大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 3月28日 山寺

2014-03-28 18:42:31 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 3月28日 山寺



 中学校で剣道部だったんだけど、夏休みの合宿で町のお寺を借りて泊まったときに五十年配の住職が寝る前に本堂に部員を集めて話してくれた

 昔々、村の百姓はふだんは山に入ることはあまりなくて、炭や木細工、鳥獣肉なんかは必要があれば山住みの者から野菜なんかとの交換で手に入れていた。
もっとも焚き付けは薪と杉っぱで間に合うし、木製の農具なんかは村で作ってたし、塗り物の椀なんかは行商から買ってて、ほとんど必要もなかったらしい。
 それでも山菜やキノコなんかを採りにいくことはある。
その場合でも何人かで連れ立っていくようにして、しかも踏み跡が道になってるところから遠く離れないようにしていたらしい。
そうしないで道に迷ってしまうと山寺に行き着いてしまうことがあるから。
 この山寺というのは、ふだんからそこにあるわけじゃなくて、道に迷った人の前に大きな山門が忽然と現れるという。
山門をくぐっていくと境内から寺の前に出て、表戸が開け放たれている。
。入ってみるとろうそくが灯ってて、線香もけぶっているのに人の気配がない。
いくら呼んでもだれも出てこない。
 もとの道に戻るには、本堂のお釈迦様の像の後ろに地下に通じる穴があって、ちょうど善光寺の戒壇巡りのような感じで人ひとり通れるくらいの幅だ。
ただし、もともと真っ暗な地下洞窟だけど、必ず目をつぶって歩かなければならないという。
 どちらかの手で壁に触れながらずっと歩いて行くと、ふっと壁の手応えがなくなって、そこで目を開けると、いつのまにか見知った山道に立っている。
これ以外の方法では元の道に出ることはできないらしい
 山寺の山門に入らなければ、山中でただ迷うばかりで疲労死が待っている。
地下洞窟で目をつぶらなければ、どこまでも果てしなく洞窟が続いて出口がない
今にして思えば何かのロールプレイングゲームみたいな感じだけど、この話を聞いた当時はそういうのを知ってる人はまわりにはいなかった。
 それから最も大切なのは、絶対に寺のものを持ってきてはいけないことで、欲にかられてほんのちょっとした何かでも持ってきてしまうと、その人は村に戻れるけれども名前をなくしてしまうという。
 この名前をなくすというのも意味不明だけど、住職はくわしく説明してはくれなかった。
もしかしたら村の自分の家やなんかががなくなってしまうということかとその時は考えた。
でなければ家族を含めて村のだれも自分のことを覚えていないとか。
 奇妙な話なんでずっと印象に残ってるし、同窓会をやったときには元の剣道部員の間でこのことが話題に出ていた。
一番不思議なのは、この山寺を出て村に戻る方法なんかがどうやってわかったのかということで、大学のときに町史や郷土史の本なんかをあたってみたけどそれらしいのは載っていなかった。
住職が中学生を喜ばせようとして作った話というのが一番可能性が高いんだろうが、もうとうに他界してしまってて聞くことはできない。












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日々の恐怖 3月27日 祭り

2014-03-27 19:04:44 | B,日々の恐怖



   日々の恐怖 3月27日 祭り



 俺の田舎の関する話です。
俺は神戸に住んでいるんだけど、子供の頃、オヤジの実家である島根の漁師町へ良く遊び に行っていた。
 9歳の時の夏休みも、親父の実家で過ごした。
そこで友達になったAと毎日遊びまくってて、毎日が凄く楽しかった。
 ある日、Aが神社に行こうって言いだした。
しかも、神社の社殿の中に入ってみようぜって。
 この神社についてまず説明します。
神社は山の上に立ってて、境内にまず鳥居がある。
山から麓までは階段が続いていて、麓にも鳥居。
それから、鳥居からまっすぐ海に向かうとすぐに浜に出るのだが、浜辺にも鳥居が立ってる。
つまり境内から海まで参道がまっすぐ続く構造。
ちなみに神明社。
 話を戻すと、俺はAについていって麓の鳥居の前まで来たんだけど、神様の罰が怖かったのと、なんだか妙な胸騒ぎと言うか、嫌な感じがしていたから行かないって言った。
Aにはこの弱虫とかさんざん言われて、癪だから随分迷ったんだけど、結局俺は行かなかった。
それで、20分ほど待ってたら、Aは戻ってきて、

「 つまんなかった。
社の中にはなんもない、鏡があるだけ。」

と言っていた。
なんだ、そんな物かと俺は、ほっとした。

 次の日には、Aから弱虫呼ばわりされたのもケロリと忘れて、Aとやっぱり遊びまくってた。
楽しい夏休みもいずれ終わる。
家に帰る時、Aは見送ってくれて、再来を約束した。

A「またな、来年も絶対来いよ。」
俺「おう。約束する。」

 で、次の年の夏休みも島根に来たんだけど、俺は御馳走されたスイカを食べながら、

俺「明日は、Aと遊びたい。」

と言ったら、ばあさんと叔父さんの顔が急に曇った。(ちなみにじいさんはずっと前に亡
くなってます)。

叔父「あのなあ、お前はA君と仲良かったから黙ってたんだけど、実はA君は死んだんだ。」
俺「えっ。」
叔父「夏休みが終わって、三日程してかな、海でおぼれちまって・・。」

もう俺はショックだった。
昨年の事を思い出して、もしかしたら神社の罰かもと思ったけど、まさか社殿に入っただけで神様が祟り殺すはずはないよなーと思い直した。


 それから、話が飛んで、俺が大学生の頃、オヤジが亡くなりました。
オヤジが亡くなった年の12月初旬に叔父さんから電話があって、大晦日から元旦にかけて 行う、オヤジの地元の祭りに参加しろとのことだった。

俺「おっちゃん、俺、神戸なんだけど。交通費もかかるし、参加しなくてもいいでしょ。」
叔父「馬鹿、お前、兄貴が亡くなったから、お前が本家の当主だぞ。
○○(俺の名字)の本家が祭りにでないなんて、絶対に駄目だ。
兄貴も毎年参加して、元旦に神戸へUターンしてただろ。」
俺「おかげでお袋は、その祭り、本当に参加しなきゃいけないの!って毎年ぷりぷりしてだけどね。」
叔父「ああ、言い訳は良いから。」

と言われて、しぶしぶ祭りに参加させれる事にちまった。

 当日、大晦日の20時に付くと、叔父さんがイライラして待っていた。

叔父「おせーぞ。19時には着くって言っただろ。」
俺「ごめんごめん、松江で鯛飯食ってたらから、でも祭りは21時からだから、十分間に合うでしょ。」
叔父「馬鹿、潔斎する時間を考えろ。」

俺は潔斎と言われて驚いた。
そんなに本格的な神事なのか? 
俺は慌ただしく、風呂場で潔斎して、オヤジのお古の家紋入り羽織袴を着せられ、祭りの会場の浜まで走って向かった。
 浜には、やはり羽織袴の人達がいっぱいいる。
この祭りは女人禁制どころか、各々の家の家長しか参加が認められいないものらしい。
時間が来たら、神主さんが海に向かって祝詞を唱えて神様をお迎えする。
 後は参道を通って、境内まで神主さんを先頭に、松明に照らされてぞろぞろと行列。
神様を社殿に鎮座させた後は、能や神楽等が催されて、一晩中、飲めや踊れやの大騒ぎで一晩過ごす。
飲みまくるのは神人共食神事? ってヤツかな。
 酒飲んで良い気分になってふらふらしてきた頃、社殿をぼーと見てたら、なんだかおかしい事に気付いた。
注連縄なんだけど、左が本、右が末になってる。
つまり、逆に付けられてんだ。
なんだこりゃ、と思いつつも酔ってたから、余り深く考えなかった。
 次の日、なんとなく気になって、叔父に注連縄の事を尋ねてみた。

