典は高度に優れた辞典であるにもかかわらず、編集者は常に女性に迫害されていたようで、女性の項目を紐解くと以下のように書かれていました。

“おんな、女性の項を見よ。女性、非常に恐ろしい人間。心が変わり易く、怒るとヒステリックにギャーギャーわめく、引っ掻く、とにかく、手のつけられない人間。一見、大人しく、優しく見えるが、発作的に前に述べたような事をする。注意しなければならない。”

そして、なんじゃ王子は、なんじゃ城の女性を見て、この項目を納得していました。
それでも、なんじゃ王子の心には、この少女が印象的に焼き付けられました。
なんじゃ王子は、少女が消えて行った道を行けば、もう一度少女に会えるかもしれないと言う漠然とした希望と、何故だか羞恥を感じて歩き始めました。




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なんじゃもんじゃ物語 2-2 もんじゃ城にて

2006-06-21 12:41:26 | なんじゃもんじゃ物語
なんじゃもんじゃ物語 2-2 もんじゃ城にて


なんじゃもんじゃ物語 55


なんじゃ王子が、てくてく道を歩いていた頃、もんじゃ城では、チカーメ大臣がもんじゃ軍の五人の報告をひたすら待っていました。

「 五人が、なんじゃ軍を叩き潰しに、この城を飛び出して行ってからもう、半日以上経ったわ。
連絡ぐらいしてきても良さそうなのに、……。
ひょっとしたら、殺られてしまったのかしら、……・。
いやいや、そんな筈は無いわ。
並み居る兵隊達のうちから、私が特に選んだ者達だから、平均知能30あるかないかのなんじゃ軍になんか負ける筈は無いわ。
それにしても、遅いわね。」

黒っぽいビロードの布の上に宝石を散乱させたような星空が、窓の外に広がっていました。
大臣専用室の椅子に座っていたチカーメ大臣は、ゆっくり立ち上がって、月の光がうっすらと照らしているベランダに近付いて行きました。
その時、ドタドタドタと廊下を走って来て、大臣専用室のドアをどんどんたたく音がしました。
チカーメ大臣は、五人が帰ってきたものと思いました。
そして、方向転換してドアに走り、ドアのノブを引っ張るなり言いました。

「 うまく行った?」
「 何だ?」

見ると、もんじゃ王が突っ立っていました。

「 何だ、王様なの。」
「 もんじゃ大王様に向かって、何だ、王様なのとは何じゃ。
まあいい、ところで、エレーヌを見なかったか?
もう、7時だというのに戻ってこないんだ。
何かあったらどうしよう。
わしのたった一人の娘なのに。」
「 大丈夫ですわ、王様、あの御姫様に限って。」
「 でも、心配じゃ。
もう一度、城の中を捜して来よう。
エレーヌ!
出ておいで!」

もんじゃ王は、大臣専用室から飛び出して行きました。
チカーメ大臣は、呟きました。

「 ふふ、かわいそうな王様、もうすぐ死があなたをお迎えに来るというのに。」





なんじゃもんじゃ物語 56


もんじゃ王が、行ってしまった後、チカーメ大臣は、苛々しながら、大臣専用室を行ったり来たりしていました。
そこに、もんじゃ軍の二人が、なんじゃ王を連れて現れました。
チカーメ大臣に対して、いつもなら言葉を五分割して言うのですが、今は二人なので言葉を二分割して言いました。

「 チカーメ大臣様、只今、」
「 帰りました。」

チカーメ大臣は、二人に言いました。

「 あれっ、三人足らないわ。
残りの者はどうしたの?」
「 なんじゃ城を占領して、」
「 見張っています。」
「 良くやったわ。
早く、なんじゃ王をこちらに連れておいで。」

チカーメ大臣の前へ、なんじゃ王は連れていかれました。
なんじゃ王は、憎悪と嫌悪と軽蔑の眼でチカーメ大臣を睨み付けながら、威厳を持って言いました。

「 お前が、チカーメ大臣か。」
「 そうよ、それがどうしたと言うの。」
「 フン!」
「 なんじゃ王、あなたは自分が捕虜であることを忘れていますね。
私を怒らせると、ためになりませんよ。」
「 何をぬかしておる、馬鹿女め。」
「 地下の特別室に連れてお行き!
よく、見張っておくのよ、逃げられないように。
見ているだけで腹が立ってくるわ。
連れてお行き、早く!!」
「 えっと、」
「 ご褒美の方は?」
「 後よ、あとっ!
後であげるわよ!!」
「 お忘れの、」
「 無いように。」

二人となんじゃ王が、ドアから消えると、チカーメ大臣はほくそ笑みました。

「 これで、計画は九分通り達成したわ。
後は、もんじゃ王が三つの島の王だと定めて、それからもんじゃ王を殺す、もちろん王女も始末する。
もんじゃ王が亡くなれば、王が最も信頼していたこの私が女王に自然と押されることは明らかだわ。
うふふ。
チカーメ女王様、いい響きだわ。
その為にも、二人の王を差し障りの無い方法で始末しなきゃ。
計画を考えましょう。」

チカーメ大臣の渦を巻いた眼鏡の奥の眼がキラリと光りました。






なんじゃもんじゃ物語 57


もんじゃ王は、もんじゃ城の中をエレーヌ姫を探してウロウロしていました。
そして、広間を通過した時、姫を見つけました。

「 あっ、エレーヌ、何所へ行ってたんだ。
もう、わしゃ、心配で、心配で。」
「 ちょっと、散歩よ。」

もんじゃ王は、厳しい顔に表情を変えてエレーヌ姫に言いました。

「 今、何時だと思っているのだ。
もう、7時半だぞ。
7時には、帰って来るように言ってあるだろ。」

もんじゃ王は、突き出した腹に巻いてある腹時計を指差して言いました。
エレーヌ姫は、もんじゃ王の腹時計を見て、くすくす笑いながら言いました。

「 お父様、今、何時?」
「 今、何時って、この時計を見れば、……・。
ありゃ、4時だ、止まっているじゃないか。
あの時計屋、費用をケチったから、手を抜きやがったな。
明日にでも王宮に呼び出して、こっぴどい目にあわせてやるぞ。
とにかく、今、7時半だ。
外も暗いじゃないか、痴漢でも出たらどうするんだ!
おいこらっ、何所へ行く、まだ話しは終わってないぞ。」

もんじゃ王の説教の途中で、エレーヌ姫は、クルッと向きをかえて、広間の階段を駆け上がりました。
そして、いたずらっぽく言いました。

「 痴漢なら、今日、会って来たわ。
本当に、ドジな痴漢だったわ。」
「 エレーヌ!!」

もんじゃ王は、血相を変えて階段を駆け上がりました。
でも、エレーヌ姫は、自分の部屋の方に走りながら後ろも見ないで言いました。

「 お父様、心配は要らないわ。
何もされていないから、ただ、ちょっと肩を触られただけよ。」

バタン。
エレーヌ姫は、自分の部屋に飛び込んで扉の鍵を掛けました。






なんじゃもんじゃ物語 58


もんじゃ王は、エレーヌ姫の部屋の扉をドンドン叩きました。

「 開けなさい、エレーヌ。
開けなさい!」
「 私を信用しないの!」

部屋の中の大きな声を聞いてもんじゃ王は、扉を叩くのを止めました。

「 分かった、分かったよ、エレーヌ。
もう変な所に行くんじゃないぞ。
分かったか、エレーヌ。」

でも、部屋の中からは、何も返事が返って来ませんでした。
もんじゃ王は、エレーヌ姫の部屋に入ることを諦めて王室に戻りながら呟きました。

「 あれだけ軽快な声を上げている所を見ると本当に何でもなかったようだな。
しかし、あの娘も大きくなったものだ。
ついこの前まで、子供だ、子供だと思っていたのに。
后が生きていてくれたら喜ぶのに。
いや、言うまい、言うまい、今は、あの娘が大きくなるのが唯一の楽しみじゃ。
それにしてもあの娘は、后に似て愛らしすぎる。
痴漢に狙われるのも無理も無い。
次からは、監視をつけよう。」

一方、エレーヌ姫は、大きなベッドの上にゴロンと仰向けになり、淡いピンクの天井を眺めながら大きな溜め息を一つつきました。

「 ふーっ、お父様なんて、嫌いだわ。
私をいつまでも子供だと思って。
早く帰ってこないと行けないよ、エレーヌ。
食べ物を口に入れたまま喋っちゃいけないよ、エレーヌ。
もっと、しとやかにしなきゃいけないよ、エレーヌ。
なんでもかんでもいけないよ、エレーヌ。
いけないよ、エレーヌ。
もういや。
何の文句も言われない生活をしてみたい。」

時計の音が、コチコチと規則正しくエレーヌ姫の部屋に響いていました。






なんじゃもんじゃ物語 59


 エレーヌ姫は、じっと時計の音を聞きながら、段々と心が落ち着いて来るのを感じました。
エレーヌ姫は、額に手をあてました。
額には、髪が少し汗で張り付いていました。
時間が遅くなって走って帰って来たから、汗をかいていたのです。
 エレーヌ姫は、ベッドから起き上がって、髪を直すため鏡台の椅子に座りました。
凝った木の装飾に飾られた大きな鏡に向かって髪を直しました。
鏡の中のエレーヌは、不機嫌な顔をしていました。

「 そうだわ、私、最近、いつもこんな顔をしている。
 前は、こんなのじゃなかったわ。
 どうしたと言うのかしら。
 何が、不満?
 お父様に反抗ばかりして。
 あんなに、お父様は優しいのに。」

でも、鏡の中のエレーヌは、何も答えてくれませんでした。
ただ、じっと不機嫌にエレーヌ姫を見つめているだけでした。
ボーッと鏡を見ながら、エレーヌ姫は、今日一日の出来事を思い出していました。
思い出している中で、今日会った痴漢の事が頭を掠めました。

「 ウフフ、それにしても、あの痴漢、バカみたいだったわ。
 王子様だって。
 曲がり角でチラッと後ろを見たら、ヨタヨタ、こっちに向かって走ってたな。
 あんなに足の遅い人、珍しいわ。
 島中探したっているものですか。
 ゴミと一緒に樽から出てきて、ここ何所?だって。
 バカみたい。
 でも、ちょっと品の良さそうな顔をしてたわ、痴漢にしては、ふふ。」

