大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

☆奇妙な恐怖小説群
☆ghanayama童話
☆写真絵画鑑賞
☆日々の出来事
☆不条理日記

大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

☆分野を選択して、カテゴリーに入って下さい。

A,日々の出来事

☆( 1年間366日分の日々の出来事  )

B,日々の恐怖

☆( 日々の恐怖 )

C,奇妙小説

☆(  しづめばこ P574 )                          

日々の恐怖 9月30日 ベランダからの景色

2015-09-30 19:25:23 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 9月30日 ベランダからの景色



 小さい頃だった。
俺の父親は出張の多い仕事で家を空けることが多かった。
母親が何かの病気で手術することになって、その間、一ヶ月ぐらい祖父母の家に預けられていたことがあった。
 祖父母の家は政令指定都市だが中央から離れていて、まだ周囲には田んぼが残ったようなところだった。
割と直ぐに同じような年頃の友達が出来て、近所の公園でよく遊んでいた。
 ある日いつものように公園に行ったら、何故かその日は誰もいなくて、

“ まあ、そのうち誰か来るだろう。”

と、ひとりでブランコ漕いで遊んでいた。
 すると、同じ年ぐらいの知らない男の子A君がやってきて、その子も一人だったから、一緒に靴飛ばし( 立ち漕ぎしながら靴を遠くに飛ばしたもん勝ちって遊び)をした。
 しばらく遊んで、時間も遅くなって来てA君が、

「 もう家に帰るけど、俺んちに来ないか?」

って言われて、一緒に付いて行った。
 そこは5階建てか6階建てか忘れたけれど、それぐらいの高さの古い社宅だった。
エレベーターがなくて階段で競争しながら駆け上がって行った。
 最上階のA君の家に入ったあと、ベランダに出て町を見渡して、

「 あそこがさっきの公園だよ。」

って教えて貰った。
 その公園から目で辿って祖父母の家も見つけた。
俺んちは一戸建てだったし、祖父母の家も一戸建てだったから、社宅とかすごく珍しくて面白かった。
 その日はそれだけだったけれど、

「 今度来た時は、屋上に連れてってあげるよ。」

って言われて、なんかワクワクして楽しみにしていた。
 でも、その日、祖父母と夜ごはんを食べながら、A君との約束の話をしたら、祖父母ともに首を傾げていた。

「 その辺に社宅なんかない。」

って言うんだ。

「 あったってば、自分の足で階段駆け上がったし。
ベランダからの景色も目に焼き付いてるし。」

 でも翌朝、祖父と一緒に記憶を辿りながら、家から少し離れたその辺りを探したけれど、本当に一戸建てか2階建てのアパートしかなかった。

“ そんなはずない!”

と思って、なんだか説明できないような感情が襲ってきて、悔しくてわーわー泣いた。
 しかし、結局その日の昼に父が迎えに来て、

「 母が元気になったよ!」

って言われたら、もう嬉しくて、そんなことはすっかり忘れてしまった。


 中学に入った年に祖母が亡くなり、そのお通夜の時にそのことを思い出して、祖父に、

「 本当に社宅に上って、ベランダから町を眺めた。」

って話したら、祖父もその時のこと覚えていて、実際のところどうなのか分からないし怖がるといけないと思って黙っていたけど、社宅はあったらしい。
 ただし、その5年も前に取り壊されていたそうだ。
その社宅で何があったのか分からないけれど、取り壊しになったあと、しばらく子供の幽霊が出るという噂話はあったらしい。
 だけど、その話を聞いても俺は何故か怖いと言う感情にはならなかった。
A君との思い出は現実だったのか夢だったのか分からないが、俺に兄弟がいないせいか、すごく楽しくて今思い出しても、ベランダから見た景色もA君の笑顔も覚えている。
だから、もう思い出の一つとして残しておくことにしている。








童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 9月28日 四国(2)

2015-09-29 18:59:45 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 9月28日 四国(2)