俺「ねえ、神社だけどさ、注連縄逆じゃない。」
叔父「なに、お前、そんな事も知らずに祭りに参加してたのか。」
俺「だって、オヤジも教えてくれる前に死んじゃったし、おっちゃんも教えてくれてない
でしょ。」
叔父「そうか、すまんな、じゃあ、きちんと説明しておくか。」
俺「頼むよ。」
叔父「あの神社なあ、神明社で天照大御神を祭ってある事になってるけど、実は違う。
ご祭神はもっと恐ろしい物だ。」
俺「えっ、そうなの。」
叔父「明治時代に、各地の神社の神様が調査されたんだけど、役人がこの土地に来た時、単に土地の者は、神様って呼んでただけで、神様の名前は知らなかった。
何しろ昔の人間
は神様の名前なんて、恐れ多くて知ろうともしなかったし、興味もなかった。
それで、役人が適当に神明社ってことにしたらしい。
こうやって、各地の無名の神様が記紀神話の神様と結びつけられてったんだな。」
俺「じゃあ、何の神様か解んないんだ。」
叔父「いや、名前が解らんだけで、どんな神様かは解る。
お前、御霊信仰って知ってるか。」
俺「知ってる。
祟り神とか、怨霊をお祀りして鎮めることで、良い神様に転換して御利益を得るやつでしょ。
上御霊神社とか天神様とか。
まさか。」
叔父「そうだよ。
海は異海と繋がってるって言われるだろ、だから、良くない物が時々海からやってきてしまう。
特にここら辺は地形のせいか、潮のせいか、海からやってきた悪霊とか悪い神様が、あの浜には溜まりやすいらしいな。
それが沢山溜ると、漁に出た船が沈んだり、町に溢れて禍をもたらしたりする。
だから、溜る前にこっちから、神様をお迎えして神社に祭る。
それが祭りの意味だよ。」

叔父さんは続けて語った。

叔父「だから、注連縄はあれであってる。」
俺「えっ、どういう事。」
叔父「注連縄って、穢れた人間が神域に這入ってこれない様に、つまり外から内に入れない様張り巡らすもんだろ。」
俺「そうだね。」
叔父「あの注連縄は逆。
内から外に出れない様に張り巡らされてる。
つまり神様が外に出れないように閉じ込めてんだよ。」

俺は昔を思い出してぞっとした。
 昔、Aが社殿に入り込むと言う事がどれだけ無謀で危険な行為か理解できた。
Aはむざむざ外に出れないように閉じ込められている悪霊、悪神の巣に入って行った訳だ。
もし俺があの時、Aの話を断れずについて言ってたらと思うと、背筋が凍りついて、気が付くと手に汗でじっとりと濡れていた。












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日々の恐怖 3月26日 ビジネスホテル

2014-03-26 20:46:48 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 3月26日 ビジネスホテル



 先日、伊丹空港近くのビジネスホテルに滞在した時の実話です。
ホテルは翌朝のフライトに備える為のもので、とりあえず寝られれば言う程度だったので インターネットで発掘した格安ホテルにした。
 そのホテルの外観は格安ビジネスホテルの典型とでも言うべきもので、真っ白だったコンクリート壁が、長年風雨にさらされて黒いシミだらけになり、日暮れには幽霊屋敷の様に見えてもおかしくはない。
このホテルには旧館と新館があったが、予約が取れていたのは当然の如く旧館。
部屋は4階の端の部屋で、部屋の窓からはホテルの看板が通路に良く見えるように無理に支柱をつけて取り付けられている、ホテルの看板の裏以外何も見えない。
必要最低限のものは揃っているが部屋は非常に狭く、スーツケースを床に置いていると歩く度に足がどこかにぶつかるほど。
 当初の雰囲気自体は悪いものではなかったが、1つ気になったことがあった。
それは、ユニットバスのドアの鍵穴にこじ開けられたような跡があると言うこと。
この手の鍵は内側からプッシュしてロック、ドアノブを内側から回すと自動的に解錠されるタイプ。
 つまりユニットバスの鍵は内側に誰かいないと施錠されず、外から鍵をこじ開けようとすることは、内側に誰かがいる場合の確率が高いことになる。(その意味することは・・)
とは言っても、鍵を押して外に出てからドアを閉める等、色んな可能性が考えられるわけで、頭から余計な不安は押しやって翌朝の体調を万全にすることに集中した。
 就寝したのは恐らく夜中の12:00頃、翌朝は6:00起床なので十分な睡眠時間だろう。
やがて眠りに落ちて行ったが、しばらくして頭の後ろから壁をドンドン叩く音に目がさめた。
音の方に集中すると、なにやらひそひそ話す声もしている。
半ば寝ぼけまなこのことだったが、重要なことに気が付いてしまった。
この部屋は4階の端の部屋で、ベッドの配置から寝ている頭の向こうには部屋などない。
ちょっと気味が悪くなり、無理やり寝てしまおうと気にしないように努力したが、今度はひそひそ話をする声がユニットバスの中からと思えるような距離から聞こえ始めた。
 心地良いはずの眠りが何処へやら、血圧は一気に上昇して眠気は吹き飛んでしまった。
それでもこのまま眠りに再び落ちれればと思い、寝ようとしたが今度は煙草の匂いが漂い始めた。
実はこの階にある部屋は全て禁煙で、煙草の匂いがすると言うことは誰かが部屋の前で煙草を吸うこと以外に考えられないのだが、こんな夜中にしかも禁煙の部屋しかない階で、しかも一番端の部屋の前に来て、煙草を吸うなどと言うのは非常に確率の低いことのように思える。
 ここで耐えきれずに目を開け、ベッドに座った状態で照明を点け、辺りの状況をしばらく伺っていたが、煙草の匂いは、どうもユニットバスの中から漂ってきてるようで、気は進まなかったが、ユニットバスの中を確認する必要があると思うようになってきた。
 時計を確認すると、午前2:53。
ベッドから立ち上がり、ゆっくりユニットバスのドアを開けようとドアノブを回したがノブが回らない。
どうやら内鍵が、かかっているようだ。
 当然、寝る前に使った時は問題なく開閉できて、施錠してドアを閉めると言った凡ミスは犯していない。
意味不明にガチャガチャとドアノブを回したが、やはりドアはビクともしない。
煙草の匂いはついに部屋の中に充満し、部屋の中かユニットバスの中で誰かが煙草を吸っている様だ。
 さすがに気味が悪くなり、部屋を飛び出そうかとも思ったが、何もしないまま時間だけが過ぎて行った。
すると突然、ベッドの脇あるアラームが午前3:00を指して鳴り出した。
疲れきっていたので、部屋備え付けのアラームを確認せず寝てしまったようだった。
 ビックリしてベッドに戻り、アラームを消した。
すると、さっきまで充満していた、あの煙草の匂いが嘘のように消えている。
壁の向こうの騒音も、ひそひそ話す声も聞こえてこない。
まるで夕立ちが過ぎ、全物が活動を始める直前の静寂、雨がどんよりした空気を洗い流し、 浄化された空気が、部屋中に立ち込めているようだ。
 もしやと思い、ユニットバスのドアを急いで開けてみると、これも何事もなかったかのように開閉できる。
煙草の匂いもない。
狐につままれたような感じだったが、耳を澄ますとホテルの同じ階に設置してある自動販売機の、冷凍機のブーンと言う音が聞こえ、この階全体が普通の夜を取り戻したと言う実感が湧いてきた。
 翌朝、睡眠不足のままホテルを経つことになったが、フロント係にあの部屋について尋ねたところ、しばし考えた末、就職して間もないから分からないと言う回答が返ってきた。
結局、ドンドンと言う騒音が何なのか、話声の正体は何だったのか、煙草の匂いは何処から来て何処に消えたのか等、謎ばかりが残ったが、今から思うと、わざと誰かがアラームを午前3:00にセットし、怪現象が止むようにしたとも思える。
もし、伊丹空港周辺で、格安ホテルに宿泊する際には十分に注意を払って頂きたい。












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日々の恐怖 3月25日 桜

2014-03-25 18:32:31 | B,日々の恐怖



   日々の恐怖 3月25日 桜



 今は亡くなった父方のじいさんから聞いた話です。
じいさんは子供の頃から、花見が大好きで、庭の桜が咲くのを楽しみにしていた。
桜が咲くとお母さん(俺の曾祖母)が団子を作ってくれて、家族で花見をするんだけど、当時だからお団子は御馳走で、それも楽しみだった。

 じいさんが8歳くらいの頃、曾祖父が桜の木を切って、柿の木を植えようとしたことがあったのだが、じいさんがとてつもなくわんわん泣いて止めるから、じゃあ、切らずにこのままにしようと言うことになったらしい。

