日々の恐怖 9月11日 防犯カメラ(4)
その提案を了解すると、先輩が非常階段に向かいます。
非常灯のぼんやりした明かり中を昇って行きます。
3階の非常ドアを空ける前に、そっと耳を傾けて様子を伺います。
まあ、鉄製の少し分厚い扉だったので、あんまり意味は無いなと思ったそうですが、それでも様子を伺って、女性が逃げ出した雰囲気も無かったので勢い良くドアを開けたそうです。
即座にライトを照らしてカメラの場所を見ましたが、誰もいません。
エレベータが動いた気配も、階段を駆けていく足音もありません。
“ 逃げられたかな・・・。”
しばらくその場所を調べましたが、人の気配がないので警備室に戻ることにしました。
非常階段ではなく普通の階段の方で警備室に戻ると、警備員が顔を真っ青をしています。
「 どうしました?
逃げた場所は分かりましたか?」
「 警官さん、見えなかったんですか?」
「 え?」
「 警官さんがカメラの場所を照らした時に、女性が顔を上げて警官さんを見てたんですよ!」
先輩が声にならない声を喉で出すと、警備員がカメラの映像を巻き戻して見せてくれました。
非常ドアを開けて先輩がライトを照らします。
ライトがカメラに映っている女性を照らすと、女性が顔を上げる様子が見てとれました。
カメラには背を向けている位置なので顔は分かりませんが、はっきりと先輩を視界に捕らえていることだけは分かります。
そのまま立ち上がるとゆっくりと歩き出し、先輩に近づくかと思われましたが、そのまま向きを変えて階段を降りていきました。
そして警備室に戻るため、女性が降りていった後を追うように先輩が階段を降りていくところで、警備員が映像を止めました。
「 見えなかったんですか?」
「 いなかった、ですよ・・・。」
お互いに小声で呟くように言うと、しばらく黙りこんでしまいました。
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