日々の恐怖 11月1日 曰く付き物件の日常(9)
(11)退去日
荷物をまとめている間も衰弱していて、引越し業者に支えられて辛うじて立てた。
家を出るとき、業者が言った。
「 あの、まだ玄関、誰かいませんでした・・・?」
「 いません。
いるはずないです。
一人暮らしです。
開けますか?」
「 いえ・・・、そうですか、ですよね。」
「 単身引越しで、来てますんで。」
「 朝、お電話の時、にぎやかだったので・・・・。」
余裕がなくて、キレ気味に話してしまった。
部屋を最後に出るときにまで、誰かいる感覚があった。
幻覚じゃなかった。
笑った。
電話の時ってなんだよ。
住人は入れ替わりが激しく、毎年何人か引っ越していた気がする。
確かに、即死するような曰く付きではない。
ではないが、人が住めるのだろうか?
その日、自宅のそばの踏切を久しぶりに渡った。
比較的新しい卒塔婆が加わり、並んでいた。
電柱にはいつも事故証言募集が貼られていたのに、同じ踏切でたくさん事故があるということに、俺は何故か気付かなかった。
ここ数年の事故のことも。
半年ほど前の事故のことも。
思い返せばタイミングに心当たりは多い。
そもそも物件下見の時さえ。
事故物件サイトで見たバツ印と踏切事故の記憶を重ねると、近所は真っ赤だ。
これだけ起こっていれば、お札一枚で3ヶ月保っただけマシだったのかもしれない。
ゴキブリホイホイだって、中身がいっぱいになったら意味が無い。
人身事故が多発している駅の踏切。
そのすぐ近くに住んでいると理解したのは、退去した日のことだった。
入居前には、近くの踏切や噂などもよく調べることをオススメしたい。
幽霊なんて見たこと無いって人はいるでしょう。
自分もそうでした。
パソコンもスマホもある時代に、幽霊なんかいるわけがないと思いたい。
いや、でも、あれは幽霊だったかどうかは、今でも俺にはわからない。
ただ実感としてあるのは、大なり小なり曰く付き物件は確かに存在するし、何らかの悪影響は確実にあるということだ。
怪我や災難を、全てを曰く付き物件のせいにするつもりはありません。
運が悪かったんでしょう。
ですが、俺は聞きたい。
どこまでが気のせいだったのか?
和菓子職人さんには悪いが、餡子入りの和菓子は何故か今でも美味しいと思えない。
あの時だけは何よりも美味しいと感じたのに。
俺が好きなのはカスタードだ。
今川焼きのクリームは好きだ。
変わったことといえば、和菓子のきんつばが好きになったことくらいだ。
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