 昭和18年の2月、じいさん24歳の時、じいさんは、あと2カ月もすれば桜が咲くと、凄く楽しみにしていたのだが、赤紙が来て出征しなければいけなくなった。
奥さん(俺のばあさんね)にも桜が見れんのは残念だなあってしきりに言ってたんだ。
 それが、出征の日、家から出たら、じいさんは仰天した。
2月にも関わらず、桜の花がホンの5、6個だけど咲いていた。

「 俺のために桜が咲いてくれた。」

そう言って、じいさんは涙を流した。
後にも先にもじいさんが泣いたのはこの時だけだったから、ばあさんは凄く驚いたらしい。

 そんな事があったから、戦争が終わってからも、じいさんは桜を大切にした。
もうひとつ驚いたことに、じいさんが亡くなってから2年後、桜は後を追うように枯死したってこと。
今、庭には、枯れた桜から接ぎ木した二代目の桜が毎年花を咲かせている。













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日々の恐怖 3月24日 隙間

2014-03-24 18:37:17 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 3月24日 隙間



 数年前の夏休みのことです。
夜中にコンビニへ行き、いつも通る道をいつも通り歩いていると、ビルとビルの間に1mちょっとくらいの隙間があるのを発見した。
 俺は、

“ こんな所に隙間あったっけ?”

と思ったが、特に気にせず通り過ぎようとしたとき、後ろから早足に歩くカッカッカッというハイヒールの音が聞こえてきた。
 かなり急いでいるような足音だったため、俺は歩きながら歩道の端のほうに寄り、

“ 早く追い越してくれよ。”

と思っていると、すぐ後ろまで来たときに急に足音がビタッと止んだ。

“ 途中に曲がり角なんてないし、民家も無い場所なのにおかしいな?”

と思って後ろを何となく振り向くと、20代半ばくらいの女の人がさっきの隙間を覗き込んでいた。
 俺は不審に思ったが、

“ まああの人も気になったんだろう。”

と前を向き歩き出そうとしたとき、その女の人は何の躊躇も無くビルの間の隙間の中へと歩いていった。
 突然の行動に俺は流石にその隙間に興味を持ち、

“ 近道でもあるのか?”

と思い戻って隙間の中を覗いてみると、先は真っ暗で状況は見えない。
ずーっと先のほうまで真っ暗闇が続いているようにも思った。
それも、ついさっき入っていったはずの女の人の姿も見えない。
 少し気持ち悪く感じた俺は、

“ まあ明日明るくなってからまた来てみれば良いか。”

と、その日はそのまま帰る事にした。
 翌日、友人と出かける約束をしていた俺は、ついでだからと駅へと向かう道すがらに昨日のビルの間の隙間を確認することにした。
昨夜の記憶を頼りに探してみると、たしかに昨日と同じ場所に隙間があった。

“ まだ待ち合わせまで時間あるし。”

と思った俺は、ひとまずその隙間の中を覗いてみたのだが、おかしな事に3mくらい先にコンクリートの壁があり、どう考えてもそれ以上先へは行けるとも思えない。
壁にドアでもあるのかと思って良く見てみたが、どう見てもそんなものはない。
 俺は、

“ まあ他の場所なんだろう。”

と、探すのを諦め友人との待ち合わせの場所へと向かうことにした。
 その日の夜、友人達と分かれ帰り道を歩いていると、道の先のほうに10歳くらいの子供が壁の方を向いて立っている。
時間は終電ギリギリだったため夜中の1時過ぎだった。

“ こんな時間に子供?”

と思ったが、どうせDQN親が連れ出しているんだろう、とか考えながら歩いていると、その子供は壁の中へと歩いて行った。
 その時気が付いた、

“ あの場所って、今日の昼間に見たすぐに行き止まりの隙間じゃないか?”

急いで子供がいた場所まで駆け寄ると、やはり昼間に確認した場所だった。
 そして、シャッターの閉まった両隣のビルとその辺りの雰囲気で、昨日女の人が入って行った場所も間違いなくここだと、直感的に感じた。
しかしおかしい、昼間確認したとき、あの隙間はすぐに行き止まりだったはずだ。

“ 他に通路など無いし、どうなってるんだ?”

と疑問に思い、俺はその隙間を覗き込んでみた。
すると、やはりその先は真っ暗で見えない。
 流石に中に入るのは不安だった俺は、近くにあった小石を隙間の方へと投げ込んでみた。壁があるなら、見えなくとも小石が壁に当る音がするはずなのだから。
俺が小石をエイッと投げると、カツンと言う音がして壁に当たった小石は足元に転がり出て来た。










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日々の恐怖 3月23日 物置部屋

2014-03-23 19:16:16 | B,日々の恐怖



     日々の恐怖 3月23日 物置部屋



 中学時代に体験したことを話します
私の家は都市から少し離れた町にあり、日本家屋が立ち並ぶ場所にありました。
両親は否定しましたが、近所の噂では元女郎宿を改築した家らしいです。
 その家は丁度カタカナのコの字をしていて2階建てでした。
コの字の空白の部分は中庭になっていて、1階の中庭に沿っている廊下から庭に降りれました。
2階も中庭を見渡せるように窓付きの廊下が沿っていました。
 さて、私は夏休みコの字でいう、縦棒の2階にある暗い広い和室で宿題をしていました。
ここは涼しくて勉強がはかどるのです。
両親は買い物に行き私は留守番も兼ねてました。
 朝の九時から一時間くらいしたところでしょうか、私はトイレにいきたくなりました。
トイレは一階と二階にあり、どちらもコの字の下の横線の端っこにありました。
 私は中庭を見渡せる廊下を通って二階のトイレで用を足し、トイレから出ました。
その時私は何気なく窓を見ました。
そこからは中庭をはさみコの字の上の横線の端っこにある物置部屋が見えるのです。
それも、なんと物置部屋の襖がガタガタ揺れているのです。
 私は泥棒だと思いました。
朝から大胆だ、と思いながらも、実際はとて怖くて足がすくんで動けませんでした。
私はどうするべきが迷いながも泥棒が出くるところを見て、顔を見てやろうと思い、もう一度トイレに入ってドアを少し閉めて隙間から正面の物置部屋を覗いていました。
 その時です、私は一生忘れられない光景を見ました。
ガタガタ揺れていた襖がピタリと止まったかと思うと、突然スーと開いて中から女性が出てきたのです。
女性は上半身は裸で真っ白い肌が印象的でした。
下半身は着物みたいなのを巻いていました。
髪はボサボサで全体的に気だるそうでしたが、目だけは血走っていた様に思います。
 私はほんとうに腰を抜かしてしまいました。
どう見てもこの世の者とは思えなかったからです。
それに近所の噂になってる“この家は元女郎宿”という事も思い出しました。
 その女は宙を睨んでいたかと思うと急に歩き出しました。
速度はゆっくりでしたが、じっと見ていると、なんとコの字の廊下を沿って歩いてくるのです。
このままでは、こちらがわのトイレに来てしまいます。
しかし、私は腰を抜かして動けません。
 その女、コの字の縦線の宿題をしていた和室まできた時に突然スーと和室に入りました。
私はチャンスだと思い、自分に気合を入れトイレを出て中庭に飛び降りようと決心しました。
 そして、ドアをソローと開けた瞬間でした。
その女が和室から凄い勢いで飛び出てきました。
そして窓越しに私の姿を見たとたん、凄い形相でこちらに走ってきました。
私は殺されると思い、窓を開けて大ジャンプをして飛び降りました。
 着地に失敗しましたが、かまわず玄関に向かいました。
女が2階から降りてくると思ったのです。
私は外に飛び出すと、向かいの祖母の家に転がり込みながら、

「 おばあちゃん、おばあちゃん、幽霊がくるー!」

と叫びました。
 祖母は凄い勢いできてくれました。
私の異常な状態にすぐに気づいてくれたのか、玄関を閉めて私を引きずるように家の中に入れてくれました。
 私は今みた事を震えながら話すと、やさしい祖母の顔が段々と険しくなっていきました。
そして、台所に行き塩の壷を持ってくると、私を連れてコの字の家にいきました。
祖母はダダッと二階に駆け上がり、物置部屋まで行くと中に向かって、

