大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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☆( 1年間366日分の日々の出来事  )

B,日々の恐怖

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☆(  しづめばこ P574 )                          

日々の恐怖 4月30日 店舗

2013-04-30 18:44:48 | B,日々の恐怖









      日々の恐怖 4月30日 店舗










 Sさんはなかなか変った経歴の持ち主で、大学を出てから単身渡米し数年かけて小型機のライセンスを取ったりと色々な事をしていました。
その頃Sさんは、滞在費が寂しくなると一時帰国し、割の良いバイトをして資金を作っていたそうです。
 円が強かった時代を思い出させる話です。
そこで、よく世話になっていたのが、都心のとあるバーです。
仕事はきついが金になります。
 そこには人柄の良いバーテンさんがいて、マスターから暖簾分けの様な形で独立する事になりました。
Sさんも誘われて、次に帰国した時は新しい店で雇ってもらう事になりました。
 新しい店を出す場所は、ロケーションは良いのに店が長続きしない、と言う曰く付きでしたが相場よりも賃料が随分安い。
新マスターから届いた手紙には、新規開店後、順調に客足も伸びている、と書かれておりました。
 そして、また資金稼ぎのために帰国し、その店にお世話になりました。
しかし、Sさんが入った時には店はガラガラです。
本当はSさんを雇う余裕も無い程でしたが、約束だからと良い時給を出してくれました。
 話を聞くと、開店当初は前の店の常連さんも多く足を運んでくれ、新しいお客さんも続々と来てくれたがどうも定着しない。
前の店と同じサービスをしているのに。
新マスターは頭を抱えておりました。
 そんなある日、出勤途中でばったりと前の店の常連客に会いました。
その人はSさんの事も良く憶えていてくれ、暫し立ち話に付き合ってくれました。
 その人も、新しい店には数回行ったと言うので、Sさんは、

「 何故最近来ないんですか?
僕も今そこでバイトしているんですよ。」

と聞いてみました。
すると、その人は言いにくい話だけど、と前置きして重そうな口を開きました。

「 一緒に行った連れが、カウンターの奥に恨めしそうな顔をした女が立っている、って言うからさあ・・・。
君、何も感じない?」

その事を新マスターに言うと、

「 前にもお客さんにそんな事を言われた事があったけど、悪い冗談としか思わなかった。
そう、その人もそう言ってたの・・・。」

その後、前の店のマスターにも相談し、場所を替えて店を出すと嘘の様にお客さんが集り経営も持ち直したそうです。
 不動産屋によく話を聞くと、

「 あの場所は、随分前にあった店が潰れて、ママが首を吊ったらしいですが・・・。
まだ成仏していないんですかねぇ・・・・。」

マスター達も、まあ、この商売では良くある話だねえと妙に納得したそうです。





















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日々の恐怖 4月29日 悩み

2013-04-29 19:25:03 | B,日々の恐怖








     日々の恐怖 4月29日 悩み








 ある意味怖く、ある意味笑っちゃうようなNさんの話です。
俺が高1の時の話だ。
この頃はもう両親の関係は冷え切っていて、そろそろ離婚かな、って感じの時期だった。
 俺はと言えば、グレる気にもなれず、引き篭り気味の生活を送っていた。
授業が終わると、真っ直ぐ家に帰って自室に直行。
飯も自室で一人で食っていた。
 でだ、見ちまった。
母親が夜中に、庭の立ち木に何かを打ち付けているのを。
直感的に、親父の藁人形と思ったが、その場では確認しなかった。
っちゅーか動揺しちまって、こそこそ逃げ帰るように自室に戻った。
見たくないモン見ちまったな、ってのが、この時の心境を一番良く表していると思う
 その時は確認出来なかったけど、動揺が収まるにつれて、気になってしょうがなくなって来る。
あれは親父の人形なのか、が・・・。
 で、母親が留守の間を見計らって確認する事にした。
やめときゃ良かったのかも。
結論から言うと、親父の藁人形はあった。
より正確には、親父の藁人形もあった、だが・・・。
 いや出るは出るは、親父の他にも俺の担任、親戚の叔母ちゃん、近所のオバはん、同級生の母親、ダンボール箱半分くらいあった。
釘と名前を書いた札が刺さってる藁人形が。

「 なにやってんだよ、カアちゃん・・・。」

と、つぶやいたかどうかは、あいにく記憶に確かではない。
そう思っただけで、実際には言葉になってなかったのかも。
頭の中が真っ白になっちまって、ボーッとしてただけかも知れない。
この時もやっぱ、見付からないように片付けると、こそこそ自室に逃げ帰った。
 しばらくは呆然としてたと思うんだけど、少し時間がたつと、なんでか知らんが笑いが込み上げて来た。
ヘヘヘッ、から始まった笑いだったが、最後の方は大爆笑になっていた。
笑いが止まらなかった。
もしも藁人形の中に俺の名前があったとしたら、この時俺は笑い死にしてたかも知れない。