右手を振って挨拶してくれている姿に、

“ 奥さんも一緒にまわれたら、よかったのにな・・・。”

と思った。
 次の瞬間、助手席のドアがガチャッと音を立てて開いた。
開いたといっても半ドアになっただけなんだけど・・・。
 でも60キロくらいで走ってたから、人やバイクに当たったら大変だと思ってすぐに路肩に車を停めて、運転席から腕を伸ばして助手席のドアのリムを引っ張った。

「 ふぅ・・・。」

とため息をついて運転席に戻りシートベルトをしめて安全確認、右のドアミラー、左のドアミラーと順番に見たら、助手席側のドアミラーに一瞬だけ髪の毛が写った。

「 は!?」

と内心ビクッとしてバックミラーを見た。
 遠くでお遍路さんが、オレが停まってるのに気づいて、また手を振ってくれている。
その後ろで人形の右手も一緒にゆらゆら揺れていた。
 本気で怖くなって、フルアクセルで走り出した。
ルームミラーを見るのが怖くて怖くて、どうしようもなかった。


 田舎についてじいちゃんにコンビニでこんなお遍路さんに会った、と話したらため息をつきながら話してくれた。

「 昔っから人の形したもんには人の魂みたいなのがつきやすいって聞いたわ。
そりゃ死んだ奥さんの魂なのか、全然知らん人の魂いれて歩きゆうがやろ。」
「 そんなバカな話、マンガやホラー映画じゃないんやから・・・。」
「 アホ、藁人形もそうやし市松人形もそうじゃろうが。
人の形したもんは、安易に持ち歩いたりせんほうがええがじゃ。
そりゃ、その旦那さんは奥さんの事考えてそうしたがやろうけど、周りにいるのが奥さんやとは限らんきの。」

 結局、この後そのお遍路さんには会わなかったし、知り合いのお寺にも来てないって言われた。
 周辺の店で聞いても、

「 人形を背負った人らぁ、40年ここにおって見た事ない。」

と言われてしまった。
車のドアロックも異常無し、それ以降も身の周りにも異常は無し。









童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 9月27日 四国(1)

2015-09-27 19:05:18 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 9月27日 四国(1)



 夏に田舎へ帰る途中で体験したことだ。
車で田舎まで2時間半程度なんだけど、流石にずっと運転はしんどいから途中コンビニで休憩してた。
軽く体操して目薬差してお茶飲んでってしてたら、東の方からお遍路さんが歩いてきた。
まぁ、夏はお遍路さんも増えるから気にもならず、いつもの光景・・・・・。
だったんだけど、よく見ると人の形をした藁みたいなのを背負ってる。

 店の入り口で荷物を置いて、そのお遍路さんは飲み物を買いに行ったみたいだった。
あんまりジロジロ見るのも失礼だと思ったんだけど、その人形はなんていうか人形と言うよりも人を藁で覆った様な、そんな不気味さがあった。

“ なんで人形を背負って・・・?”

とすごく気になってジーっと見てた。
 すると、コンビニから出てきたお遍路さんがオレの視線の気がついたみたいで、荷物の中に買い貯めした飲み物を入れながら話しかけてきた。

「 なぜ人形を・・、という顔をされてますね?」
「 はい、お遍路さんはよくお見かけますが、人形を背負って周ってらっしゃる方には初めてお会いしました。」
「 はは、実はこれ私の女房のつもりでして・・。」
「 奥さんの・・?
と言うと?」
「 女房は昨年うつ病をこじらせて自殺しまして・・・。
少しも女房の気持ちに気づいてやれなかったことが申し訳なくてね。」
「 それは・・・・、突然の事で寂しくなられて・・・。」

 その男性は埼玉の方から来たと話していた。
他愛ない会話、四国のここがいい、とかそんな事を話していたと思う。
 話に花が咲いて30分ほど喋っていただろうか、男性が、