「 なにしよるんや!
この子に手だそうとしたんか!
この子に手だしてみぃ、私が承知せえへんで!
わたしの前に出てきてみんかい!
塩まいたるわ!」

と叫びました。
その時、部屋の中でガタガタと音がしてすぐにやみました。
 祖母は、

「 もう大丈夫よ、怖かったやろ~。」

と言って両親が帰って来るまで一緒に家にいてくれました。
 その時に私は色々聞いたんですが、祖母はニコニコしながら、

「 わたしも、ようわからんけど、この家はアレやったからな~。」

と言いました。
 私は“やっぱりこの家は女郎宿だったのか”と思い、それ以上は聞くのをやめて二人でテレビの高校野球を見てました。
それから、その家では何も起こりませんでしたが、私は高校に入ると同時に引越しをしました。
祖母は車いす生活になりましたが、今でも元気です。
怒った顔はアレ以来見ていません。
 その後、コの家は取り壊されたました。
取り壊すとき解体業者の人が何人かケガしたみたいです。













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日々の恐怖 3月22日 狐

2014-03-22 19:21:37 | B,日々の恐怖




     日々の恐怖 3月22日 狐



 数年前の1月頃のことです。
いつもと同じく仕事を終えて電車に乗っていたとき、吊革を握りふと目の前の座席に座っている人に視線を向けると、周囲と雰囲気の違う男性がいました。
 まだ若い人だけれど、全体的に覇気が欠けうつろな状態です。
疲れているのかな、という印象だったのですが、気になってチラチラと表情を見るとやけに眼がつりあがっていました。

“ つり眼でも、ここまでの人ってあまり見たこと無いなあ・・・。”

ただ、そう感じました。
 でも、ジロジロ見るのは失礼だなと思い視線を逸らせようとしたとき、その若い男性の顔が一瞬狐の顔にかわりました。
眼がさらにつり上がり、ニヤニヤと薄気味悪い目つきで前を見ています。
そのとき、顔付きは両方の口端が目の辺りまで一気に裂け上がっているように見えました。
 そして、次に男性は視線を前から上にあげ、硬直している私の目を見てニタリと笑いました。
若い男性の目付きは、狐の目付きそのものでした。
 私は、あまりの気持ち悪さに、声こそは出さないものの、瞬時に後ろへ体が仰け反ってしまいました。
その直後、電車は駅に到着し、その男性は私の横をすり抜け電車から降りて行きました。
 あまりのことに、気になって恐る恐る後ろを振り返ると、ホームを歩くその男性はもう人の顔に戻っていました。
あれが狐憑きといわれるものかは分かりませんが、二度と見たくないと思いました。













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日々の恐怖 3月21日 ストーカー

2014-03-21 18:24:23 | B,日々の恐怖


    日々の恐怖 3月21日 ストーカー


 以前、Kさんが話してくれた、Kさんとその友人の話です。

 昨日、友達にストーカー行為をしていた女がようやく警察に捕まった。
主なストーカー行為の内容は、お守りの中に自分の髪の毛を入れて自宅のポストや玄関のノブに吊り下げるなどの行為だったらしい。
 俺は、

「 これで一安心やな。」

と言うと、友達も、

「 あぁ~、これで久しぶりに何も考えずにゆっくり寝れそうやわ。」

と気の抜けた顔で安堵の表情をもらしていた。
 ふと俺が友達に、

「 そや、まだ気味の悪いお守り残ってんの?」

と聞いたら、

「 あぁ、明日警察に持って行く分のやつが一個だけあるわ。
気色悪いから早く処分したいんやけどな。」

と言って俺の方に放り投げてくれたのを見て、俺は、

「 ん?」

と思ったんだわ。

「 これ、安全祈願のお守りなんやなぁ、なんでやろ?」

と俺が呟くと友達が、

「 それが?
なんかおかしい所あるか?」

と言うので、

「 普通こうい時使うのって、恋愛成就のやつじゃね?」

それを聞いた友達も、

「 それもそうか。
まぁ、ストーカーするヤツの心理なんか、俺らには解らんやろ。」

とその時は一笑してた友達だったけど、そのことが結構気になってたのが後になって良く解った。

 今日、友達と二人で警察に細かいことの経由と、お守りを持って行くために行ってきたのだが、友達が警察の人に、

「 どうしてこんなことをしたのか?
何で安全祈願のお守りなのか?」

と言うのを直接本人から聞きたいとお願いしたらしく、俺は半時間ほど署内の玄関付近で待ちぼうけをくらっていました。
 そこへ右手にお守りを硬く握り締めながら、不安げな表情の友達が帰ってきたので、

「 どうしたん?」

と聞くと、

「 あの女にそのお守り持ってないと右足持って行かれる、って言われた。」

と俯きながら言うので、

「 なんでまたそんなこと言ってきたんだ?
てか、なんで言われてたこと信じてるん?」

と聞くと、

「 あの女、俺しか知らないようなこと、耳打ちで言いやがったんだわ。」

と言い残し、友達は俺を警察署に残したままさっさと何処かに消えてしまった。
まぁ、そう言われると、俺もアノ右足でちゃんとブレーキ踏めるか気がかりなんやけどね・・・。












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日々の恐怖 3月20日 自衛官

2014-03-20 18:17:17 | B,日々の恐怖



   日々の恐怖 3月20日 自衛官



 現役の自衛官の話です。
彼が言うには巷で落武者とか兵隊の幽霊を見たと言う声を聞くが、鼻で笑ってしまうと言う。
古来より、この世に未練がある者が幽霊になるのであって、覚悟を決め戦った者が死して彷徨うはずは無い。
幽霊となり泣き言を言う落武者や兵隊など、

「 ヘタレだ。」

それが彼の見解であった。
 彼は新撰組の話をしてくれた。
当時、世界最強の白兵戦集団であった新撰組。
その副長土方歳三は、腹を切らせた部下が幽霊となり墓地近隣の人々を怖がらせると言う話を聞き、

「 生きて新撰組に恥をかかせ、死しても尚、新撰組に恥をかかせるか!」

と激怒し部下の幽霊を切るつもりで刀を持って墓の前で夜を明かしたと言う。(当時、死を覚悟している武士は幽霊にならないと信じられていた。)
ちなみに、歳三に恐れをなした隊士の幽霊はそれ以後出なくなったそうだ。

 そんな彼が腹の底から恐れた体験がある。
ある日、彼は隊舎で見慣れぬ幹部自衛官に服装の着こなしについて指導された。
大した事では無かったが、その幹部自衛官は彼を指導した後、懐かしそうに隊舎を見回した後に、彼に言った。

「 ここには今、K一尉(大尉)がいるな。
ヤツと俺は同期なんだ。」

そう言い終えると、彼の目の前ですぅ~と消えてしまったと言う。
 驚いた彼は、慌ててK一尉のもとにおもむき事の次第を報告した。
K一尉は黙って彼の話を聞いた後に、彼が見た幹部自衛官の特徴を聞いた。
彼が見たままを報告したらK一尉は、

「 そうか、じゃ駄目だったのか。
しかし、何が悲しくてこんな場所に戻って来たんだ。」

 後に彼はK一尉から事の次第を聞いた。
彼が見た幹部自衛官はその時、訓練中の事故で行方不明になっていたと言うこと。
K一尉とその自衛官は自衛隊に入って最初の年で最も厳しい時期に、この隊舎で過したこと。
辛く悲しいばかりで楽しかったことなど何一つ無いのに、なぜココに帰って来たのか。
それを聞いて彼は、死してこの場に戻る先輩の幽霊に言葉に出せない恐怖を感じたと言った。
 私は質問した。
戦えば生あるモノに対して誰にも負けないであろう彼が、なぜ、そのありふれた幽霊にそれほどの恐怖を感じたのかと。
 彼は答えた。

