大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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☆( 1年間366日分の日々の出来事  )

B,日々の恐怖

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C,奇妙小説

☆(  しづめばこ P574 )                          

日々の恐怖 6月30日 子供

2013-06-30 20:25:51 | B,日々の恐怖





     日々の恐怖 6月30日 子供





 去年の暮れのことだ。
池袋のとあるレストランで、会社の忘年会があった。
二次会は部署内で、三次会は仲間内での飲み会になった。
 家路につこうとする頃には終電も過ぎ、タクシーを使うことにした。
タクシー乗り場は例年のように長蛇の列。
私は連れと三人だったが、一人だけ帰路が違った。
彼らは乗合で乗車し、先に帰っていった。
 一時間も待ち、なかなかタクシーが来ない。
私は痺れを切らして、目白の方へ一人歩き出した。
線路に沿って歩いていたつもりが、細い路地に入り込んでしまった。
 雑司が谷らしい。
塀に沿って進むうち、その向こうは墓所であることが分かった。
ちょっと気味悪いなと感じながら足早に歩くと、突然私の脇を子供が通り過ぎた。
黄色いパジャマを着ていた。
この寒空に、などと感じる暇はなかった。
 その子供は、塀の中に吸い込まれるよう消えた。
私は声こそ出さなかったが、恐怖のあまり駆け出していた。
 ようやく広い通りに出て、運良くタクシーを拾うことができた。
運転手にちょっと話を振ると、年末は忙しくて幽霊なんか見る暇も無いとのこと。
私も笑い話につられて、さっきは目の錯覚だったかもと思い始めた。
 家に着く頃には、半信半疑、まあそんなこともあるか、くらいの余裕だった。
そしてタクシーから降りることになって、運転手から声をかけられた。

「 お客さん、忘れ物・・。」

振り返ると、ポケモンか何かのカードだった。
私が座っていた場所にあった。

「 違う、これは私のものじゃない。」

と言うと、運転手が不思議そうに言った。
お客さんを乗せる前には何も無かったと。












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日々の恐怖 6月29日 5時

2013-06-29 18:11:50 | B,日々の恐怖




    日々の恐怖 6月29日 5時




 大学のときに、同じゼミにAと言う男がいました。
Aはあまり口数の多いほうではなく、ゼミに出席しても周りとは必要なこと以外はあまり話さず、学内にも特に親しい友人はいない様子でした。
 ある日、そのAが話しかけてきました。
Aが話した内容は、「好きな人が出来たのだが、どうすればいいのか?」ということでした。
そんなことを、あまり親しくない上、どう見ても女性経験が少なそうな僕に話してくるのも不自然な気がして、からかっているのかと少し疑いましたが、彼の話ぶりは真剣で、とてもそのようには見えませんでした。
 話を聞いてみると、彼が好きな人と言っていた女性とは話したこともなく、道ですれ違うだけの仲なのだそうです。
女性経験の少ない僕でも、とりあえず話掛けてみないことには進展しない事はわかりますので、「話しかけてみたらどうか」と言うことを伝えました。
するとAは、「何を話せばいいか?」「話すタイミングがつかめない」等のことを質問し、それに対する僕の答えをメモしていました。
 次の週のゼミの時間に、Aは再び僕のところへ来て、「今日、話掛けてみる」と言いました。
僕は、Aが好きになった女性がどんな人なのか見てみたいと思いました。
そこでAに「話が途切れたら、僕が場を持たす」と言うと、喜んで一緒に行くことに同意してくれました。
 その女性は、いつも夕方5時ぐらいに決まった道を通るということでしたので、Aとその道で待つことにしました。
その道は住宅地を通っている一本道で、入って待つことが出来るような店もなく、僕とAは路上でボーっとその女性が来るのを待っていました。
 5時を少し回ったころでした、Aは「来た」とつぶやくと少し歩き、僕の話をメモした内容通りのことを話し始めました。
話は何とか繋がっているらしく、僕が場を持たす必要もなさそうでしたので、その場を離れることにしました。
 正確に言うと、早くその場を立ち去りたかったのです。
僕には、Aが話している相手が見えませんでした。
Aは、なにもない空間に向かって話しかけているようにしか見えなかったのです。
 その後もAは普通にゼミに出席してきました。
ただ、少し口数が多くなって明るくなった感じがしました。
他のゼミ生が彼に「彼女でもできたのか?」と聞くと、嬉しそうに「一緒に暮らしている」と答えていました。
「どんな娘?」と言う質問には、照れくさそうに「S(僕)が見たことある」と答えていました。
未だに僕は、Aにからかわれていたのかわからないでいます。
















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日々の恐怖 6月28日 メール

2013-06-28 18:57:51 | B,日々の恐怖




    日々の恐怖 6月28日 メール




 死者からメール貰ったことがあります。
大昔の話です。
 当時私はまだインターネットを知らず、パソコン通信をやってました。
気のあった者どうしが書き込むクローズドの掲示板みたいのがあって、そこで仲良くなった人たちとオフでも会ったりして、楽しく付き合っていました。
 そういう仲間の一人が突然亡くなりました。
最初に情報が入ったときには、タチの悪い冗談だと思ったのですが、ご家族の方と直に連絡を取ることができて、本当だということが分かりました。
突然の事故で、葬儀は内輪で済ませたとのことです。
 両親はまだパニック状態なので、焼香も遠慮して欲しいということでした。
私たちは、落ち着いた頃に仲間で偲ぶ会でもしよう、ということで、それぞれが悲しみをこらえました。
 数日後、亡くなったはずの彼からメールが届きました。