「 そろそろ出発します。」

と荷物を背負い人形を抱えた。
オレも田舎に昼までには着きたかったから、挨拶をして別れた。

「 それじゃあ、僕も西の方へ行きますんでまた機会があれば。お身体大事にしてください。」
「 ああ、どうもありがとう、キミも気をつけて。」

コンビニの駐車場から出てミラーでお遍路さんを見る。









童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 9月26日 電話

2015-09-26 20:16:04 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 9月26日 電話



 運送会社の配車を昔やってたんだけど 深夜にベテランの運転手から電話があった。
出ると、聞きとれないくらいの小さな声で何かボソボソ言ってる。 

「 何かありました?」

って聞いてもボソボソ。 
 よく聞くと、

「 すいません・・・、暗い・・・。」

とか言ってる。 
 すぐに切れて、掛け直しても出ない。

“ おかしいな?”

と思っていると、直後に電話があって、

「 おたくのトラックが、○○の交差点で止まったまま動かない。」

って言われて、近くなので慌てて車飛ばして行ってみたら、その運転手が運転席で眠るようにグッタリしてた。
 すぐに救急車やパトカーがやって来た。
脳出血だった。
その電話が亡くなる前に掛けてきたのか、亡くなってから掛けてきたのかはわからない。










童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 9月25日 やりかけの物件(4)

2015-09-25 18:05:43 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 9月25日 やりかけの物件(4)



 なんか対策が書いてあるかもと期待してたんだけど、やっぱりほとんど読めないし、かろうじて読めた1行が『・顔がない』だった。誰の?

 そのとき、その窓にうっすらと子供の姿が映った。気がした。多分真後ろに立ってる。いつの間に入ったんだよ。相変わらずなんの音も立てないんだな、この子は。

 もう逃げられない。意を決して俺は後ろを振り返る。そこには…、なぜか誰もいなかった。

 会社に帰った後に気づいたんだけど、そのメモの日付が3年前だった。この物件を俺に振ってきた上司にそのことを言うと、

「 あれおかしいな。もう終わったやつだよ、これ。」

って言って、そのまま向こうへ行こうとしたんで、すぐに腕をつかんで詳細を聞いた。

 なんでも、顔がぐしゃぐしゃにつぶれた子供の霊が出るというヘビーな物件で、当時の担当者がそのことを提出資料に書いたもんだから、クライアントが「そんな資料はいらん」と言ってつき返してきた、といういわくつきの物件だそうだ。

 清書された書類を見ると、確かに『顔がない』とか『風呂場やばい』とか書いてあった。

 まぁこういった幽霊物件は時々あるらしく、出ることがわかった場合は、備考欄にさりげなく、そのことを書くのが通例になってるそうだ。

 他の幽霊物件の書類も見せてもらったが、なるほど、きちんと明記してあった。

「 なんで今頃こんなものが出てきたんでしょうかね?」

と上司に聞いたら、

「 んー、まだ取り憑かれてるんじゃないかな、当時の担当者って俺だし。」









童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 9月24日 やりかけの物件(3)

2015-09-24 19:23:02 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 9月24日 やりかけの物件(3)



 多分カビのせいだろうけど、きな臭い匂いとむせ返るような息苦しさがあった。

 こりゃ長居はできんなと思ってメモを見ると、風呂場は一通り計測されてて安心した。ただその下に、『・風呂場やばい』って書いてあった。

 普段なら「なにそれ(笑)」って感じだったんだろうけど、その時の俺は明らかに動揺していた。メモの筆跡が、書き始めの頃と比べてどんどんひどくなってきてたから。

 震えるように波打っちゃってて、もうすでにほとんど読めない。えーっと、前任者はなんで会社に来なくなったんだっけ?病欠だったっけ?

 必死に思い出そうとして、ふと周りを見ると、閉めた記憶もないのに風呂場の扉が閉まってるし、扉のすりガラスのところに人影が立ってるのが見えた。さっきの子供だろうか?