「 今の俺なら、妻子のもとに真っ先に帰る。
だけど、あの人にとって帰る場所はあそこしか無かったんだ。
君には理解できないだろけど・・・。」












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日々の恐怖 3月19日 なぜ霊を信じないのか

2014-03-19 18:40:17 | B,日々の恐怖




    日々の恐怖 3月19日 なぜ霊を信じないのか




 私の友人がなぜ霊を信じないのかと言う話です。
彼は高学歴で社会的地位もあり円満な家族を持ち、現在極めて恵まれた生活を送っている。
そんな彼が中学の時、今から二十五年以上も前の話だ。
担任の先生から一人の級友の面倒を見て欲しいと頼まれた。
 その級友と言うのは、中学入学時に新しい制服を買って貰えない程の貧しい家庭で、父親は不在で母親は現在で言えば養育能力が無いと判断せざるを得ない人物であった。
昼休みには一緒に弁当を食べていたのだが、その級友の弁当は、毎日、ご飯と梅干と魚肉ソーセージであったと言う。
しかも級友はそれを自分で毎朝作っていると言うのだ。
 もっと酷い話もあった。
たまに級友が妹を連れて彼の家に泊まりに来たと言う。
級友は彼に何も言わなかったが、町の噂では、母親が男を家に連れ込んだ時には級友兄妹は家から追い出されると彼は聞いていた。

 当然の事であるが、級友はイジメの対象となっていた。
ふしだらな母親の事、貧しい家庭の事、その他諸々。
良くある話だが同級生である町の有力者の息子とその取り巻きに殊更惨い仕打ちを受けていたと言う話だ。
彼は何もしないで級友を見ていたそうだ。
 ここで、現在の彼を知る私は聞いてみた。
なぜその級友を守ってやらなかったのかと。

「 子供のルール・・・。」

とだけ、彼は答えた。
 確かにそうだ。
私も今では子を持ちイジメ問題に大人の視点で綺麗ごとを我が子に言うが 、私の中学時代にも子供のルールと言う名の惨い掟があり、それに従っていた事を認めざるを得ない。

 そんな級友と彼は、昼休み残酷な同級生から逃れる為に図書館に逃げていたらしい。
級友は複雑な家庭環境で育ったにも関わらず純粋かつ聡明であったと言う。
 私はこの時、彼が他人を聡明と褒めた事に驚いた。
自信家の彼が褒めるのだから、その級友は相当聡明な人物であったのだろう。
私の驚きに、彼は今まで級友ほど賢い者に会ったことは無い、とまで断言した。

 中三になり県内一の進学校を目指す彼は級友の進路が気になった。
級友はお金を貰いながら勉強が出来る学校に行くと言う。
そんな学校が日本にあるのかと不思議がる彼に、級友は悲しそうに話を誤魔化すだけであったと言う。
ただ、級友は嘘や妄想でそんな事を言っている訳では無かったようだ。
新しい担任と熱心に進路に付いて相談していたらしい。
 しかし、級友は受験に失敗した
彼は信じられなかった、級友を受け入れない学校がこの国にあるとは思えなかったからだ。
級友はその一度の失敗を持って進学を断念した。
同時に彼も進学を諦めた級友から離れた。

「 なぜ?」

と聞く私に彼は、

「 元々、内申書の為に級友の面倒を見ていたに過ぎない。
たまさか、級友が聡明であったので自分の学力向上と言う副産物も付いたが。
受験直前期に進学を諦めた級友の面倒を見る。
メリットはもはや無く、イジメのとばっちりと言う。
デメリットを無くしたかったからだ。」

 彼はその後、級友との接触を極力断ち受験に専念し、見事、進学校に合格した。
そして卒業式の前日、彼は級友からの電話を受けた。
級友は彼に友人として接してくれた事の感謝を述べた後に、この友情が彼に迷惑をかける事となるを詫びた。
 彼が級友を最後に見たのは、翌日の卒業式が終わった後であった。
バットを持って同級生に襲い掛かろうとしているところを、数人の教師に止められていたのを彼は見たと。
 級友は目から血を流しながら一人の同級生に向かって叫び続けていた。

「 お前を絶対に殺してやる、殺してやる。」

その顔は人間の顔では無く鬼の顔であったと彼は言う。
 その翌日、級友は自殺した。
三日前に級友の妹が自殺した同じ場所で首を吊って。
 彼が担任から経緯を聞いたのは、町の人が噂をしなくなった翌年のお盆の事だ。
級友が自衛隊の学校に進学を希望していたのだが、級友の左目は視力が失われていた為、身体検査で落ちてしまったと言う事。
 級友は中二の時に同級生にモップの柄で左目を突かれた事と級友の家庭が貧困であった為、適切な治療を受ける事が出来なかった為、失明してしまっていたのだ。
その上、級友が可愛がっていた中学生になったばかりの妹が自殺した件にも同級生が関与していたらしい。
 私がここで関与していたらしいと書くのは、彼が、級友の妹に何があったのかは話してくれなかったからだ。
ただ非常に綺麗な少女であったそうだ。

 彼は霊を信じないと言う。
この世に恨みを持った人間が霊となり復讐出来るのならば、とっくの昔に級友が同級生に復讐しているはずだという。

「 あの時、級友は町の神社の拝殿に真っ直ぐ顔を向け睨み付けるように、首を吊って死んでいる所を見つかった。
それなのに、あの同級生は今では父親の後を継ぎ町の有力者として生きている。」

と彼は言った














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日々の恐怖 3月18日 手

2014-03-18 18:37:49 | B,日々の恐怖


   日々の恐怖 3月18日 手


 数年前、大学院生で修論も出して毎日が暇だった。
そんな時幽霊話にハマり、いろいろ読んで、見えたこと無いけど幽霊って本当にいるのかな?と考えていた。
 完全に昼夜逆転していたから、昼の2時くらいに起きてカップ麺を作ろうと台所へ。
台所から玄関のドアが見えるんだけど、そのドアに付いてる新聞用の郵便受けから白くて小さい手が出ているのが見えた。
幅は5センチもなく、ふつうの人間の腕が入るような大きさじゃない。
その手は、下から上に向かって何かを探すような動きをしていた。
 その直前に手だけの幽霊の話を読んでいたこともあり、パニックになった俺は、幽霊も怯えると調子に乗るという話を思い出し、2度と来たくなくなるようにビビらせてやろうと思い、玄関の横に置いてあった軍手をはめて、

“ 軍手なら幽霊でも大丈夫!触っても大丈夫!”

って自分に言い聞かせて、手を掴んで思いっきり体重をかけて後ろに引っ張った。
なぜ大丈夫だと思ったのか、今では全く分からない。

 突然、甲高い声で悲鳴が上がった。
俺はあわてて外へ出ると、郵便受けに手を突っ込んで泣き叫んでる子供と、誰かが廊下を走り去っていく音が聞こえた。
 大学時代はボクシングをやっていて、腕力には自信のある俺。
子供の腕は抜けなくなっていた。
俺はどうして良いのかわからず、119番に電話をして、

「 救急ですか?消防ですか?」

と聞かれ、

「 消防です!」

と答えた。
多分、小坊(小学生)です!って言いたかった。
 子供の手が抜けない、と伝えると向こうで気を利かせて救急車を派遣してくれ、救急隊員が引っ張っても抜けず、やむなくバールのようなもので郵便受けの穴を広げて手を抜いた。
子供は、鎖骨と指骨折、手首と肘と肩脱臼、靱帯損傷、すり傷多数と重症だった。
 俺は警察署で事情聴取となった。
警官は怒鳴りまくりで怖かった。

“ やっちまった、ごめんなさい、刑務所かな・・・。”

と怯えていたら、2泊した後、警察から、その子はカギを開けて親が空き巣に入るコンビの常習犯だったと言う事を聞かされた。
子供の小さい手を利用して、郵便受けから手を入れてドアノブの鍵を外してたらしい。
どうやらあの時、廊下を走り去っていったのは親だったようだ。
 その後、俺は不起訴。
向こうの親とも話したけど、どうしても生活費がなくて、家を追い出され車で生活し、子供の食費を稼ぐため仕方なくやっていたらしい。
空き巣に入ってもお金は、1000円とか最低限必要な分しかとっていなかったとか。
 俺が警察に2泊3日も拘留されて起訴か不起訴の審議に掛けられたのは、俺の推測だけど多分俺の、幽霊話で読んだ白い手の幽霊が来たかと思って、滑り止め付きの軍手をして引っ張ったって、訳のわからない証言の扱いに困ったんだと思う。
わざと怪我させたんじゃない、ってことをわかってもらうのが大変すぎた。
 親子が、それからどうなったのかは、わからない。
子供が怪我して泣き叫んでるのに、走り去って逃げていく親が怖いと思った。
あの子の幸せを切に願う。