鏡の中の不機嫌なエレーヌは、元の愛らしいエレーヌに戻って笑っていました。






なんじゃもんじゃ物語 60


王宮の時計が午後8時をまわった頃、暗い夜道を歩いていたなんじゃ王子は完全にくたびれ、道端のビロウの木の下に座り込んでいました。
それに、朝から何も食べていないので、空腹で死んだようにぐったりとしています。
なんじゃ王子の頭の中では、分厚いビフテキ、その周りにはドレッシングのかかったキュウリにレタス、サラダに彩りを沿える真っ赤なトマト、それに、先程追いかけていた少女が混乱状態でグルグルまわっていました。
なんじゃ王子が、薄く眼を開けると何か人影らしいものが近付いてきたのが見えました。
そして、なんじゃ王子の手に、人の手が触れました。
とっさに、なんじゃ王子は、その手にしがみ付きました。

「 もう、離さないよ、君もビフテキも。」
「 離すべ、離すべ。」
「 嫌だあ。」
「 こらっ、起きろ。
このガキ、何するべ。」
「 だめ、離さない。」
「 気持ち悪いべ、やめろだべ、わーっ。」
「 あふっ、あん、ビフテキは?」
「 なーに言ってるべ。
このバカ、こんな所で何してるべ?」
「 僕、王子様。」
「 バカか、お前。
まあ、とにかく、ほっとく訳にもいかないから、おらの家に来るべ。」
「 ビフテキあるだべか。」
「 おらの真似するでねえ。
ビフテキは、無いだべが、食えそうなものはあるだべ。」
「 じゃ、行くべ。」
「 真似するでねえ、付いて来るべ。」
「 うん。」

なんじゃ王子は、漁師ポチに会いました。
漁師ポチは、捕虜の捕虜と言う逆境から解放され、帰り道を急いでいたのです。






なんじゃもんじゃ物語 61


うっそうと茂った熱帯樹の森林に挟まれた田舎道を漁師ポチは、スタスタと早足で歩いて行きました。
なんじゃ王子は、重い足取りで漁師ポチの後を必死について行きました。
しばらく歩くと両脇の森の木々がまばらになって、薄暗いトンネルから抜け出たように見晴らしが良くなりました。
漁師ポチは、田舎道を急に左へ曲がりました。
そして、木々の中に入って行きました。
なんじゃ王子も、離れては大変とばかりに急いでついて行きました。
木々の中の細い獣道を、二人はどんどん進んで行きました。
歩いているうちに、なんじゃ王子は、潮の臭いを含んだ風が前を歩いている漁師ポチの方から吹いて来るのが分かりました。
ザアーン、ザザーンと海の波の音が、徐々に大きく聞こえ始めました。
なんじゃ王子は、漁師ポチに尋ねました。

「 ねえ、まだなの?
もう、足が棒みたい。」
「 もうすぐだべ、もう…・。
ほら、あそこに見えるあれだべさ。
ほら、あれ。」

なんじゃ王子は、漁師ポチが指差した前方を見ました。
木々の間から、月の光でうすく光った屋根らしきものが見えました。
近付くと、海への砂浜に続く林の中に、ボロボロの小屋がありました。
漁師ポチは、小屋の中に入って行きました。
漁師ポチに続いて小屋に入ったなんじゃ王子は、籠に山ほど入ったマンゴーの実と壁にいっぱい吊るしてあった魚の干物を見つけました。

「 マンゴーから食え。
今から、干物を焼くべ。
こらっ、干物を生で食べるんでねえ。
まあ、死にはしないけど。」
「 パクパクパクパク。」
「 慌てなくていいべ。
よく噛んで食べるべ。」

なんじゃ王子は、漁師ポチが火を熾す前にマンゴーと干物のかなりの量を食べ、そのまま、ゴロンと横になりグーグーといびきをかいて寝てしまいました。






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なんじゃもんじゃ物語 2-3 チカーメ大臣の悪計

2006-06-20 11:12:34 | なんじゃもんじゃ物語
なんじゃもんじゃ物語 2-3 チカーメ大臣の悪計


なんじゃもんじゃ物語 62


 次の日、三つの島の至る所にもんじゃ王国の全島統一の公示が張り出されました。
新生もんじゃ王国の誕生です。
即日、もんじゃ王は、全島の王になりました。
とうとう、長い歴史を持つなんじゃ王国は、消滅してしまったのです。
もんじゃ王は、もう何所にも敵がいなくなったので、政治をする気も無くなり王宮で毎日宴会をし、勝手気ままな生活を始めました。
そして、もんじゃ王は、政治の全てを絶対的に信頼していたチカーメ大臣に任したのです。
 しかし、チカーメ大臣は、そんな境遇には満足していませんでした。
女王の座を一意専心に狙っていたのです。
数日後、チカーメ大臣は、地下牢のなんじゃ王にもんじゃ王を殺させようとしました。
チカーメ大臣は、地下牢に閉じ込めてあるなんじゃ王に、誰からか分からないように、牢の扉と床の僅かな隙間から、そっと短剣を差し入れました。
なんじゃ王は、誰か味方が自分を助けようとしてくれたと考えて懐にそれを隠しました。
そして、なんじゃ王がもんじゃ王に謁見する場を設定したのです。
 当日、チカーメ大臣は、もんじゃ軍の五人になんじゃ王をもんじゃ王のもとに連れて行くように命令しました。
ところが、謁見に行く途中、なんじゃ王は短剣を取り出して、もんじゃ城から脱出しようとしたのです。
しかし、なんじゃ王は、城から脱出出来ませんでした。
五人を振り切って逃げる途中、階段を踏み外して転げ落ち、石の壁で頭を打ち、そのまま返らぬ人になってしまったのです。
チカーメ大臣の、予定は狂いました。
でも、一人片付いたと言うことは事実です。
チカーメ大臣は、叫びました。

「 ラッキー!!」

なんじゃ王に逃げられそうになったと言うことで、もんじゃ軍の五人の褒美もチャラになってしまいました。
チカーメ大臣は、叫びました。

「 ついでに、ラッキー!!」

そして、次の日、もんじゃ王に、例の毒入りモーニングコーヒーを持って行って片を付けようとしたのですが、連日の宴会が祟ったのか、もんじゃ王は、ベッドの中で既に急性心不全で冷たくなっていました。
チカーメ大臣は、叫びました。

「 おー、超、ラッキー!!」

チカーメ大臣は、次々にやって来る幸運に酔いしれていました。
チカーメ大臣は、呟きました。

「 報告は無かったけれど、なんじゃ王子は、どうなったのかしら?
 まあ、いいわ、どうせ頭が弱いから何もできないわ。
 面倒なのでほっときましょ、なんじゃ王国は、潰れたし。
 でも、そうね、報告だけは、後で聞いておこうかしら。
 次は、エレーヌ姫だわ。
 何か、酷い眼にあわせてやりましょう。
 こいつは、生意気だから。」





なんじゃもんじゃ物語 63


もんじゃ王の国葬は、盛大なものでした。
チカーメ大臣は国葬を全て取り仕切り、もんじゃ王の徳を称えました。

「 もんじゃ王は、立派な王でした。
もんじゃ王は、国民が快適に暮らして行ける事を、日々考え暮らしておられました。
しかし、残念なことに、突然、お亡くなりになりました。
人生には、大きな坂が三つあります。
上り坂。
下り坂。
そして、まさか……・・。」

また、元なんじゃ王国の国民にも配慮して、なんじゃ王の名将ぶりも称え国葬の列に加えました。
チカーメ大臣は、国葬を取り仕切ることによって、自分の印象を国民に大きくアピール出来たのでした。
チカーメ大臣は、自分が女王となるための地歩を着々と築いて行ったのです。
また、エレーヌ姫に関しては、もんじゃ王が亡くなったことを嘆き悲しんで、城を飛び出したまま帰って来ないと言う噂を町に流しました。
でも、実際は、チカーメ大臣の指示で、もんじゃ軍の五人が、エレーヌ姫を地下牢に閉じ込めていたのです。
そして、もんじゃ王がエレーヌ姫かわいさに、エレーヌ姫を公式の場に出さず、顔も出来るだけ人々に分からないように、今までずっと隠していたのを良いことに、本物のエレーヌ姫に似てはいるのですが別人の顔の写真でお尋ね人ポスターを作り、町の彼方此方に貼りました。
人々は、ポスターにある顔をエレーヌ姫だと思いました。
そして、別人のエレーヌ姫の顔が人々の頭に染み込んだ頃、チカーメ大臣は、エレーヌ姫は自殺したと言うことにして葬儀を行ったのです。
数日後、チカーメ大臣は、もんじゃ軍の五人に指示を出しました。

「 エレーヌ姫に汚い服を着せて、城の表門から放り出しておしまい。
きっと、面白いことになるわよ。
顔や手足も泥だらけにしてね、出来る限り汚くしてね。
あ、放り出す前に、一言、言ってやりましょう。
放り出す準備が出来たら、連れておいで。」





なんじゃもんじゃ物語 64


もんじゃ軍の五人に連れられ、エレーヌ姫がチカーメ大臣の所にやって来ました。
ボロボロの平民服を着て、頭も顔も手足も泥だらけで薄汚く、とても王女には見えませんでした。
チカーメ大臣は、満足してエレーヌ姫に言いました。

「 エレーヌ姫、もう、お別れね。」
「 チカーメ、あなたは前から、王座を狙っていたのね。
お父様が、あなたを大臣に抜擢した恩を忘れて!
私は、あなたの悪事をみんなに知らせるわ。
あなたは、罰を受けるのよ。」
「 おお、何と頭の良いこと、そこまで良く想像出来たわね。
でも、もう、おしまいよ。」
「 おしまいは、あなたよ。」
「 そんな、格好で何が出来ると言うの。
それに、お前は、もう、エレーヌ姫じゃないわ。」
「 どう言うことよ。」

チカーメ大臣は、ポスターや葬儀のことをエレーヌ姫に話しました。
エレーヌ姫は、チカーメ大臣を睨みつけました。
チカーメ大臣は、勝ち誇って言いました。

「 お前をエレーヌ姫なんて、誰も思わない。
何所かで、野垂れ死にするのね。
姫なんて呼ばれることは、これから先、二度と無いわ。
ざまあみろざます。
門から、放り出しておしまい。」

エレーヌ姫は、もんじゃ軍の五人に引き立てられて門の所までやって来ました。
そして、門が少し開かれ、エレーヌ姫は門の外へ突き飛ばされました。
ザザザザと言う音を立てて、地面がエレーヌ姫の腕を擦りました。
エレーヌ姫は振り返ってキッと門を見ました。
その途端、門はピシャッと完全に閉まりました。
エレーヌ姫は、乾いた道に涙の跡を残して駆け出しました。
チカーメ大臣は、その様子を見て満足そうに笑いました。