 色々考えてたら、そのうちすりガラスの人影がものすごい勢いで動き始めた。なんていうか、踊り狂ってる感じ?頭を上下左右に振ったり、手足をバタバタさせたり、くねくね動いたり。

 でも、床を踏みしめる音は一切なし。めちゃ静か。人影だけがすごい勢いでうごめいてる。もう足がすくんで、うまく歩けないんだよね。手がぶるぶる震えるの。

 だって尋常じゃないんだから、その動きが。人間の動きじゃない。とは言え、このままここでじっとしてる訳にもいかない。

 かといって扉を開ける勇気もなかったので、そこにあった小さな窓から逃げようと、じっと窓を見てた。

 レバーを引くと手前に傾く感じで開く窓だったので、開放部分が狭く、はたして大人の体が通るかどうか。しばらく悩んでたんだけど、ひょっとしてと思ってメモを見てみた。










童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 9月23日 やりかけの物件(2)

2015-09-23 18:41:27 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 9月23日 やりかけの物件(2)



 クソ田舎だけあって、辺りはありえないくらいに静まり返ってるし、正直少し怖くなったってのもある。

 建物の老朽化具合からみて、3年はほったらかしになってる感じだったので、そりゃ子供の遊び場にもなるわなと思い直し、今日は遊んでも良し!と勝手に判断してあげた。ひとんちだけど。

 んで、しばらくは何事もなく仕事を続けてたんだけど、前任者のメモの隅の方に、『・台所がおかしい』って書いてあった。

 調査資料は、その書き込みのほとんどが数字(部屋の寸法等)なので、そういう文章が書いてあることにかなり違和感を感じた。

 で、気になって台所の方へ行ってみると、床が湿ってる以外は特におかしそうなところはなかった。

 でも、向こうの部屋の奥にある姿見っていうの?全身映る大きな鏡に、子供の体が少しだけ映ってた。暗くて良くわかんなかったけど間違いない、さっきの子供だ。

 そうか、入ってきちゃったんだな。とぼんやり考えてたけど、ほんと気味悪いんだよねそいつ。物音1つ立てないし、辺りは静かすぎるし、おまけに古い家の独特の匂いとかにやられちゃって、なんか気持ち悪くなってきた。座敷童子とか思い出したりしちゃって。

 もうその子を見に行く勇気とかもなくて、とりあえず隣にある風呂場の調査をしよう、というかそこへ逃げ込んだというか、まぁ逃げたんだけど。風呂場は風呂場でまたひどかった。








童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 9月22日 やりかけの物件(1)

2015-09-22 18:08:59 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 9月22日 やりかけの物件(1)



 うちは競売にかけられた不動産の調査を請け負ってる会社なんだけど、こないだ、前任者が急に会社に来なくなったとかで、やりかけの物件が俺にまわってきた。

 まぁ正直うちの会社は、とある筋の人から頼まれた”訳あり物件”を取り扱うようなダーティなとこなもんで、こういうことはしょっちゅうだから、たいして気にもとめず、前任者が途中まで作った調査資料(きたねぇメモ書き)持って、遠路はるばるクソ田舎までやって来たわけですよ。

 その物件はかなり古い建物らしく、壁とか床とかボロボロで、あちこちにヒビが入ってたり、湿っぽい匂いがしたりで、相当テンション下がってたんだけど、まぁとにかく仕事だからってことで気合入れ直して、せっせと調査を始めたわけですわ。

