大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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☆(  しづめばこ P574 )                          

日々の恐怖 5月31日 海女

2014-05-31 20:36:58 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 5月31日 海女



 私は23歳で、海女(海女歴2年)をしています。
泳ぐのが好き、結構儲かる、という理由でこの仕事をしてますが、不思議な体験をした事があります。

 海女になりたての頃、付いてた人に「絶対行ってはいけない」と言われてる場所がありました。
その場所は離れ小島のような所で、岸から距離にして300m位だと思います。
他の海女も絶対そこの小島には行きません。
私は勝手な思い込みで、そこの小島に行く途中で結構潮の流れの速い所があり、海女って結構年寄りが多いので、危ないから行ってはいけない、と言う事だと思ってました。

 仕事は潮の満ち引きにもよりますが、ほとんど午前中で終わります。
しかしこの日は、体調もよくまだまだ潜れそうだったので、午後も1人で潜ってました。
そして波も穏やかだった為、ふとあの小島にいってみようかなーと思いました。

 潮が速いと思い込んでいたのですが、そんな事もなく、あっさりその小島に到着しました。

「 な~んだ、楽勝じゃん。」

などと独り言をいいながら潜ってみると、普段人が来ない為か、もう大きなアワビ、サザエがゴロゴロしてます。
アワビなんて30センチ位、サザエもほとんど20センチ。
もう夢のような光景です。

“ なに~ここ宝島じゃん!”

などと思いながら取りまくっていると、小島の海底のほうに、ぐるりと綱が巻いてありました。
 ちょっと気味が悪くなり小島に上がると、小島の側面には数体のお地蔵様が彫ってありました。

“ 何~ここ、なんかヤバイ所~?”

なんて思ってると、声がしました。

「・・・・・ちゃ・」

“ えっ?何っ?ちゃって・・・。”

その声はだんだんハッキリと聞こえて来ました。

「お・・ぇちゃん」
「おねぇちゃん」

後ろを見ると、10歳位の男の子が立たっています。

“ えっ何処から来たの・・・?”

と思いつつ、かなりビビッた顔してたと思います。

“ しかし、何かが変だ・・・”

話しかけようにも怖くて声が出ませんし、海に囲まれた小島なのに洋服着てるし、しかも濡れてないし。
 ヤバイと思った時、男の子は言いました。

「 おねぇちゃん、何処から来たの?」

私は怖くて叫びたいんだけど、声が出ないで口をパクパクするだけ。
男の子はどんどん話を進めます。

「 僕さぁーお家帰りたいんだけど、どう帰ればいいか分かんないし、足も痛いし、頭も痛い、お腹もすいたし喉も渇いたし・・・、助けてよ、おねぇちゃん。」
 
いままで普通の姿だった男の子が、しゃべった内容に変化していきます。
足が痛いと言うと足が血まみれに、
頭が痛いと言うと顔が血まみれに、
お腹がすいたと言うと痩せて体が崩れ始め、
喉が渇いたと言うと老人のように顔が変化しました。

“ ヤバイ、絶対ヤバイ、神様ー、ナンマイダー。”

などと唱えると、ブチッと音がして自由になりました。
 転げるように海に入ると、普段とは違いどんどんどんどん海底に沈んで行きます。
と言うより、引き込まれる感じです。

“ 何よこれーっ。”

海って言うのは、黙ってても浮くんですよ、普段は。
実際、浮くよりは潜る方が大変なのに。
 結局、海底まで引き込まれました。
すると、そこには小さな洞穴みたいなものがあり、そこに水中眼鏡と骨がありました。
恐らくさっき見た少年だなと、直感で分かりました。
そして少し悲しい気持ちになったとたん、ふぅーと吸い込まれる力が弱まり、浮き始めました。
水面まで出ると冷静さを取り戻し、岸まで泳いで帰りました。
 岸に着いてからは、あの小島で採ったアワビとサザエを買い取り業者に置いて、すぐ警察に骨を発見した事を届け出ました。
そしてまた業者に戻ると人が集まってきて、

「 凄いね~、今日は大漁じゃん。」

などと、はやされました。
 そして受け取った金額は、自分でもビックリするほどの額でした。
なんか嬉しいやら悲しいやら、複雑な気持ちで帰路につきました。
 そしてその夜、『あの小島に行ってはいけないよ』と教えてくれたおばさんが来ました。
あがってもらいお茶を出すと、おばさんはこう言いました。

「 あんた、あの小島にいったんだって。まったく、あんなに行っちゃいけないって言ったのに、まぁ無事に帰ってきたからいいけどさ・・・。
ところで、骨を発見したのは聞いたけど、他に何か見なかったかい?」

私は経験した事を全て話しました。
すると、

「 やっぱりかい・・・。」

と言いました。
 そして、おばさんが話してくれた話はこうです。
終戦後のある夏、男の子3人が海水浴をしていました。
波が高かったせいか男の子達は流されて、あの小島に辿り着いたのです。
しかし、波が高いせいで、なかなか救助の船を出せません。
そして、小島を飲み込む程の波が来て、男の子3人はまた海に・・・。
 それを見かねた1人の漁師が船を出しました。
漁師は男の子を1人助け2人助け、3人目を助けようとした時、船が小島に激突して沈没。
結局、男の子3人と漁師は行方不明になったそうです。
海底に巻いてある綱と小島の側面のお地蔵様は、その時のものらしいです。
そしておばさんも昔、その小島の上で遊んでる男の子を見たことがあるそうです。

 次の日、警察は捜索したけども、骨は発見できなかったそうです。
その年のお盆の波の静かな日に、少し怖かったけど、おばさんと2人で船を出し、その小島に線香とお供え物をあげに行きました。
帰りの船でふと、