「 フヒョ、フヒョヒョ、私の勝ちよ。
私の領土、私の王国をとうとう作り上げたわ!!」





なんじゃもんじゃ物語 65


エレーヌ姫は、いつもよく散歩に出かけた、人影がほとんどない島の北側をいつしか歩いていました。
辺りは既に薄暗く、夜の闇が迫っていました。
エレーヌ姫は、自分が王女であると言うことを町で通る人ごとに言いました。
でも、誰も笑って相手にしてくれませんでした。
時には、かわいそうにと言ってくれる人もいましたが、それは王女に対してではなく、一人の浮浪者に対するものだったのです。
エレーヌ姫は、自分の惨めさと身の回りに起こった一連の不幸な出来事を思って、涙を流しながら町を走り出ました。
止めど無く流れる涙を拭こうともせず、無我夢中で走りました。
そして、いつしか島の北側の砂浜を歩いていました。
海の波の音が、エレーヌ姫の頭を左から右へ通り抜けました。
エレーヌ姫は立ち止まり、暗くなりつつある海を見ました。
繰り返し寄せて来る波の音が、不幸な出来事の記録を一行一行消していくように感じました。
足元に冷たい感触を感じました。

「 いい気持ちだわ。
このまま進むと、もっと気持ち良くなるかしら。
みんな、忘れさせてくれる。」

冷たい感触が膝まで感じられました。
頭の中の何かがふーっと上にあがって行くような感じがして、エレーヌ姫は眼を閉じ冷たい感触を全身に受けました。
波は、何事も無かったかのように、太古の昔から変わらない動きで海岸の砂を洗い続けていました。





なんじゃもんじゃ物語 66


一連の出来事の後、もんじゃ王位は空位のまま、政務はチカーメ大臣が執行する日々が続きました。
しかし、チカーメ大臣は、自分から王になると宣言はしませんでした。
安定した王権を維持するためには、全島の国民から押されて王位に就く必要があったのです。
そして、もんじゃ王国の国民は、王国の象徴であるもんじゃ王がいないことに漠然とした不安を持っていました。
そんな日々が続く中、町の至る所にチカーメ大臣に命令されたもんじゃ軍の五人がビラを貼りました。
ビラは、塀にはもちろんのこと、家の戸、窓、人の背中、牛の尻等に至るまで、人の目に付く所は全て貼ってありました。
その中でも、特に公衆トイレに貼ったものは効果的でありました。
ビラに書かれていた内容は、もんじゃ王がいないため、王国が機能不全に陥っているから、新しい王を決めたらどうかと言うものでした。
それに、このままでは、国が崩壊するかもしれないと人々の不安を煽るものだったのです。
でも、もんじゃ国民には、そのビラが何処から発行されたものか分かりませんでした。
また、もんじゃ軍の五人が、現在あらゆる政務を取り仕切っている中心人物で、もんじゃ王に信頼が厚かったチカーメ大臣を王に押そうと言う噂を、彼方此方でどんどんたきつけたので効果も現れて来ました。
全島の村や町で話し合いが行われました。
そして、全島の代表者が、それらをまとめ、チカーメ大臣が王位に就く嘆願書を持って、チカーメ大臣のもとにやって来ました。
チカーメ大臣は、即座に承諾するのは、いかにも女王になりたがっていると言うことが分かるということで、なりたい心をグッと堪えて代表者に言いました。

「 それは、困りますわ。」

チカーメ大臣は、もう一度、薦めてくれると思っていたのですが、代表者は言いました。

「 それでは、仕方がありません。」

代表者は、残念そうな顔をして町へ帰って行きました。
チカーメ大臣は、代表者が帰ってから悔しがりました。

「 ちきしょう、ちきしょう、あの代表者。
もう、一回ぐらい薦めてくれても良さそうなものなのに。
キー、キー、悔しいざます。」





なんじゃもんじゃ物語 67


チカーメ大臣は、もう一度宣伝のやり直しをすることにしました。

「 もんじゃ軍の五人に、ビラを印刷させたのが失敗よ。
私、自ら、気合を入れて印刷するわ。
もう一度、女王になって下さいって、代表者が言って来るように仕向けなきゃ。
見てらっしゃい。」

チカーメ大臣は、王宮の印刷室に走りました。
そして、手に触った紙には何でも刷ったのです。
女王になりたい一心で、片っ端から必死に刷りました。
夜が明けて来る頃には、苦労のかいあってようやく刷り上がりました。
チカーメ大臣は、出来上がったものを見ながら言いました。

「 ふーっ、やっと刷り上がったわ。
どんな出来かしら、一枚読んでみましょう。
何々、本日開店、チカーメを女王にしよう大安売り。
何、これ?
まあ、一枚くらい変なのがあるわ。
もう、一枚見てみましょう。
植木大安売り、チカーメ女王1200円のところ980円。
あっ、これ新聞の広告紙の上に印刷してしまったわ。
殺虫剤には、チカーメ印、すぐコロリ。
チカーメすぐ帰れ、夫が待っている、俊男。
浣腸器はチカーメ浣腸、出っ放し。
今、買うとチカーメ女王を二つお付けします。
えっ、チカーメが二つも付いているのですか、今すぐ電話しましょう。
輸入ポルノ、見せる、見せる、チカーメ女王。
乾燥ワカメと干しチカーメ、どちらも大特価100円。
海の家、チカーメ回転。
回転じゃなくて、開店でしょ、字まで間違ってる。
うう、ろくなのがないわ。
もう、印刷にくたびれたから刷り直す元気も無いし、せっかく刷ったんだから貼っちゃいましょ。
何とか、なるでしょ。」

チカーメ大臣は、もんじゃ軍の五人を呼んで、再び町中に怪しいビラを貼らせました。





なんじゃもんじゃ物語 68


もんじゃ軍の五人は、早朝からビラを貼りまくりました。
そして、再び、その日の夕方頃、代表者がやって来ました。
今度は、もんじゃ町長も連れて来ています。
チカーメ大臣は、ワクワクしながら申し出を聞きました。

「 何ですか?
もんじゃ町長もいるようですが。」

もんじゃ町長が、進み出て言いました。

「 見てください、チカーメ大臣様、このビラを。」
「 どれどれ、干しチカーメ、100円、これがどうしたと言うのですか。」
「 でも、大変なんです。」

チカーメ大臣は、このビラは少しまずかったかな、と言う気がしましたが、威厳を持って代表者ともんじゃ町長に言いました。

「 この程度のものは、王宮まで持って来るものではありません。
適当に処分しなさい。」
「 でも、チカーメ大臣様、町中に貼ってあるのです。
こんなことをする馬鹿がいるのです。
剥がすのが、大変なんです。
ほら、文法も字も間違っている、作った奴はかなりの馬鹿でしょう。
これも王様がいないからです。
王様がいないから、心が不安定になって、精神を病んでしまうのです。
ここは、チカーメ大臣様が、王様となって人心の安定をはかって下さい。
もんじゃ町長として、お願いいたします。」
「 そうです、私は代表者として、前回お願いに参りました。
前回は、断られましたが、もう待ってはおれません。
どうか、王様となって、このような馬鹿者を取り締まってください。
お願いいたします。」
「 ええ、そこまで言うのなら、……・。
みなさんが、そう言うのなら、そうしようかしら。」
「 ありがとうございます。
早速、明日、戴冠式をいたします。
町の人達に知らせなけりゃなりませんので、これで失礼いたします。
それでは。」

代表者ともんじゃ町長は、お辞儀をして町へ帰って行きました。
チカーメ大臣は、ニヤリと笑いました。

「 ふふ、これで私は女王様。
チカーメ女王様、バンザイだわ。
それにしても、あの二人、私が苦労して作ったビラにケチをつけて。
生意気だわ。
女王になったら、もんじゃ町長はクビにしちゃいましょ。
あの代表者も、酷い眼に会わせてやるから。
でも、あのビラ、そんなに変だったかしら?」

王宮の窓の外は、もう、暗闇に包まれておりました。
その暗闇は、全島のこれから先を暗示していることに、人々はまだ気が付きませんでした。




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なんじゃもんじゃ物語 2-4 漁師ポチの小屋にて

2006-06-19 11:28:42 | なんじゃもんじゃ物語
なんじゃもんじゃ物語 2-4 漁師ポチの小屋にて


なんじゃもんじゃ物語 69


 海の音が、小さく、とても優しく聞こえます。
漁師ポチのボロ小屋は、壁や天井の破れ目から、朝日が差し込んでいました。

“ 天国にも海があるのかしら?
 海の水、とっても塩辛かった……・・。
 何だか、明るいわね。
 天国のお昼なのかな?
 あらっ、誰か私を見てるわ。“

「 君、しっかりしてっ!
 しっかり!」

ぼんやりしていた顔が次第にはっきりしてきました。

「 あっ、この前の痴漢!」
「 僕、痴漢じゃないよ!」
「 天国にも痴漢がいるのね。
 触ったら、大声上げるわよ!」
「 違うってば!」
「 いやっ!」
「 お前、あっちへ行くべ。
 ハンサムなわしが話しをするべ。」
「 いやらしそうなヒゲモジャの顔。
 分かった、あなた痴漢の親分でしょ。」
「 わしゃ、漁師ポチだべ、痴漢じゃないべ。
 それに、ここは、天国じゃないべ、もんじゃ王国だべ。」
「 本当?」
「 本当だべ。」
「 そうだべ、海岸に倒れてただべさ。」
「 ふーん、そうだったの。
 波で海岸に押し返されたのかしら?
 それにしても、隙間だらけの汚い小屋ね。」
「 風が吹いて、涼しくって快適な小屋と言って欲しいだベ。」
「 漁師ポチって言ったわね。
 うーん、じっくり見ると、割とアホみたいで親切そうな人に見えるわ。
 そっちの、痴漢も愛敬のある顔してるわ、バカみたい。」
「 痴漢じゃ、ないってば!」

エレーヌ姫は、二人を見て、愛らしくニッコリ笑いました。
漁師ポチも顔をグシャとつぶして笑い返しました。
なんじゃ王子は、ボンヤリ彼女を見ていました。






なんじゃもんじゃ物語 70


エレーヌ姫は、空腹感を感じました。

「 何か、食べる物ちょうだい。」
「 これ、食べるべ、まる一日眠っていたから無理も無いだべなあ。」
「 そ、それは、僕の昼飯!」
「 お前は、昼飯抜きだべ。
食べてばっかりいないで、何か海で獲って来るべ。」
「 ひどいなあ、まあいいや、君が食べるんだから。」

なんじゃ王子は、顔を真っ赤にして小屋を飛び出しました。
砂に足を取られ、ヨタヨタしながら、長く続いている砂浜の向こうにある岩場を目指して歩きました。
なんじゃ王子に驚いて、白っぽい鳥が一羽青い空に舞い上がりました。
ヤドカリが、目をパチクリさせました。
カニは横に歩いたって、なんじゃ王子より早く歩けるとガサガサなんじゃ王子を抜かして行きました。