 1時間くらい経った頃かな、ふと窓から外を見ると、一人の子供が向こうを向いてしゃがみこんで、なにやら遊んでるのに気づいた。

 よそ様の庭で何勝手に遊んでんの?って注意しようかと思ったんだけど、ぶっちゃけ気味が悪かったんだよね、その子。

 なんか、覇気がないというか、微動だにしないというか、一見すると人形っぽいんだけど、しゃがんでる人形なんてありえないし、でもとにかく、人って感じがしなかった。









童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 9月21日 足音

2015-09-21 17:57:10 | B,日々の恐怖



   日々の恐怖 9月21日 足音



 私が以前勤めていた会社の事務所は、古い雑居ビルにありました。
そのビルでの話です。

「 ここのビル、夜遅く階段使ってると、変な時があるよ。」

と同僚のTさんは言った。
 階段室にいると、上からまたは下から、誰かがやってくる足音がするという。

“ こんな遅くまで、他でもまだ残ってる人がいるんだ。”

と思っていると、その足音はどんどん近づいて来て、足音だけが通りすぎて行く。
 姿は見えない。
ただ、何かの気配がすぐそばを通りすぎ、足音が遠ざかって行くのだという。

「 こないだなんか、階段を下りてたらやっぱり足音だけが追い抜いて行ってさ。
気味が悪いと思いながらやっと一階に来たら、階段室と一階玄関の電灯が一度にパンッ!と消えてさぁ。
もうびっくり、チビりそうになったよ。」

その話に、他の同僚たちが、

「 ヤだな、やめてよ。」

などと言っていた。


 しばらく後、夜遅くにやはり同僚のMさんは、得意先から商品交換で引き取った古いデスクトップのパソコンモニターと本体を持ち帰ってきた。
モニターと本体を営業車から下ろし、台車に積んで六階の事務所の物置に入れようと、エレベーターを使おうとした。
 しかし、ビルでひとつしかないエレベーターの扉には、無情にも、

『 故障中・使用禁止 』

の貼紙が貼られていた。

「 うわ~、ちょっとぉ~!」

Mさんは舌打ちした。
 今のパソコンはモニターも本体もずいぶん小型軽量化されているが、少し前のパソコンはモニターもブラウン管式で、男性の手でも持ち運びは大変だった。

“ 重くてデカいパソコンを、六階まで運ぶなんてまっぴらだ。
車に積んでおこうかな・・・。”

とMさんは思った。
 しかし、翌朝は一番で部長が車を使うと言っていた。

“ 部長に文句を言われるのも・・・。”

Mさんはため息をつき、まずはモニターを抱えて階段を上りだした。
 しばらくすると、背後から足音が聞こえてきた。
はじめは気にもしなかったが、ゆっくり目の足音がどんどん近づいてくるにつれ、MさんはTさんの話を思い出し、怖くなってきた。

“ まさか、他の誰かだろ・・・。”

自分にそう言い聞かせ、さっさと六階まで上ろうとした。
 その間にも足音はどんどん背後に迫っていた。

“ カツン、カツン・・・。”

Mさんは後ろを振り返った。
誰もいなかった。

“ うわぁ・・・。”

Mさんはモニターを放り出して逃げたくなった。

“ カツン。”

足音はMさんのすぐそばで響いて、

“ ずわぁっ。”

とMさんの中を何かが通って行った。

「 ・・・!」

Mさんは声になっていない悲鳴を上げ、モニターを落としてしまった。
 落ちたところは、自分の右足の甲の上だった。

「 うぎゃ~~!!!」

階段にMさんの絶叫が響いた。

「 それから?
もちろんちゃんと運んだよ、モニターも本体も。
部長に文句言われるの嫌だもん。
モニターの角は割れちまったけどさ。
まぁ、あれはどうせ廃棄するヤツなんだし・・。」

Mさんは労災を申請し、しばらく足をひきずっていた。







童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

しづめばこ 9月20日 P396

2015-09-20 19:06:10 | C,しづめばこ


しづめばこ 9月20日 P396  、大峰正楓の小説書庫で再開しました。


小説“しづめばこ”は読み易いようにbook形式になっています。
下記のリンクに入ってください。
小説“しづめばこ”




