大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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A,日々の出来事

☆( 1年間366日分の日々の出来事  )

B,日々の恐怖

☆( 日々の恐怖 )

C,奇妙小説

☆(  しづめばこ P574 )                          

霧の狐道137

2008-10-30 18:10:53 | E,霧の狐道
 俺が、向こうのベッドを見詰めているのを見て、看護婦さんが俺に尋ねた。

「 どうしたの?」
「 そこに、足が・・。」
「 え、ここ?」

看護婦さんは、向こうのベッドを見ながら言った。

「 誰もいないわよ、もとから・・。」
「 でも、看護婦さんが様子を見に来たよ。」
「 えっ・・・、看護婦は二人だけど、もう一つある処置室で救急の世話を
 しているから、誰もこの部屋には来ていないわ。
 ズッと一緒だったからね。」
「 でも、ナースキャップ無しで、髪が肩まであって、赤い口紅・・。」

そこまで言った時、看護婦さんの表情が、サッと変わったのが俺には分かった。

「 いや、そんな人もいたかな・・。」
「 ベッドにも、人が・・・・。」
「 いないわよ。
 ベッドに横になってたから、寝てしまっていたんじゃない。
 鎮痛剤の影響で眠くなるから・・・。
 夢でも見ていたのよ。」

そう言いながら、看護婦さんは処置室を出ようとしたので、俺は言った。

「 えっと、車椅子で待合室で親が来るのを待ちたいんですけど・・。」
「 あ、それじゃ、そうしましょ。」

看護婦さんは、俺の方を振り向いて、いやにあっさり承諾した。

“ さっきの話、都合が悪いのだな・・・・。”



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Photo Lounge68 ドア

2008-10-29 19:55:32 |      Photo群

Photo Lounge68 ドア 画像


   Photo Lounge68 ドア

  「 ちょっとミスったけど、イス置いとこ・・・。」
   


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霧の狐道136

2008-10-28 18:22:03 | E,霧の狐道
 隣の部屋の騒がしさは、もう収まって静かになっていた。
少し間を置いて、俺の相手をしていた中年の看護婦さんが部屋に入って来た。

“ 親が病院に来たのかな・・・?
 ちょっと、早い気がするけど・・・。”

俺はベッドの横まで来た看護婦さんを見上げて言った。

「 親が来たんですか?」

看護婦さんは、俺の顔を見て答えた。

「 いえ、まだ来てないわ。」
「 そうですか。」
「 連絡よ。
 病室が決まったわ。
 入院になるから、病室を手配してたの。
 2号棟の4階の中部屋よ。」

そして、辺りを見回して言った。

「 あ、ちょっと暗いね。
 カーテン邪魔かな。」

看護婦さんは、カーテンに手を掛けた。
俺は、その時、隣に人がいるからカーテンを引くのは、マズイいんじゃないかなと一瞬思って言った。

「 あっ、でも、人が・・・。」

看護婦さんは、俺の声が聞こえなかったのか、ザ~ッとカーテンを引いた。
そして、俺を見ながらニコニコして言った。

「 ほら、明るくなった!」
「 でも・・・。」

俺は、取り払われたカーテンの向こうにあるベッドを見た。

「 えっ、いない・・・!?」

白いベッドには、誰もいなかった。
天井の蛍光灯が、ベッドの上を冷たく照らしていた。



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霧の狐道135

2008-10-26 20:16:28 | E,霧の狐道
足は薄汚れて土色をしていた。

“ やっぱり、先客がいたんだ。
 寝てるんだろうな・・、動かないし・・・。”

俺は、隣のベッドの下を見た。

“ スリッパとか、置いてないな・・。
 あの男の人は、裸足でベッドまで行ったのか?”