「 このカニ、早く歩くなあ、よし、抜かしてやるぞ。」

なんじゃ王子は、少し早く歩きました。
カニも、ガサゴソと急いで歩きました。
なんじゃ王子は、必死になって走りました。
カニも砂を蹴散らして走りました。
でも、その差は開いていくばかりです。
コロン、なんじゃ王子は、砂の上にひっくり返ってしまいました。
なんじゃ王子が、前を見るとカニは勝ち誇ってハサミを振り上げていました。
後ろで声がしました。

「 フフ、だめねえ、モゴ、モグモグ。」

上品な口に似つかわしくない魚の干物をくわえたエレーヌ姫がなんじゃ王子を見ていました。

「 なんだ、君か。」

エレーヌ姫は、なんじゃ王子に言いました。

「 カニより足の遅い人なんて、珍しいわ、ほんとに。」






なんじゃもんじゃ物語 71


なんじゃ王子とエレーヌ姫は、海岸に生えているヤシの木の木陰に座りました。
エレーヌ姫は、ぶら下げていた袋からマンゴーの実を取り出してモグモグ食べ始めました。

「 あなたも、これ食べる?
まだ、袋にあるわ。」
「 いいよ。」
「 そう。
あなたの昼ご飯でしょう。」
「 いいよ、食べて。
君、もう、動けるの?」
「 ええ、マンゴーの実を小屋で一つ食べたら、元気が出てきたみたい。
わたし、小屋で長い間、寝ていたんじゃないかしら?
海に入って直ぐにひげもじゃの顔が見えたような気がするわ。
「 漁師ポチだよ。
あの人、いい人だよ、親切だし。
海水も飲んで無かったし、そのまま小屋で寝てしまったようだけど。
疲れてたんだろ、たぶん。」

なんじゃ王子は、海に入った事情を聞くことは止めておきました。
エレーヌ姫は、魚の干物を袋から出して食べ始めました。
青い空に、白い鳥が飛んでいました。
目の前に広がる青い海は、太陽に照らされてキラキラ輝いていました。
なんじゃ王子は、うつむいて足元に半分砂に埋まった真珠色の貝殻を、右足で突付き出しながら口を開きました。

「 君、何て名前?」
「 私、私、………、エレーヌ。」

エレーヌ姫は、考えながら答えました。
今、もんじゃ王国の王女だと言っても信じてはくれないだろうし、本当の事を言って、ここにいることが、もしも、チカーメ大臣に分かったら、城から放り出した事を後悔して、誰かを私を殺しに向かわせるかも知れない。






なんじゃもんじゃ物語 72


エレーヌ姫は、なんじゃ王子に名前を聞きました。

「 あなたは?」

なんじゃ王子は、また、王子だなんて言ったら笑われるだけだろうし、と考えました。

「 何?」
「 ・・・・・・・王子様。」

頭脳明晰な頃ならいざ知らず、今のなんじゃ王子には、パッと言われて即座に答えるだけの能力が少々欠乏していて、苦し紛れに出た言葉は結局もとのままの王子様だったのです。

「 ふふ、まあいいわ、それじゃ、王子様、何処へ行くの?」
「 岩場。」

なんじゃ王子は、立ち上がって歩き始めました。
エレーヌ姫も並んで歩き始めました。

「 あなた、良さそうな人ね、漁師ポチもね。
何だか分からないけど、そんな気がする。
何故、初めてあなたに会った時、痴漢なんて言っちゃったのかしら。
急にゴミと一緒に出て来たからかしら。
でも、何故あんな所に入っていたの?」

なんじゃ王子は、横を歩いているエレーヌ姫を見ました。
つやつやとした髪が風で乱れて、なんじゃ王子を見ているエレーヌ姫の顔にさらさらとふりかかっていました。
なんじゃ王子は、何も答えず、自分を見ているエレーヌ姫から目を逸らせ、足元に寄せて来る波に濡れて砂の少し付いた靴に目をやりました。






なんじゃもんじゃ物語 73


なんじゃ王子は、エレーヌ姫に言いました。

「 エレーヌって呼んでいい?」
「 ええ。」
「 エレーヌ、エレーヌって何処か違う、僕や髭もじゃ漁師ポチと。」
「 そりゃ違うわ、私はこれでも女の子よ。」
「 えっ、女の子。
女の子って、女だろ。」
「 男の女の子なんていないわよ。
それとも、私が男の子に見えるなんて言うの?」

エレーヌ姫は、口を尖らして不服そうに言いました。

「 女の子って、とっても恐ろしいんだろ。
なんじゃ大辞典に書いてあったよ、ほんとだよ。」
「 私も、恐く見える?」

エレーヌ姫は、いたずらっぽく横目でチラッとなんじゃ王子を見ました。

「 う、ううん、でも……・。」
「 でも、何よ。」
「 も、もう岩場だよ、岩の上にあがるよ。」
「 ええ、いいわ。」

エレーヌ姫は、すばやく岩の上に登りました。
なんじゃ王子も同じ様に登ろうとしましたが、うまく行きません。
何回かやって顔が真っ赤になって、息もフウハア言い出しました。

「 ふふふ、引っ張ったげる。」

岩の上からエレーヌ姫の手が差し出されました。
なんじゃ王子は、片手を伸ばし、しっかりとつかまりました。
柔らかい感触が手を通して感じられました。
なんじゃ王子は、もう片方の手で岩の出っ張りをつかみ、ようやく岩の上にあがりました。

「 よいしょっと。」
「 何が、よいしょっとよ、普通、男の子が女の子を助けるものよ、分かってる?」
「 うん、勉強するよ。」

潮が引いたため、岩の割れ目に無様に取り残されたクラゲが笑いました。
アメフラシも岩の隙間からトボケた顔を出して笑いました。




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なんじゃもんじゃ物語 2-5 海賊

2006-06-18 13:14:25 | なんじゃもんじゃ物語
なんじゃもんじゃ物語 2-5 海賊


なんじゃもんじゃ物語 74

 なんじゃ王子とエレーヌ姫が岩の上に座っている頃、沖から島に向かって一隻の海賊船が走っておりました。
舳先で、海賊のお頭ブラックが、大声で命令しました。

「 それでは、海賊のテーマソングを行くぞ。
 いち、にいの、さん!
 ひとつ出たほいのよさほいのほい、人の物品取る時は、覆面結んでせにゃならぬ!
 ふたつ出たほいのよさほいのほい、二人一度にやるときにゃ、糞で目潰しすればよい!
 みっつ出たほいのよさほいのほい、ん、おい、船の速力が落ちたぞ、どうした?」
「 お頭ぁ、燃料のウランが、あと少ししかありません。
 出力が落ちてきましたぁ。」
「 それはいかん。
 とにかく、この船は,ヤマタイ国に向かっておる。
 ヤマタイ国には、ウランがある。
 それを奪うんだ、急げ!!」
「 おーっ!!」

海賊船は、コバルト色の海を白い波をけたてて、滑るようにヤマタイ国ならぬ、もんじゃ島に進んで行きました。

「 お頭ぁ、島が見えますぅ!」

マストの見張りが大声を張り上げました。
お頭ブラックは、黙って望遠鏡で島を見ていました。

“ おかしいな、フジヤーマが見えんぞ?
 ゲーシャも見えんぞ?
 おかしい?”



なんじゃもんじゃ物語 75

海賊船は、どんどんもんじゃ島に近付いていきました。

「 おっ、岩の上に人影が見える。
男と女だぞ。
女は可愛らしいぞ。
男は、ボケた顔をしてるぞ。
だんだん、大きくなってきたぞ。
うわっ、大きな眼。
おっとっと、ドチン。」
「 お頭、島にぶつかりました。
お頭、お頭、返事をして下さい。
お頭~、あっ、お頭、そんな所で寝ている場合ではありません。」

哀れお頭ブラックは、船が島にぶつかった反動で岩の上に真っ逆さまに落ちて気絶していました。

「 お頭、しっかりしてください。」

頭に毛の無い男がゆすり起こしました。

「 う、い、はっ、島に着いたな。」

お頭ブラックは、周りをぐるっと見まわしました。
そして、岩の上でキョトンとこちらを見ているなんじゃ王子とエレーヌ姫を発見しました。

「 おい、お前達、ここはヤマタイ国だろう。
原子力発電所へ案内しろ。」

お頭ブラックは、恐ろしい顔にさらに凄みを利かせ低い声で脅しました。




なんじゃもんじゃ物語 76

なんじゃ王国も、もんじゃ王国も、いや、今はもんじゃ王国が全島を統一したのですが、もともと平和な島国だったので海賊は何処にもいませんでした。また、世界地図にも載っていない国でしたので、今まで、島の外から海賊がやってきた事もありませんでした。
だから、あの偉大ななんじゃ大辞典にも、海賊の項は省いてあったのです。
そして、今でこそ少しはボケていますが、一応なんじゃ大辞典に精通して博学のなんじゃ王子や、エレーヌ姫も彼らがいかなる人間か知る由もありませんでした。
ドクロのマークを旗につけた船が近付いてきても、ただ、ポケッと見ているだけだったのです。
無知ほど強いものはありません。
でも、今こんな状況になってしまったので、彼らが恐ろしそうな人間であることだけは、理解出来ました。
なんじゃ王子は、エレーヌ姫に自分が怖がっていない事を見せるために懸命に答えました。

「 原子力発電所なんて無いよ。
第一、 ここは、ヤマタイ国じゃ無いよ。
ここは、もんじゃ島だよ。
ヤマタイ国なら、ここからずっと北の方に行った所だって漁師ポチから聞いたけど。」
「 なんとおっしゃる、お前さん。
ここが、ヤマタイ国じゃ無いってか………。
そう言えば、そうかな。
フジヤーマが、見えんからな。
うーん、暑すぎる。
ヤマタイ国は、今、冬の筈だ。
誰だ、こっちなんて言った奴は!」
「 それは、お頭です。」
「 うっ、あっ、そうか。
天才も稀には間違う、ガハハハハハハ。
いや、笑っている場合ではない。
こうしている間にもウランは、減っているのだ。
ここには、原子力発電所は無いと言っていたな。
それでは、早速、ヤマタイ国に行かなければ。」
「 お頭、あいつらどうしやす?」
「 俺がふんづかまえる!!」