『 元気?俺は今、あの世にいるよ。
 ここも案外いいところだよ。だから当分帰らない。
 世話になったな。本当にありがとう。』

びっくりして他の仲間にも確認したところ、彼と親しくしていた人みんなにメールが送られていることが分かりました。
 もちろん、全員がすぐに気が付きました。
プロバイダがやっていた、希望する日にメールが送られるサービスを利用したものだと。
そしてそれは、彼が不慮の事故などではなく、自らの意志で死を選んだことを意味するものでした。
そうでなければ、死後のメールなど送れるわけないです。
 私はびっくりしたとか怒るとかよりも、むしろ悲しく虚しい気持ちになって、彼を許せない気持ちになって、そういう自分が嫌でだんだん仲間から遠ざかりました。
 そのうちインターネットをやるようになって、パソコン通信はしなくなりましたが、退会するまでには2年くらいかかりました。
それは、IDを残しておきたかったのです。
なんだか、また彼からメールが来るのではないかという気がして。
当然ながら、そんな事はありませんでしたが。















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日々の恐怖 6月27日 声

2013-06-27 20:48:48 | B,日々の恐怖




     日々の恐怖 6月27日 声




 かなり前の話になる。
ある日、俺は中高時代に友人だった男と二年ぶりに再会した。
そいつと俺が通っていた高校は、まあ平凡な進学校というのか、市内で五番目くらいのレベル、というと想像できるだろうか。
そんな高校の落ちこぼれグループに、俺とそいつはいた。
中途半端なヤンキーですらない、今思うと恥ずかしいツッパリみたいなものか。
 で、そいつは三年になってからがらっと人が変わった。
何があったのか知らないが、受験勉強に専念し始めた。
学校にいる間は、休み時間もずっと勉強していた。
俺らとの付き合いを一切断ち、傍から見ると呆れるくらい一心不乱に勉強した。
 成績も夏休み前くらいから急上昇し、ついに二学期は試験以外登校しなくなった。
そして、冬休み前の試験では、ついに学年トップになった。
教師も見てみぬ振りをした。
クラスからも完全に浮いて、机の上にはいつも花瓶がのっている有様だった。

 俺は密かにヤツに憧れていた。
ストイックを通り越して狂っているようにも見えたが、絶対に中途半端ではなかった。
そんなことができる人間に、俺は畏敬の念を持っていた。
 やがて受験シーズンが到来した。
俺は市内の無名私立大に何とか滑り込み、あいつは有名国立大に合格した。
学校でもウン十年ぶりの快挙だった。
 卒業してすぐ、みんな浮かれ騒ぎで夜の繁華街に繰り出す中、あいつは飲み会に一度も参加することなく、誰の賞賛も受ける気はないらしかった。

 それから二年の月日がたったある日、俺はバイト先の古本屋でヤツに再会した。
うだつのあがらない退屈な日々を過ごしていた俺は、時々ヤツのことを思い出していたのだが、その再会は思いもよらぬことだった。
 ヤツは深夜閉店間際に現れた。
一目でその異様さに気が付いたが、最初それがヤツだと分からなかった。
つるつる頭に銀縁めがね、白髪まじりの無精ひげ、がりがりに痩せこけていた。

「 すいません、もう閉店なんすけど・・・。」

俺は立ち読みに耽るヤツに声をかけた。
顔の肌はアトピーで荒れ、眉毛は無かった。
それでもかすかに面影があった。

「 もしかして○○?」

思わずそう訊ねると、ヤツはあらぬ方をきょろきょろ窺いながら、後ずさりするみたいに店を出て行った。
 ショックだった。
あれが本当にあいつなら、完全に気が触れていると思ったからだ。


 その夜、複雑な気分のままバイトを終え、原付の置いてある駐車場に向かった。
シートからヘルメットを取り出そうとすると、不意に背後から声を掛けられた。
ヤツは自動販売機の影に潜んでいたらしい。

「 俺のこと分かるのか?」

突然のことで驚いたが、俺はすぐに気を取り直して答えた。

「○○だろ?」
「本当にそう思うか?」

ああ、やっぱりこいつ頭がおかしくなってる。

「 中学からの付き合いだ、忘れるわけないだろ。」

俺は悲しくなってヤツの肩に手をかけた。

「 俺××だよ。
そっちこそ俺のこと忘れたのか?
それより、どうしてここにいるんだ?
向こうの大学に行ってたんじゃないのか?」

ヤツは何も答えず、頭を手でなでている。

「 立ち話もなんだ、どっかファミレスでも入るか?」
「 いや、人がいる所じゃ緊張してしゃべれない、誰もいない静かな場所がいい。」

ヤツはそれだけ言うと、自分の自転車にまたがった。
そして行く先も告げず、いきなり立ちこぎしながら走り出した。


 辿り着いた場所は、倉庫が立ち並ぶ埠頭だった。
ヤツは自転車を降りると、自動販売機でお茶を買った。
それから防波堤に腰掛け、ポケットから薬袋を取り出すと、幾つかの錠剤を飲んだ。
その間、会話は無かった。
 俺が隣に座り、二,三話し掛けるが、目を閉じてうつむいている。
成す術もなく真夜中の海を眺めていると、ヤツは急に切り出した。