俺はしばらく汚い足を見ていた。
足はピクリとも動かない。

“ 疲れて熟睡してるんだ。”

 俺はカーテンを見た。
いつの間にかカーテンの揺れは止まっている。

“ カーテン、揺れてないな・・・。
 看護婦さんが行って直ぐに寝てしまったのか・・・。
 ちょっと前までカーテンは揺れていたけど・・。
 ずっと前から熟睡してたら、ジッとしているからカーテンは揺れないよな・・。
 さっきまで起きて動いていた・・・?
 動き回っているような気配もなかったけど・・・。
 それに、声を掛けたけど、返事が無かったよな・・・。
 音もしてなかったし・・・。
 無口な人とか・・・。
 でも、確かに揺れてたな・・・。
 変だな・・。
 ・・・・・・・・・。
 ・・・・・・・・・。
 でも、まあ、いいか・・・。”

 俺は疑問は残ったけれど、人がいることが確認できたので、一応、納得することにした。
見ていても、足は動きそうもない。

“ 見るのや~めた!”

足を見飽きた俺は、ベッドで上を向いて眼を瞑った。



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霧の狐道134

2008-10-24 19:36:27 | E,霧の狐道
 看護婦さんの横顔が見えるか見えないかの一瞬で、看護婦さんはカーテンの向こうに隠れた。

“ ナースキャップは被ってなかったな・・。”

普通、看護婦さんは髪を短くまとめてナースキャップを被っている。
それが俺の看護婦さんのイメージだった。
でも、その看護婦さんはナースキャップも無しで、髪を肩まで下ろしていた。
そして、下ろした髪で半分隠れていた横顔の僅かに見えた唇にドギツイ赤の口紅をつけていた。

“ 派手な赤・・・。”

カーテンの陰に、髪が少し揺れて鮮明な赤がサッと隠れたのだ。
間仕切りのカーテンが揺れている。

“ あ・・、やっぱり向こうのベッドに誰かいるんだ。
 返事が無かったのは、寝ていたからかな・・。”

看護婦さんは、サッサッと何か処置をして、風のように処置室から去って行った。
 看護婦さんが去って行ったとき、カーテンに触れたようで、手前にカーテンが少し引っ張れて移動し、隣のベッドの奥の端の方が見えた。

“ あ、男がいる。”

そこには、男の左の足先が見えた。

“ 汚い足・・・。”



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霧の狐道133

2008-10-22 19:26:13 | E,霧の狐道
 俺は、向こうのベッドには人がいないと今まで思い込んでいた。
でも、実際は、右のベッドはカーテンに囲まれていて、中を一度も見たことが無い。

“ 誰もいないんだったら、カーテンを閉めておく必要は無いし・・・。
 普通は、開けて置くよな・・。
 このベッドは、空だったしカーテンが開いていたもんな。
 救急の先客がいて、俺よりも前に寝かされているのかも・・・。”

俺は、微かに波打っているカーテンを見ながら思った。

“ ちょっと、声を掛けてみようかな・・・。
 ・・・・・・・・。
 どうしようかな・・・・。
 ・・・・・・・・。
 まあ、声ぐらい掛けても、いいよな・・・・。”

俺は、恐る恐るカーテンの向こうに聞いてみた。

「 誰か・・・、いる?」

俺はカーテンの向こうの様子を窺った。

“ ・・・・・・・・・・・・・・・・。”

カーテンは、まだ微かに波打っている。

“ ・・・・・・・・・・。”

でも、返事は無い。
 俺は動いて行くことが出来ないので、仕方なくベッドに横になったまま、カーテンの下に眼をやった。
隣のベッドの足がカーテンの下から覗いている。

“ カーテンを下からそ~っと捲れないかな・・・・。”

俺はカーテンに手を伸ばした。

“ 届かないぞ、くそっ!!”