「 ありがとう、おねぇちゃん。」

と言う声が聞こえたような気がしました。











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日々の恐怖 5月30日 新聞配達

2014-05-30 18:09:55 | B,日々の恐怖


    日々の恐怖 5月30日 新聞配達


 新聞配達をしていた時の怖かった話です。
販売店の専業(正社員)じゃなく臨時配達員といって、人手が急に足りなくなった場合に依頼されて配る仕事だ。


 ある時、都内の販売店から依頼があって、俺はそこへ派遣された。
早速、明日の朝から配達するため配達順路を覚えようと、店から順路帳を借りて、空回り(実際に配達しないで順路を覚える作業)を始めたんだ。
さして難しい順路でもなく、順調に順路とりは進んでいたんだけど、一番最後でおかしなことに気が付いた。
 順路で示されている一番最後に配る場所が、順路上で言えば中盤辺りに建っているマンション。
一番最後に回らなくとも、中盤を配っている途中でこのマンションに寄って配達すればいいはずなのに、どういうことだ?と。
 この順路帳というものには種類があって、手書きの物とPCで印刷して出す物がある。
そしてPCの方は、入力ミスで順路がおかしくなることが稀にある。
今回の順路帳はPCの方だった為、俺はこれも入力作業のミスだろう…と判断し、空回りを終えた。
まぁ、今思えばこれが失敗だった。


 そして翌朝、順調に配達を続け、例のマンションが近くなってきた。
当然、最後に配ってたら時間のロスだから、途中で寄って配達していこうと俺は思った。
 こういうマンションを配る時は、一番上までエレベーターでいって、その後に降りながら各部屋へ配達が普通だ。
俺はどこでもやっているように、エレベーターに乗り上へ向かう。
 その時、最上階へ着く前に5階でエレベーターが止まった。

“ こんな時間に上へ行くエレベーターに5階から誰か乗るのか?”

だが、開いた扉の前には誰もいない。
誰かボタンを押したけど階段で行ったのか、何にしても、その時の俺は大して気にせず配達を続けた。


 それから1週間くらいかな、何事も無く配達をし続けていたんだけど、そのマンションを配る時はいつも昇りの時に5階で止まる。
マンションの中には、防犯か何かで夜中は勝手に一定の階で止まるようになってる所もあるし、そこもそうだと俺は思ってた。

 また何日か経ったある日。
上の階で新聞を入れ間違えたことに気付いた。面倒だが入れ直しに行くしかない。
俺が上へ行くためエレベーターの前に立ったその時、『↑』ボタンを押そうと手を伸ばすと、押してもいない『↑』ボタンが勝手に点いたんだ。

“ おかしい、どういうことだ?”

そう思った時、俺はハッとした。

“ ここは、5階じゃないか?
まさか、今まで毎日5階で止まってたのは、防犯云々じゃなくこれがその理由なのか?”
そう思っているうちにエレベーターが到着し、扉が開く。
何やら嫌な予感。
配達でかいた汗を凄く冷たく感じた。
 だが、俺は仮にも配達のプロの臨配員だ。
嫌な予感を振り払って俺はエレベーターに乗ると、入れ間違えたと思われる部屋のある階のボタンを押した。
 そして扉が閉まりエレベーターが動き出すが、いつもと違う。
目的の階近くになってもエレベーターは減速せず、目的の階を通り過ぎる。

“ おいおい、どういうことだよ、マジか、何でだ・・・?”

その時になって膝がガクガク震えてくる。
 そんな俺をよそに、エレベーターは最上階まで行くと止まり、扉が開く。
俺が震える足をどうにか踏み出し、エレベーターの外に出て、何気なくエレベーターの方へ振り向いたその時だった。
エレベーター内に1人の女がいた。

“ マズイ、これはどう考えても人じゃない。
どうすればいい、どうすればいい・・・?”

そうこうしている内に女が歩き出し、動けない俺へ真っ直ぐに向かってくる。
もう俺の目の前。
息でもしていれば呼吸が感じられそうな位置まで女は近付いてきている。

“ ダメだ、終わった。”

だが、そんな観念した俺のことなど無視するかのように、女は俺の身体をすり抜け歩いていった。

“ あ・・・?”

 女が歩いていった方へ視線をやると、歩く女の後姿が見える。
そして施錠してある屋上への扉の方へ歩いていき、その扉も俺の身体の時と同様にすり抜け姿を消した。
そこまで見たところで俺は腰を抜かし、その場へ座り込んだ。


 その日の昼、俺は販売店の責任者へ今朝見たことを話した。
すると責任者は、

「 順路通りに配らなかったのか・・、そうか・・・。」

と溜め息をついた。
 責任者の話によると、その女は以前そのマンションの5階に住んでいた住人だった。
ある日の深夜、5階からエレベーターに乗り、当時は施錠されていなかった屋上へ行き、飛び降り自殺をしたとのことだった。
 それ以来、深夜の2時から4時の間、エレベーターは必ず5階で止まるようになり、その女の霊が度々目撃されるようになった。
その為、女が目撃される深夜2時から4時を外す為に、そのマンションの配達の順番を一番最後に回したそうだ。

“ それならそうと最初に教えろ・・・。”

まぁ、理由を知れば気味は悪いが、変なものを見ないのなら配るのに支障はない。
とは言え、今まで何人もの配達員が辞め、その販売店のその区域はいつも専属で配る人間がいないとも聞いた。
 この仕事をしている時はこういうことがそれなりにあるらしいと聞いたけど、これが初めてだった。
今までそんなもの見ること無い思っていたのに、そのものを初めて見てしまった。
と言うわけで、今ではいい思い出です。