「 カアちゃん!
最後の一線踏み止まってくれたおかげで、アンタの息子は笑死しないで済んだよ!
アンタの中の一片の良識に感謝したい!」

 ああもう何ちゅーか、色んな事がもうどうでも良くなっちゃった一件だった。
俺なんかがアレコレ悩んだり心配したりしてたって、現実はそんな杞憂の遥か上っちゅーか。
俺のちっぽけな世界観を粉砕するには充分過ぎる出来事だった。
人間ってのはよく解からない生き物だとも思った。
 もうね、変な幻想なんか見ないで、即物的に生きるのが一番だと思った。
腹が減ったら飯食って、疲れたら寝て、飯と寝床の為に機械的に働いて、動物みたいに・・。
とは言うものの、30超えても悩みはあるかなァ・・・。
ほんと人間ってのはよく解からない。














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日々の恐怖 4月28日 シューポラー

2013-04-28 19:19:53 | B,日々の恐怖








     日々の恐怖 4月28日 シューポラー








 中国人の女性から聞いた実話である。
大連の彼女は、親戚一同と会食をした。
会食も終わって雑談をしていて面白い話を聞いたらしい。
 彼女のおじさんの近所である女性が死んだ。
女性にはもう40になる息子が一人いた。
息子は母親の部屋をそのまま受け継いだが、受け継いだとたんに働かなくなった。
それまでもたいした仕事をしていたわけではなくもともとアル中に近い生活をしていた。
 働かないでどうするのかというと、男は部屋を人に貸して家賃収入で暮らしだした。
暮らしだすといっても古いアパートであるからたいした収入ではない。
したがって、ほかの部屋を男が借りて生活する余裕はない。
なので、男は貸し出した部屋の廊下に布団を引いて、そこで酒を飲んで寝起きするという生活を始めた。
 夏場はよかった。
冬の大連は死ぬほど寒い。
室内は暖気があるのでかなり暖かいが、廊下はマイナス15度前後まで下がる。
 ある日、男が布団に包まったまま死んでいるのが発見された。
ここまででも十分異常だが、この話の異常さはここからだ。

 発見した住民は警察を呼んだ。
警察はやってくるとシューポラーを呼んだ。
シューポラーとはゴミ収集のおばさんのことである。
街中でゴミを運ぶ人力車を引っ張りながらシューッポッラー!!と昼間と夕方ぐらいに歩き回っている大連では風物詩といってもいいような人たちだ。
 このおばさんたちは呼ぶとやってきて、古紙、ペットボトル、その他なんでも大体買い取ってくれる。
非常に便利な人たちなので私はよく利用していたが、大連で知り合ったほかの日本人は知らないといっていたので、たぶん地域によって現れる場所とない場所があるのだと思う。
 警察は自分たちが呼ばれてからそれが死体だと知ると、このゴミ集めのおばさんを呼びつけた。
そして、とにかく命令のような形で、この死体をどこそこの病院に運べと指示した。
 おばさんも死体なんか運びたくなかっただろうが、中国の警察はチンピラみたいなもんなので、逆らうわけにもいかず、素直に指定の病院まで運んだ。
病院まで運ぶと今度は病院側が死体なんか持ってくるな、こいつは死んでるから病院の管轄ではないと言われ、また、死体を元の場所に持ってきたが、またおばさんは死体をどこかへ持って行けと猛抗議され、そのまま死体をつんでおばさんはどこかへ去った、という話。

 まるで都市伝説のようだが、実話である。
この話を聞いて日本人なら不思議に思うことがあるはずだ。
まず警察は何で死体が誰なのかそして、親戚などがいないのか、いるならば親戚と連絡を取り、死体の状況を事件性がないかどうか調べた上で遺族に引き取ってもらうが普通の流れではないだろうか。
 ところが中国ではこうした形で死んでしまった場合、死体は非常に迷惑なゴミと同じ扱いになる。
警察もゴミだからゴミのおばさんを呼んだのかもしれないが、いずれにしても怖い話だ。

 さて、中国ではこうした身元不明というか調べる気もなさそうなのですべて身元不明になってしまう可能性が高そうだが、行き倒れのような死体はどうなってしまうのか気になる。
 そもそも中国には日本で言う無縁仏のようなものはない。
処刑された死体にしてもこうした死体も多くの場合、まず大学の医学部が奪い合うという。
 奪い合うという表現は非常に変だと思われるかもしれないが、今はどうかわからないものの、以前は解剖用遺体というのは奪い合うものだった。
 死刑が行われると外には大学の学生が待っている。
銃声が聞こえると医学部の学生たちは一斉に走っていき、死体に早くたどり着いたものが死体を持っていく。
まさに運動会、早い者勝ちであるが、こういうルールだったそうだ。
昔、女医をやっていたお母さんから聞いた話なので本当だと思う。
 で、解剖された遺体は臓器などは標本に、骨格もきれいな状態であれば標本にするという。
とにかく、無駄の出ない形で遺体は処理された。
このあたりのくだりはアウシュビッツに近い感じがするが、とにかく、日本のように検体者用の墓のようなものはなかった、というか死体に対する敬意はない。
 日本では、医学部などの教授とかそういう人も死ぬときは検体にまわしてもらうというような話を養老猛さんの本だかで読んだ記憶があるが、こういう意識は中国人にはゼロなのかもしれない。
まあとにかく中国で孤独死なんかしたら・・・、と想像すると背筋のぞっとする話でした。


















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日々の恐怖 4月27日 ネットショップ

2013-04-27 18:06:17 | B,日々の恐怖








     日々の恐怖 4月27日 ネットショップ








 よくネットで買い物をするのだが、最近はDVDなんかも発売したばっかのヤツがネット上でかなり安売りされていたり、購入の操作自体も簡単で一度登録しておけば、俗にいうワンクリックで即座に完了するので非常に便利でついつい要らんものまで買ってしまう事が多くなった。
だけど、今でも絶対に買わない物がある。