ベッドとカーテンは少し離れている
俺の手はカーテンに届かない。

“ ちょっと、距離があるな・・・・。”

 俺は、ベッドでの体勢をカーテンの方にずらそうとした。
そのとき、隣の部屋と処置室の間の扉が開く音がした。

“ ガタッ。”

 看護婦さんが処置室に入って来た気配がする。
俺は慌てて手を引っ込めた。
そして、眼だけで右上をチラッと見た。

“ あ、違う人か・・。”

俺の相手をしてくれた中年の看護婦さんではない。
もう少し若い感じの看護婦さんだ。



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霧の狐道132

2008-10-20 19:01:47 | E,霧の狐道
 俺は、しばらくは何の疑問も無く、退屈しながらそれを見ていた。

“ 隣の部屋との扉は開いているから、人の動きや通路からの空気の流れ
 で動いているのだろうな・・・。”

そして・・・・、フッと思った。

“ どうして、波が奥から手前にやって来るんだろう・・・?
 風が吹いて来るとすると、寝ている俺の頭の上にある隣の部屋からだ
 し・・・。
 手前から奥へ・・・・、だな。
 奥は壁だし、風は吹き出して来ないよな。
 えっと・・・・・。”

俺は、天井や壁の上の方に換気扇や換気の窓が無いか、眼をグルグル回して見た。
特にそれらしいものは見えない。

“ う~ん・・・・・。
 風が、隣の部屋から扉の隙間を通って、天井に上がって、天井を伝わっ
 て、奥の壁の所でクルッと回って降りて来て、奥から・・・・・・。”

俺は、考えたルートを眼で辿ってみて思った。

“ ・・・って無いよな。
 なんか、変だな・・・・。
 それに、隣の部屋の看護婦さんの移動だけで、空気が動いて、カーテン
 って揺れるものかな・・・・?”

 看護婦さんは、扉の向こうで動いているし、扉の少しの隙間でチラチラ見えるだけだ。
通路と処置室の扉はピッタリ閉めてあったことは、さきほど見ている。
だから、空気の流れは、この処置室と隣の部屋との扉のあの隙間だけだ。

“ 隙間って、少ししか開いてないよな・・・。
 そんなに、ス~ス~する感じも無いし・・・。
 じゃ・・、どうして右にあるカーテンの壁が揺れているのか・・・?”

俺は、初めてカーテンの向こうのベッドが気になり出した。

“ 向こうのベッドに、誰かいるのかも知れない・・・。”



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Photo Lounge67 カンガルー 

2008-10-19 19:05:42 |      Photo群

Photo Lounge67 カンガルー 画像


Photo Lounge67 カンガルー

    「 えっと・・・・・?」
   


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霧の狐道131

2008-10-18 19:00:49 | E,霧の狐道
 しばらくして、救急車のサイレンと共に隣の部屋のもう一つ向こうにある処置室が騒がしくなった。

“ 誰かが運ばれて来たんだ。”

俺は寝ている体の位置を左斜めにずらせ、首を回して右上を見た。
こうすれば、少しだけれど、隣の部屋の様子が扉の隙間や扉に嵌め込んであるガラス窓から見える。
 俺は、ベッドで横になったまま首を回し、眼を右上に無理矢理向けて、看護婦さんの慌しい動きを見ていた。
看護婦さんは、隣の部屋を、何回も行ったり来たりしている。
でも、しばらくすると、首を捻った不自然な姿勢が苦しくなってきた。

“ イテテテテテ・・・・・・。
 首を捻っていると、筋がおかしくなりそう。
 それに、眼も右上を向いたままで、もとに戻らなくなりそうだし・・・。”

 俺は、首をもとに戻し、視線を右上から正面に戻した。
仰向けになって、天井が見える。

“ ううう・・、不自然な格好だったから、首の筋が少し引っ張れているぞ。”

 俺は引っ張れが治って来るまで、仰向けの格好で、じっと天井を見ていた。
眼の右端の方には、隣のベッドとの間仕切りのカーテンが壁を作っている。
看護婦さんの行き帰りで空気が流れ、間仕切りカーテンが少し揺れている。

“ 揺れてるな・・・。”

 俺は横目でカーテンを見た。
ひだのあるカーテンが微妙に波打って、波が足元から頭の方に移動して行く。

“ 水面の波と同じように波が移動してる・・・・。”



