大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 12月27日 地蔵神社(8)

2021-12-27 21:15:50 | B,日々の恐怖






 日々の恐怖 12月27日 地蔵神社(8) 






 プール道具を載せて自転車で集合場所にしてたバス停に向かうと、サイレンの音がしてて、たくさん車が停まっていた。
パトカーと救急車もいた。
ちょうど担架にのせられた人が救急車の後部に運び込まれていくとこで、足だけが見えたが、それがMのボロっちいズックだと思った。
 俺はどうすることもできず、たまらなくなって、プールには行かずに家に帰った。
仕方なく一人でテレビを見ていると、パートに出ていた母親が帰ってきて、

「 なんか、子どもが事故にあったみたい。
近所の人が噂してたけど、あんた知ってる?」

って聞いてきたから、俺はプルプルと首を振った。
 後でわかったんだが、事故にあったのはやはりMで、トラックの後ろを自転車で走ってたら、積んでた鉄筋が何本も落ちてきて頭や体に刺さったってことだった。
体中が穴だらけになって、即死だったと聞いた。
 それから夕飯前に婆ちゃんが戻ってきて、俺の顔を見るなり、

「 あれほどいけんと言うたやろ!」

そう言ってまた、仏壇の前に2時間正座させられた。

 ま、これでだいたいの話は終わり。
それからしばらくの間、婆ちゃんは畑に行かず、ずっと俺を監視するようにそばについて宿題をやらされた。
おかげで宿題が新学期までにできたのは、あの夏休みだけだった。
 あと、学校でMと一番親しかったのは俺なんだが、葬式には呼ばれなかった。
Mの家は新興宗教に入っていて、その人たちだけで葬式を出したみたいだ。
 もちろん俺は、婆ちゃんをふくめ神社での話は誰にもしゃべっていない。
ここで今話したのが初めてだ。
 ああ、あの神社なあ・・・。
夏休みが終わって少ししてから、怖かったけど気になって一人で見に行った。
 裏手に回ってみると、俺らが作った鳥居や、板の社殿はなくなっていたが、地蔵様だけはそこに残されてあった。
それで、最初、すり減って表情もわからなかった地蔵様の顔が、なんだか微笑んでるように見えた。
だから俺は、

” ああ、たりたんだな・・・。”

って思ったんだ。











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日々の恐怖 12月22日 地蔵神社(7) 

2021-12-22 11:09:51 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 12月22日 地蔵神社(7) 





 そんなことを言われながらも、次の日もまたMと神社に行った。
Mはにやにやしながら先にたって裏手に回ったが、俺らの神社の前に子猫の死骸があった。

” うわっ・・・・!”

と思った。
 子猫の体中、ぼつんぼつんと鉛筆を刺したような穴が開いていた。

「 これ、お前がやったんか?」

Mに聞くと、驚いたような顔をして、

「 いんや、猫の死骸を拾ってきてお供えしたのは俺だが、こんな穴は開けてない。」

ちょっとかすれ気味の声で言った。
 それから、猫の死骸を足でひっくり返し、

「 ほら、お前が買った菓子の袋はそのまんまだろ。
たぶん猫は神様が気に入って食ったんだ。」

そんなことを言ったが、俺は気持ち悪くて、神社への興味が、

” サ~ッ!”

と引いていった。
 それで俺は、この場を離れたくなって、

「 なあ、これからプール行かないか?」

とMを誘ってみた。

「 ああ、たまにはいいか・・・。」

Mも乗り気になったようで、お参りしないでその場を離れようとした。
そのとき、また、

「 たりない・・・・。」

って声が聞こえた。
 俺は、前と同じ声だと思った。
二人同時にあたりを見回したが、人の姿はなかった。
 気味が悪くなった俺は自転車まで走って行き、Mも後に続いた。
それで、俺らの家の近くまで全速で自転車を漕いで、お互いプール道具を取ってきてもう一度集合することにした。
けれども、それが俺がMを見た最後になった。








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日々の恐怖 12月18日 地蔵神社(6) 

2021-12-18 17:13:27 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 12月18日 地蔵神社(6) 





 男の声だったような・・、凄い年寄りの声とかじゃなかった気がする。

「 んじゃあ、地蔵様が言ったんだろ。」

Mがそう言ったんで、ちょっとびっくりした。
 石の地蔵様がしゃべるはずはないだろ。
でも、Mは変だとは感じていないように見えた。

「 カエルでも捕まえてきて団子に入れるか?」

俺はさすがにそれは嫌だったんで、

「 やっぱ、菓子とかにしようぜ。」

それで2人で神社を出て、自転車で駄菓子屋まで行って、安い菓子の袋を買ってきて供えた。
 これは俺が金を出したんだが、Mはなんだか面白くなさそうな顔をしていた。
で、その日は網と虫かごを持ってきてたんで、林の中でずっと虫とりをして遊んだ。
 その後、Mと別れて家に戻るとき、ちょうど畑から帰ってきた婆ちゃんと家の前で会った。
婆ちゃんは、俺の姿を見るなりちょっと怖い顔になって、