大峰正楓の小説書庫です。
大峰正楓小説書庫


童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

しづめばこ 9月19日 P395

2015-09-19 20:55:07 | C,しづめばこ


しづめばこ 9月19日 P395  、大峰正楓の小説書庫で再開しました。


小説“しづめばこ”は読み易いようにbook形式になっています。
下記のリンクに入ってください。
小説“しづめばこ”




大峰正楓の小説書庫です。
大峰正楓小説書庫


童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 9月18日 電車

2015-09-18 18:40:55 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 9月18日 電車



 学生時代の話です。
私が毎朝使う電車は、全国的にもかなりの乗車率を誇る線でした。
もう人でギチギチで、駅に止まって人が乗り降りする度、痛いだの、押さないでだの、悲鳴が上がるくらいで、腕の上げ下げも出来ないくらいでした。
 でも、それも慣れっこになったので、周りの人を支えにして立ったまま眠っていました。
いくつめかの駅に停まって、また人がわーわー言いながら出入りして揉みくちゃになってるとき、手でしっかりと捕まれた感触がありました。
 驚きましたが、頭が働く前に降りる人の波に押されて一旦ホームに降りました。
降りてくる人々はなに事もないようにしていましたが、気になって車内をホームからよく見てみましたが、いつもの混雑してる電車です。
まだ目的の駅ではなかったのですが、その電車には不安で乗れませんでした。
そのとき捕まれたのは足首だったからです。








童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 9月17日 タクシー(2)

2015-09-17 18:41:29 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 9月17日 タクシー(2)



 大手タクシー会社の運転手をしていた従兄弟の同僚だったKさんの話です。
ある夜遅く、Kさんは駅のタクシー乗り場でお客を待っていた。
ふと後部座席を見ると、座席の真ん中あたりに赤い紙バッグがあることに気付いた。
 Kさんが車から降りて紙バッグを手に取り中身を確認すると、バッグの中には古びた男ものの黒い革靴が入っていた。

“ なんだ、こりゃ?
前のお客の忘れ物かな?”

お客が降りる時には気がつかなかった。

“ 事務所に届ないといけないな・・。”

と思っているとお客が来たので、とりあえずはその紙バッグを助手席の足元においてお客を送った。
 その後、事務所に戻った。
車を車庫に入れて、バッグを事務所に持って行こうとした。
 すると、急にバッグの中がズシリと重くなり、赤い紙バッグの中から女性の泣く声がした。

「 わっ!」

Kさんはバッグを放り出した。
 バッグは車庫のコンクリートの上にドサリと落ちると横倒しに倒れ、中で何かがモゾモゾと動いている気配がした。
暗くてよくわからなかったが、中から何かが呻きながら出てこようとしている様な感じがした。

「 うわ~~~~!」

Kさんは悲鳴をあげて事務所の明かりの方へと走り出した。
 叫びながら事務所に飛び込み、床ににへたり込んだ。
そこに、電話番をしていた同僚が、

「 どした?!」

と声を掛た。

「 赤い紙バッグから、何かが出ようとしている!」

言っている意味が分からなかった同僚を連れ、おっかなびっくりバッグを見に行った。
 赤い紙バッグは、車のそばに落ちていた。
しかし、中身は空だった。

「 他にも妙なことが、ちょこちょこあってさ。」

そういったことがまるで駄目なKさんは、それからしばらくしてタクシー運転手を辞めてしまった。










童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 9月16日 タクシー(1)

2015-09-16 18:29:22 | B,日々の恐怖



   日々の恐怖 9月16日 タクシー(1)



 私の母方の従兄弟はタクシーの運転手をしていたことがあった。
ある夜遅く、お客を送った後に山道を走っていた。
 街灯はまばらで、他の車と行き合う事も少なかった。
その暗い道を走っていると、

“ ドスン!”

と車が揺れた。
 何か大きなものを踏んだ様だった。
従兄弟の会社では、以前、酔って道の真中で寝ていた人を轢いてしまった運転手がいた。  
 従兄弟は、

“ もしや・・・・。”

と車を停め、懐中電燈を手に外に飛び出して車の下やその周りを確認した。
 何もなかった。

“ 何だったんだ?”