「 俺はもうすぐ死ぬけど、これから話すことを信じて欲しいんだ。」
「 自殺する気か?」

驚いてそう言う俺の顔を、ヤツは初めて見つめた。

「 医者の馬鹿にはこう言った。」

ヤツは落ち着いて、至極まともに見えた。

「 俺は悪魔に魂を売った。
その返済が近づいてる。
返済を拒否してるから、俺は毎日責められてる。
どいつもこいつも同じ事を言う。
精神分裂病だとさ。」

 ヤツは取り留めの無い話を始めた。
それをまとめるとこういうことだった。

“ ある日、頭の中で声がした。
『俺の言うとおりにしろ。そうすれば、おまえの希望を叶えてやる。』
ヤツは最初その声を無視した。
その声は、ある時は歌いながら、またある時は怒鳴りながら、しつこくヤツに語りかけた。
ヤツはとうとう根負けして、その声に耳を貸した。
「会話が成立したんだよ。ここが分裂病と違うところだ。」
ヤツは声の主にその証拠を見せろと言ったらしい。
「あの体育教師が事故って死んだだろ。」
ヤツを目の敵にしていた教師が死んだと言うのだが、そんな事実は無かった。
「A子から告ってきたよ。」
学校でも美人で人気があった女の子が、ヤツに付き合ってくれと言ってきたそうだが、彼女は他の男とずっと付き合っていた。
俺がその事を否定すると、ヤツは自信ありげに答えた。
「新聞の切り抜きもあるし、A子からもらった手紙もあるんだ。」
おまえの妄想だと言うと、ヤツは笑いながらぼろぼろになった学生証を見せた。
「最初のうちはうまくいってた。受験勉強なんて睡眠学習だけだったしな。」
ヤツは声のアドバイスに従って、一日中寝ていたそうだ。
「でも一人暮らしを始めてから、おかしな事がずっと続くようになった。
見たことも無い景色を見て、会った事も無い人間のことを覚えていたりした。」
偽りの記憶と本当の記憶の狭間でヤツは混乱し、誰からも相手にされなくなったと言う。
さらに、偽りの記憶の方が鮮烈だったりして、ヤツの現実は圧倒されてしまったらしい。”

 ヤツは激しく混乱しているのは明らかだった。
話をしている最中も奇妙な仕草を取った。
突然額の上の部分を押さえて、また声が聞こえてきた、などとうめいた。
俺に耳を当てて聞いてくれと言うのでその通りにしたが、何も聞こえなかった。
 支離滅裂な話に数時間付き合わされたせいで、こちらもひどく消耗してしまった。

「 俺はお前のことを覚えていない。」

ヤツにそう言われて、かなり安堵したのは確かだ。
 こちらの手におえる話ではない。
係わり合いになるのも嫌だと感じ始めていた。

「 お前もすぐに俺のことを見失う。」

一瞬ヤツの表情が変わった。
はっきりと悪意を感じた。

「 こいつは俺のもんだ。」

背すじがぞっとした。
ヤツは甲高い笑い声を上げながら自転車にまたがった。
 俺はヤツを引きとめ、ヤツの正体を確かめようとした。
その時だった。

「 おいっ。」

背後から声を掛けられた。
振り向くと、何も無かった。
そこには暗く深い海が広がっているだけだった。


















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日々の恐怖 6月26日 写真

2013-06-26 18:07:37 | B,日々の恐怖




     日々の恐怖 6月26日 写真




 旅行雑誌の取材で日本海側の観光地に行ったときのことです。
市の観光課の人に案内されカメラマンと一緒に車で周り、取材が終わったのは21:00過ぎのことでした。
カメラマンは次の仕事があるためそのまま車で帰り、私は朝市取材のために現地のホテルに泊まりました。
 寝る前にその日の取材メモを整理していた時のことです。
案内された中に、海岸沿いの断崖絶壁がありました。
場所はとても綺麗な所でしたが、観光課から参考にいただいた写真を見ていて、ふと妙な感じがしました。
それで、メモの整理を終え、風呂に入り、歯を磨いたのは夜11時頃でしょうか。
その日の夜は、明日に備え早めに就寝しました。
 次の日の朝、起きて洗面所に行き、顔を洗い歯ブラシを見てギョッとしました。
歯ブラシに、長い髪の毛が数本巻きついているのです。
昨日の夜は、そんなものはありません。
 ギャッと叫んで歯ブラシを放り出すと、もうひとつの異変に気付きました。
洗面所の中が妙に磯臭いんです。
まるで海水をそこらにぶちまけたような臭いがプンプンと。
私はたまらなく怖くなって、急いで着替えるとバッグを持って部屋を出ました。
その件について苦情をホテルに言っても、形式的な対応しかされませんでした。
 その後、写真が気になったので、再度昨日の観光課の人のところに行って質問してみました。

「 この写真を撮った人は・・・?」
「 ああ、もう、退職してますけど・・・。」
「 海岸沿いのあそこと何か関連はありますか?」

観光課の人は一瞬目を丸くしました。
そして、やや間を置くと真顔になり、

「 どこで聞いたか知らないけど・・・。
ま、地元の人しか知らないんですけど・・。
あそこ、ポツポツとはあります・・、ね。
でも、まあ、あっても年に4人ぐらいで・・・・。」

いやいや、十分に多いだろうと思いつつも、もう話はウヤムヤにしました。


















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日々の恐怖 6月25日 迷宮

2013-06-25 18:05:57 | B,日々の恐怖




    日々の恐怖 6月25日 迷宮




 私は雑誌関係のライターをやっているものです。
なんとか食えてるという程度で、売れっ子というわけでもありません。
オカルト関係の仕事をやっていると、自分自身が奇妙な体験をすることもあります。