「 お前、どこぞで悪い遊びしてこなんだか?
肩に黒いもんがのっとる。」

って言った。

「 いや、なんも・・・、虫とり・・・。」

俺はそう言って虫かごを見せたら、婆ちゃんは、

「 そうかい・・・。
じゃが、そのまんまではいけん。」

そう言って、俺の襟首をつまんで無理やり家に入れ、仏壇の前に座らせた。
で、1時間近く婆ちゃんといっしょに仏壇を拝ませられた。
 いや、もちろん嫌だったし、わけもわからなかったけど、やるしかなかった。
婆ちゃんといってもまだ60歳を過ぎたばかりで、毎日畑仕事をしてるから、子どもの俺よりずっと力が強かった。
 それが終わると、

「 変な遊びせんで、宿題やれ!」

そう言われて小遣いをもらった。











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日々の恐怖 12月15日 地蔵神社(5) 

2021-12-15 11:41:30 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 12月15日 地蔵神社(5) 





 砂なんですぐに崩れてしまって不格好なものになったが、2人で5、6個の泥団子ができるとMは、

「 仕上げだ。」

と言って、
その中に、掘り出したアリジゴクを埋め込んだ。
 それを抱えて社殿の裏に戻り、俺らの神社の、鳥居と地蔵様の中間あたりに積み上げた。
そして手をパンパンと叩いてお祈りをした。
何を願ったかとかもう覚えてないが、おおかたテストの点を上げてくれとかそんなことだった。
それが終わると、俺もMも、ひと仕事終えたような充実感があった。
 次にMは、

「 これなあ、できれば鈴つけたいよな。」

って言い出し、

「 小さいのなら家にあったと思う。」

と俺が答えて、翌日もそこに来ることにした。
その日はもう2時間くらい別のところで遊んで、Mとはわかれた。
 それで、次の日、またMとしめし合わせてその神社に行った。
前の日に作った団子を見たら、積み上げたのが崩れて、団子の一つ一つに小指を突っ込んだような穴が開いていた。

「 これ、地蔵様がほじり出して中身を食ったんかな?」

Mはそう言ったが、俺はアリジゴクが自力で逃げ出したんじゃないかと思っていた。
 持って来た小さな鈴と簡単なヒモをくっつけたら、ますます神社らしくなった。
それで拝もうかとなって、二人でヒモを引いてリンリンと鳴らして拝んでいたとき、小さく、

” たりない・・・。”

って呟くような声が聞こえた気がした。

「 えっ・・・・?」

と思ってまわりを見ると、Mが、

「 今、何か言ったか・・?」

って、俺に聞いてきた。

「 いや、なんも・・・。」 
「 たりないって聞こえたと思ったけど・・・・。」 
「 う~ん・・・・・?」











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日々の恐怖 12月12日 地蔵神社(4) 

2021-12-12 16:35:00 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 12月12日 地蔵神社(4) 





それはともかく、2人でご神体になりそうなものを探したが、そんなのが落ちてるわけはない。
 林の中をうろうろしてたら、林から田んぼに出るあたりの場所に、小さなお地蔵様があるのを見つけた。
頭巾もよだれかけも雨ざらしでボロボロになり、長い年月で顔の造作もわからなくなった地蔵様だ。
それを見てMが、

「 これにしようぜ!」

って言い、俺もすぐ賛成した。
そのときは、地蔵様を動かすのが悪いとか思わなかった。
 でも、それからが大変だった。
小さいとはいえ、石の地蔵様なんだから、かなりの重みがある。
俺とMで頭と足のほうを抱えて、ふうふういいながら俺らの作った神社まで運んだ。
 中に立てたら、すごく様になってる気がした。
で、さっそく俺が拝もうとしたら、Mは、

「 お供えがなくちゃいかんだろ!」

って言った。
 俺が、

「 んじゃ、パンかなんか買ってくるか?」

と答えると、

「 いや、そんなんじゃ喜んでくれん、お供えも作ろう。」

 神社の境内の方に戻った。
手水場で柄杓に水をくみ、それを持って社殿の下に潜り込み、砂と土を水でこねて団子をつくり出した。
さっそく俺も真似をした。









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日々の恐怖 12月9日 地蔵神社(3) 

2021-12-09 10:48:11 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 12月9日 地蔵神社(3) 





