日々の恐怖 7月15日 実家を継ぐ(1)
彼の実家は田舎の旧家で、広い敷地には母屋と離れ、二つの納屋と大小一つずつの蔵があるそうだ。
大きい蔵の方には、古い壺や掛け軸など、お宝とも呼べる品々が並んでいた。
家長である友人の祖父はおおらかな性格で、蔵には簡単な鍵がかかっているばかりだった。 祖父自身も、
「 本当に大切なものは、そこには置いていない。」
と常々言っていたようで、中のものは壊れても紛失しても構わないらしい。
そのため大きな蔵は子供達の格好の遊び場で、友人もよく探検ごっこを楽しんでいたという。
しかし、もう一つある小さい方の蔵は、一転して立ち入りを厳しく禁止され、入り口には厳重に鍵がかけられていた。
小さい蔵は敷地のはずれにあり、周囲には蔵を覆い隠すように高い木がぐるりと植えられ、まるで蔵を封印しているようで気味が悪かったという。
この蔵は、嫁御の蔵と呼ばれていた。
この嫁御の蔵の由来について、友人の祖父は色々と話してくれたという。
曰く、数代前の家長が家の繁栄のために狐の嫁をもらった。
蔵はそのためのもので、今でも中で狐の嫁御が暮らしている。
曰く、昔不出来な嫁を仕置のために閉じ込めていた蔵で、蔵に入るとすすり泣きが聞こえる。
曰く、若い使用人の娘たちが寝起きしていたが、こき使われるばかりで嫁にも行けなかった娘たちの怨念を封印している。
「 どれがほんとなのさ?」
幼い頃の友人がそう尋ねると、祖父は神妙な顔で、
「 どれが本当でも構わん。
とにかくお前たちが怖がって、あそこに近寄らにゃいいんだ。」
そう言ったそうだ。
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