 東京のある大学病院に取材へ行った時のことです。
この仕事自体はオカルトとは関係なく、健康雑誌の仕事でした。
協力者の医師とは、小会議室で13:30からインタビューし14:30に終了。
医師と軽く雑談し、15:00に小会議室を出ました。
 この大学病院は山の斜面というか坂の途中に建っていて、旧館と新館に分かれています。
少々判りにくくて、坂の途中にあるので、階数が入れ違っているような感じです。
でも、まあ、来る時はすんなりと来られたのだから、帰る時もそんなに困りはしないだろう、と思っていました。
 しかし、どれぐらい歩いたでしょう。
いつまで経っても出口に辿り着きません。
車は旧館の駐車場に置いていたので、なんとか旧館の正面玄関に出たいのですが、どういうわけか行き着かないのです。
ふと時計を見ると、既に40分が経過していました。

“ おかしい。
いくらなんでも40分も歩き回るのはおかしい。”

 歩きながら考えていると、背後に気配がしました。
若い看護婦さんです。
空の車椅子を押しながら角を曲がっていきます。

“ もうこうなったら、新館でもなんでもいい。
とにかく外に出よう。
外にさえ出ればどうにかなる。”

そう思いながら、また歩き始めました。
 異変に気付いたのは17:00を過ぎてからです。
なぜか誰にも会わないということです。
 平日の昼間とはいえここは大病院です。
救急外来もあれば入院施設もあります。
なのに私は、さっきからほとんど誰とも会っていない。

“ そういえば、何人かの看護婦とすれ違ったような。
いや、違うぞ?
すれ違ってはいない、後ろを通っただけだ。
何人か?
いや、違う、違うぞ、あの看護婦は同一人物だ。
その証拠に、看護婦はいつも若く、毎回空の車椅子を押している。”

 次の瞬間、私はゾッとしました。
後ろに車椅子の気配を感じたからです。
 恐る恐る振り向くと、私の真後ろ1メートルほどに空の車椅子を押す若い看護婦が、そのまま私に向かってきたのです。
まったく無表情で、私を視界に入れていません。

“ ぶつかる!”

と思った次の瞬間、看護婦と車椅子は私をすり抜けて、角を曲がっていきました。
 私は驚いて廊下を走りました。
今までの順路とは逆の方向に、とにかく走りました。
 いつの間にか私は、取材場所だった小会議室の前に着きました。
ホッとした私は、小会議室のそばの非常階段で煙草を一服しました。
それから歩き始めると、スッと出口に到着したのです。
その時の時間は17:56でした。
なんとも言えぬ奇妙な体験でした。

 その日の夜、家に帰ると出版社から仕事の依頼と資料が届いていました。
その中に、ある女性漫画家の体験談がありました。
 京都の山でタクシーに乗っていたら、何度も何度も同じところをぐるぐる回って、いつまでも目的地に到着しない。
しかし、煙草を一服したら、その迷宮から脱出できたという。
また、その資料の中には、自分は煙草をすわないが、やばい雰囲気の時のために煙草を持ち歩いている、というのも。
煙草には、なにか特殊な力でもあるのでしょうか。


















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日々の恐怖 6月24日 印税

2013-06-24 17:59:22 | B,日々の恐怖






      日々の恐怖 6月24日 印税






 戦前に亡くなった私の祖父は小説家で、祖母と母は終戦後~母が結婚するまで20年余、その印税で生活していました。
 今はもう亡くなった祖母がよく聞かせてくれた話なのですが、印税入金の知らせが入る前日の夢に必ず祖父が登場するというのです。
もう面白いほど確実・正確に毎回登場するので、しまいには夢に祖父が出てきた時点で、“しめしめ、印税がはいるぞ!”と思うようになったとか。

 そんな祖母が病院で亡くなるちょっと前、寝返りが打てないので床ずれ防止に医療用エアマットを購入することになりました。
値段は約10万円とのこと。
 病院からその旨の電話を受け、承諾して電話を切った次の瞬間、待っていたかのように再び電話が鳴りました。
その電話はテレビ番組の制作会社からで、

“ 祖父の作品を扱った番組を作りたいが承諾してくれるか?
著作権は没後50年を過ぎているので支払えないが、謝礼はする。”

という内容だった。
 数週間後、病院から送られてきた請求書と制作会社から送られてきた振り込み通知を見て驚きました。
その数字が100円単位までぴったり同じ額だったんです。
















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日々の恐怖 6月23日 大阪

2013-06-23 18:58:57 | B,日々の恐怖







     日々の恐怖 6月23日 大阪







 十数年前の夏のことです。
それは雨の夜でした。
残業が酷く長引いて深夜になり、私は人通りのない帰り道を急いでいました。
 近道をしようと角を曲がり路地に入ると、年老いた風の男女二人連れが、ゆっくりとこちら側へ向かってきました。
お爺さんが銀色の自転車を押し、その後ろからお婆さんがお爺さんに傘を差しかけて、自分は少し濡れながら歩いています。
 譲り合ってようやく傘同士がすれ違えるような狭い路地なので、私は立ち止まって道を譲りました。
すると、お爺さんが、

「 ○○病院はどこかいな?」

と私に尋ねてきました。
 地元に長く住んでいる私でしたが、その名前の病院に心当たりがありませんでした。
困って後ろのお婆さんを見ると、片手を拝むように目の前にした後、私が歩いて来た方を指差し、もう一度拝むように頭を下げました。

“ ああ、このお爺さんはきっと少し呆けているんだな。
そういえば、着ているものもパジャマみたいだし・・・。”