と思っていると、

「 にぃちゃん、乗せとくれや。」

と声がした。
 振り向くと、いつの間にか男がタクシーのそばに立っていた。
少し離れたところでぼんやりとあたりを照らしている街灯の明かりの下、男の黒縁眼鏡とニタニタと笑っている口元が何故かよく見えた。

「 え・・・・?」

周りに人家も無い様なところで、不意に現れたお客を従兄弟がながめていると、

“ バカッ!”

と、従兄弟は何もしていないのに、車の後部座席の左右の扉が同時に開いた。

“ えっ・・・・?”

いきなり開いた扉に驚いていると、黒縁眼鏡の男は笑いながら後部座席の右の扉から車に乗り込み、そしてそのまま左の扉から外へと出て行った。

“ 何してるんだ、この人?”

と男の様子を見ていると、次に、男はまた笑いながら右の扉から車に乗り込んで、そのまま左の扉から出て行く、という動作をぐるぐると繰り返した。
 従兄弟はその様子を呆けた様に見ていたが、ハタと我に返り、

「 おいっ!何やってんだッ!!」

と怒鳴った。
 すると、男は狂気めいた笑い声をあげてガードレールの向こうの、崖といってもいい様な草木の生い茂った急な斜面に飛び込んだ。

「 ちょっと・・!?」

従兄弟は男を追って藪を見下ろしたが、すでに男の姿は無かった。
 従兄弟が車庫に帰って後部座席を見てみると、シートには犬猫に似た足跡がたくさんついていた。

「 タヌキかキツネだったのかな、ありゃあ・・・?」

と、従兄弟は気味悪そうに首を捻っていた。









童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 9月15日 買いに来た人

2015-09-15 18:38:43 | B,日々の恐怖


  日々の恐怖 9月15日 買いに来た人


 ある家で家人が自殺した。
ただ、まだ買って数年でローンも満載のため、家を売ってからしか引っ越せない状態だったので、居住中のまま中古物件として販売した。
うちが専任ではなかったんだけど、新しい・立地が良いこともあって問い合わせが多く、何度も人を案内したけど、なかなか仮審査すら申請がない。
 家もリフォームしてきれいにしてるし、自殺後に家人が住んでいる、というのはプラスポイント(家人がいない自殺説明だと、一家心中等を想像する人が多いため)だし、

“ 決まらないのは、おかしいなァ・・・。”

と思っていた。
 ただ、案内した時に、二階の和室(自殺があった部屋)に案内すると、日当たりの良い和室のはずなのに、何故か皆口をそろえて、

「 この部屋は暗い。」
「 かび臭い。」

とか言うので、

“ 案外、みんな何か感じ取るもんなのか?”

と、ちょっと不思議な気持ちになっていた。
 ある日、何軒か一緒に中古住宅見て回ってるお客さんから突然、

「 あの、一番最初に見に行った家ありますよね、築浅の。
あそこ、お祓いとかしないんですか?」

と聞かれたので、

「 多分、お祓いなんかはしてるんじゃないですかね・・・。」

と、適当に答えたら、

「 二階の和室の入ってすぐのところに、50代くらいの男性がずっとぶら下がってるってことは、お祓いとかしてない証拠じゃないですかねぇ・・?」

と言われてびっくりした。
 言われてみると、その人、その和室に案内した時、中に入るのを固辞したのを思い出した。

“ 俺、普通にそこ何度も通ってましたやん!!”

と思ってかなり焦った。
 会社に帰って、それを先輩に伝えたら、

「 ああ、そういうのは、買いに来た人にしか見えないらしいから、問題ない。」

と言われた。
 買いに来た人にしか見えない、というのは不思議なことに不動産関係では結構よく聞く話なんだそうな。









童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

☆童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。

-------大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ-------