 女の子と違って、ファッションに関心の有った若い頃なら別だが、結構洋服を買いに行くのって面倒なんだ。
 いざ店に入っても気に入った商品が無かったりすると、もう一軒行こうなんて気力がなくてこれで良いか、なんてその店で決めてしまう。
その時も、休日に買い物に行こうかどうか考えていたんだが、ふとネットで探してみようか、と思い立った。
 洋服っていうキーワードで検索すると、出てくる出てくる、もの凄い量。
「こりゃ、良いや」って、普段の洋服屋の店頭じゃお目にかかれないカタログから選べる様な感じも楽しい。


 コートが見つかった。
デザインも気に入ったし、値段もそこそこの感じだ。
早速例のワンクリックをしようと思って、商品説明をもう一度見てみると、

『 中古良品。目立った傷等はなし、クリーニング済み。』

とあった。
“中古品か・・・。”と一瞬迷った。
DVDなんか、中古だろうと画像がちゃんとしてりゃ問題ないけど、服は他人が着ていた物だし、どうするか?
少々悩んだけど、結局購入する事にした。


 一週間後、宅急便でコートが到着した。
洋服の中古品、要するに古着を買ったのは始めてだし、結構緊張して商品をチェックしてみた。
 キズは無いようだ。
汚れも付いていない。
試しに匂いを嗅いでみたがクリーニングしたての例の匂いがするだけ。
“良いんじゃね、これ・・・。”と安心して翌日から早速会社に着て行った。

その夜、会社から帰宅して、財布や手帳を取り出そうと内ポケットを探った。

「 あれ、手帳がねえぞ・・・。」

ビックリしてコートをまさぐると、確かに手帳らしき物の膨らみは有る。
どうしたのかと内ポケットを調べると、何の事は無い、穴が開いてやがった。
コートの裏地の中に、ポケットから滑り落ちた手帳が入っている。

「 あちゃ~、やられたな。」

やっぱり古着は古着だ。
安いだけ有る。
 手帳を出そうと、それ以上のポケットの破れを広げない様に苦心して手を突っ込むと、手帳以外に紙切れが入っていた。
よくティッシュなんかを入れたままクリーニングに出したみたいにまるまった紙切れが出てきた。

「 ちぇ、オマケ付きだ、ゴミが入ってやがる。」

破かない様に、紙切れを広げてみた。
 それは、何かメモ帳の様な物が数枚とレシートが一枚だった。
かすれた鉛筆で書かれた文字と数字がビッシリと書かれていた。

『○○金属¥250,000』とか『○○インダストリー¥500,000』

とかが縦に書かれて、その横に×印が書いてあった。


 翌日、会社の同僚と居酒屋に行ったときに、この古着とゴミの話をした。
ひとしきり失敗談に笑っていた同僚が調子に乗って

「 そりゃ絶対にサラ金の取立てメモだ、借金したヤツの恨みがこもってるぞ。」

とか言うので、調子に乗った俺は、

「 ほら、こいつが呪いのメモ帳だ。」

と、例の紙切れをテーブルに放り出した。女の子がキャーキャーと騒ぐ。
 すると、紙切れを見ていた同僚の一人が言った。

「 これ、本当にサラ金か?
このリストって会社ばっかだろ?
個人名が書いてねえし、だいたいサラ金って銀行からも取立てんのか・・・?」

言われてみれば、リストには銀行と信金とかも書かれている。

「 こりゃ、借金は借金だけど、サラ金の取立てじゃなく借りようとしてるヤツのメモじゃねえの?
零細企業の社長とかさ・・・。」

 メモにある無数の×印は、取立てが失敗したのではなく、借金を頼んで断られた印で、数少ない○印は何とか借りられたって事じゃないかと言う。
計算すると、×が約1200万、○は300万で、殆どが×印だった。
 考えすぎかとも思ったが、メモにある数字と×印がふるえているのを見ると、零細企業の社長が寒空の下で、倒産の恐怖に震えながら得意先に頭を下げに駆け回って、ダメだった結果を鉛筆で書いているシーンが浮かんで来てしまう。


 悩んだ末に、結局コートは捨てた。
それ以来古着は買わない。
それは、翌日になって、ふとゴミ箱に捨ててあった例のレシートを見たからだ。
一枚と思ったレシートは、実は二枚で、水にぬれたか何かでくっ付いていたのだ。
 1995年12月24日、23時の日付のあるコンビニのレシートにはコーヒー3本と肉マンが3つと印刷されていた。
イブの夜中にコーヒーと肉マンを食べていた様なのだ。
そしてもう一枚には、翌日の25日、ファミレスでステーキ二つとお子様ランチの3名の記録が載っていた。
 そもそも借金云々だって単なる想像だし、この3名だって家族かどうかも分からないんだよね。
ただね、この3人がクリスマスに楽しく食事をしたとは思いたいんだ。
最後の晩餐じゃなくて。
















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日々の恐怖 4月26日 手

2013-04-26 18:58:17 | B,日々の恐怖







     日々の恐怖 4月26日 手







 叔父から聞いた話を紹介したいと思います。
おそらく二、三十年前、叔父が様々な地方を巡って仕事をしていたころ、ある地方都市で一週間、ビジネスホテルで生活しながら働くことになった。