そう思って私は、お婆さんの指差すまま、

「 あっちです。」

とお爺さんに告げました。

「 おおきにな、あっちやな。
ホンマに、オカンは何さらしとんのや。
オカンおらへんかったら、ワシ道全然分からへんがな。
ホンマおおきに・・・。」

ブツブツ言いながらお爺さんは歩き出し、お婆さんはまた私にお辞儀をしながら後に続きました。

“ きっと呆けてしまって、奥さんがついて来ている事にも気がつかないのだ。”

そう思った後、何となく可哀想に思えて振り返ってみると、路地の向こう少し先を歩いているお婆さんの後姿しかありませんでした。

「 エッ・・・!?」

私は凄く驚きました。
お爺さんも自転車も、どう目を凝らしても見えないのです。
 その路地は大きな工場の裏手で、どこにも隠れるところはありません。
また、自転車に乗って走り去るほどの時間は無かったと思います。
雨の夜とは言え、シルバーの自転車とネルっぽいパジャマだけを着たお爺さんを見失うわけなどありません。
 お婆さんは傘を何も無い空間に差しかけて、自分は肩を濡らしたままゆっくりと歩いていました。
その姿が路地の角を曲がって見えなくなるまで、私は茫然と立ち尽くしていました。

















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日々の恐怖 6月22日 雨

2013-06-22 18:38:31 | B,日々の恐怖






     日々の恐怖 6月22日 雨






 ある真夏の出来事だった。
その日は雲一つない晴天で、午前中からすでに30℃を超えていた。
蝉の声も忙しく聞こえ、道路の照り返しも眩しかった。
 私は休暇をとっていた。
午前中に用事を済ませ、昼頃にはひとり自宅に戻ってゴロゴロ昼寝を楽しんでいた。
 雑誌を読みながら横になっているうち、窓を開けたまま眠ってしまったのだろう。
目が覚めるとやけにゾクゾクするし、おまけに薄暗い。
もう夜になってしまったのかと時計を見ると、まだ午後2時過ぎだった。
 窓の外は真っ黒な雨雲がたちこめて、今にも雨が降りそうだ。
遠くで雷の音が聞こえ、夕立ちが来る前の冷たく強い風が吹きはじめていた。
 大きな雨粒はすぐに落ちてきた。
沸き立つようなザァッーという音と共に、庭の樹木はあっという間に水煙に霞んでしまった。
 そんな光景を寝ぼけ半分で眺めていると、不意にインターホンが鳴った。
居留守を決め込んで応答しないでいると、またピンポーンと鳴る。
それでも無視していると、またピンポーン。
あんまり催促されるので、渋々玄関を開けると誰もいない。
 悪戯かあるいは諦めて帰ったのか、深くも考えずに居間に戻って外を眺めていると、またインターホンが鳴った。
今度は大急ぎでドアを開ける。
だが、誰もいない。
そのまましばらく玄関で待っていたが、インターホンを押すヤツはいなかった。
 何だか不思議な気分で居間に戻り、テレビを観ようとソファに座った時だ。
まだ電源を入れていないテレビのブラウン管に、スッと横切る人影が映った。
テレビの黒いモニターが鏡の役割をして、ちょうど私の背後室内をぼんやり写していた。
 背後には開けっ放しのドアの向こうに廊下がある。
横切った人影は玄関の方から隣の和室に入ったようだった。
 家族が帰ってきたのかと思い、

「 おかえり!」

と大声で呼び掛けた。
しかし返答はない。
 もう一度、 

「 おかえりぃっ!」

と声を張り上げると、返事をするように隣の和室で、

“ チーン。”

と音がした。
仏壇の鐘が鳴ったのだ。
急いで和室に行くと誰もいなかった。
 そのとき自宅にいたのは私だけだ。
その後は、特に何も起こらなかったし、私の身に何か危険が及ぶことも無かった。
しかし、一連の出来事を思い出すと、今でも何故か恐怖を感じる。
















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日々の恐怖 6月21日 階段

2013-06-21 18:20:44 | B,日々の恐怖






   日々の恐怖 6月21日 階段






 昔住んでた家は、築30年くらいの普通の家だった。
小学校の頃、2階で遊んでいると階段から音がした。

“ パタッパタッ・・、トン・トン。”

 当時1歳ちょっとの妹は、まず手を付いてそれからトン・トンとゆっくり階段を上るのだけれど、まさしくその音だったから、てっきり妹が一人で上ってきたんだと思っていた。

“ パタッパタッ・・トン・トン、パタッパタッ・・トン・トン。”

だんだん音が近づいてきて、ついに上りきった。
 このまま、ふすまを開けて入ってくる、と思ってたのに来ない。
しばらく待っていたけど来ないので、階段を見に行ったら誰もいなかった。
うそぉ~、って思って、1階に行ったら妹は寝ていた。
 母親に聞いたら、ずっと寝ていたって言われた。
じゃ、あの音はなんだったんだろう?って、今でも不思議に思っている。













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日々の恐怖 6月20日 マブイ

2013-06-20 19:27:01 | B,日々の恐怖






     日々の恐怖 6月20日 マブイ





 昨日の続きです。
落し物はマブイかな・・・。


 実際にマブイを落とした沖縄県民です。
子供の頃、自転車に乗ってて安全確認せず車道横断しようとして見事車と衝突。
ドアにぶつかったためか、自転車のハンドルが少し曲がったのと腕に鈍痛覚える程度だったので、顔面蒼白な運転手に大丈夫と言い残し、その場を逃げるように去った。

