日々の恐怖 9月24日 溝の蓋
実家の村では、数ヶ月に一回、集まって地区の道路の掃除とか酒飲んだりする日がある。
それで、その日は昔からありすぎてもう何を奉ってるかも分からない神社を掃除する日だった。
村の爺ちゃん婆ちゃんは何故かそこには近付かないので、その息子たちの世代(俺の親父の世代)が掃除をする。
でも、その神社の特定の場所にある溝の付近は曰く付きと言うか、近づいたら死人が出るって言われていた。
それでも、親父達の世代は、そんなの年寄りの迷信だと思って構わず掃除していた。
すると、昼間は元気だった近所のおじさんがその夜突然亡くなった。
そのときは、自宅の風呂場で亡くなっていたから警察とかも来たんだけれど、死因は脳梗塞と言う話を聞いた。
ただ、昼間凄い元気で健康そのものだった人が急に亡くなったし、その人が溝を掃除してた人だったから、暫くはその噂で持ちきりになった。
その後、何故かその家は一家離散で幽霊屋敷状態になった。
それからは掃除は暫くは無かったんだけれど、数年後に順繰りでやっている順番で、またそこの掃除が来た。
年寄りたちは反対だったらしいけど、一応神聖な場所ではあるだろうから、溝を避けてやることに決まった。
だけど、やっぱり迷信だと気にしない人もいるわけで、溝を掃除してしまった人がいる。
その時は、時代が進んで、まあいいかと言う状態だった。
でも、次の日の昼間、掃除した人が農機具に巻き込まれて亡くなっだ。
吸い込まれるように刃に潜っていって亡くなったそうだ。
そんなこともあってさすがに何かあると思ったけれど、知ってるかもしれない年寄り衆もみんなもう亡くなってたし、この科学の時代に怖いとは思っても本気で信じる人はいなかったらしい。
同世代が二人も亡くなって、流石にあそこは避けようってことになり、次の掃除の時は近づく人もいなかった。
掃除も順調に進み、伸びてきた木をうちの親父がチェーンソーでが切ってたら、足場にしてた太い木が急に倒れ木から落ちそうになったとき、近くにいた親父の友達が下から支えてくれて事なきを得た。
でも、親父の友達が親父を支えた場所が問題で、その場所は掃除しないようにと蓋をした溝のちょうど蓋の上だった。
そこにいたみんなが、
“ これは不味いぞ・・・。”
って空気になったけど、蓋の上からだったし大丈夫だろうと思った。
でも次の瞬間、下から叩いてるような音と共に溝の蓋が二、三回上下に動いたそうだ。
大人二人を乗せたまま溝の蓋が上下に動いたもんだから、みんな動揺して掃除はそこまでにしてもう解散ってことになった。
その帰りは、みんな無言だった。
親父の友達が亡くなったのは、次の日の昼間だった。
釣りに行って海に落ちたそうだ。
一緒に行った人達は、普通に会話してたのに急にフラつきながら倒れ、海に落ちたからびっくりしたそうだ。
親父は一緒に行った人達に様子を聞くと、病院の診断では倒れた段階ですでに亡くなっていたようで助けようが無かったようだ。
親父曰く、今後掃除があってもあそこには行きたくないとのことだ。
俺は高校のときそれを知らずに、その周辺でタバコ吸ったり、昼寝してサボっていました。
ただ、そこでサボってた理由が、大人が来ない、山の中なのに何故か生き物がいない、だったので、今思うとやはりなんかあったんでしょうか。
年寄りたちはボケたり死んだりで、もうほとんどいないので分かりません。
このとき、その周辺と言っても、神社近辺ですから溝の場所は分かりますが、直接溝に触れたりはしていません。
最近、当時のことを親父に聞いてみたら、
「 蓋には乗っていたと思う。」
らしいです。
木が急に折れ倒れそうになったとき、表現しにくいのですが、鉄棒の逆上がりの横バージョンみたいな感じで木を中心にしてグルンって回ったのを、下からトスみたいな感じで友達が支えてくれたところ、そこが溝の上だったそうです。
親父は木から落ちた時には分からなかったけれど、支えてくれた友人に近づいた時には確かに蓋に乗っていたし、下から叩かれた感覚も覚えてるとのことでした。
親父は今も元気です。
親父と友人の差はどこにあったのでしょうか。
親父に聞いても親父は余所の土地から婿養子で来たので、地元の歴史とかは分からないそうです。
亡くなった親父の友人は、排他的な田舎で婿養子で来た余所者ということで冷たい扱いされてた親父に優しくしてくれた人だったので、親父もやりきれなかったみたいです。
あと、田舎だからか分かりませんが、自分の家の裏にも誰のか分からない墓があったり、何人かの幼馴染みの家の裏にも祠があったりとか、由来の分からないものがあります。
多分年月と共に廃れた信仰みたいなの有ったのかも知れません。
残念ながら、今回の震災でその場所にはもう行けなくなったことを付け加えておきます。
童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