 叔父はそのホテルの近くに、変わった古着屋が建っているのを見つけた。
そこは一階が古着屋、中の階段を上がった二階がレコード屋になっている店で、二階に中年のおじさん、一階に若い店員がいたという。
店の雰囲気から、中年のおじさんの方が二つの店の店主らしい。
どちらも古びた洋風の内装とやや暗い照明で、扱っている品とはギャップのある、レトロというよりアンティーク調の不思議な雰囲気を出していたという。
 そこの店では、叔父の好きな六、七十年代の洋楽がいつも流れていた。
有線か、店主が趣味で編集したテープを流しているのだろうと叔父は思った。
叔父は古着に興味はなかったが、レコードと店の雰囲気で通っていた。

 叔父は仕事の最終日に、レコードでも何枚か買っていこうと思い、夜その店に行った。
店に入ると、今日並べたばかりらしい古びた感じのジャケットが売られていた。
 普段そんなものを着ないはずの叔父は、何故か妙に惹かれてそれを眺めていた。
ちょうどその時、聞き覚えのある音楽が流れてきた。
しかし、叔父はその曲の名前が頭に浮かんでこなかった。
(聞いてみると、「ブッチャーのテーマが入ってたやつの南国リゾート風の曲」と言っていたので、多分ピンク・フロイドの『サン・トロペ』)
叔父は少し悩んだ後、上のレコード屋で確認しようと階段に目を向けた。
 すると、階段の横の壁に見たことのない穴が開いていた。
床から少し上の所を、爪先で何度も蹴って開けたようなでこぼこした横長の穴だった。
叔父は一瞬戸惑ったが、普段はそこに段ボール箱が置いてあるので分からなかったことに気付いた。
 しかし、何故壁を直さずに段ボール箱を置くだけで済ますのか。
不思議に思いながら階段へ行こうとした時、穴からノソッと何か出てきた。
叔父には最初、変な生き物に見えた。
 よく見るとそれは、手のようなものだった。
穴から手首の先だけ出して、下に掛かった物を取ろうと指を動かしているように見える。
しかし大人の手より明らかに大きい。
 手は何かの病気のように気味悪く黄ばんだ色で、爪も土を素手で掘った後のように黒くぼろぼろだった。
どの指も太さも長さも同じぐらいで、親指と小指の区別もつかない。
指の生え方が違うのか、普通の手より左右対称に見えるのが余計不気味だった。
また、中指の付け根がちらつくので、指輪をしているように見えた。
 叔父はしばらくそれを見ていたが、もっとよく見ようと近づくと、穴の中に消えた。
あまりに変なものだったので若い店員のほうを見たが、怪訝な顔をされた。
ちょうどそこに、何か用があったのか2階の店主が階段を降りてきた。
 店主に今見たものを知らせようと、声をかけて穴を指さした時、穴から指が二本伸びてきて、ぴくぴくと指先を曲げながら左右にゆっくり揺れていた。
こちらを窺うような、虫の触覚の様な不気味な動きだったという。
 指はしばらくその動きを続け、自分のすぐ横にいる階段の途中の店主を向くと、また穴に戻った。
さすがに気味が悪くなった叔父は、それ以上何も言わず入り口に向かった。
その直後、

「 お前、箱どうした!」

という大声に驚き振り向くと、店主が階段で穴を睨んだまま、若い店員が慌てた様子で段ボールを穴の前に置きに行くのが見えた。

「 あの手のことは、店主しか知らないみたいだった。
普段は穴塞いでるから油断したんだな。
しかし、段ボール箱一つで穴塞げばどうにかなるものかなあ、結構でかかったんだけどな。
でもあの手より、箱置いて済ませて、客の俺に説明も弁解もしないあの店が一番怖かったなァ。」

と叔父は笑って語っていました。
叔父は今でもその店があるのか気になるそうです。














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日々の恐怖 4月25日 月

2013-04-25 19:23:15 | B,日々の恐怖







     日々の恐怖 4月25日 月





 私の祖母は、祖父と共に佐世保近郊の出で、とりわけ山深い土地で生を受けました。
生家は本家で、一族は周囲の山を開墾し、そこで農業を営んでいました。
祖母も小さなころは、牛を引くような生活をしていたそうです。
また、祖母は六人兄弟の上から三番目の、ただ一人の女児でした。
そのためもあったのか、特に実母に大変可愛がられたそうです。
 
 そんなある日、祖母がまだ小学生の時分、お母さん(私からすると曾お婆ちゃん)が夭折してしまいます。
その後、後妻が向かえ入れられましたが、彼女は激しい躾をする方でした。
 ある時、躾に耐えかねた祖母は、後妻に向かって、
 
「 お前なんか、死んでしまえばいい。」

と、言ってしまいました。
すると、後妻は、祖母にこう答えました。

「 私が死んだら、化けて出てやる。」
 
それで、しばらくして、本当に後妻が亡くなってしまったのです。


 それから、数年たったある夏の晩のこと。
祖母が、一つ下の弟と蚊帳の中で寝ていると、弟がしきりに自分の体をゆすり動かしてきます。
目を覚ました祖母が弟に、

「 どうしたのか?」

と聞くと、部屋の天井の隅を指さして、

「 お姉ちゃん、あれは、なに?」
 
と聞いてきます。
 祖母が、弟の指し示す先を見ると、まん丸い玉が黄色く光りながら浮いていました。
その玉にしばらく魅入られていた祖母でしたが、弟を怖がらせてはならない、気丈に振る舞わなければ、と思い、