 その数ヶ月後、朝起きるとまともに歩けない。
足に力が入らない。
病院に行くとかっけとの診断。
 検査を受けるとなぜか心臓に異常(雑音がするとかなんとか)が見つかり即入院。
入院中に母親がなぜかユタを呼んだ。
ユタに視て貰うと、病気の原因は俺が事故に遭ったときマブイを落としたせいだと言う。
子供だったから素直に信じた。
で、その場でマブイを戻すまじないをして貰った。

 マブイを落とした自覚も戻った自覚も何もない。
今となっては眉唾モンだな後は思う。
 ところで、そのユタに視て貰った日に俺は腹痛に襲われていた。
入院中で早く家に帰りたかった俺は、医者にも親にもその痛みを訴えることはなかった。
病院だし、絶対なんらかの検査受けることは分かってたから。
検査は大嫌いだったし、もし病気が悪化してたら入院が長引くことになりかねないので黙ってた。
 でも、俺を視たユタは、

「 今凄いおなか痛いでしょう?えぐられるような感じだね。」

と痛みの感覚まで当てた。
これにはすげえ驚いた。
マブイ落としたら体が弱くなる、みたいな事らしい。







  マブイ(沖縄中南部の方言)



霊、霊魂
魂という漢字をあてる人もいる。
生霊(イチマブイ): 意識、今自分にある魂・後天的。
死霊(シニマブイ): 無意識の部分のこと・先天的、代々。
びっくりした時にマブイが体から飛び出すことがある。
飛び出したときは「マブヤァ、マブヤァ」といって手ですくい拾い上げて懐に戻す。
事故ってマブイを落としたら、命に別状がなくても現場に戻ってマブイを拾いに行く。
石を投げる場合もある。
これは、悪霊がマブイを食べに来ているのを追い払うためである。













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日々の恐怖 6月19日 落し物

2013-06-19 18:50:41 | B,日々の恐怖






     日々の恐怖 6月19日 落し物






 私は注意力散漫なのかよく財布携帯置き忘れたり、手袋とか鍵とか落としてしまいます。
それで、歩きながらとかで落としたら後ろの人が、落ちましたよとか声かけてくれるんです。
よく落とすといっても、半年に一回とかですけど。

 それで、昨日の話なんですが仕事帰り、地下鉄梅田から阪急梅田に乗り換えのために移動してたんです。
百貨店越えて、空港にあるような歩くエスカレーターみたいなところの横を歩いていたとき、

「 落ちたで。」

の声に振り向きました。
 すると、ベージュっぽいコートのおばさんが私の目を一瞥した後、何か拾う動作をして私に差し出しました。
ポケットに入れていた手袋かなと思いました。
けれど差し出したおばちゃんの右手には何もありません。
 私は、

「 すんません、ありがとうございます。」

と両手で水を掬ったときの感じでおばさんの前に差し出し、その見えないなにかを置いてもらえるように誘導しました。
 重さも感触も何もなかったです。
おばさんはなんかいいことした的な顔で去っていきました。
ちなみに、これたぶん3回目です。

 一回目の時は高校の通学で、環状線使ってたんですがそこの車両内を出口に近いほうに移動してたらリーマン風のお兄さんが、

「 落ちたよー。」

って、振り返ってみてもなんもないんです。
 訳が分からず、お兄さんの目線追ったけどなんもなかったので、なんかイケズされてるんかと思って駅着いたから無視して降りたのが一回目です。
その時はなんも意識してなかったです。

 2回目は働き始めた頃通勤で使ってた阪急の最寄り駅でのホームです。
喫煙所があったんですけど、そこで正面にいたおっちゃんに、

「 落としたで。」

その時はタバコ吸い終わって、さあ並ぼかなって感じで歩いてたわけじゃないんですけど、私が落としたソレはおっちゃんの近くに落ちたみたいで、拾った動作して手渡されたんですけど、まあなんも見えない。
 朝から変なんに絡まれて最悪や、とか思って無視して行こうとしたら、おっちゃんタバコ消してついてきて声掛けてくる。

「 自分のんちゃうんか?」

って、めちゃしつこいから、

「 知らん!」

って言ったら、おっちゃん困った顔して離れていった。
 頭痛い人なんかなとか考えてたけど、喋り方も普通やったし何よりもほんまに困った顔してたから気になってた。

 それで、3回目に至る。
これ私が頭おかしいんか?
拾った人たちが見える人なんか?
それとも拾った人達が3人ともおかしいんか?
私は何を落としてるんやろ?
 共通点をあげれば、駅関係ってとこだけです。
3回目はさすがに気色悪いです。
何か知ってる方いませんかね。



 なんでその人らに、何を拾ったのか聞かなかったのかと言うと、落ちましたよって手渡される動作されて、

「 何もないのに、なんですか?」

なんて咄嗟に聞けなかった。
 こっちからしたら、“はあ・・・?”って感じだし、向こうの対応がまともだったから、こっちから自分が変だと思われること言えなかった。
今度、もしあったら聞いてみようと思う。
 なんて言えばいいものか、

「 これなんですか?」
「 何が落ちてますか?」

とかでいいのかな?
変な人に思われそうで怖いけど。










    ( 明日に続く。)







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日々の恐怖 6月18日 宇宙人

2013-06-18 18:12:18 | B,日々の恐怖





    日々の恐怖 6月18日 宇宙人





 俺が小学校低学年の頃に、近所に不思議なおじさんが住んでた。
その、おじさんの名前は、Tさん。
Tさんは謎の機械(ガラクタ?)を発明する、自称発明家。

一度開くと10分以内に自動的に閉じてしまう傘。
殺虫剤をより広範囲に噴射するノズル。
レトルトカレーの袋を自動的に開けてくれるマシーン。

とか、役に立つんだか、よく分からん微妙な物を色々作ってた。
 粗大ゴミ回収の日とかは、ゴミの中から使えそうな物を持って帰る。
近所の奥様方からは、ちょっと嫌われ者だった。
 でも、Tさんは子供たちには人気者だった。
謎の機械を見せられて、その仕組みを教えてくれる。
ちょっと変だけど、面白いオジサンって感じ。