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日々の恐怖 5月29日 遺言

2014-05-29 19:48:21 | B,日々の恐怖


   日々の恐怖 5月29日 遺言


 40数年前、私が小1だった時のことです。
同居していた祖父が、8畳の茶の間の白ふすま四枚に墨汁でびっしり“遺言”を書いてしまった。
 長くガンを患っていて、本人も死を覚悟していたのだろう。
子供の私に内容は読めなかったが、大酒飲みで洒脱な祖父らしく、遺書のところどころにヒョットコの顔や、徳利と盃の絵が描かれていたのを覚えている。
場所が茶の間だから、孫の私や弟を喜ばせようとしたのかもしれない。
 その翌年に祖父は亡くなり、相続税を払うため我が家はその家を人手に渡して手狭な家に移った。
遺書が記されたふすまは、引っ越し時に処分されてしまったらしい。
 あとから知ったのだが、そのふすまは遺言に必要な体裁を整えておらず法的には無効だったそうだ。
それでも一応形見の品なので、屏風か掛け軸にでも仕立て直せば良かったのにと思うが、相続でてんやわんやだった両親にはそんな精神的余裕がなかったのだろう。
 写真の一枚も撮っておらず、幼かった弟にはそのふすまの記憶がないので、祖母と両親が亡くなった今、“遺言のふすま”をハッキリ覚えているのは私一人となった。

 その後、私は結婚して一人娘をさずかり、その娘も結婚して男の子をもうけた。
現在、娘は第二子妊娠中でおなかが大きく、4歳の息子を連れて実家に戻るのはキツイので、正月2日に主人と一緒に娘夫婦のマンションを訪ねた。
 すると、リビングの壁一面に白い紙が貼られ、孫息子が描いた色とりどりの絵が踊っている。
いくら叱っても落書きをやめないので、紙を貼って自由に描かせることにしたのだそうだ。
 へえー、と笑いながら孫の落書きをながめていて、私は思わずギョッとした。
何故かそこだけ黒いサインペンで、ヒョットコのような顔と、徳利と盃らしきものが描かれている。
 娘に、

「 これ、ヒョットコ?」

と聞くと、

「 漫画のキャラでしょ。R(孫の名)はヒョットコなんて知らないわよ。」

徳利と盃を指して孫にも、

「 これ何?ジュース?」

と聞いてみたが、彼は、

「 うーん?」

と気まずそうに首をひねって答えてくれなかった。
 偶然だとは思うが、孫が祖父のように大酒飲みになって肝臓を傷めないことを祈るばかりです。













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しづめばこ 5月29日 P304

2014-05-29 19:47:58 | C,しづめばこ
しづめばこ 5月29日 P304  、大峰正楓の小説部屋で再開しました。


小説“しづめばこ”は読み易いようにbook形式になっています。
下記のリンクに入ってください。(FC2小説)

小説“しづめばこ”



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日々の恐怖 5月28日 不動産屋

2014-05-28 19:36:10 | B,日々の恐怖


    日々の恐怖 5月28日 不動産屋


 1年半前の話です。
ぼくは不動産の販売をしているんですが、当時新人で、その時扱った中古マンションの話です。
 このご時勢、住宅ローンを返せなくなってしかたなく売却、というのは良くある話で、そのときは、チラシの反応で査定をしてくれないかということで、依頼者のところに行った。
大阪の某市にあるマンションで、そのエリアは住宅街で、中高層の建物はそのマンションということもあり、すぐにそこへたどり着けた。
 さっそく依頼者のところへ行った。
こういった借金苦の人はやはり暗い様子で、部屋も汚く、50代の白髪まじり、目が片方ちょっと違ったほうを向いてる、身寄りのない男性でした。
 案件としては、債務超過(売却したお金をもってしても、住宅ローンを返せない)にはなっていなかったので、売却依頼を正式受理し、売却活動をしていくことになった。
そして、不動産業者の義務として、

「 自殺とかそういった類の、聞いたりあったりしてませんよね。」

と聞いたところ、

「 ないです。」

と言う返答だった。
 債権がらみということもあり、早期に売却してしまわないといけないこともあり、相場よりある程度低めに売却金額を設定し活動しました。
しかし、なかなか買い手が見つからない。
 新人だったので査定を甘くみてたのかなと思って、売主にも相談し徐々に金額を下げていくも、なかなか買い手がつかず、途方にくれてました。
しまいには、相場よりもありえないくらい低い売却金額になっていました。
 その物件自体は8階建ての7階にあったので、ふと最上階からの景色を見てみようと思い、8階の廊下から外をみていた時に、突然後ろの扉が開きおばさんが出てきて、

「 あんた、何やってんの!」

っと強烈に怒られびっくりしました。
 普段はスーツを着てることもあり、マンションの住人からも不動産屋というこもバレていることもあって、住民からは、

「 なかなか売れへんねぇ。」

とか、軽い挨拶程度のことはしてくれてたんですが、その時は様子が違いました。
あぁ変な人も住んでるなと、その時は思いました。
 しばらくたって管理人さんとも仲良くなり、

「 あそこなかなか売れないんですよ。」

となげいてたところ、管理人さんが申し訳なさそうに口を開き、

「 半年前。
8階から、そこに近くに住んでる(マンションの住人ではない)おばさんが飛び降りたんよ。」

と言われました。

「 あんたがいつも通ってるそこ、綺麗になってるやろ。
そこに落ちはってん。」

ってことは、あの8階のあそこから落ちたんか。
だからおばさん狂ったように怒りはったんか。
と、ハっと気付きました。
 当然、売主にも詰め寄り、

「 何でそのこと正直言ってくれなかったんですか!」

と言いました。
売主いわく、

「 売却額が下がるとお金に困るので・・・・。」

と言ってきました。
完全に自分の調査ミスということもあり、上司にはこっぴどく叱れました。
 その後、原因がわかったこともあり、また金額が安いということあって、近くに住んでいる、自殺があったことも知っている夫婦に買い手が決まりました。
死者が最後にみた光景を、自分も見てたことにゾっとしました。
初めての体験で、この業界の怖さも改めて知った、そんな実話です。