「 あれは、お月様だよ、大丈夫だからおやすみ。」

そう、おびえる弟を諭し、安心させ寝かしつけました。
 その光は黄色くぼんやりと部屋の隅に浮いていて、祖母を見つめているようでした。
祖母は、この先の記憶が定かではありません。
もう、80年以上も昔の話だからです。
 
 後年になって、何となく、あの部屋の中の月はもしかすると後妻だったのかもしれない、と思うようになったのだそうです。
話し終わった祖母は、私にこう話してくれました。

「 後妻に厳しく躾てもらい、覚えた、礼儀、裁縫、煮炊きは、あの月の記憶のようにずっと私の裡にあって、私の人生を支えてくれたんだよ。
お母さん、ありがとう。」


















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日々の恐怖 4月24日 宅配

2013-04-24 18:31:41 | B,日々の恐怖







      日々の恐怖 4月24日 宅配







 大学生の頃の話です。
俺は下宿近くにある定食屋で出前のアルバイトをしていた。
まあ本業の片手間の出前サービスって感じで、電話応対やルート検索、梱包、配達まで調理以外のをほぼ全てを俺一人でこなすという感じだ。
客の大半は俺と同じように大学近くで下宿する学生なので1年もバイトをすれば 、寮の名前や位置は勿論、どんな人が住んでるかってのが大体わかってくる。
 その日もいつも通り数件の配達をこなして、そろそろ上がりっていう時に店の電話が鳴った。
以下はその時の会話。

「 毎度ありがとうございます、○○(定食屋の名前)です。」
「 宅配をお願いします。」
「 ありがとうございます。
それではお名前とご住所、お電話番号をお願いいたします。」

声の主の返事はなかった。
 自分の住所を正確に把握していない人は経験上割といたのできっと調べているのだろうと 、その時の俺は別段気にすることもなく返事を待つことにした。
案の定暫くすると、

「A田、○○町△△□□番地、080・・・・・。」

という返答があり俺も一安心。
その後はいつも通りオーダーをとった。
ゼンリンで調べると名前からしていかにもな学生マンションの場所に一致した。
 商品を荷台に乗せ原付で走って5分程度、農道を少し入ったところにそのマンションはあった。
結構大きい建物だったので遠目に見たことは何度かあるが近くに行ったのはその日が初めて、鉄骨4階建てのかなり年季の入った趣、外観だけ見てもボロいことはすぐにわかった。
21時を過ぎた、そこそこ遅い時間なのに灯り一つ点いていない。
正直家賃1万円でもここには住みたくないというのが俺の感想。
 ここで俺は初歩的なミスに気付いた。
部屋番号を聞くのを忘れていたのだ。
こういうミスがあった場合は大体俺の携帯から客に直接電話するのだが、突然知らない番号から、特に携帯電話から掛かってきた電話を取る人間はそういない。
 若干気落ちしながらもとりあえずメモを片手にコールする。
相手が出たのは驚くほど速かった。

「 もしも・・。」
「 管理人室ですよ。」

そのあまりの察しの良さは気味が悪かったがとりあえずお礼を言い、建てつけの悪そうな 戸を開けてエントランスに入った。
 暗い、遠くの道を走る車の音が聞こえるぐらいの静寂。
人の気配が全くしない。
引き戸の扉が左右に並ぶ廊下が続く、廊下の蛍光灯は点いていない。
 スイッチを探す手間よりも、さっさと届けて帰りたいという気持ちが強かったので、そのまま奥に進み管理人室の戸をノックする。
ガラガラと戸が開いた。
部屋からの光が廊下に漏れる。
 声のイメージ通りのヒョロっとした風貌の男性が、

「 遅い時間にすみません。」

と迎えてくれた
俺は部屋の灯りとその丁寧な対応に安心してしまい、

「 暗かったから、ここまで来るのが凄く怖かったですよ。」

なんて冗談交じりの営業トークが出来るぐらいの余裕は取り戻した。
 その後受け渡しと支払いは滞りなく終わり俺は帰路についた。
それから閉店の22時までは店長とダベりながら掃除や片づけをし、今日の売り上げの清算をするいつもの流れに戻った。
 注文を取った伝票を照らし合わせながら電卓で計算していくと2000円以上売り上げが 不足していた。
10円やそこらの差額はたまにあり、自分の財布からこっそり足すことはあったが、この差額はあまりにも大きい。
横で清算を見ていた店長も、

「 心当たりは?」

と首をかしげていた
 札一枚どこかで落としたなんてことは有り得るが料金があまりにも中途半端なので、今日宅配で回った伝票の額と差額を照らし合わせていく。
答えはすぐに出た。
あのマンションに宅配にいった時の伝票に書いてあった額だけがすっぽり抜け落ちていた。
 恐らく○○学生マンションを訪問して帰るまでにお金をどこかに忘れてきたということを説明すると、店長は更に首をかしげながらこう言った。