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霧の狐道130

2008-10-16 19:16:15 | E,霧の狐道
 俺は処置室のベッドに横になって、親が来るのをひたすら待つことになった。
ベッドに横になっているだけで、特に何もすることがない。

“ 薬品の匂いだな。”

病院特有の消毒薬の臭いがする。
薬品の並んだガラスケースや壁に貼ってある医療関係のポスターは、何回見ても同じで、俺は段々退屈してきた。

“ 退屈だな・・・・。”

そして、しばらくして、処置室の明るさに違和感を感じ始めた。

“ ちょっと暗いかな・・。”

 処置室に入ったときは明るく感じたのに、眼が慣れたのか少し暗く感じる。
それに、眼が重い。

“ 痛み止めの薬の影響か・・・、疲れのためかな・・。
 まあ、今日は、色々と酷い眼にあったし・・・・。”

 俺は、天井の蛍光灯を見た。
蛍光灯の白い光が天井や壁に反射して明るい筈なのに、そうも思えない。
明かりに霞が掛かって、蛍光灯の周りに弱い光の枠が出来ている。

“ 蛍光灯、霞んでいるな・・・。”

 俺は、少し開いている隣の部屋への扉の方を見た。
俺がいるので、隣の部屋から看護婦さんが中の様子を覗けるように少し開いてあるのだろう。

“ 待合室の方が明るいかな・・・。”

 俺は、することが無いので、処置室をもう一度ゆっくり見回した。
処置室には、通路からの出入り口、隣の部屋への小ぶりの扉、薬品の棚、机に椅子、ベッド、それから部屋全体は白っぽい。
 俺は左側のベッドで足を奥にして寝転んでいる。
このベッドの頭側のカーテンは開けられ、左の壁側に束ねられている。
隣のベッドは間仕切りのカーテンで見えない。
でも、ベッドに横になると間仕切りのカーテンの下から、向こうのベッドの足の下の方が見える。
隣のベッドには誰もいないので、カーテンの向こうは静かだった。



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霧の狐道129

2008-10-14 19:14:30 | E,霧の狐道
 俺は家に電話をして事情を話した。
電話に出た母親からは川に落ちたことをバカにされ、さらに病院が遠いとブツブツ文句を言われたが、まあ、仕方が無いので、取り敢えず急いで行くと言うことだった。
 俺は受話器を置いて、横で話を聞いていた看護婦さんに言った。

「 直ぐに親が来ます。」
「 分かったわ。
 でも、隣町だから、ちょっと時間が掛かるわね。
 じゃ、電話をもとに戻して・・・・。」

看護婦さんは、電話を隣の部屋に持って行った。
そして、隣の部屋で他の看護婦さんと一言二言話をして、直ぐに処置室に戻って来た。
 椅子に座って見上げている俺に、看護婦さんは処置室の奥にあるベッドをチラッと見て言った。

「 ご両親が来られるまで、あそこのベッドに横になって休んでいたらいいわ。」

 俺は処置室の奥を見た。
処置室の奥には、右と左に平行して、縦にベッドが二つ並べてある。
左右のベッドの間にはカーテンが引かれていて目隠しになっており、右側のベッドは手前もカーテンが引かれているので直接ベッドは見えない。
でも、左側のベッドは手前のカーテンが開かれていて空いていた。
 看護婦さんが、左側のベッドを指差して言った。