 自分も中古マンション買ったけど、『前』があるんじゃないかとドキドキなんだよなぁ。
実に興味深い話でした。
階も違うし現場も違うから関係ないんじゃ?と思うけど、そうはいかないんですね。



 そうですね。
やはり1つの自殺がマンション全体に影響してきます。
ましてや近々にあったものは特に。
 マンションの購入者は、将来戸建を購入することを考えている人も多いので、こういったことで相場が下がるのは、とても迷惑なことになります。
 今回のケースは、本来1200万が相場の部屋だったんですが、結局はそこからマイナス350万に落ち着きました。
部屋がとても汚かったこともあり、フルリフォームもしなくてはいけなかった要因もありますが。
 ちなみに、当該の部屋で自殺があった場合は、200万もいけば十分でしょう。
ほとんど価値がなくなります。
またほとんど業者が買い取ります。
 こういった自殺は、完全に風化していない限り、我々不動産業者は買主に告知する義務があります。
俗に言う重要事項説明です。
悪質な業者の場合は、だんまりです。
 法律すれすれな業者は、完全な自殺物件でない限り、マンションのどこかで自殺があったことも告知しません。
くれぐれも購入の際は、できるだけ大手の不動産業者で購入することをオススメします。
 ちなみに、重要事項説明書には『転落死亡事故』という表記を当社は用います。
うちの場合は、

「 お客さんに自殺ですか?
どこからですか?
うちのベランダかすってますか?」

と聞かれれば、正直に答えています、知っている限りのことは。
ただもしかすると、どこぞの業者さんはその内容を聞かれても、

「 誤って落ちてしまったらしい。
ちょっと詳しいことはわからないですね~。」

と言うかもしれません、内容を知っている場合でも。
 ただ必ずしも、安い物件が悪い意味の訳ありとは限りません。
持っていても仕方ないので、さっさと売ってしまいたいだけのケースも良くあります。
親から相続でもらった物件だとか、次の住む先が決まったのでとりあえず資金を作りたいとか、事情は様々です。












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日々の恐怖 5月27日 憑

2014-05-27 20:05:28 | B,日々の恐怖



   日々の恐怖 5月27日 憑



 今年の2月下旬、出張で都内のビジネスホテルに泊まった。
翌朝、同僚と一緒にホテル一階のレストランでモーニングを食べていると、ホテルの前にパトカーが止まり、警察官が駆け込んでくるのが見えた。
何だろ?と思っている間にパトカーがどんどん増え、レスキューまで来たので、

「 ちょっと見てくる。」

といって、同僚を残してホテルの前の道路に出た。

 外ではレストランの窓からは見えなかったが、救急車や覆面パトカーなどが列を作っていて、多くの通行人が立ち止まってホテルを見上げていた。
俺もつられて見てみると、ホテルの屋上に手をかけて、人間がぶらさがっているのが見えた。
外壁を足で蹴り、這上がろうとしているのかバタバタと動いている。ちなみにホテルは十数階建てだった。
 びっくりしてしばらく見ていたが、このままだと嫌なものを見るハメになると気付き、レストランに戻ることにした。
席に着いた俺に同僚が、

「 何だった?」

と聞いてきたので、

「 屋上から人がぶらさがってる。」

とだけ答えた。

 同僚は驚いた様子だったが、外に見に行こうとはせず、なんとなく会話もなくなって二人で飯を食べてた。
そのまま五分くらい経って、何の動きも無かったので助かったのかな、と思った瞬間、バーン!という大きな音が聞こえた。
思わず同僚と顔を見合わせる。

「 落ちたね・・・。」

同僚が呟くように言い、俺も頷きながらそのまま無言で食事を続けた。
 しばらくして、警察官がレストランの窓の外に青いビニルシートを貼り付けだした。しかし窓がでかかっため、シートでは全て隠すことはできず、隙間から外を見ることができた。
俺は窓の横の席だったが、なるべく気にしないようにしてコーヒーを飲んでいたが、間もなく消防隊員がタンカを持って窓の横を通るのが見えた。
 見たくなかった筈なのに、自然と目が吸い付けられる。
タンカに乗せられ、白いシーツを被せられた人型の盛り上がりが目に入った。
顔まで被せられてるのは死んでいるからだろうか?
時間にすれば一瞬だったが、シーツの白さがやけに瞼に残って気持ち悪かった。

 二日後、出張を終えて会社に戻り、週末と重なったので月曜日に久しぶりに出社したところ、同僚が休んでいた。
体調が悪いとのことで、同期の女の子に、

「 東京で悪い病気貰ってきたんじゃない?君は大丈夫?」

とからかわれたが、出張中は特に調子の悪そうな様子は無かったので、不思議に思った。
 仕事が終わり、見舞いがてら様子を見に行こうと、同僚が住むマンションに立ち寄った。
エレベーターで七階に上がり、同僚の部屋を訪ねると、目の下にクマをつくった、異様に疲れた表情の同僚が迎えてくれた。

「 大丈夫か?飯は食べてるか。」

俺が聞くと、同僚は軽く笑った。

「 ああ。外に出れないから、買い置きのインスタントばっか食べる。」
「 そんな悪いのか?じゃあ何か買ってくるよ。何がいい?」

尋ねる俺に、同僚は泣き笑いみたいな表情を見せた。明らかに精神的にやばくなってるようだった。

「 でれないんだよ。エレベーターでも、階段でも、アイツがいるんだ。」
「 何?アイツって誰だよ?借金取りか何かか?」
「 そんなんじゃないよ!!何で俺なんだよ、何で・・・。」