「 マンションの名前間違ってるんじゃないか?
もう一回ちゃんと調べてみろ。」

指示の意図がよくわからず、もう一度ゼンリンを開き住所の場所を指すと、店長は奥から持ってきた学生寮の住所や大家さんの電話番号が記録されてるノートをめくりながら更にウンウンと唸っていた。
 俺は差額について特に咎められることもなく賄いを食べその日は下宿に帰った。
普段は結構口を酸っぱくして指導するタイプの店長がこの日に限ってこんななぁなぁな対応だった理由を知るのはその数日後のこと。
 次のシフトに入った時、店長から、

「 もしこの前のA田さんからの注文来たら、やんわりな。」

というお達しがあった。
これは理由を付けてやんわり断れという意味だ。
いたずら電話だったり悪質なクレーマーに店がこの措置を取ることは以前から知っていたが、いきなりすぎたので俺も、

「 何かあったんですか?」

と質問してしまった
店長は、

「 まあちょっと、○○(俺)にも気味の悪い話で悪いんだけど・・・。」

という前置きで、煙草をふかしながら話し始めた。
 あの学生マンションは5,6年ぐらい前までは店の常連だった人が経営していたらしく、その繋がりで結構住人にも贔屓にしていたそうだ。
しかし、その常連さんが病死してからは管理する人間がいなくなったことで学生寮は閉鎖。
まあ学生寮の閉鎖自体はここ数年の流れを見てもそこまで珍しいことではない、というのが店長の談。
そんな事情があったからこそ先日そのマンションに宅配に行ったという俺の話を聞き、もしかすると親族の人間が新しく経営し始めたんじゃないかと思い昨日の昼間、挨拶と下見も兼ねて寮まで行ってきたそうだ。
 だが、寮は荒れ果てたままでどう考えても人の住んでいる感じではなかったらしい。
やっぱり俺の間違いだったという結論でそのまま帰ろうとしたとき、管理人室から、

「 どうぞ。」

という籠った声が突然聞こえたらしい。
 かなり驚いたらしく、その場で固まっていたらしいが、

「 どうぞ。」

という声がもう一度聞こえたので恐る恐る戸を開けると中は朽ちかけで、何度か呼んだがその後返事はなかったらしい。
店長は寮を飛び出して真昼間にもかかわらず一目散に逃げた。
足元を見た店長は気付いたそうだ。
先日俺が運んだであろう料理が床にぶちまけられていることに。

 それ以上は聞きたくなかった。
幽霊にしろ何にしろ、俺はそのわけのわからない寮で、わけのわからないものと談笑しちまったんだから。
俺が控えていた電話番号にも電話したみたいだが繋がらなかったらしい。
勿論、俺は発信履歴を削除した。

 数か月後俺は店を辞めた。
1年半勤めたのでそろそろ環境を変えてみたいというのは建前。
仕事をしているとどうしてもあの時のことが脳裏をよぎった。
 辞めることを決定付けたのはその出来事から1ヶ月と少し経った頃、再び例のA田から電話があった。
俺はわざと店長に聞こえるように「A田様ですね?」と声が震えるのを必死に抑えながら復唱し、それを察した店長が「替われ」とジェスチャー。
出前のサービスは暫く見合わせてると嘘をついていた。
 電話を切る間際、店長の顔が明らかに動揺しているのがわかった。
店長が俺を見て一言、

「 今から店に来るみたい・・・・。」

もう限界だった。
 その日、結局A田を名乗るものは来なかった。
俺は都市部に住居を移したしバイトを辞めたしで店と疎遠になり、それ以降のことは知らない。
















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日々の恐怖 4月23日 椅子

2013-04-23 18:42:03 | B,日々の恐怖







    日々の恐怖 4月23日 椅子







 Kさんが高校受験を間近に控えた冬のことです。
元気だった祖父が、腹部の痛みを訴え入院しました。
検査の結果肝臓ガンで、もう手の施しようが無い末期だった。
 3月末に無事受験と卒業式を終え中学校最後の春休みを過ごしていた頃、日に日に痩せ細りゆく祖父に身内が交代で側につく毎日が続いていた。
その週は多忙だった父と姉が体調を崩したため時間に余裕のあったKさんが、仕事帰りに父が迎えに来るまで祖父の側に付くことになっていた。
 Kさんが病室にいると、不意に祖父から声を掛けられた。

「 ○○。」
「 ん、なに、じいちゃん?」

時刻は、消灯時間を過ぎた午後9時だ。
 その日は、父からは遅くなる旨を告げられていた。
椅子に座り本を読んでいたKさんの方に首を傾け、こちらを見る祖父と目が合う

「 ○○、椅子。」
「 椅子・・・?」

祖父はもう自力では寝返りさえ困難になっており椅子など不用の筈で、その言葉に違和感を覚えた。

「 椅子出して。」
「 椅子って?」
「 △△が来てるじゃないか。」

よく見れば祖父の視線は、KさんではなくKさんの後ろの入り口を見ていた。
一瞬の間があり、全身が総毛立ち言い知れない不安に押し包まれる。
 祖父が名前を呼んだ実兄の△△さんは1週間前に脳溢血で既に急逝しており、その葬儀等の慌しさの中、祖父に言うかどうかの話し合いが持たれ、結果、祖父には知らせずにおこうと言うことになっていた。