なんじゃもんじゃ物語 77

二人は、とっさに逃げました。
しかし、なんじゃ王子は、逃げ足が遅く、エレーヌ姫は彼の手を引っ張って何とかこの場を逃れようとしましたが、岡に上がった海賊のお頭ブラックはカッパどころか、あの懐かしいエチオピアのアベベの如く軽やかにかつより早くより強くだんだんと差を縮めて行ったのです。
もはや、なんじゃ王子は観念しました。
引っ張ってくれるエレーヌ姫の手を振り解き、振り返った彼女に逃げろと叫びました。
エレーヌ姫は少しためらいましたが、分かったらしく心配そうな顔をしながらも頷いて熱帯樹の繁みの中に消えて行きました。
もう、その時には、海賊ブラックは、なんじゃ王子の襟首を取っ捕まえていました。

「 ガハハハハハ。
捕まえたぞ、この小僧。
女は逃げられてしまったな、残念。
可愛かったのに仕方が無い。
この小僧、こき使ってやる、逃げやがって。
あっと、こうしている間にも燃料が減って行く。
おい、小僧来るんだ!
丁度、雑役夫がいなくて困っていた所だ。」

なんじゃ王子は、ババタレ猫のように襟首を掴まれ海賊ブラックに連れて行かれました。

「 おーい、出港だあ!!」

海賊ブラックの声と同時に、重い響きをたててエンジンが動き出しました。
原子力海賊船は、ゆっくりゆっくり岩から離れました。
そして、向きを変え、次第に速力をあげ、白い波をけたてて沖に出て、小さく小さくなって、やがて水平線の彼方へと消えて行ったのです。
エレーヌ姫は、海賊ブラックに分からないように、海岸のビロウの影から、じっとその去って行く様子を見ていました。
青い海と青い空は水平線を折り目にして接していました。
ヤドカリは海賊が去った海岸を何事も無かったかの様にガサゴソ歩いていました。
白い波は繰り返し海岸に打ち寄せていました。
エレーヌ姫は、海岸に立ち、海の彼方を見ていました。
そして、一筋の涙が頬を流れて行くのを感じました。




なんじゃもんじゃ物語 78

次の日、チカーメ大臣の戴冠式が全島あげて行われました。
チカーメ女王の誕生です。
なんじゃ王国に代々仕えていた人々は、表面では祝っているかのように見せ掛けておりましたが、何時かきっと、なんじゃ王国を再興させようと機会を窺っていました。
今は、タコ焼き屋の二階に居候しているホイ大臣は、世間の目を欺くため放蕩生活を送っていました。
今日も、ホイ大臣は、趣味と実益を兼ねて茶屋に来ておりました。

「 鬼さん、こちら。」
「 ホイさん、こっちよ、キャー、ハハハハハハハ。」
「 よーし、捕まえてやるぞ。
捕まえたら、わしのものになれ、分かったな、歌奴に熊奴。
ホーラ、ホラ、ホラ。」
「 キャー。」

テケテン、ベンベン、テケテン、ベンベン。
太鼓や三味線の音も華やかに、障子に映るホイ大臣や女達の影や楽しそうな嬌声を路地から聞いていたもんじゃ軍の五人は、ホイ大臣に反乱の意志が無い事を感じその旨をチカーメ女王に報告したのでした。
チカーメ女王は呟きました。

「 元なんじゃ国民は、反乱なんかしそうも無いわね。
なんじゃ王子は、なんじゃ城に閉じ込めてあると報告を聞いているし、それに、頭が弱いから反乱を起こす力は無いわ。
ホイ大臣もフニャフニャの様だし………。
これで、チカーメ王国が出来上がったわ、ふふふ。」

チカーメ女王は、状況に満足し、ふがい無いなんじゃ王国を嘲笑したのは言うまでもない事でした。



なんじゃもんじゃ物語 79

海賊船は、青い海の上を滑るように走っていました。

「 ねえ、コックのおじさん、この船には何人の人が乗っているの?」

なんじゃ王子は涙をポロポロ流して、料理を作っているコックに聞きました。
別に痛い目にあわせられたのではありません。
今晩の料理、カレーに入れる玉ねぎを剥いていたのです。
グツグツといい臭いを辺り一面に撒き散らしているカレーをかき混ぜながら、中国人風のコックが答えました。

「 そうあるね、あなたを寄せて7人あるよ。」
「 どんな人?」
「 そうね、まずポクの名はね、チンギスチン。」
「 えっ、ジンギスカンに似てるよ。」
「 そうよ、ポクはジンギスカンの子孫あるよ。
マストの上で見張りをしているのが、ノゾーキ。
何でも一時はニューヨークの覗き魔と言われたほどの奴あるね。
視力8.3よ、凄いあるね。
それから、研究員のエッチソン。
これ、エジソンの末裔あるよ。
今、彼は女性用の携帯トイレを研究してるあるね。
医者のべンケー、この人は、よく分からんあるね。
昔、アメリカで流行ったべンケーシーと言う医者の映画から名前をとったとか言ってたけど。
次に聞いた時は、牛若丸と弁慶のベンケイの子孫だとか、聞くごとに言ってる事が変わるんだから。
でも、医者の腕は確かね、みんな助かってるよ。
それに、呪術も使えるからね、凄いよ。
機関士のたまちゃん、本名は言わないあるよ。
これ、ヤマタイ国人よ。
エンジニアの腕前は一級品あるよ。
武術の達人あるよ。
そして、お頭のブラック。
大海賊ブラック・バートの子孫あるよ。
これで、みんなよ。」
「 ふーん、この船はエッチソンが作ったの?」
「 そうある、そうある、彼、頭良いあるよ。」




なんじゃもんじゃ物語 80

「 でぇーきたっとぉ。」

なんじゃ王子は、玉ねぎをみんな剥き終り、涙を拭きながら台所から飛び出しました。
なんじゃ王子は、輝く太陽の光の中でデッキに立って青い空を見上げました。

「 こらっ、坊主、こっちに来い!」

上の方からお頭ブラックの声が聞こえます。
なんじゃ王子が、振り返ると操舵室の窓から、お頭ブラックが首を出して呼んでいました。
なんじゃ王子は、この船に乗り込んでから実際ろくな事を命令されません。
一日目から、便所掃除、甲板洗い、船室の掃除はもちろんの事、食事の用意までありとあらゆる事をやらされました。
今日も、何かいやらしそうな眼をして、ニタニタ笑いながら呼んでいるので、嫌な予感がしましたが仕方がありません、諦めて行く事にしました。
操舵室に入ると古風な回転椅子に座り、口髭モジャモジャの中からパイプを突き出したお頭ブラックが、なんじゃ王子を待ちかねたように口を開きました。

「 おい、坊主、お前あの島で、ここはヤマタイ国だろうと尋ねた時、確かここはもんじゃ島だと言ったな。」
「 ああ、言ったよ、ブラック。」
「 馬鹿、俺はお頭の船長の親分の首領のボスのブラックだぞ。
呼び捨てにするな、今度呼び捨てにすると海に放り込むぞ。」
「 分かったよ、ブラック。」
「 もうー、馬鹿にしやがって、海賊生活長い中こんなに馬鹿にされた事はない!
まあいい、小僧、その島がもんじゃ島なら、その島を領土としている国は?」
「 もんじゃ王国だよ、ブラック。」
「 また、呼び捨てにしやがった、お頭とでも呼べ、お頭と。
それじゃ、もんじゃ映画会社を知っているか?」
「 知っているよ、潰れちゃったけど……。」
「 何、潰れた!
うーん、残念だ。
あんな素晴らしい映画を作った会社が潰れてしまうなんて。
おい、なんじゃ王国の裸女の乱舞と言う映画を見たことがあるか?
帰って来た名画と銘打った映画祭が、150円均一の映画館で上映されていた中にあったのを見て、思わず身を乗り出したほどだったんだぞ。
あの、暗闇に流れるヒソヒソ声、そして、感激が頂点に達した時、映画館全体に鳴り響くほどの、ヤッターと言う声、今、思い出しただけでもゾクゾクする。
俺は、何とか見ようと、毎日映画館に通って一番前に席をとって食い入るように眺めたあの映画、上映が終わると、明るくなって、スクリーンの前の小さい台の上に観客みんなが折り重なるようにいたのをライトが照らしているのを覚えているぞ。
俺は、いつも一番下に敷かれて、苦しかったのも覚えているぞ。
ああ、あの映画を作ったもんじゃ映画会社が潰れたか…………。」
「 なんじゃ王国も知っているよ。」
「 何、なんじゃ王国まで知っているのか!」
「 僕、なんじゃ王国の王子様だよ。」
「 このぉ、クソガキ、なめてるとお尻モミモミするぞ、このぉー、クソガキ。」
「 ほんとだよ。」
「 まだ、言ってやがる。
それが王子様の面か、服もよれよれじゃないか、うそがきめ。」




なんじゃもんじゃ物語 81
 
お頭ブラックの王子様に対するイメージは、凛々しい顔立ちに金ぴかのぱりっとした服を着た人間と言う物でした。
今の王子様にこの条件を求めることは少々無理と言うもの。
何処か、とぼけた顔に服もいただけません。
彼方此方でコロコロひっくり返るので泥だらけ埃だらけ綻びだらけ。
お頭ブラックの言い方になんじゃ王子は、不服そうな顔をしましたが、これ以上言っても信じて貰えそうも無いと口を噤みました。
お頭ブラックの顔は、だんだん赤みを帯び、喋り方も早くなってきました。

「 そ、そ、そ、そんな嘘でこのブラック様を騙せると思っているのか、このガキ、出て行け!」

お頭ブラックの手がすっと消え、何かがキラッと光ったと思うとヒュッと言う音がしました。
なんじゃ王子は思わず首を竦め、カツッと言う音を耳にしながら、扉から外に飛び出しました。
反動でバタンと閉まった扉の窓枠には青いインクのついた付けペンが鋭く光っていました。

「 小僧、なかなかやるな・・・・・・・。」

お頭ブラックは、口髭に隠れた口の一方を吊り上げてふふっと笑いました。

「 フー、怖かった。」

何か殺気を感じて首を竦めて飛び出したのが功を奏したようです。
なんじゃ王子が、ドキドキする胸を抱えながら船尾のほうに歩いて行くと声が聞こえました。

「 あっ、小僧はん、ここにいたん。
ちょっとこっちに来いなあ。
やっと発明が完成したんや。
実験台になってえな。」

白い服を着たエッチソンが呼んでいました。




なんじゃもんじゃ物語 82

なんじゃ王子は、再び嫌な予感がしました。
でも、これを断るとお頭ブラックに言いつけられて、又、怒られます。
嫌々エッチソンに付いて船室の中に入っていきました。

「 ねえ、エッチソン、今度は何を作ったの?
この前の自動鼻糞取り機なんて嫌だよ。
二日も鼻の穴から抜けなかったんだもの。」
「 いやー、あれはちょっとした手違いでおました。
直径二cmもあるものを無理矢理突っ込んでしもうたもんやから……・。
だから、それを抜き取るために特別に自動鼻糞取り機抜き取り機を作ってやったやおまへんか。」
「 でも、作ってやるて言っても、どんな素晴らしい物かと思っていたら、先が輪になっている一本の紐じゃない。
あんなものデパートのバーゲンで買った品物にグルグルいっぱい巻いてあるような、何処にでもあるような物じゃない。
二日もかかってあんなものを作っていたの?」
「 よう、聞きや。
あの紐は、ただの紐やないんやでえ、わいのパンツのゴムの伸びた奴や。
おかげで十分毎にパンツがずって来よるにゃ。」