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日々の恐怖 3月17日 脚

2014-03-17 19:14:38 | B,日々の恐怖



     日々の恐怖 3月17日 脚



 俺は幼稚園から小学校低学年のころまで、子供会に入っていた。
子供会は、その地域の子供を集めてBBQしたり体育館借りて遊んだりする団体、引率は大人と近所の高校生とかがやってた。
 で、その子供会で夏にちょっと遠出して、どこかの山に一泊二日にキャンプに行くことになった。
俺はその当時小学校上がりたてで、親元を離れてどこかに泊まるって行為がすごく魅力的に見える年ごろだったし、前日は興奮して眠れなかったのを覚えてる。
当日も精一杯はしゃいで、くたくたになるまで遊んだ。
 で、夜になって子供は寝る時間が訪れる。
そのキャンプ場は山の中腹あたりに開かれた広場にあって、中心に水場とかかまどがあり、周りに点々と小さなログハウスがある感じ。
 ログハウス一個の定員はせいぜい4人くらいだった。
引率の高校生のお兄さん、俺より上の学年の小学生二人、俺、って感じの部屋割りだった。
 もう体力を限界まで振り絞って遊んだ俺は、当然の如く布団に入って爆睡。
今でも思う、そのまま朝まで起きなかったら良かったのに。
でも起きちゃったものはしょうがない。
 夜中にふとトイレに行きたくなって目が覚めた。
時計を見ると午前3時あたり。
ログハウスにはトイレなんてついてなくて、ちょっと離れた外の共同便所まで行かなくちゃいけない。
でも一人で行くのは怖いから、高校生のお兄さんを起こそうとする。
起きない、全然起きない。
深夜の山の中なんて真っ暗だし、一人でその中を歩くなんてとてもじゃないけど嫌だ。
 でもお漏らしして次の日バカにされたくないという変なプライドが勝ってしまい、俺は一人でログハウスを出た。
そして月明かりとトイレの非常ライトを頼りに歩き、無事漏らさずに用を足して備え付けの流しで手を洗ってる時気がついた。

“ なんかいる・・・。”

上手く言えないけど、なんか背中に感じた。
 それを感じた時はちょうど下を向いてポケットのハンカチを探してる時だったんだけど、 思わず前を向いてしまった。
そしたら流しについている鏡越しに、自分の背後に見えた。
 白い脚、それも裸足、腿から先はなぜか見えない。
そいつが自分の真後ろにいた。
足の向きからして、上半身はこっちを見てる。
 もう半狂乱になって、意味わかんないことを泣き叫びながらログハウスに帰った。
ログハウスでそれを話しても、寝惚けてたの一言で済まされた。
仕方なく、その日は布団をかぶって朝まで震えてた。
それで、朝になって、やっぱり見間違いだったと思い込むことにした。

 小学校3年くらいになって、俺は一旦親父の仕事の都合で海外に引っ越した。
で、小6の時に日本に帰ってきて、現在まで住んでる家に移った。
 それは、やっと新しい環境に慣れてきた中一の時だった。
忘れていた頃、何故かそいつが現れた。
今度は山なんかじゃなくって、自宅の近所の道路のカーブミラーの中だった。
部活帰りで疲れた体を引きずってる俺の後を、しっかりとあの白い脚が見える。
 今度は上からの視点なのに、やっぱり腿から先は見えなかった。

“ こいつ山から下りて俺のところに来やがった。”

そう思ったとき、俺はメチャクチャ怖くなった。
部活で鍛えた俊足でダッシュで帰宅して塩撒きまくった。
 しかし、その後数ヶ月間のうちに、自宅のドアのガラス越しに見ること一回、洗面所の鏡越しに見ること一回。
流石に気持ち悪くって親に相談したら、親父が会社の知り合いからアメジストみたいな石をもらって来て、それを布に包んで財布の中に持っていると、何故かピタッと見なくなった。
 不思議だなぁ、と今でも思う。
山で亡くなった人の霊がついてきたんだろうか。
でも、なんで脚だけだったんだろうか。
鏡とかガラスとかを通してしか見れないのはなんでだろうか。
海外にいたときは見なかったから霊でも海は渡れないのか。
そして、まだ自分の背後にいたりするんだろうか。
 でもちょっと怖いのは、最近アメジストっぽいのを出してみたら知らないうちに小さなひびが入っていたこと。
これが割れたら、また脚は復活するのだろうか。
もう、あれを見るのは嫌だし、アメジストっぽいのを体から遠く離して実験する気も無い。
何か経験のある人がいたら教えて欲しいと思っている。














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日々の恐怖 3月16日 東京のアパート

2014-03-16 20:38:47 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 3月16日 東京のアパート



 今から11年前、仕事で東京に1年近く暮らしてた時の話です。
恵○○駅から徒歩5分ほどの場所で、うろ覚えだが5~6階建てのアパートだった。
 1階にはクリーニング屋、通りを挟んで斜め前に不動産屋があり、その不動産屋がアパートの管理者だった。
築10年以上は経ってるだろうか、1フロア4戸で周りは雑居ビルで囲まれた狭苦しく、暗いというのが第一印象だった。
 不動産屋の担当者に通されたのは3階の一室。
1LDKでユニットバス付。
玄関から6畳程のダイニングキッチンを突っ切って、すりガラスの障子で仕切られた6畳程のリビングが俺の部屋となった。
 家賃が月20万。
地方の田舎者の俺には信じられない額だ。

“ まぁ・・会社が払うんだから関係ないんだが・・・。”

と思いながらも、そこで会社の上司との共同生活を送ることになった。
私事だが、この上司ってやつが超がつくほど嫌な奴で部下を何人も辞めさせた事で有名だった。
 慣れない都会生活+上司のイビリがストレスに感じてきた4ヶ月ぐらい経ったある夜の頃、いつもの様に丸めた布団を壁際に押しやって、背中をあずけマンガを読みふけっていた。
ふと耳をすますと、表の車の往来の音に混じって微かだが赤ん坊の泣き声が聴こえる。
 布団を押しやった壁がコンクリートの壁にクロスを貼ってたんだが、どうやらこの壁から聴こえる。
耳を壁に当てるとよりはっきりと聴こえた。

“ あぁ・・隣りの住人か、赤ん坊の夜泣きだな。”

ぐらいにしか思わなかった。
 猫のサカリの声かとも思ったが、正直どうでもよかった。
隣りの住人がどんな人かも知らないし、そもそも住んでいるかどうかも興味は無かった。
その日を境に度々、赤ん坊の泣き声を聴くこととなる。


 ある休みの日の事だ。
買い物からアパートに帰ったら、隣りの部屋の玄関扉が開いていた。
興味本位で廊下から中を覗いてみたら、玄関には黒い革靴が一足。
それ以外はガランとしてた。
ふと中から、不動産屋の担当者が顔を見せた。

「 こんにちは。」

まぁ、一応お世話になってるのと覗いていた後ろめたさもあって、挨拶をした。

「 あぁ、こんにちは。」

靴を履きながら担当者も挨拶を返してきた。

「 お隣さん引越しされたんですね?」

玄関先とはいえガランとしてたからそう思った。
 俺は6時にはアパートを出て、帰宅は夜の10時過ぎという生活をしていたので、

“ 俺が仕事に行ってる間に引越ししててもわかんねぇわな。”

と思っていたが、担当者は

「 えぇ、来週の土日に引越しされます。」

なんて言ってる。
 どうも話しが噛み合わない。
よくよく話しを聞いてみたら、いままで空家だったが入居者が決まったので、来週、引越しに来るとのこと。

“ じゃあ、赤ん坊の声は・・・?
コンクリートの壁を伝わって下か上の住人が・・・?”