 これも、今考えると摂社ってやつのことを言ってたんだと思う。
ほら、大きな神社の参道沿いには、小さなお社がいくつも並んだりしてるだろ。
あれのことだよ。
 それで、俺もそのとき、

” 面白そうだな・・・・。”

って、すぐ思った。
それで、2人で板を組み上げていったんだ。
 もちろん、釘とか持ってたわけじゃないし、セロテープなんかもないから、たんに板の下のほうを土に埋めて、その上に屋根になる板を乗せただけ。
Mは三角の神社の屋根の形にしたかったようだったが、それは上手くいかなかった。
 で、俺らの背丈より頭一つくらい小さい社殿ができると、Mは鳥居を立てるって言い出した。
それは無理だろうと思ったが、意外と簡単だった。
 林の中から、できるだけ真っ直ぐな木の枝を拾ってきて2本立て、横木はつるになった植物で結んだ。
鳥居ができると、本物の神社みたいな雰囲気になって、俺らはけっこう満足した。
 そしたらMは、次に、

「 これだけじやダメだ。
ご本尊をいれなくちゃなんない!」

って言い出した。
 う~ん、これも今考えれば言葉が間違ってる。
ほんとうは御神体だったろう。









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日々の恐怖 12月4日 地蔵神社(2) 

2021-12-04 10:12:26 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 12月4日 地蔵神社(2) 




 Mはそれなりにいいやつだった。
人の嫌がるようなことは絶対に言わなかったし、子どもなりにではあったが、俺にいろいろ気を遣ってくれた。
今になって、そういことがわかるんだ。
ただ、小遣いはいつも持ってなかったから、アイスや飲み物なんかをおごるのが俺の役目になってたな。
 ああ、本題に入る。
そんときは夏休み中で、俺らの小学校の学区からかなり外れた場所にある神社に行ったんだ。
小さなとこだった。
神主とかはいなかったんだと思う。
社殿の扉も閉まってたし。
 なんでそこに行ったかというと、Mが社殿の下の砂地にアリジゴクがいるって言ったからだ。
ほら、神社は高床になってるだろ。
その下に潜り込むと、下が目の細かい褐色の砂になってて、そこにぽつぽつとへこみがあった。
それに手を突っ込んで中央の砂をつかみ、持ち上げると手のひらの中にアリジゴクが入ってる。
 いや、殺したりはしなかった。
ただ観察しただけ。
殺したのはアリのほうだな。
それも俺らが殺したんじゃなくて、生きたやつをアリジゴクの穴に入れてやっただけだ。
 アリがもがいて逃げようとしてもサラサラ砂が崩れて、どんどん中に落ち込んでいく。
そして真ん中まで落ちると、中からハサミが出てきてガジッとつかまえるんだ。
それをずっと見てた。
 けど、1時間もするとさすがに飽きてきて、2人で神社の裏手に回ったんだ。
そこはけっこう深い雑木林になってて、強い日のあたった境内とは反対に、じめじめした感じで暗かったんだ。
で、どういうわけか社殿の柱に立てかけるようにして、大きさの違う板が何十枚も重ねられてあったんだ。
 う~ん、もしかしたら、神社の何かを作ったときの廃材だったのかもしれない。
俺が見たかぎりじゃ、あんまり面白そうなことはなかったんだが、Mが板の一枚を手にとって、

「 なあ、神社を作らないか。」

って言ったんだ。









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日々の恐怖 12月1日 地蔵神社(1)

2021-12-01 12:39:15 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 12月1日 地蔵神社(1) 




 これ、俺が小学校4年のときの話。
今から15年前のことだよ。
 当時、Mって子とよく遊んでたんだ。
その頃も、子どもの遊びっていったらゲームだったんだけど、そのMってやつは、親が許してくれないってんでゲーム機持ってなくて、そのかわり、外で遊ぶことをいろいろ知ってたんだ。
例えば、拾った木の棒でノックするみたいにして石を打って、小川の向こうまで10回のうち何回飛ばせるかとか、そういうやつ。
 Mとは4年生の新しいクラスで知り合ったんだけど、俺はずっとゲームっ子だったから、そういうのが新鮮で面白かったんだよな。
あと、Mは遊ぶ場所もいろいろ知ってた。
例えば、河口に下水が流れ出す出口とか。
 3m以上高さのある土管なんだよ。
そこに、水が流れてない時間に行って中を探検する。
あと、小山の裾にある配電の鉄塔の下とか。
今から考えれば、どっちも学校に知れたら怒られる場所だったろうけど、そういうのにじつに詳しかったんだ。
だから放課後、2人で自転車で走り回って、町の中のいろんなところに行ったもんだよ。
思い出すと懐かしいな。









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