エッチソンは、さも気持ち悪そうにズボンの上からパンツをたくし上げました。

「 お前が、ポイと海に捨ててしまうからこの始末や。
それにあの紐の結び方はなあ、二日かかったほどの芸術的なもんや。
えっ、聞いてるか?
疾行には、善迹なしと言うやろがな。」
「 うん、でも、あの輪を自動鼻糞取り機に引っ掛けて引っ張るだけの物じゃない。
べンケーが僕の頭を後ろから持って動かないようにして、エッチソンが前からその紐を引っ張っただけだろ。
あれ、すごく痛かったんだ。
あんなの絶対嫌だよ、金輪際!」
「 いやいや失敗は成功のもとと言うやんか。
かの有名なエジソンだって失敗しておるよ。
初めて白熱電球を作った時、火が着きもしないのに、電球に映った助手の禿げ頭を見て、やったと思わず叫んだそうなんよ。
ああ、パンツがずる。」

エッチソンは、又、気持ち悪そうにズボンの上からモゾモゾとパンツをずり上げました。



なんじゃもんじゃ物語 83

なんじゃ王子は、部屋の真ん中に大きな機械があるのを見つけました。

「 あれ、なあに?」

なんじゃ王子は、大きな機械を指差してエッチソンに尋ねました。

「 あれはやなあ、カッテイングマシンや。
レコードを作る機械や。
音楽のレコードやがな。
懐かしいやろ。
レトロな感覚でプレミアが付いて高く売れるんやで。
おまはんも知ってるやろ、海賊版言うレコードやがな。
あれみんな非合法にここで作ってるんやで。
他の品物も海賊版やったらみんなここでつくってるんや。
この海賊団の大きな収入源や。
そのお金でウランを買おうとコンゴのカタンガ州に行ったんや。
高い値段ふっかけよったで。
おまえらのウランなんて安物いらんわって言うたら、今後、ウランやて、うまい事言いよるやろ、ははは。
それで、ヤマタイ国に行くんや。
もう、お金出すのもったいないから、お金を出さずに貰って来るんや。」
「 それ泥棒するんじゃない!」
「 泥棒や無い。
何も言わずに貰って来るんや。
そんな事より、ほら、これや。」




なんじゃもんじゃ物語 84

エッチソンは、大きな機械を通り過ぎ、隣の小部屋に入って電気のスイッチを入れました。
そして、青白い蛍光燈が照らし出しているテーブルの上のプラスチック製の器具を指差しました。
光線の加減で薄赤く光ってテーブルの上に鎮座している物を見ながらなんじゃ王子は、さっきの嫌な予感がさらに大きくぶり返して来るのを感じました。

「 これは?」

なんじゃ王子は、エッチソンを見上げて聞きました。
エッチソンは、興奮ぎみに答えました。

「 これこそ、我が人生最大の発明、原子力海賊船なんて眼じゃない、眼じゃない。
名付けて携帯女性用トイレ。
これは心理学の本を読んでいた時、思い付きましたんや。
それはですな、男性は何処ででも放尿出来るのに女性は出来まへん。
女性は、そんな不便な出来事を幼少より長年感じる事により女性の深層心理に男性に対するある種の劣等感が植え付けられまんねん。
それが女性の心に残って来ると他の事にも、劣等感が影響して来まんにゃわ。
これさえあれば、全ての女性は心の真の解放を得られるんですわ。
今に、これを着けた女性が、世の中の革命を起こすんちゃいまっか。
これこそ、ほんに最高の発明でおます。
そこで、…………・」

エッチソンは、なんじゃ王子をじろっと変な目付きで見ました。



なんじゃもんじゃ物語 85

なんじゃ王子は、殺気を感じました。

「 やだよ、こんなの!
第一女性用じゃないか。
僕、男だよ、やだよ!!」
「 この海賊船には、女性はいませんにゃ。」

エッチソンの目付きは酒を飲んで絡み性になった男の眼をしていました。
なんじゃ王子は、じりじりと出口の方に近付き、エッチソンが捕まえようとした瞬間、出口から外に飛び出してドアをバタンと強く閉めました。
ガチャッと鍵が閉まる音が聞こえました。
部屋の中からエッチソンの声が聞こえました。

「 し、しもうた!
自動錠が閉まってしもうた。
これ、24時間も開かへんにゃ。
今頃、閉まりよった。
今まで、一度も閉まりよらへんかったのに。
もうー、あほ。
あけろー。
お頭ブラックに伝えてえなー。」
「 やだよ。」
「 もおー、この坊主。
よーし、ガンガン、ドンドン、ガタガタ、ビシビシ。
くそおー。
もお、まあええわ。
明日これを必ず付けさせるでえ。」

エッチソンの声を後になんじゃ王子は、誰にも見付からないように階段を降りました。
そして、船底の自分に割り当てられた部屋に戻りました。



なんじゃもんじゃ物語 86

コン、コン。
誰かが、部屋の扉を叩いています。
なんじゃ王子は、誰かなと思って扉を開けました。
開けた扉の隙間から、なんじゃ王子の顔に拳が飛んできました。

「 うわっ!!」

なんじゃ王子は、かろうじて突き出された拳を避けました。
扉が蹴って開けられ、壁に当たってバンと言う大きな音が聞こえました。
機関士のたまちゃんが飛び込んで来て、なんじゃ王子の体制が崩れた所に、まわし蹴りを食らわしました。
なんじゃ王子が屈んで避けると、たまちゃんの足は壁に立てかけてある板にめり込みました。

「 ううっ、抜けない!」
「 たまちゃん、止めてよ。
朝から、働きっぱなしなんだから、休憩させてよ。」
「 だめ、僕の練習相手がまだ終わってない!!」

なんじゃ王子は、たまちゃんの武術の練習時間を忘れていました。

「 さあ、練習、練習。
機関室に閉じこもっていると体がなまってしようがない。
甲板に行こう。」
「 ちょっと休憩させてよ。」
「 だめ、ぶつぶつ言わずに早く来い。」

たまちゃんは、板から足を抜きながらなんじゃ王子を部屋から追い出しました。
それからたっぷり二時間なんじゃ王子は、甲板でたまちゃんの相手をさせられました。
たまちゃんからようやく解放されたなんじゃ王子は、部屋に戻って扉の鍵を締めました。
そして、部屋の電気をつけ、固いベッドにゴロンと寝転んでグレーに塗られた天井を眺めながら呟きました。

「 ああ、島に帰りたいなあ。
お父ちゃんどうしてるかなあ。
こんな船から、早く逃げ出さなきゃ。
顔を合わせる度に、何か用事を言い付けられちゃたまらないや。
それに、たまちゃんの武術の練習相手も、もうやだ。
エッチソンの言い方だと、ええかげんにしてやっ!、だ。
エレーヌどうしてるかな。
あーあ、ほんとに早くこんな所から脱出しなきゃ。」

なんじゃ王子は、まだ、なんじゃ王が死んだ事もなんじゃ王国が潰れてもんじゃ王国に吸収された事も知りませんでした。
もちろん、もんじゃ王の代わりにチカーメ大臣が女王になった事も知りませんでした。
ただ、なんじゃ王子の頭の中には、自分がいなくなって心配しているなんじゃ王や、そう思っていて欲しいエレーヌ姫の姿が浮かんで来るだけだったのです。

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なんじゃもんじゃ物語 2-6 海賊船ヤマタイ国へ

2006-06-17 12:58:44 | なんじゃもんじゃ物語
なんじゃもんじゃ物語 2-6 海賊船ヤマタイ国へ


なんじゃもんじゃ物語 87


 星空の下、真っ暗な海を海賊船は進んでいました。
マストの上から、ノゾーキの叫び声が響きました。

「 お頭っ、赤い灯や青い灯が見えまーす!!」

お頭ブラックは、歌を歌いだしました。

「 あかいひぃ~、あおいひぃ~、道頓堀のぉ~。」

マストからするすると降りてきたノゾーキが言いました。

「 お頭、歌なんて歌っている場合ではありません。
 どうせ歌うんなら、もっとうまく歌って下さい。」
「 うるさい、ノゾーキ。
 エッチソンのレトロレコードから、ヤマタイ国の風習を吸収しているところなんだ。」
「 それにしても下手ですね。」
「 なにっ!
 俺はこれでも海賊学校の余興会で独唱したことがあるんだぞ。
 ああ、あの時は盛大な拍手が満場を興奮のるつぼにしたなぁ………・。
 おい、ノゾーキ、拍手しろ。」
「 それより、灯が見えてるんですよ。」
「 うるさい、拍手が先だ!」
「 もう、言い出したらきかないんだから。」

ノゾーキは、拍手をしました。
パチパチパチ。
お頭ブラックは、拍手を聞きながら言いました。

「 どうも、迫力がねえな。
 よし、みんなを呼び集めろ!」
「 また、お頭のわがままが始まった。」
「 早くしろ、こらっ!」

ノゾーキは、船長室からぶつぶつ文句を言いながら、みんなを呼びに行きました。





なんじゃもんじゃ物語 88


船長室にチンギスチンとべンケーとなんじゃ王子がやって来ました。

「 スープの出汁を作っているところあるよ。
何あるか?
早くしてあるよ。」
「 水虫の治療中なのに何ですか?」
「 眠いよ~。」

お頭ブラックは言いました。

「 全員、そろってからだ。
ノゾーキとたまちゃんとエッチソンはまだか?」

しばらくして、三人がそろって入って来ました。
お頭ブラックは言いました。

「 遅い、遅い、何をやっていたんだ。」
「 エッチソンが部屋に閉じ込められていたんですよ。
二人で扉をぶち破って助けてきました。」
「 ほんまに酷い眼にあいましたんや。
まさか鍵がかかるとは思いまへんでした。
それで、重要な話しは、なんでんねん?」

お頭ブラックは言いました。

「 歌を歌うので、盛大な拍手をするように。」
「 え~、またかあ~。」
「 しばらく無かったので安心していたのに、また、リサイタルかあ~。」
「 何か、文句はあるのか?」
「 いや、そう言う訳では、…………・。」
「 いいか、お前たち、これからヤマタイ国に行くんだぞ。
ヤマタイ国の風習にも慣れておかなければいけない。
その国の雰囲気は歌を聞けば分かる。
それでは行くぞ!」