「 椅子出して。」

投与される鎮痛剤で幻覚でも見ているのだと自分に言い聞かせるものの、薄気味悪さで一杯になりながら空いてるスペースに椅子を差し出した。

「 ん・・・・。」

と、一言言ったきり何も話さず空間を見つめ続ける祖父。
 自分の直ぐ隣には、主のいない椅子が置かれてる状況である。
沈黙が支配する個室でアナログ時計の音だけが静かに響き、時間が異常に長く感じられた。

「 ○○。」

5分程経った頃に、不意に祖父が沈黙を破った。

「 △△が、帰るそうだ。」
「 あ、ああ・・・、送って行くよ。」

何故、そんな応え方をしたか分からない。
ただ部屋から出たい一心で、傍らの椅子を素早く片付け個室を出た。
 暗く沈んだ無人の廊下を自分の履くスリッパの音を聞きながら、ナースセンターの前を横切り、小さい明かりのついた薄暗いホールで閉じられたエレベーターの扉に向かって何故か会釈をした。
 それで、相当気分も滅入っていたけれど、突っ立っている訳にも行かず祖父の個室へ戻った。
そして、病室に戻るなり全ての電気を点け、すっかり室温と同化した温めの飲み物を喉に流し込み、父が来るまでに何とか気でも紛らわそうとテレビに手を伸ばしたときだった。
 病室から出るときに目を閉じていた祖父が、またこちらを見ているのに気がついた。 

「 なに?」
「 ○○、△△を送ってあげなきゃ駄目じゃないか。」

 後日、この話を母に告げたところ、容態が悪化して母が病室に泊まりこんだときは毎日のように来客があったそうです。
















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日々の恐怖 4月22日 鏡

2013-04-22 19:17:57 | B,日々の恐怖







     日々の恐怖 4月22日 鏡







 Fさんが大学生になってからのことです。
引っ越した先の一軒家で、なんとなく他人の視線を感じるようになりました。
 いつも感じました。
朝起きた時から夜眠りにつくまで、いつも感じました。
ただ、不思議だったのは、家から出ると視線を感じないということでした。
こんなに変なことがあるのでしょうか。

“ 気持ち悪いわよねえ。”

Fさんは段々不安になってきました。
 外に出て、他人の視線を感じるというのなら分かります。
しかし、母親の他には誰もいない家の中で誰かが見ているというのは、どうにも分かりません。
歯を磨いていても、顔を洗っていても、服を着替えていても、メイクをしていても、風呂に入っていても、なんとなく視線の注がれているのをFさんは感じました。

“ どこかに、誰かいるんだ。”

姿が見えるわけではないのですが、なんとなくもうひとりいるのが感じられます。
 ですが、Fさんの部屋の中には鏡台がひとつ、ベッドに本棚、机に椅子、それだけしかありません。
押入すらもありません。
人が隠れるようなところなど、どこにもありません。

 そんな日々が続いていたころの夜。
カーテンを閉めようと思って、Fさんは席をたちました。
窓ガラスに部屋の中が映っています。
ぼんやりとですが、部屋の中の雰囲気がよく分かります。
 瞬間、Fさんの瞳が凍りつきました。
なぜかといえば、Fさんを見つめている視線の主が分かったからです。
それは、鏡台の中にいました。
鏡の中にいるFさんが、窓辺にたっているFさんの背中をじっと見つめています。
 どう考えてもおかしな現象でした。
Fさんは鏡に背中を向けています。
本当ならば、鏡に映っているFさんは背中のはずです。
ところが、そうでありません。
正面を向いて、Fさんの背を見つめています。

“ どうしよう・・・。”

自分にむけられている自分の視線が、Fさんはたまらなく恐ろしくなりました。
身じろぎもできないほど、身体が硬直していました。
振り返るしかないのでしょう。
もし、にやりと笑ったら、どうなるでしょう。

“ 卒倒しちゃうよ。”

Fさんはそう思いました。
 しかし、いつまでも窓に向かって立ち続けているわけにもいきません。
ぐっと拳を握りしめて、Fさんは思い切り振り返りました。
途端に、拍子抜けしました。
鏡の中には、おびえきった顔をしたFさんがいるだけでした。

 その夜、Fさんは一睡もできませんでした。
ベッドの中に潜り込んで、鏡だけは見ないようにしていたのですが、怖くて怖くて仕方ありませんでした。

“ 鏡台に背を向けながら横になっている私を、鏡の中で立っている私が、じっと見つめているのではないか・・・。”

と思うだけで、歯が噛み合わないほど、Fさんは震えていました。
 その一方、考えてもいました。
どうすれば、私は私の視線から逃れられるんだろうと考えていました。
家中にある鏡を割れば、もしかしたら事が終わるかもしれませんが、そんなことはできるはずもありません。
 朝になるとともに、Fさんは部屋から飛び出し台所へ駆け込みました。
母親が驚いたような顔をして、Fさんを見ます。
説明したところで仕方ないし、いったいどう対処すればいいのだろうと思いながら、ホットミルクを一口だけ飲みました。

 結局、Fさんは鏡台だけを捨てることにしました。
もともと古道具屋に行って無料も同然な値段で買い求めてきたものだから、金銭的には惜しくありませんでした。
ただ、少しばかり気に入っていたものだったので、ほんの少し残念な気分になっただけでした。
 しかし、鏡台を捨ててからというもの、自分の視線を感じるということがなくなりました。
Fさんは机の上に鏡を置いて、なにもかもその鏡で用をたすようにしました。
鏡に映ったFさんは、Fさんのする通りに動くだけです。
Fさんは、ときおり窓辺にたって鏡を覗き込んでみますが、常に自分の背中しか見えなくなっていました。



