同僚はそのまま泣き出してしまった。
 ラチがあかないと思った俺は、取りあえず飯でも食おうと外に誘ったが、同僚は外に出ることを激しく嫌がった。
冷蔵庫の中身はほとんど空で、買い置きも無い様子だったので、仕方なく俺は買い出しにいってくると告げて、玄関の外に出た。
 同僚の様子を会社に連絡するか、それとも両親に知らせるか、などと考えながらエレベーターを待っていると、下から上がってきたエレベーターが目の前を通り過ぎていった。
エレベーターは扉がガラスになっていて、外からでも中を見ることが出来た。
通り過ぎていくエレベーターの中に、子供のような低い姿が一瞬見えた。
 エレベーターは最上階に止まったまま、なかなか降りてこなかった。
5分くらいしても降りてくる気配のないエレベーターに嫌気がさして、階段で降りることにした。
七階だが、下りならそれほど苦でもない。
 階段のドアを開けると、普段あまり使う人がいないためか、空気が淀み埃がたまっていた。
しばらく降りていくと、下から誰かが上がってくる音が聞こえた。
階段使う人もいるんだな、と少し驚きながら降りていくと、下から上がってきたモノとすれ違った。
 それは、子供ほどの身長だった。
顔は中年の女。
どこにでもいそうな顔だが、位置が違う。
顔は本来あるべき場所より遥か下の、ミゾオチのあたりにあった。
強い力で頭を押し込んだような感じといえばいいのか?
腕はやや上向きに開いており、歩くたびにユラユラ揺れていた。
 俺はあまりのことに息を呑んだ。叫ぶこともできなかった。
足が固まり、悪夢でも見ているかのような思いだった。
女は硬直した俺の横を、ヒョコヒョコと階段を登っていき、やがて音も聞こえなくなった。
 俺は金縛りが解けたように大声で叫ぶと、無我夢中で階段を降り、マンションから逃げ出した。
コンビニまで走り、明るい場所で同僚に電話した。俺は慌てまくっていたが、同僚は以外に冷静だった。

「 あれ、飛び降りた女だよ。
あの時タンカなんか見るんじゃなかった。
運ばれていくアイツと目が合ったんだ。
潰れてめり込んだ顔で目だけがやたら大きく見えて・・。
あんなに警察や消防がいたのに、何で俺なんだよ。」

そう言って同僚は大きくため息をついた。
 しばらくして同僚は会社を辞め、田舎に帰った。
実家は平屋なので安心すると言っていた。
不思議なのは、同僚はタンカに乗せられた女を見たと言っていたが、タンカには確かにシーツが被せられ、人は見えなかった筈なのだ。
 俺はあの日以来、なるべく階段は使わないようにしている。
またアイツとすれ違ったらと思うと、怖くて使えない。











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しづめばこ 5月27日 P303

2014-05-27 18:48:28 | C,しづめばこ
しづめばこ 5月27日 P303  、大峰正楓の小説部屋で再開しました。


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日々の恐怖 5月26日 高速道路交通警察隊

2014-05-26 19:32:36 | B,日々の恐怖




     日々の恐怖 5月26日 高速道路交通警察隊




 警官をしている友人が数年前に体験した話。
そいつは高速道路交通警察隊に勤めているんだけど、ある日他の課の課長から呼び出されたんだって。
 内容を聞くと、一週間前にあった東北自動車道の事故の詳細を知りたいとのこと。
その事故ってのは、一家四人が乗った自動車が平日の深夜に中央分離帯に激突して全員死亡した事故の事だったらしい。


 事件のことを少し詳しく話すと、高速を走行していた長距離トラックから××インターチェンジ付近で乗用車が燃えているって通報があって、夜勤で待機していた友人が現場に直行したんだけど、友人が到着した時には既に乗用車の中にいた人は全員黒こげになって死んでたんだって。
 その後、身元の特定と検死が行われて、歯の治療記録から死んだのは東京西多摩地方に住んでいる家族だってのがわかった。
死んだのは加藤正さん(仮名)とその妻の恵美、長男の正一、長女の恵那の四人。
 アルコールが検出されたとか、見通しの悪い場所だったとかの事故を起こすような要因は見つからなかったんだけど、特に不審な点もなくそのままハンドル操作のミスによる普通の事故として処理されたんだって。


 それで友人も特に何の変哲もない事故でしたよってよその課の課長に言ったらしいんだけど、その課長が実は、て言って呼び出した理由を話してくれたんだって。
その話によると、昨日の夜に少年が東京の○○市にある警察署に訪ねてきて、
「僕が死んだとニュースでやっていたのだけど、僕はいったい誰なのでしょうか?」って言ったらしい。


 少年の話をまとめると、一昨日の朝に朝寝坊して起きたら家に家族が誰もいない。
どこかに行ったのだと思いそのまま気にも留めていなかったが、夜になってもだれも帰ってこないし連絡もない。
 心配になって警察に連絡したが、子供の悪戯だと思われたのかすぐ切られてしまった。
祖父母や親戚に連絡してみたが、誰も連絡を受けていないと言われた。
 そのまま朝まで待っていたが、つけっぱなしのTVのニュースから、自分も含めた家族全員が死んだことになっていると知った。
そんなことはないはずなので詳しく知りたくて訪ねて来たとのことだったらしい。


 その話を聞いた友人は、その事故の資料を改めて提出したんだけど、見直してて不思議なことに気づいたんだって。
家族の歯科治療記録との照合で、父親、母親、長女は間違いなく本人だって判明したんだけど、長男は頭部の損傷が激しく、照合ができなかったと記録に書いてある。
しかも家族は青森近くで事故を起こしたんだけど、両親は中部地方出身で東北に知り合いはいないことがその後の調査で明らかになっていた。
 その当時は旅行にでも出かけた際の事故って事になったんだけど、どうにも不自然なことが多すぎる。
 それで友人は資料を提出してから数日後に、例の課長に事件の進展を聞いてみた。
すると課長は口ごもりながらこう答えたらしい。