 しかし、実はTさんには、すごい秘密があったことを俺たちは知っている。
その日、小学校が終わって、仲良し3人組だった俺たちは、Tさんの家に走ってた。
なぜなら、前日に、

「 君たちにオジサンの秘密を教えてあげよう。」

って言われてたからだ。
 使えるかどうかは二の次で、スゴイ物を発明するTさん。
一体、オジサンの秘密とは一体なんなのか。
期待半分、ガッカリに備えた気持ち半分。
 Tさんの家の前に着いた俺たちは、焦る気持ちも露わに呼び鈴を押す。
玄関の向こうから足音が聞こえて、ガラガラガラと引き戸が開く。

「 よく来たね、約束通りオジサンの秘密を見せてあげよう。」

そんな感じのことを言われて、いつも通り居間に通された。
 ごく普通の部屋、いつも発明した機械を見せてもらっている一室は、相変わらず雑然としている。
すると、Tさんはおもむろに押し入れの引き戸を開けた。
 そこに広がっていた光景は、押し入れの中じゃなかった。
透明のカプセルみたいな膜で包まれたような、ツルツルとした空間だった。
膜の向こうには無数の星のような光が散らばっていて、まるで宇宙のような場所だった。
 なんだ、この部屋って感じで、空間に入った俺たちは、膜にペタペタ触っていた。
プラスティックみたいな質感で、コンコンってやるとグニャッとへこんだ。
しばらくワイワイやってると、背後からTさんがやって来て、

「 オジサンは、明日には宇宙に戻らないといけないんだよ。」

というようなことを言われた。

「 なんで?」
「 どうして宇宙に戻るの?」

とか聞きながら、俺たちは大興奮。

「 オジサンの役目が終わったからだよ。」

という感じの返事だったけど、もっと難しいことを言ってたような気もする。
 その話より、当時の俺たちは不思議な空間に夢中だった。
すると、Tさんは透明な床から生えている、透き通ったタケノコみたいな棒のような物を指さした。

「 これに乗って帰るんだよ。」

すると、タケノコの先端からジィィィという鈍い音が聞こえてきた。

「 こうやって、少しずつ帰って行くんだよ。」

そんなニュアンスのことを言ったTさんは、何だかちょっと寂しそうだった。

「 この話しは秘密だよ。」

と口止めされて、俺たちは各自の家に戻った。
 あの空間は一体なんだったのか。
そして、タケノコみたいなのから出たビームで、どうやってTさんは宇宙に帰るのか。
明日、Tさんの所に行って、それを聞いてみよう。
そんなことを思いながら、眠りについた。

 翌朝、学校に行って昨日の出来事を仲良し3人組で話しあって、今日もTさんの所に行こう、ということになった。
学校が終わり、駆け足でTさんの家に行くと、何やら騒然としている。
何事だろうかと家に近づくと、白いちょうちんが掛けられていた。
 何となく、家に入れる雰囲気ではなかったから、今日のところはここで解散。
家に戻って、Tさんが亡くなったことを聞かされた。


 あれから、20数年の時が流れ、俺は思う。
もしかしたら、Tさんは本当に宇宙に帰ったんじゃないか。
星空を見上げる度に、あの宇宙のどこかを旅しているかも知れないTさんを想像する。
一体、Tさんは何者だったのだろう。
ただの、ちょっとオカシイおじさんだったのか。
それとも、何らかの理由で宇宙からやって来ていた旅行者だったのか。

嘘とか、記憶の改ざんだと思われても構わない。
俺も、自分の記憶に眉唾なんだから。

ただ、仲良し3人組と居酒屋で盃を交わす度に、その話が話題に上る。
Tさんは、やっぱり宇宙人だったんだろな・・・。
Tさん、秘密を言っちゃってゴメンよ。

















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日々の恐怖 6月17日 おっさん

2013-06-17 17:49:02 | B,日々の恐怖





     日々の恐怖 6月17日 おっさん





 俺の住んでるマンションは比較的新しいマンションで、防犯も結構気を使っている。
エレベーターは外扉と箱の内扉にガラス窓が付いていて外からも中が見えるようになってる。
だから部屋から出て下からエレベーターの箱が上がってくると上部の機械が見える。
 見えるといっても、ここのエレベーターは比較的速いタイプなので見えるのはほんの一瞬。
多分、1秒も無いくらい。

 ある日(半年以上前)、エレベーターに乗ろうと下から箱が上がってくるのを待っていた。
そして箱の上部が見えた時、そこに身長40cmくらいの小さな人のようなものが座っていた。
頭が大きくて4頭身くらいに見えた。 
ちょうど0歳児くらいの大きさ。
 見えたのは1秒弱くらいの一瞬だったので詳細は分からなかったが、確かに見えた。
自分から見て正面に正対する形で座ってなくて向かって左を向いていた。
でも直感的に「おっさん」だとおもったのでそんな感じの横顔だったように思う。
 その時は目の錯覚かと思って乗り込んだ。
特に何事も無く1階へ降りれた。
その日以降、意識的に箱が上がってくる時に箱の上部の部分を見ているが、小さなおっさんが座っていたあたりには何かの機械の箱があるだけで特に何も無し。(この機械の箱の上に座っていたと記憶している。)
 箱の向かって右側にはワイヤーが通った滑車があるが、位置的に小さなおっさんを見た場所とは明らかに異なるので、滑車の円形を人の頭に見間違えたという可能性も考えられない。
あれはなんだったのか?
未だに謎だ。

