日々の恐怖 9月5日 オッサンの家(6)
それからは見知らぬ人達が家を出入りするようになった。
たぶん霊媒師だと思った。
その頃から家の中は変なお香の匂いと、訳の分からない念仏みたいのが聞こえ続け、近所から苦情が来る毎日だった。
俺の高校の入学式にも両親は顔も見せず、家族バラバラで部屋で過ごす日々が続いた。
夏頃に異音と泣き声は無くなった。
どっかの霊媒師が成功したみたいだと俺は思ったが、誰も居間に寄り付かなかった。
その後、俺は高校3年になり東京の大学に進学が決まり、母とオッサンと縁を切りたかったので
新聞奨学生の手続きをしてた2月の終わりに、また異音が鳴り始めた。
しかも今度は家中で聞こえるようになった。
俺は話すタイミングはここしかないと思って、卒業式の次の日に弟と妹に兄から聞いた話をした。
当然、その夜に母とオッサンに呼ばれさんざん怒られた。
その頃、兄は連絡がつかなくなっていたので素直に兄に教えてもらったと話し、オッサンが母に言ってなかった前妻への暴力、
この家を出るために自分がタイミングを見計らっていた事などすべて話した。
母は前妻への暴力とかは知らなかったらしく激しく狼狽していたが、これ幸いに全て吐き出し、
そのまま家を出て友人の家に泊まり上京した。
その後の顛末は、弟から聞いた話しでは母は実家に詫びを入れ、家に離婚届を置いて、実家に帰り家業の手伝いをしている。
弟と妹はそのまま母について行き、祖父の元で暮らす。
母が置いていった離婚届が提出されていなかったらしく、事後処理は弟がして大変だったようだ。
自分は大学入る際に、先輩に手伝ってもらいオッサンの戸籍から抜け、実父の姓に戻り何事も無く暮らしている。
今回話そうと思ったのは、祖父が先日105歳で大往生し葬儀で実家に帰った際に、
オッサンが例の家の仏間で自殺したことを知らされたからだ。
ただ自分を含め家族はあの家から逃げ出したので、オッサンが一人でどうしていたかは分からない。
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