なんて思ってたが、担当者が、

「 じゃあ、これで・・・。」

と言いながらその場を離れ様としたので、呼び止めて、

「 このアパートに赤ん坊のいる住人さん居ますか?」

って尋ねた。
 担当者は少し考えた後、

「 さぁ・・・、私は、わかりませんね~。
他の担当者なら知ってるかもしれませんが・・・。」

釈然としないまま、お互い挨拶を交わしその場を離れた。


 東京に来て11ヶ月経った頃には、上司のイビリで精神的にもピークがきてた。
仕事も大詰めを迎えていて、帰宅がAM3:00が続いたり、徹夜なんてザラだった。
 そんなこんなで、嫌になっていた俺は3日間無断欠勤をした。
気分はすでに地元に帰る気満々。
4日目に仕事場に行き、地元の会社に連絡。
会社の課長はウダウダ言っていたが、聞く耳は無い。
 仕事場の上司に、

「 じゃあ、今から帰りますんで・・・。もう2度とココには戻りません!」

って言ってやった。
すると上司は、

「 お前がココで失敗して損失した分を責任かぶるのは上司である俺だ。
それじゃ不公平だろ?
お前にも責任をかぶってもらわんとなぁ・・・。
帰る前に10万をアパートのテーブルの上に置いていけ!
少しは誠意をみせてみろ!!」

なんて言いやがった。
 まぁ確かに、ココで失敗して出した損失は30~40万ぐらいになる。
それに比べたら10万なんて安い方だ。
速攻で銀行に行き、10万+帰りの電車賃+土産代を下ろしてアパートに帰る。
金の入った封筒をテーブルの上に置き、荷造りをした。
ダンボール5箱分を郵送して、俺自身、身軽になった。
アパートの鍵をかけ、鍵を玄関扉の郵便ポストに放りこんだ。


 気分爽快で恵○○駅に向った。
時間はAM11時頃。

“ 今日の最終の新幹線に乗ればいいんだから、それまで最後の東京観光してもいいなぁ・・・。”

なんて思ってた。
緑の窓口に行き、切符を手配、金を払う時に気が付いた。

“ やべぇ、アパートに忘れた。”

それからアパートまで全力疾走。
もうすぐ12時になる。
上司は、たまに昼休みにアパートに帰る時がある。
“ マズイ!それだけはマズイ!!
あれだけ啖呵きったんだ。
顔を合わせるのはマズイ!!”

3階の部屋の前まできて愕然とする。
“ 鍵を玄関ポストに放り込んだんだった!
やべぇ!手が入らねぇぇ!”

どうしても手首より先に入らない。
必死で考えた。

“ 不動産屋だ!不動産屋に行けば、鍵があるはず!”

ダッシュで階段を駆け下り、斜め前の不動産屋に飛び込む。

「 3階の○○ですけど、鍵を忘れてしまって・・・。
あの、鍵、貸してもらえませんか?」

だけど不動産屋は、担当者が鍵を持って食事に出ていて1時まで帰って来ないと言う。

“ 昼飯早えーし!!”

と突っ込んでみても1時までは待ってられない。
上司が帰って来るかもしれない。
さすがに焦った。
ふと、ココからアパートを見る。
クリーニングの看板。

「 そうだ!ハンガーだ!
針金のハンガーを真っ直ぐに伸ばして引っ掛けよう!!」

考え自体は幼稚だったが、その時はそれが最善だと思った。
 すぐにクリーニング屋へ。
事情を話しハンガーをもらった。
時計を見ると11:45頃。

“ 時間が無い!”

すぐさま3階に駆け上がる。
ハンガーを真っ直ぐにして先のフックを玄関扉のポストに差し込む。
 玄関扉はスチール製で形は昔の市営や県営住宅を想像してもらえばわかると思う。
やや中心より下にポストの差込み口があり、部屋内側は受けの箱が格子状になっている。
差込口から中の鍵までは、目視できない。
 角度的に、どーしても格子の隙間から玄関の床タイルしか見えなかった。
それでもハンガーの先を手探りで鍵に合わせようとする。
ガチャガチャと音はするものの、手ごたえは感じられない。

“ くそっ!どーなってんだ?”

焦りがピークに達した時、チャカっと手ごたえがあった。

『!?やった?とれたか?』

慌てない様に慎重に引きぬく。
 鍵がそろそろ見えるくらいの時、確認のためポストを覗いた。
その時だった。

「 えっ?」

格子の隙間から玄関タイルが見える。
が、そこを何かが横切った。
一瞬の事だったが、赤ん坊に見えた。
ぷっくりとした右足と右横腹。
ハイハイをしている赤ん坊を想像した。

“ いやいやいや、ありえんやろ?”

躊躇はしたが、時間も無いし、金も惜しい。
意を決して鍵を抜き取り、鍵を開けた
 スチール製の扉は、重そうな音をたてながらゆっくりと開いた。
恐る恐る半分逃げ腰で中を覗く。

“ 大丈夫だ、何もいない。”

内心ホッとして、勢いにまかせて扉を開き、中に入った。
 ダイニングのテーブルの上の封筒を確認する。
靴を脱ぐのもそこそこに半分土足ぎみにテーブルに駆け寄る。
封筒を手に取り中を開く。

“ あった、よかったぁ~。”

あるのは当たり前なのだが、この時は何故か安心した。
 10万を封筒に残し、残りの金をサイフにしまう。

“ これで忘れ物は無いな。”

と思って何気に自分の部屋の方を見た。

「 うわっ!?」

腰が抜けそうになった。
俺がさっき部屋を出た時に磨りガラス障子を閉めてたんだけど、そのガラス越しに誰かが立っている。
いや、正確には、白い人型が立っていた。
 輪郭からして背丈は150~160ぐらい。
体部分は白い服っぽい。
頭部分と思われる所は輪郭がアヤフヤだが、黒髪で長いのか短いのかわからない。
それが俺の部屋の窓からの光でボヤァ~と浮かびあがってる。
 俺は頭パニックになりかけてた矢先、右足の甲を何かに踏まれた。
例えるなら、犬か猫が踏んだ様なグニュとした柔らかいけど重みを感じる様な感じ。

「 ホヒャッ!!」

変な雄叫びを上げて跳び上がった。
 すぐにテーブルの下に目線がいく。
赤ん坊だった。
今度は、はっきりと見た。
裸の赤ん坊がハイハイしている。
 色白の肌、生えそろってない
髪の毛、顔は下を向いていたので見れない。
完全にパニックだった。
赤ん坊から目が離せなかった。
恐怖で体も動かせなかった。
 と、その時、

「 ガタッ、ガタ・・・・。」

と音がした。
瞬間的にガラス障子に目線を向けた。
 俺の部屋にいた何かが障子を開けようとしていた。
2~3㎝空いた隙間から白い指が覗かせていた。
全身に鳥肌がたって、本能が逃げろと叫んでいた。

「 うぅぅぅぅわゎぁぁぁぁあぁぁっぁっぁあ!!!!!」

ありったけの声を絞り出し、玄関扉をはね飛ばし、階段を駆け下りた。
後ろを振り返る余裕もない。
全力疾走だった。
 前の道路を信号無視で横断し、不動産屋に逃げ込んだ。
不動産屋の従業員の姿を見るなり、まくし立てた。

「 なんなんだよあの部屋はぁーー!!
幽霊出るじゃねーかーー!!
てめぇどーゆーことか説明しろ、この野郎ぉ!」

胸倉をつかんで壁に押し付けた。
 今思えば、従業員も驚いただろう。
顔面蒼白だったであろう俺から、胸倉を掴まれて泣きそうな顔になっていた。
 この騒ぎで、奥の事務所にいた不動産屋の社長が出てきた。

「 どうしたんですか?」

という声に社長に向き直って、今体験した出来事をまくし立てた。
全てを話し、少し落ち着いた俺は、あのアパートで何があったのか社長から聞いた。

「 10年程前、アパートが新築して1年半経った時に、若い夫婦が引っ越してきた。
ほどなくして、その夫婦に子供が生まれた。
だがしばらくして旦那が事故で亡くなり、奥さんが一人で育てていたんだが、育児ノイローゼか、旦那の死がショックだったのかわからないが、1才にも満たない赤ん坊と共に餓死して死んだ。
旦那の保険金も入ってて、家賃も滞納してないのに餓死で死ぬなんてありえないんだけど。」

俺は頭にきた。

「 なんで、そんないわく付きの部屋を貸すんだ。
説明も無しに酷いだろうが!」
「 2年程前に御祓いをして、それ以降現れなかったんです。」

と社長は、言い訳にもならない事を言う。
 あきれて言葉が言えなかった。
だが落ち着いて考えてみれば、俺は今日地元に帰るんだし二度と部屋には行かない。

“ あの部屋に帰るのは、あの腹立つ上司だけ。
ざまぁみろ、呪い殺されてしまえ。”