 後日談と言うほどではないが、ちょっと気になる現象もあった。
前述したが、マンションの防犯対策は結構しっかりしており、その一環として各エレベーターの1階には外側にモニターが設置されており、箱の中の様子(奥から扉側を映す角度)が見れるようになっている。
 小さなおっさんを見てから1ヶ月くらい経ったある日、帰宅しエレベーターに乗ろうとした。
ボタンを押そうとしたした時、エレベーターが上へ動いているのに気が付いた。
ちょうど6階に止まるところだった。
 何気なく箱の中の様子を映したモニターを見ていたが、6階に止まったのに扉が開かない。
動いている時は箱の中に誰も居なかったので、6階の住人が乗り込むものと思っていた。
ところがエレベーターは止まったのに扉が開かない。
少しの間様子を見たが誰も乗り込んでこない。
 このマンションのエレベーターは止まった階に停止したままになるタイプなので、誰かが操作しない限り階を移動することは無いはず。
 その時にエレベーターが動いていたのは間違いない。
モニターと押しボタンの間に箱の動きを矢印で表す表示と階数を示すパネルが付いている。
エレベーターが上昇しているときは上へ向かって矢印が動き、停止すると矢印が消える。
 俺がエレベーターの前に来たときは間違いなく矢印が上へ流れていたし、モニターでも扉の窓の様子から上へ動いているのも見てとれた。
なのに箱が停止しても扉も開かず、誰も乗り込んでこない。
 なんだろう?と思いつつ、もう1度押しボタンを押してエレベーターを1階へ呼ぶ。
その時も何事もなく、自分のフロアへ着いた。
よく分からないエレベーターだ。


 そして、先日のことだった。
ちょっとコンビニに行こうと思ってエレベーターの前へ行った。
エレベーターの前には誰も居ないし、居た様子も全く無い。
押しボタンを押そうと思ったら、ちょうどエレベーターの箱が上がってきたのが見えた。
 このマンションは10階建てで、俺は10階に住んでいる。
だからエレベーターが上がってくるという事はこの10階に停止する以外は無い。
誰か同じ階の住人が上がってきたのだろうと思ったので特に押しボタンも押さずに到着を待った。
 が、直ぐに違和感に気付いた。
前述しているがここのエレベーターは比較的動きが速い。
ところが明らかに動きがいつもより遅いかった。
いつもの半分もスピードが出ていないように思った。
 そして箱が自分のフロアである10階に到着した。
箱の中は無人 誰も乗っていなかった。
そして扉も開かない。
 俺はナイスタイミングで箱が上がってきたと思っていたので押しボタンは押していない。
10階のエレベーター付近、廊下にはどこにも人が出入りした気配は無かった。
俺も含めて、誰もエレベーターの操作はしていなかった。
 誰かが階下で降りて無人になった箱が上がってきたのかとも思ったが、もし10階のボタンが押されていたなら人の出入りの為に扉は開くはず。
なーんか、変なエレベーターだなーと思いつつも乗り込んだ。
今回も何事もなく使えた。
んー なんだろ、これ?
ちょっとこのマンションのエレベーターが気になってきた。















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日々の恐怖 6月16日 狸

2013-06-16 19:13:01 | B,日々の恐怖






     日々の恐怖 6月16日 狸





 Hさんが仕事中に体験した話です。
仕事は列車の運転士をしています。
 その日は大雨の中、最終列車の乗務をしていて駅に停車中でした。
やがて出発時刻となり、信号が青に変わった瞬間信号が消灯してしまいました。
 おいおいこのタイミングで球切れかよと思いながら、無線で指令に連絡しました。
こういう場合、赤信号とみなすという決まりなのでしばらくその駅で足止めになりました。
 指令から指導通信式(赤信号で列車を出発させるやり方)で列車を出す準備をすると言われましたが、お客さんが2人とも家族に迎えに来てもらうと告げに来たのでその方法は取らず復旧まで待つことになりました。
 1時間後信号は復旧し、回送として終点を目指し運転を再開しました。
原因は信号ケーブルを動物に噛まれたからでした。
おそらく狸と思われます。
 しばらく走り、峠の急勾配を登りきったところで駅の灯りが見えてきたのと同時に、ホームに人影がみえました。
まさか、最終に乗ろうとしてた客だろうかと思いましたが、この駅から最終に乗る人なんていまだ見たことがありません。
 だんだんホームに近づくと、その人影は線路に身を投げました。
言葉も出ず非常ブレーキを掛け、ただひたすら止まるのを願いました。
ホームを少しハミ出たところで列車は停止しました。
完全に轢いてしまったと思いましたが、衝撃が全くありませんでした。
 台車回りを確認していると3匹の動物(たぶん狸)が線路と台車との隙間から出てきて走り去って行きました。
その姿を目で追っていると、ヘッドライトに照らされた進行方向の線路が少々歪んでいるのが見えました。
 ん?、と思い近づいてみると、バラストと枕木が流出していました。
大雨で山からの水に耐えきれなかったのだろうと思います。
 もしあのまま走っていたら確実に脱線していたことでしょう。
もしかしたら狸がなんとかして列車を止めようとしてくれたんじゃないかと思っています。
ちなみに人影はもわーとした感じで背格好は人間って感じです。

















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