 例の少年は身体的特徴や見た目は死んだ長男によく似ていたが、歯形が違うため別人だと思われる。
そのことを告げると少年が錯乱したため、心療内科のある警察病院に搬送した。
 その後の調査で事故死した家族の家を調査したが、事故後誰かが住んでいた形跡はなかった。
そのことを告げると、少年は完全に精神に異常をきたしてしまったため、結局どのこの誰だか分らず今も病院にいる。
もう済んだ事だから、今後かかわらなくていい。


 友人はそこまで話すと最後にこう言った。
黒コゲの死体は本当は一体誰で、自称長男の少年は一体誰なんだろうな?
それと、あの家族は何で平日に誰も知り合いのいないところに向かっていたんだ?
俺は思うんだ。
あの家族は何かから逃げてたんじゃないかって。
何から逃げてたのかはわからないけど。












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しづめばこ 5月25日 P302

2014-05-25 19:05:41 | C,しづめばこ
しづめばこ 5月25日 P302  、大峰正楓の小説部屋で再開しました。


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日々の恐怖 5月25日 社員研修

2014-05-25 19:04:52 | B,日々の恐怖


   日々の恐怖 5月25日 社員研修


 もう15、6年前かな、社員研修で東京へ出張した。
ジュリアナ東京が近くにあったんで、楽しみにして行った。

 ○月○日~○日、9:30~時間厳守 
集合 研修センター1F 出席予定77名
前泊希望者は事前に連絡、部屋は本社にて準備(シングル・ツイン選択不可)

 田舎もんの俺は前泊で出席の為、午前中はみっちり仕事でした。
特急と新幹線乗り継いで、JR田○駅着が22:45、ホテル入って23:00頃。
途中、夜の街で社会勉強し遅くなったので。

「 △△会社の○○ですが。」
「 お疲れ様です○○様、◇◇◇号室です、ごゆっくりどうぞ。」

とキーを渡される。
ホテルなんぞ使う機会も無く、エレベーター乗って、

“ 都会だな~。”

なんて思いながら部屋へ入ると、先客がベッドで寝ている様子。

“ 相部屋か・・・まっいいか。”

と、シャワー浴びて就寝したのが24:00頃。

 翌朝、7:30に目覚めると隣はもぬけの殻・・・。
飯でも行ったかと思ったが荷物もなし。

“ なんだよ一緒に行ってもいいじゃんかよ、ったく愛想もねーな。”

なんて思いながら朝飯食って、ヘアセット・髭剃りすると、ポーチが洗面台に。

“ 忘れもんだよ、慌てて出ていったんかな。”

なんて思いながら荷物もって研修センターへ。

研修センターに着いて、指導官とのやり取り。

「 おはようございます、○○です。昨日の相部屋の方の忘れ物です。」
「 おはよう、○○君。昨日は・・・え~と、君一人だよ。」
「 いや、先に誰かチェックインしていて、その方の荷物かと・・・。」
「 えっ、前泊は39人で、君の販社からは君一人だから、ツインのシングル使用のはずだけど・・・。」
「 でも昨晩、歯軋りとか聞こえましたし、確かに誰かと一緒だったんですけど・・・。
じゃ、これは・・・?」

持ってきたと思ったポーチが無くなってた。
確かにバックに入れたんだ。
 その後、実害は無かったから良かった。
でも、研修中に他のメンバーからも色々言われた。

「 10時頃テレビの音してたし、シャワー使ってたろ。」
「 ツインの部屋で鍵が二つっておかしいだろ、普通一つだろ。」
「 その相方はどうやって部屋に入ったの?」

言われてみれば、鍵って部屋に一つだよな。
ホテルの人は俺に渡したんだから、相方は?
東京って怖えぇぇよ。











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日々の恐怖 5月24日 禍

2014-05-24 18:06:27 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 5月24日 禍



 俺の両親は仕事人間で、あまり家にいなかった。
その代わり母の親友の女性が、住み込みの子守りとして俺達兄弟の面倒を見てくれていた。
そのおばさんが、家事の合間によく童話を語って聞かせてくれたんだが、 話し方とか本当に上手で、まるで役者のようだった。
 さて、俺が小学校の頃は怪談がブームで、怖い話を知ってる奴ほど人気者だった。
だから、おばさんが友達の前で怖い話を披露してくれれば俺は・・・と思いついて、お話し会を開いてと頼み込んだが、頑固に断る。
 考えてみると、頼めば日本昔話から外国民話まで聞かせてくれたおばさんが、ブームである怪談だけは一度もしてくれたことがない。
今思うと自分勝手だが、当時の俺にはそれがひどい不合理に感じられて、執拗に食い下がった。
 あまりのしつこさに参ったのか、おばさんは前置きをしてしぶしぶ一つの話をしてくれた。

「 本当に邪悪なものや禍は、 何をきっかけとして寄ってくるかわかりません。
一度ねらわれたら、来る者を避ける術は無いのです。
これは理不尽にも、狙われてしまった人の悲劇です。」

 今から2、30年前の夜のことです。
その夜、田中さんは熱があり、会社からの帰り道を頼りなく歩いていた。
 途中、お墓の横の道を通り過ぎる時、黒い動物らしきものと目があった。
不審に思って目を凝らすと、それはパッと姿を消した。
田中さんは熱のせいでおかしなものを見たのだろうと思って、それきりそのことは忘れてしまった。
 数日後の夜、田中さんの家に電話が来た。