お頭ブラックは、カラオケマイクを手に、海賊版レコードに針を落としました。
レトロスピーカーから真空管アンプを通して流れる音を聞きながら、お頭ブラックはニコニコしながら歌い出しました。

「 あかいひぃ~、あおいひぃ~、道頓堀のぉ~………………。」

六人は仕方が無いので、早く終わらないかなと言う表情で歌を聞いていました。
歌が一通り終わるとお頭ブラックは両手を挙げて叫びました。

「 盛大な拍手う~っ!!!!」
「 パチパチパチパチ。」
「 もっと盛大な拍手う~っ!!!!」
「 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!!!」

お頭ブラックは、満面の髭もじゃ笑顔で六人に握手してまわりました。
チンギスチンがエッチソンに小さな声で言いました。

「 何時聞いても下手糞あるね。」
「 ほんまでんな。」

お頭ブラックはエッチソンに言いました。

「 何か言ったか?」
「 いやいや、お頭は歌がうまいでんな。」
「 そうだろ、これから毎日聞かせてやってもいいぞ。
ん、ノゾーキ、何か言いたいことでもあるのか?」
「 それより、お頭、火が見えますよ、ホラッ!」

ノゾーキが進行方向を見るように促しました。
なるほど火が見えます。
先程、ノゾーキが見た、チラチラと瞬きするような小さな火では無く、かなりはっきりと見えるようになっていました。






なんじゃもんじゃ物語 89


たまちゃんが叫びました。

「 トンキンCITYだ!」
「 うわっ、歌っている間にヤマタイ国に着いてしまった!」
「 お頭、先程から火が見えると何回も言っていたでしょう。」
「 うむっ……・。
でもなあ、……。
もう一曲準備していたのになあ……・・。
やっぱり、歌が先だ!!
これでいいのだ!」
「 お頭、お頭、もう……。」
「 ああ、もう、うるさい。
わかっておる、わかっておる。」
仕方が無い。」

お頭ブラックは、全員に命令を出しました。

「 早く、衣装室に行ってヤマタイ国の服に着替えろ!
もう既に、エッチソンに言って人数分作らせてある。
早く行け!」

六人は衣装室に走りました。


残ったお頭ブラックは、机の上に置いてある機械のボタンを見ながら考えていました。

「 せっかく歌を準備していたのに残念!
ウランを手に入れてからのお楽しみと言う事にしておくか……・・。
さて、海賊船の変身は、どの国バージョンで行こうかな?
この前は間違えて、アメリカン合衆国バージョンでイスラームの港に入ってしまったからな。
危なく沈没させられる所だった。
悪魔がやって来たなんて港で罵られたからな。
ちょっとインターネットで調べてみよう。
えーと、出た出た。
ヤマタイ国はアメリカン合衆国とお友達。
よしよし、アメリカン合衆国で行こう。
旗は、星のいっぱい付いている奴だったかな。
ええと、これとこれを押して………・。
はいOK!」

お頭ブラックは緑と青のボタンを押しました。
海賊船が軋み出しました。
そして、海賊のトレードマークである髑髏の旗はマストに引っ込み代わりにアメリカン合衆国の旗がマストに翻りました。
また、船体自身もゴトゴトと音を立てながら貨物船に変身しました。
変身した海賊船は、通り過ぎる大型タンカーには見劣りしますが、なかなかどうして小さいながらも重量感が感じられます。
そうしている間にも、船は港にどんどん入って行きました。






なんじゃもんじゃ物語 90


海賊たちは、一人また一人とヤマタイ国の服に着替えが完了した者から順に船長室に帰って来ました。
お頭ブラックが、帰って来たたまちゃんに言いました。

「 おい、たまちゃん、舵を替われ。」
「 はい、お頭。」

お頭ブラックも、たまちゃんに舵を任せて着替えに部屋を出て行きました。
殿様のキンキラ着物を着たなんじゃ王子が、岡っ引きの格好をして十手を持ったチンギスチンに聞きました。

「 ほんとに、こんな服でいいのかな?」
「 それにしても、ヤマタイ国人と言うのは変わった服を着てるあるね。
たまちゃんは、普段使っている空手の胴衣ね。
いいあるね、似合ってるよ。」

農民のつぎはぎ服に鍬を担いだエッチソンが、虚無僧の着物を着て尺八を持ったノゾーキに言いました。

「 それは、笛でっか?
アルトリコーダーみたいでんな。
ちょっと、吹いておくれやす。」
「 縦笛かな?
ぶお~、ぶぶお~。
変な音だな。
竹で出来ているよ。
エッチソンの服はひどいね。
継ぎ当てだらけだよ。」
「 衣装部屋に入るのが遅れてしまって、こんなのしか残って無かったんですがな。
これは、坊主用に作ったのに、一番良いキンキラ服を坊主に取られてしもうたんやがな。
初めて船に乗せた頃よりか、すばしっこくなって来てまんなあ。
おやっ、べンケー、格好良いでんなあ。
それ、武士でっせ。
刀二本付きでんがな。」
「 似合うか、そうか。
むふふふふ。
この刀、良く切れそうだ。
気が向いたら、これで手術してやるよ、ふっ、ふっ、ふっ。」

なんじゃ王子が、エッチソンに聞きました。

「 なんじゃ辞典にあったような気もするけれど………。
これ、ちょっと古くない?」
「 お頭に言われた通りに作りましたんや。
言われた通りに作らないと文句が山ほど返って来るから……・。
まあ、よろしいがな、こんなもんですがな。
なあ、たまちゃん、ヤマタイ国人やろ。
こんなもんで、よろしいんちゃいますのん?」

エッチソンの質問にたまちゃんが答えました。

「 僕は、一才の頃、両親と共にヤマタイ国から出国したから分からないよ。
いいんじゃないかな、分かないけれど………。
ま、こんなもんでしょう。」






なんじゃもんじゃ物語 91


お頭ブラックがエッチソンに作れと命じた服は大昔のものでした。
お頭ブラックが小さい頃見た絵本に書いてあったヤマタイ国の知識は、ヤマタイ国の現状と大きく違っていました。
ヤマタイ国製のカメラや自動車は世の中に溢れていましたが、生活様式は大昔と変わらないフジヤマとゲイシャの不思議な国であると書いてあったのです。
お頭ブラックが、もんじゃ島を見た時、フジヤマとゲイシャがいない事を不信に思ったのはこの事によるのです。

「 着いたよ……・・。
お頭、遅いな、何をしているんだろう?」

その時、お頭ブラックが部屋の入り口にあらわれました。

「 よーし、お前たち、出発だ。
ウランは我々のものだ!」

一瞬の沈黙の後、船がひっくり返る様な笑いが沸き起こりました。
お頭ブラックが言いました。

「 何が、おかしい!」

部屋の入り口には、赤くて色艶やかな女物の着物を着た髭もじゃゲイシャが立っていました。
エッチソンがお頭ブラックに言いました。

「 お頭、可愛いでんな。
似合ってまっせ!」」
「 衣装室には、これしか残っていなかったのだ。
この船に乗っているのは男ばっかりだぞ。
こらっ、エッチソン!!
どうして、女物の服を作ったんだ!」
「 お頭が服を作れって言った時、一番長く説明していたのがゲイシャでんがな。
わいは、その時、思いましたんや。
頭に、ピンと来ましたんや。
ははあー、分かった。
お頭は、これを着たがっていると確信しましたんや。
図星でっしゃろ、特別に手間をかけて作りましたんや。
思った通り、ぴったりのサイズでんがな。」
「 わしは、ヤマタイ国は、どんな特徴があるのかを話してやったのだ。
ゲイシャの着物を作れとは、言ってないぞ。」
「 またまたー、本当は着たいくせにー。」
「 ばかものお~。」
「 お嫌いですか?」
「 お好きです。」
「 ほなー、しゃいならあ~。」

お頭ブラックは、子分たちを見まわして言いました。

「 子分たち、よく聞け。
この会話をヤマタイ国では、漫才と言う。
ボケと突っ込みに話しの間がポイントだ。
特に、エッチソンとわしみたいな漫才を夫婦漫才と言う。
こらっ、そこの坊主!
笑ってないで覚えておけ!!」

殿様の服を着たなんじゃ王子は、芋虫の様に床にゴロゴロ転がって笑っていました。






なんじゃもんじゃ物語 92


お頭ブラックは、続けて言いました。

「 それでは、パスポートを渡す。
これも、我らの偉大な科学者、エッチソンが苦心してガリ版で刷ったものである。
今時、ガリ版なんて考えられないだろうが、そこが不思議の国、ヤマタイ国である。
各自、自分のものを取るように。」

子分たちは、パスポートを受け取りました。
ノゾーキがパスポートを見ながら、お頭ブラックに言いました。

「 お頭、こんなペラペラの紙でいいんですか?」
「 いいんだ、ヤマタイ国はスパイ天国だから何でもフリーパスだ。
港の管理事務所に行って、見せるだけだ。
どうせ、管理事務所には行かなければいけない。
なぜなら、船の入港料を払わないと文句が出るからな。
ヤマタイ国に、合法的に、騒ぎを起こさないように密かに潜入するんだ。
と、昨日エッチソンが調べて言っていたのだ。
受け売りだ。
そうだな、エッチソン。」
「 そうで、おます。
ヤマタイ国の入国は、簡単なもんですわ。
ほんまにフリーパスでんな。
役人とのトラブルもありませんわ。
役人の心得で検索したら直ぐに出てきましたんや。
ヤマタイ国の役人は、何もトラブルが起こらないようにするのが仕事の中心なんですわ。
それに、何に対しても責任を取らされることがないように振る舞うんですわ。
何もしないで、だらだらと定年まで働くのが最高の美徳らしいですわ。
だから、特に問題が起こることはありまへん。」
「 と、言うことだ。
それじゃ、出発するか。」

チンギスチンが、お頭ブラックに聞きました。

「 お頭、みんなで行くあるか?」
「 どうした?」
「 治安の悪い国では、船の留守番、要るあるよ。」
「 うーん、そうだな・・・・・。
うん、確かにそうだ。
普通なら、この船は、船内に入る扉が自動ロックされるから、泥棒が入り込む隙は無い。
でも、ヤマタイ国は、犯罪で溢れているらしいからな。
用心した方が良い。
さて、留守番は、誰が良いかな?」