「 左側のベッドよ。
 ご両親が来られたら、救急の受付から連絡が来るから。」

俺はベッドを見て、座っているよりベッドの方が楽だと思った。

「 そうします。」
「 じゃ、ちょっとの距離だけど、歩くのはきつそうだから、車椅子で移動。」
「 はい。」

 看護婦さんは車椅子で俺を左側のベッドの横まで運んだ。
そして、俺は看護婦さんに介助されながら、足側をベッドの奥にしてゴロンと横になった。

「 じゃ、私、詰め所に戻るからね。」
「 はい。」

看護婦さんは処置室から出て行った。
俺は白い処置室に一人取り残された。



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霧の狐道128

2008-10-12 17:32:02 | E,霧の狐道
 俺は疑問に思って、コードを引き摺りながら電話を持って戻って来た看護婦さんに聞いた。

「 あの~、連れて来て貰ったのは、爺さん婆さんの二人だけど・・・。」
「 あらっ、違うわ。
 三人よ。
 小さい女の子が一人、ついて来ていたわ。
 お孫さんよね。」
「 いや、二人・・・・。」
「 三人よ。
 あの女の子・・・、あれ、顔が思い出せないわ。
 あら、変ね・・・・。
 どんな子だったかしら?
 う~ん、思い出せない。
 たぶん・・・、ハッキリ見ていなかったからだわ。
 救急でバタバタしていたから。
 でも、三人であなたを連れて来たわ。」

 俺は看護婦さんの顔を見て黙った。
看護婦さんの顔は、ウソを言っているようには見えなかった。

“ ま、いいか・・・・・。”

敢えて、人数でどうのこうの言っても仕方が無いので、俺は病院に見舞いに来た人の子供が、たまたまそこに居合せたんだと思うことにした。
 俺は、一応、了解した顔で看護婦さんに言った。

「 ええ、親からも礼は言うように言います。」
「 そうよね。
 そうした方がいいわ。」

看護婦さんは電話を机の上に置いて、受話器を俺に渡した。



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霧の狐道127

2008-10-10 18:51:46 | E,霧の狐道
 処置室の中年の看護婦さんが、俺に聞いた。

「 川に飛び込み?
 若いのに、飛び込みねぇ・・・?」

看護婦さんが俺の顔色を窺っている。
どうも、自殺と疑っているようだ。
 俺は右手を横に振りながら言った。

「 違う、違う、自殺じゃないよ。
 転がって来た鞠を避け損なって、橋からドボン・・・。」
「 あ、事故か・・・。
 何だ、そうか。
 やっぱりね。
 しぶとそうな顔をしてるから、変だとは思ったんだけど・・・。」

しぶとそうな顔は余計だとは思ったが、特に文句を言う気は無かった。
それよりも、俺は看護婦さんに言われたことで、橋での出来事を思い出していた。

“ そう言えば、あの鞠を持っていた女の子は何だったんだろう・・・?”

俺が黙って考えていると、看護婦さんが思い出したように言った。

「 あ、連れて来て貰ったお礼は言った?」
「 言った。」
「 そう、また改めて親御さんから、三人に礼を言って貰った方がいいわよ。」
「 うん、そうする。」
「 先ずは、親に電話ね。」

 看護婦さんは、処置室の横の扉から隣の部屋に電話を取りに行った。
俺が動き難いので、隣の部屋から電話を持って来る気だ。
看護婦さんに言われたけれど、“礼を親から言って貰う為に、爺さんの住所と電話番号をさっき聞いたんだよ”と思いながら・・・・・・、“?”と思った。

“ え、・・・・・、今、三人と言ったけど・・・・?”



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霧の狐道126

2008-10-08 19:43:58 | E,霧の狐道
    病院

  6、処置室

 俺は、三時間も掛かって、隣町の大きな総合病院に、救急で入院した。
普通は、一時間で行けるところを、爺さんが山道に迷って三時間掛かってしまったからだ。
 その間、爺婆のカラオケは延々と鳴り響いていた。
もちろん、“雨あがりの夜空に”一曲ではない。
他の曲も掛かっていたが、三時間の内、少なくとも一時間は“雨あがりの夜空に”だった。
 俺の耳の中には、何回も繰り返された“雨あがりの夜空に”が、今もぐるぐる渦巻いている。
もう、歌詞を見なくても最初から最後まで完璧に歌えるようになってしまった。
静かな夜の病院の椅子に座っていると、遠くの方に“雨あがりの夜空に”が小さく鳴っているように思える。