『 もしもしカヨコさん?そちらにお邪魔してもいいですか?』

田中さんの家にカヨコさんはいない。
間違いですよと答える前に、

『 明日はいらっしゃい。』

と誰かが答えた。
 ぎょっとしたが、その後すぐに電話は切れてしまい、田中さんは混線か何かだと自分を納得させ、そのまま床に就いた。
 数日後の夜、田中さんがテレビを見ていると、また電話が鳴った。

「 田中です。」

と応える声に重なるように、

『 もしもし、カヨコさん?』

と昨日の声がする。

『 先日はお邪魔できずにごめんなさい、そちらにお邪魔していいですか?』

悪戯は止めてください、と田中さんが言う前に、

『 明日はいらっしゃい。』

と誰かが答え、すぐに電話は切れた。
意味不明な電話に不気味さは感じたものの、まだそれほど気に病むことはなかった。
 翌日の帰宅途中、墓地沿いの道に差し掛かると、不思議なことに墓地の中が妙に気になる。
自分でもなぜか理解できないまま、田中さんは当てもなくグルグルと墓地を散策した。
 電話は再び掛かってきた。
またも訪問できなかった事を詫びる誰かに、カヨコさんは『明日はいらっしゃい』と答える。
田中さんは叩きつけるように受話器を置く。
 その頃から田中さんは、電話のベルに異常な恐怖心を覚え始めた。
だが田中さんが家の電話線を引っこ抜くと、電話は職場にかかってくるようになった。
営業先で、

「 田中様、お電話です。」

と不審そうに取り次がれることも、果ては公衆電話が鳴りだすこともあった。
どこへ逃げようともそいつは田中さんを追いかけて、執拗に電話を鳴らし続ける。
 一方で、夜の墓地散策は日課のようになっていった。
電話の回数に比例するように、墓地へ行かなくてはという思いが強まっていく。
彼は毎夜宛てもなく墓地を彷徨い歩き、長い時間、供養塔の前に佇むこともあった。
 ある週末のことだ。
挙動不審の田中さんを心配して、普段から親交のあった隣家の旦那さんが彼を自宅に招いた。
田中さんがこれまでの出来事を隣家の夫婦に話すと、旦那さんは、

「 不思議なことがあり、それが不気味だと感じたら、後は鈍感でいることが一番いいんだよ。」

と変な自論を持ちだし、気分転換にうまいものでも食いに行こうと誘ってくれた。
 では出かけようかという時、電話が鳴った。
旦那さんが応答したが、様子がおかしい。
 奥さんと田中さんが受話器から洩れる声を聞き取ろうと、旦那さんの横に頭を並べた瞬間、 彼らのすぐ後ろから低いはっきりとした言葉が発せられた。

「 今日は、連れて、いらっしゃい」
「 カヨコさんがここにいるんだ!」

逃げるように表へ駆けだす田中さん。
慌てて追いかける夫妻。
 暴れる田中さんと彼を落ち着かせようとする夫婦目がけて、突進してくる車があった。
旦那さんは即死、奥さんは重傷で顔半分に大火傷を負った。
田中さんも全身を強く打って、数日後に死亡した。
身寄りのない彼は、無縁仏として供養塔に合祀されたらしい。
 結局、田中さんと彼の体験を共有した夫婦には禍が寄って来て、何一つ理解できない歳の子供だけが無事だった。

「 人外の悪心とは、ひたすら関係を避けることだけが逃げ道です。
私はあなたが生まれてからは、お宮参りの時も、七五三の時も、あなたがこれから先、おかしなものに気づきませんように、気づかれませんように、とお願いしたものです。
なのに、自分から関わろうなんて、とんでもないことです。」

それで、俺はしばらくの間、怖い話を避けまくることになった。
 話をしてくれたおばさんは、事故で旦那さんを亡くしている。
そして、おばさん自身も顔に薄っすらと傷痕が残っている。
 十年ほど経って、おばさんは亡くなった。
その一人息子は、今も独身で親戚はいない。
死ねば無縁仏の可能性もないとは言えない。










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日々の恐怖 5月23日 隣人

2014-05-23 18:02:34 | B,日々の恐怖




      日々の恐怖 5月23日 隣人




 俺が住んでるマンションの隣人が60代くらいのHって婆さんで一人暮らしなんだけど、家賃二ヶ月滞納してるらしくて昨日大家が取り立てにきてた。
普段見ないから、やっぱり住んでたんだと思った。
 払えないなら出てけとか、働けとか、生保もらえとか、散々言われていた。
俺もその婆さんは、ちょっと気になってて、ドア越しに声聞いてたら大家が、

「 私の娘は統合失調症で働けなくて、よくHさんは未来のあなたねって言い聞かせてるのよ。」

って携帯で娘をその場で呼び出した。
 やって来た娘がエレベーターから登場したかと思うと、いきなりわけわかんないこと言い出して怖かった。
 大家は娘に、

「 MちゃんMちゃ~ん。」

ってベタベタしだすし、娘は、

「 私31さーい!×××ー!」

とかわけわかんないこと叫びだしててカオスだった。
 その隣人の婆さんも普通ではない。
古いマンションで反対隣の部屋の音は結構聞こえるが、H婆さんの部屋からは全く物音が聞こえない。
 テレビどころか、水道とかガスも使えば多少音聞こえると思うが全くの無音だ。
明かりが点いてるのも見た事ないし、おそらく水道電気ガスずっと止まっているように思う。
 前に、連絡が取れないから心配だ、と大家に生存確認頼まれてベランダ覗いた時も何も置いてないし、カーテンも無く真っ暗だった。
 それに、家から出て来るところも、4年住んでて数えるほどしか見たことない。
生きているのかどうか、普段は分からない。
 あくまで推測であるが、変な宗教か呪術みたいなのやっているようだ。
白装束を着てるのを見たことがある。