子分たちは、お頭ブラックと眼を合わせないようにしました。
お頭ブラックは言いました。

「 誰も、船に残りたくないようだな。
仕方が無いあれで決めよう。
エッチソン、準備だ。」
「 分かりましたがな。」

エッチソンが船長室の壁にあるレバーを引きました。
壁が左右に二つに割れ巨大なスクリーンが現れました。






なんじゃもんじゃ物語 93


そのスクリーンには、下半部を隠した巨大なアミダくじがありました。
お頭ブラックがカッセトデッキのスイッチを入れて言いました。

「 さあ、わしも引くぞ。
音楽、スタート!!」

海賊たちは、声を合わせて歌いました。
そして、くじに自分の名前を入れて、横に一本線を追加しました。

「 お頭、お頭、おぉ~かしらぁ、引いて、引いて、おお当たりっ!!」
「 エッチソン、エッチソン、えぇ~ちそん、引いて、引いて、おお当たりっ!!」
「 ノゾーキ、ノゾーキ、のぉ~ぞぉきぃ、引いて、引いて、おお当たりっ!!」
「 ベンケー、ベンケー、べぇ~んんけぇ、引いて、引いて、おお当たりっ!!」
「 チンギス、チンギス、チンギスチン、引いて、引いて、おお当たりっ!!」
「 たまちゃん、たまちゃん、たぁまぁ~ちゃん、引いて、引いて、おお当たりっ!!」
「 坊主、坊主、ぼぉお~ずぅ、引いて、引いて、おお当たりっ!!」

海賊たちは、全員くじを引き終わりました。
そして、お頭ブラックは、スクリーンの端にあるボタンを押して叫びました。

「 よしっ、結果発表!」

隠してあったスクリーンの下半分が現れ、下にある当たりのマークから徐々に光る線が上にあがってきました。

「 おっ!」
「 おおっ!!」
「 おおおっ!!!」
「 やったあ~、セーフ!」
「 やったぁ、セーフあるよ!」

お頭ブラックが宣言しました。

「 ノゾーキは、ここに残れ、留守番だ。」
「 私も行きたい、ううううう。」
「 ここはスパイがウロウロしている物騒な国だから、船をしっかり守れ。」
「 でも、行きたい、ううううううう。」
「 泣くな、ノゾーキ。
お土産にイチゴ大福を買って来てやる。」
「 えっ、イチゴ大福、ふふふふふふ。
留守番、する。
イチゴ大福、るんるんるん。
あっ、お頭!
マストの天辺から透視望遠鏡で街を覗いていいですか?
多分、暇だから。」
「 ああ、好きにしろ。」
「 良かった。
エッチソンの透視望遠鏡は、空間を曲げて見られるから街のあらゆる所を覗けるぞ。
うふふふふ、るんるんるん!
留守番るんるん!!」
「 今から、10分後に出発する。
各自、武器を取って来い。
甲板に集合だ。」

10分後、海賊たちは甲板に集合しました。

「 それでは、出発だ。
わし・・・・・、いや、わちきに付いていらっしゃい、うふっ!」

お頭ブラックは、不気味な笑いを投げかけました。
子分たちは、そろって言いました。

「 うう、気持ち悪い!!」

そして、海賊たちは、べンケーを船に残して、お頭ブラックを先頭にゾロゾロと船を降りて行きました。




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なんじゃもんじゃ物語  2-7 ヤマタイ国上陸

2006-06-16 13:12:32 | なんじゃもんじゃ物語
なんじゃもんじゃ物語  2-7 ヤマタイ国上陸



なんじゃもんじゃ物語 94

 船を降りた海賊たちは、月明かりに照らされた埠頭を歩いていました。
空手の胴衣を着たたまちゃんが農民のエッチソンに言いました。

「 ちょっと寒いね。」
「 そうでんな。
着物がペラペラで、裾から風が入ってきますがな。
お頭と坊主は、着物をたくさん着て暖かそうでんな。
うらやましい・・・。」

月の光に照らされた海賊たちは、お頭ブラックを先頭に、一列になってヤマタイ国の管理事務所に向かいました。
しばらく歩くと、茅葺き屋根の合掌造りの建物が見えてきました。
お頭ブラックがエッチソンに言いました。

「 あれだな、エッチソン。」
「 あれでおます。」
「 何か、古風な建物あるね。」

海賊たちは、ゾロゾロと建物に入って行きました。
建物の中はひっそりとしていました。
受付には、度の強い眼鏡を掛けた老職員が、一人ポツンと火鉢にあたりながらあくびをしていました。
チンギスチンが、お頭ブラックに聞きました。

「 寂しいとこあるね。
ほんとに、ここあるか?」
「 しっ、黙れ。」

老職員は立ち上がって、ブラック芸者に向かって何事も無いような顔で言いました。

「 まんず、パスポート見せろん、可愛いねーちゃん。」
「 はいよっ、これ!」

お頭ブラックは、パスポートを渡しました。
後ろに並んでいる子分たちは、老職員に不気味さを感じました。
そして、それは、眼が見えないのか、頭がボケているのかだろうと思いながら、老職員の様子を窺っていました。




なんじゃもんじゃ物語 95

老職員は、パスポートを見てニタニタし始めました。

「 何々、慶応元年、睦月、巳刻生まれ。
よんろしい。
はい、次の人。
享保二年、葉月午刻生まれ。
はい次、・・・・・・。」

老職員は、全員のパスポートを見終わりました。

「 まんず、まんず、久しぶりに同年代の人達に会った。
はい、OK!
通ってよんろんしい。」

海賊たちは、管理事務所を通過しました。
建物を出て、エッチソンが笑いながらお頭ブラックに言いました。

「 お頭、簡単でっしゃろ。」
「 エッチソンの言った通りだな。」

キンキラの殿様服を着たなんじゃ王子が言いました。

「 芸者だけは、捕まると思ったよ。」
「 そんなことないでしょ。
捕まる訳ないわ、うふっ!」

お頭ブラックが、子分たちの方を向いて笑いました。
侍ベンケーが言いました。

「 お頭、もう止めてくれでござる。
拙者、気持ち悪いでござる、うぷっ。」

海賊たちは、老職員のボケさ加減を笑っていました。
一方、老職員も笑っていました。

「 あはは、行ってしまった!
愚か者め。
最近、人を驚かせて喜ぶビックリカメラが流行っているので気を付けろと連絡が入っているのだ。
わしが、それを見抜けない筈が無い。
ところで、カメラは何処に仕掛けてあったのかな?」




なんじゃもんじゃ物語 96

夜中の寂しい道を原子力発電所が何処にあるのかも分からないまま、とにかく六人は歩いていました。
お頭ブラックがエッチソンに言いました。

「 もう、どうするんだ、エッチソン。
地図を忘れてきたら、原子力発電所の場所が分からないじゃないか。」
「 いやー、まいった、まいった。
確かに入れて来たと思てましたんやが、忘れてしまいましたんや。
机の上に置いたままで来てしまいましたわ。
ちょっと、船に残してきたノゾーキに聞いてみますわ。」

エッチソンは、携帯電話をノゾーキに掛けました。
直ぐにノゾーキが電話口に出てきました。

「 あー、もしもし、ノゾーキか。」
「 どうしましたか?」
「 あのなあ、地図を忘れたわ。」
「 あー、それでウロウロしてたんですか。
透視望遠鏡で六人が歩いているのが見えてるんですが、方向が違うような気がしてました。
この望遠鏡、よく見えますね。
何処でも丸見えです。」
「 それでやな。
ちょっとわいの部屋に行って、地図を探して来てんか。」
「 分かりました。
マストから降りますので、ちょっとお待ちを!」





なんじゃもんじゃ物語97

しばらく待つと携帯電話からノゾーキの声が聞こえてきました。

「 えっと、地図、ありました。
ええと、ですねえ。
そこから、今、歩いている方角に150メートル程歩いて、交差点を右に曲がってください。」

六人はお頭ブラックを先頭に言われた通り歩いて行きました。
エッチソンが、ノゾーキに言いました。

「 右に曲がりましたで。
次は?」
「 ええと、200メートル程歩いて、交差点を左に曲がってください。」

六人はお頭ブラックを先頭に言われた通り歩いて行きました。
エッチソンが、ノゾーキに聞きました。

「 言われた通り歩いたで。
それで?」
「 そこから、何か見えますか?」
「 ちょっと先にコンビニが見えるで。」
「 そこまで、歩いてください。」

六人はお頭ブラックを先頭に言われた通り、暗い街並みの先に見える明るいコンビニに向かって歩いて行きました。
お頭ブラックがエッチソンから携帯電話を取り上げてノゾーキに言いました。

「 わしだ。
コンビニまで、来たぞ。
発電所は何処だ?」
「 あっ、お頭。
ちょうど、良かった。
そこで、イチゴ大福を買って下さい!!」
「 こらあ~!
発電所の行き方を聞いてるんだ!
イチゴ大福じゃない!」
「 ううう、イチゴ大福、食べたい。
お頭、買ってくれると言ったのに・・・・・・・。
ううう、嘘付き・・・・・。」
「 ああ、分かった、分かった。
泣くな、ノゾーキ。
買ってやるから泣くな。」
「 本当ですか、お頭。
るんるんるん、イチゴ大福るんるん。
それじゃ、携帯電話を切ります。」
「 こらあ~、待て!
原子力発電所は何処だ!!」
「 プチッ。」
「 あれっ、切れてしまった!」

お頭ブラックは、携帯電話を見つめていました。





なんじゃもんじゃ物語98

その時、コンビニから、おにぎりを食べながらおっちゃんが一人出てきました。
おっちゃんは、六人に声を掛けました。

「 今、原子力発電所って言ってたけど、原子力発電所に行くんかね?」

エッチソンが答えました。

「 そうでおます。」
「 大変だねえ、チンドン屋さん。
こんな夜中に営業かい?
なかなか、扮装も凝ってるね。
俺、チンドン屋さん、大好きだよ。
商店の新装開店に付き物だね。
この辺でお仕事かい?」
「 明日の朝から営業活動ですわ。
原子力発電所の宣伝ですわ。
最近、評判悪いよってに、余興をしますねん。
隣町のパチンコ屋の新装開店の営業で遅くなってしまって、さっぱりわやですわ。
今日中に、準備の為、行かなければいけまへんにゃ。」
「 そうかい、そうかい。
それは、大変だね。
俺、養豚場をやってるんだよ。
今、ブタを運んでいるところなんだけど、発電所を通過するよ。
トラックの荷台で良かったら乗せてってやるよ。」
「 そうでっか、助かりますわ。」
「 そんじゃ、乗りな。」

六人は、大量のブタを積んだトラックの荷台に乗り込みました。
お頭ブラックが、エッチソンに言いました。

「 なかなか、話を合わせるのがうまいな。」
「 そうでっか。
まさに、渡りに舟でんな。」

ブタと海賊を乗せたトラックは、暗い夜道を走り出しました。




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