 俺は、爺さんと婆さんに礼を言って、住所と電話番号を聞いた。
後に、親から礼をしてもらおうと思ったからだ。
俺は、お金が無いから、礼は口だけだ。
爺さんが言った。

「 今度から、飛び込むのはプールにしろ、バ~カ!」

何だ、クソジジイと思ったが、助けて貰った手前、大人しく頷いておいた。
そして、爺さんと婆さんが帰って行った。

 病院での診察の結果は、左足打撲に左鎖骨を骨折している疑いがあると言うことで早速入院となった。
一応、レントゲンを撮ったが、直接の診断は主治医が決まってから、主治医に聞けと言うことだった。
当直は、新米の医師のようで頼りない。
でも、応急処置を受け、鎖骨バンドと痛み止めで気分的に楽になった。



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霧の狐道125

2008-10-06 19:12:45 | E,霧の狐道
 爺さんと婆さんのマイクデュエットは延々と続き、山にこだましている。
運転席の屋根の上に取り付けてあるスピーカーから嵐のような大音量の歌声が鳴り響く。

♪(´∀`)ノ゛ こんな事いつまでも 長くは続かない
       いい加減明日のこと 考えた方がいい♪
       どうしたんだ Hey Hey Baby
       おまえまでそんな事言うのォ
       いつものようにキメてェ ぶっ飛ばそうぜェ~♪ ヽ(´∀`)ノ

♪(´∀`)ノ゛ Oh~ 雨あがりの夜空に輝く~
       Woo~ 雲の切れ間にちりばめられたダイヤモンド♪
       こんな夜におまえに乗れないなんてェ~
       こんな夜に発車できないなんてェ~~♪ ヽ(´∀`)ノ

歌声は山々にギュンギュン反射して渦巻く。

“ う、ウルサイ・・・。
 強烈な爺婆だ。
 体中、音の振動で痛みが走る・・・。”

俺は、この歌声に熟睡中のクマやタヌキやムササビはビックリしてるだろうなと思った。

♪(´∀`)ノ゛ おまえについてるラジオ 感度最高!
       スグにいい音させて どこまでも飛んでくゥ♪
       どうしたんだ Hey Hey Baby
       バッテリーはピンピンだぜェ
       いつものようにキメてぶっ飛ばそうぜェ♪ ヽ(´∀`)ノ

♪(´∀`)ノ゛ Oh~ 雨あがりの夜空に輝く~
       Woo~ ジンライムのようなお月様~♪
       こんな夜におまえに乗れないなんてェ
       こんな夜に発車できないなんてェ♪ ヽ(´∀`)ノ
       こんな夜におまえに乗れないなんてェ~
       こんな夜に発車できないなんてェ~~♪ ヽ(´∀`)ノ

「 イェイ~、気持ちいいのう~!!」
「 爺さん、もう一発、行くかのぉ~!」
「 よし分かった、エンドレスに設定するぞ!」
「 分かったよ、爺さん!」

 俺の体は、大音量にさらにズキズキ痛む。
そんな事はお構い無しに、爺さんと婆さんのカラオケが再び始まってしまった。

♪(´∀`)ノ゛ この雨にやられてェ~ エンジンいかれちまったァ~
       おいらのポンコツゥ~ とうとう潰れちまったァ~♪
       どうしたんだ Hey Hey Baby
       バッテリーはピンピンだぜェ
       いつものようにキメてェ~ ぶっ飛ばそうぜェ~♪ ヽ(´∀`)ノ


俺は、荷台で揺られながら泣きそうな顔をして思った。

“ もう、いい・・・・・。
 駅前の外科だったら、家から便利だし・・、と思ったが、もう無駄。
 このまま、地獄の果てまで付き合おう。
 これも、持って生まれた俺の運命なんだ・・。”

軽トラックは、俺の希望する方向とは反対に、忌野清志郎の“雨あがりの夜空に”を山々に響かせながら、夜の山道を疾走していた。



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