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しづめばこ 5月23日 P301

2014-05-23 18:02:08 | C,しづめばこ
しづめばこ 5月23日 P301  、大峰正楓の小説部屋で再開しました。


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日々の恐怖 5月22日 食堂

2014-05-22 19:24:01 | B,日々の恐怖




    日々の恐怖 5月22日 食堂




 去年の秋口、ふとしたことから大学時代の友人Mがサイトを立ち上げていることを知った。
Mとは親友と呼べるほどの仲ではなかったが、バイクという共通の趣味があったので、時々ツーリングに行ったりはしていた。
 そのサイトは自分の趣味の話や日記らしきものがコンテンツのよくあるサイトだったが、未だに楽しそうにバイクに乗っているMの笑顔を見ていうるうちに昔話がしたくなり、挨拶代わりにメールを送ってみた。
 Mからの返信はすぐに届いた。
大学に残ったMは研究を続け、現在は実家のあるN県の別の大学で助手をやっているとのこと。
 研究職をしている私とは、かなり近い分野の仕事をしていたこともあり、10年近く音信不通だったにもかかわらず、すぐにうち解けることができた。
 週末や休日にメールをやり取りをして、3ヶ月ほどした頃、Mからこんなメールが届いた。

「 (前略)・・・ところで、○○食堂を覚えてるか?
実は先週末にS市まで日帰りで遊びに行ってきたんだが、おばさんまだ頑張ってたぞ。
懐かしのカツ丼大盛を食ってきた。
おばさんも味も昔のままで、食ってるうちに涙が出てきた。
おばさんもぽろぽろ涙をこぼして喜んでくれていた。
お前の話もしたんだが、おばさんはお前のことも良く覚えていた。
『今度はKさん(私のこと)も一緒に来てくださいね』とぎゅっと手を握られた。
暖かくなったら一緒にカツ丼を食いに行こう!・・・(後略)」

 ○○食堂は私たちが通っていた大学の近くにあった。
学生御用達の店で、Mと私はそこの常連だった。
私が卒業する少し前に、○○食堂のおじさんが事故で亡くなったのだが、おばさん一人で店を続けていたらしいことは、別の知り合いからも聞いていた。
そんな出来事やMの影響もあって、もう一度バイクに乗りたくなっていた私は、週末に手頃な中古を探しに出かけたりするようになっていた。
 しかし、そのメールを最後にMからの連絡はぷっつり途絶えた。
私も仕事が忙しかったこともあり、Mもそうなのだろうと思った私はバイクのこともおばさんのこともしばらく忘れていた。
 ところが、いつまで経ってもMからの連絡は途絶えたままだった。
3日に1度は更新されていた彼のサイトも更新されていないようだった。
気になった私は、休みの日に彼の家へ電話をかけてみた。
 電話に出たのはMではなく初老の女性だった。
私は大学時代の友人であることを告げ、名前を名乗った。
その女性はMの母親だった。

「 Mは先月亡くなりました。」

低い声でそう告げられた私は、びっくりしながらもお悔やみの言葉を述べ、お線香を上げに行かせてもらえるように申し出た。
 次の休みに私はN県にあるMの実家を訪ねた。
Mの両親は息子を失ったショックからまだ立ち直れない様子だった。
 仏壇に手を合わせた後、私は言葉を選び選びMの両親に彼がなぜ亡くなったのかを尋ねてみた。
母親は黙ってじっと下を向いていたが、しばらくすると隣に座っていた父親が初めて口を開いた。

「 Mは自殺しました。」

母親はハンカチで顔を覆いながら

「 あの子が自殺なんかするはずはないのよ、するはずはない・・・。」

と何度も繰り返していた。
 父親は何か思い当たるようなことはないか、と私に尋ねた。
何も思いつかず黙っていた私に、父親はこう続けた。

「 なんでS市なんかに行ったのか・・・。
最後に昔のことを思い出していたのかなぁ・・・。」

頭がぼーっとしてきた私は、両親にいとまを告げるとMの家を出た。
何かザワザワと引っかかるものを感じていた私は、そのまま車でS市に向かった。
 S市に付いた頃にはもう辺りは暗くなりかけていた。
私は町並みを懐かしむ暇もなく、当時住んでいたアパートに向かった。
アパートも周りの建物も何一つ変わっていなかった。
同じブロックの裏手にあったMのアパートもそのままだった。
 しばらく辺りを歩いた私は、一軒の家の前に立った。
その家は普通の民家の一階部分を改築してお店にしていた。
○○食堂もまったく昔のままだった。
だが、今は人の住んでいるような様子がない。
 私がしばらく食堂の前に立っていると、はす向かいの家から中年の女性が出てきたので、近づいて挨拶をした。
女性は怪訝そうな顔をしていたが、大学時代にこの辺りに住んでいたものだというと、少し安心したようだった。

「 こんな時間にあんなところに突っ立っているから、また野次馬だと思ったわ。」
「 野次馬・・・?」
「 あんた知らないんだね、先月その家で男の人が首を吊ってたんだよ。
なんでまた空き家に入り込んで首を吊ったんだかしらないけど、一年前のちょうど同じ日にあそこのおばさんも首を吊って亡くなってるからね、きっと引っ張られたんだよーって近所で噂してるのよ・・・。」

おばさんは、その後もまだ何か話していたようだった。
しかし、私はなんと言ってその場を離れたのかよく覚えていない。
その後、私は熱を出して2日ほど会社を休んだ。












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しづめばこ 5月21日 P300

2014-05-21 21:07:56 | C,しづめばこ
しづめばこ 5月21日 P300  、大峰正楓の小説部屋で再開しました。


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