日々の恐怖 3月26日 井戸(3)
気持ちも心機一転して工事も順調に進んだかに見えた。
現場に資材荷揚げするタワークレーンのフックに、玉掛けワイヤーを掛けたまま鳶が休養に入ってしまった。
その玉掛けワイヤーから、シャックル(※U字形の連結金具)が現場に隣接する交差点の横断歩道に落ちた。
地上13階に立ててあるタワークレーンだから、40m位の高さから1kg近い重さのものが落ちたのだ。
怪我人が出た。
それが一般人ではなく、現場に出入りしてる営業の人の足に跳ね返って当たった。
幸い怪我は大した事なく明るみには出なかった。
躯体工事も終わり工事は設備内装工事にと移った。
内装工事で何が起こったか起こらなかったか俺は知らない。
俺は立体駐車場の追加工事を頼まれ再び現場に戻った。
所長に、変な事は続きましたが何とか終わりましたねと言ったら、色々とあったけど何とか終わりそうだ、みんなで打ち上げでもしようと言ってきた。
後日、職長ひとりにコンパニオン2人が付く大きな打ち上げが開催され、現場施工の全てが終わった。
何年か経って、鳶と現場で再会した。
あの地下にあった井戸らしきものを埋めた現場の話をした。
鳶はあまり話には乗り気じゃなかった。
当時サブリーダーの奴が今は職長をやっていて、昼休みに俺の所にきた。
「 ○○さん、あの現場の後なんか変な事ありませんでしたか?」
俺は、
「 お~、とんでもない借金背負ったわ。
全部跳ね返したがな。」
と言った。
鳶の職長は、
「 こっちは班解体ですわ、そんで今は僕がやってます。
他の躯体業者さんも皆潰れたらしいですわ。」
確かにそんな話を聞いたけど、良くある話で気にもしなかった。
鳶の職長は最後に、あの現場の最後の最後で片付け専門の土工さんが亡くなったと教えてくれた。
現場で倒れたらしく、鳶が人工呼吸してビンタかましたら一度は目を覚ましたらしいのだが、すぐまた目を閉じてしまったと。
こないだその現場の近くに応援で入って、住民はそんな事何も知らずに住んでるんだろなと考えると、知らない方が幸せだなと思った。
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