その時は、本気でそう思った。
 俺は社長に、

「 この事は誰にも、上司にも話さないでくれ。」

と念を押し、部屋の鍵を渡した。

「 鍵がかかってないんで、オタク達でかけてください。
鍵は俺の上司に連絡して俺から受け取ったと報告しといてください。」

と伝えて不動産屋を出ようとした。
 扉を開ける時に社長が独り言の様に呟いた。

「 でも、おかしんですよね~。
出るのは3階じゃなくて4階なんですけどね~。」
「 じゃあ、アパート全体に御祓いをした方がいいですよ。」

俺は、そう言って外へ出た。
 地元に帰った次の日、会社に出勤して課長に事の顛末を話し(恐怖体験は言ってない)、10万は後日、返してもらった。
ちなみに、その後の上司は、会社で俺の斜め前の席で何故か元気に仕事をしている。











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日々の恐怖 3月15日 作業

2014-03-15 18:58:01 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 3月15日 作業



 休日のイオン、駐車する場所を探し駐車場内をぐるぐる回っていたときのことです。
入り口に一番近いところに差し掛かったところで、その近くに黒光りした高そうな高級車が停まっていた。
車に無知な自分でも、ヤのつく自由業の方の乗るものだとわかる車。
 それに乗ろうとしていたダンディなおじさんと目が合った。
おじさんはこちらに手招きしてきた。

“ やっべえ、ヤのつく人に目を付けられてしまった。
売り飛ばされるかも・・・。”

と心臓バクバク、ここが修羅場。
 運転席の窓を開け、

「 な、なにか・・・?」

とビクビクしながら聞くと、おじさんは満面の笑みで、

「 ねえちゃん、ここ停めな、今出るから。」

と、運転手のチンピラらしき兄ちゃんに合図し、高級車はすぐに発車した。

“ いいヤのつく人もいるもんだ、人は見た目じゃないな・・・。”

と、少しヤのつく職業に好感度うpしたが、その高級車の停まっていたところが身障者用スペースだったので、

“ やっぱ人は見た目だ・・・。”

と思い、高級車が完全に見えなくなってから、また駐車場をぐるぐる回る作業に戻った。













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日々の恐怖 3月14日 ←ココ

2014-03-14 18:41:22 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 3月14日 ←ココ



 このあいだ、ちょうど小学校の同窓会があったんで、そのときに当然のごとく話題に上がった俺たちのあいだでは有名な事件をひとつ話します。
 俺が通っていた小学校はちょっと変わっていて、3階建ての校舎のうち、最上階の3階が1・2年の教室、2階が3・4年の教室で、一番下の1階が5・6年の教室になってる。
別の学校に通ってた従兄弟に、この話したらびっくりしてたんで多分俺の学校が特殊なんだと思う。
 校舎自体はコンクリート造りで、相当というほどでもないがそこそこ年数がたってたらしく、廊下の壁とかは薄汚れていて汚いなと子供ながらに思ってた記憶がある。
 で、6年になるまで気がつかなかったんだが、1階の6年2組の教室の前の廊下だけ壁が綺麗に塗りなおされてる。
下級生の時代に6年のフロアになんか怖くて行けないから知らなくて当たり前なんだけども。
もともとのコンクリートの壁と似たような色のペンキで、隣りの6年1組との境目から6年3組の境界まできっちりと塗られてる。
そこだけ汚れてないからすぐわかる。

 ある日、その塗りなおされた壁の右下に近い部分(6年3組寄り)に薄ーく鉛筆で、

「←ココ」

って書いてあるのに気がついた。
 「←ココ」と指された部分を見ても、まあ何の変化もない。ただの壁だ。
その当時、学校では校舎の至るところに「左へ○歩進め」「真っ直ぐ○歩進め」「上を見ろ」「右を向け」などと書いてその通りに進んでいく、という遊びが流行っていたので、「←ココ」もその類のものだろうと気にも留めなかった。
 2週間くらいしてからかな、友達のY君が教室の外で俺を呼んでいる。
行ってみると廊下の壁の「←ココ」の矢印の先に青いシミが浮き出てた。
5cmくらいの小さなシミだったけど、ちょうど矢印が指している先に出たもんだから、俺とY君で「すげー、不思議だね」とか言ってた。
 次の日、そのシミはいきなり倍くらいの大きさになってて、「←ココ」の文字の部分にまで広がってて、もうその文字は見えなくなっていた。
その代わりに、シミの形が人間の手のように見えた。
 さすがに俺たち以外の生徒もそのシミに気がついて、形が形ってこともあって瞬く間にクラス中に「呪いのシミ」として話題になった。
その話が先生の耳にも入ったらしく、その日の帰りのHRでは「何でもないただのシミだから、気にするな」と半ば強制的に家に帰された。

 その週が空けて次の月曜、教室に行くと、なんと廊下の壁の、シミがあった部分が丸々はがれ落ちてて、しかもそこを中心に上下に細い亀裂と言うかヒビが入ってんの。
俺が教室に行くとすでに廊下で数人が騒いでたので見たらそんな状態。
 朝のHRで先生が来るまでは俺のクラスと、両隣のクラスの何人かも含めて大騒ぎで、絶対この壁のうしろに何かあるよ、死体が埋められてる、なんていう話にもなって、クラスのお調子者K君がカッターでその亀裂をガリガリやろうとしたところに先生がきてものすごい勢いで怒られてた。
申し訳ないけど俺はそのとき知らない振りしてた。
 その昼休みに、K君が懲りもせず「朝の続きやろうぜ」と言い出した。
壁を削る続きをやろうぜと言うわけだ。
俺は怒られるのが怖くてやだといったんだけどK君が「ここ見ろ」と言うので見たら、剥がれ落ちた中の壁から色の違う部分が見えてる。
 灰色の壁に、黒い太い線で横断歩道のような模様が描かれてるのがはがれ落ちた部分から 確認できた。

「これの続き見たいだろ?」K君が言う。

K君はカッターを持って崩れた壁の部分をカリカリやり始めた。
面白いように塗装が剥がれていく。
 すると、壁の中から「組」という文字が現れた。
さっき横断歩道のように見えた模様は「組」の右側だったわけだ。
もうこの後に何かあることは間違いない。
クラスの男子の半分近くが一緒になって壁の塗装を崩し始めた。
コンパスの針でつついたり、定規の角で削る者、彫刻刀を持ち出す奴までいた。
ちなみに俺は崩すのを回りから見てただけ。
 大抵こういう場合、壁のうしろに死体が埋まってただの、文字がびっしり書かれてただの、お札がいっぱい貼ってあっただのがよくあるパターンで、俺も当時すでに怖い話としてそういった話をいくつか知っていた。
 この壁の向こうにあるものも、まさにそういうものなのか?
そのドキドキと、先生に見つかったらどうするんだと言うドキドキで心臓がきりきり締め上げられるような気がした。

 昼休みが半分たたないうちに、壁の塗装はあっという間に崩れた。
中から出てきたのは、お化けでもなんでもない、子供たちが描いた絵だ。
「平成2年 6年2組」と書かれてる。
当時の卒業生が描いたものなんだろう。
 30人くらいの男子女子の似顔絵が集合写真のように並んで描かれている。
ただし、異様なのがその顔一つ一つ全てが赤いペンキで「×」と塗られていたこと。
特に、上の段の右から3番目の子は×どころか完全に赤く塗りつぶされ、
その下に書いてあったはずの名前も彫刻刀かなんかで削り取られていた。
 俺たちは先生に怒られるだろうと覚悟を決めていたが、5時間目に先生が来ると
いきなり「よし、5時間目は体育館で自習だ。ランドセルに教科書とか全部入れて、
5時間目が終わったらそのまま家に帰っていいぞ。掃除もしなくていい。
教室に戻らずにそのまま帰れよ」と、全く怒られなかった。
 そして次の日、学校に行くと1階の教室が全て立ち入り禁止になってた。
俺たちは急遽建てられたプレハブで6年の残りの学校生活を送るハメになった。

 この間13年ぶりに小学校の同窓会があって、当然のごとくその事件が話題に上がった。
当時の担任も来ていたので、「先生、あの事覚えてますよね?あれはなんだったんですか?」
と聞いてみたが、「いや、そんな事あったか?覚えてないなあ」とか、超すっとぼけてた。
だが、俺たちは全員あの事件を覚えている。












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