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日々の恐怖 4月21日 踏切

2013-04-21 19:47:00 | B,日々の恐怖






    日々の恐怖 4月21日 踏切






 Kさんの弟の話です。
当時弟は、静岡県内のZという地域密着型の地図制作会社でアルバイトをしていました。
数日前にも体験談を紹介したように、Kさんの弟は色々と不思議な経験をしています。

 夜、弟がバイパスを自転車で走っていると、バイパス下に交差するように延びている東海道線が気になった。
真下は荒れた畑で、その中にポツンと一つの踏切がある。
 遮断機が光っていた。
電車が近づいてくる音が、彼方から響いてくる。
 と、畑のただ中を、ワンピースを着た女が線路に向かい歩いていた。
弟が見ている最中、女は線路横に設置された丈の高い柵まで来ると、それを登り始めた。
ちょうどその辺りで、間近に電車が迫って来ていた。
 女は柵を乗り越え、線路に飛び込んだ。
地面にぶつかる瞬間、女は消えた。
その上を、何事もなかったかのように電車が通過して行った。















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日々の恐怖 4月20日 薄紫色の煙

2013-04-20 17:54:59 | B,日々の恐怖






     日々の恐怖 4月20日 薄紫色の煙






 数年前、自宅近くの神社で首吊り自殺があった。
神社は生活道路に面した場所にあって、境内にはブランコや滑り台などの遊具も設置されており、どうしてこんな所で? と思いたくなる立地条件だ。
 亡くなったのは地元の人間ではないらしく、事件性も見当たらないのでニュースにもならなかったが、いつも神社で子供が遊んでいることを考えると、母親たちにとって嫌な出来事に違いなかった。
 死ぬのは勝手だが、子供たちの遊び場近くで首を吊るのはやめてほしい、ほとんどの母親は切実にそう感じただろう。
そんな話から、わたしはあることを思い出した。

「 人はね、死ぬときでさえ、人間の近くがいいらしいよ。」

昔、わたしの母親がポツリとそう言ったことがある。
 母親の実家はとてつもない山奥で、子供たちは里の小学校へ数キロの道のりを毎日歩いて通っていた。
歩くことは嫌ではなかったが、時折・・・そう、年に数回、嫌なものを見たという。
 帰り道に、ふと家のある方向を見上げると、山の中腹から紫がかった煙の筋が見えることがある。
空に向かってまっすぐ立ちのぼる薄紫色の煙。
年上の子供が目ざとくそれを見つけては、

「 また燃やしてるぞ。」

と、まるで警告するように言うのだ。
 薄紫色の煙は、2~3日はそうやってユラユラと空へ向かって昇っていくのだが、子供たちはその間、絶対に煙を見ようとしない。
母親もそれにならって、登下校中はもちろん、家にいる間も決して煙を見なかった。
 薄紫色の煙の正体は、死体を焼く時に出るもの。
村の墓場で死体を焼いているのだ。

 当時は土葬が一派的な時代だ。
村人が亡くなれば、山の中腹にある墓地に埋葬されるのがならわし。
 焼かれているのは、村人の亡骸ではない。
終戦間際の混乱期、兵役で命を落とす人もいれば、自殺する人も大勢いた。
経済的な理由、世間的な理由、理由は様々だろうが、生きる意味や意欲を無くした人たちが、田舎の侘しい山中で首を吊る、なんて出来事は珍しくなかった。

「 もっと山奥まで踏み込めば、人にみつからずに死ねるのにね。
どういうワケか、みんな人にみつかりそうな場所で死ぬんだよ。
きっと、誰でもいいから自分を見つけて欲しいんだろうね。」

それが、わたしの母の持論だ。
 だがやはり、人が焼かれている薄紫色の煙を見るのは、子供心に怖かったらしい。
自殺した人のほとんどは身元が分からず、警察も亡くなった人の身元引受人を真剣に探してくれるような時代ではなかったので、村人たちは仕方なく死体を墓地で焼くことにしていた。
 万が一家族が現れた時、骨にしておけばすぐに引き渡してやれる。
丸太で大きなやぐらを組んで、男衆が数人がかりで数日かけて骨にするのだ。
自殺者のほとんどは身柄を引き取ってくれる人もなく、村の墓地の無縁塚に葬られたということだが、死体を焼く時の煙の昇り方で、家族が現れるかどうか判ると、子供たちの間では噂になっていたらしい。

・空へまっすぐ昇る煙は、家族がみつからない。

・ユラユラとクネるように昇る煙は、しばらく経って引き取り人が現れる。

そして、

・空に昇る途中で、掻き消えるように見えなくなる煙は、迷って出てくると言う。

特に、その煙を見た子どもの所に。

 以前、そんな煙を見た男の子が一人で下校する途中、誰かに呼ばれて振り返ると、自分の真後ろに首の伸びた青黒い顔の男が立っていて、失神してしまったという出来事が実際あったらしい。
 だから、山の中腹から薄紫の煙が立ち昇っているのを見つけると、上級生たちはみんなに、煙を見てはならない、と教えたのだと言う。
本当にあった、昔の怖い話。





















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日々の恐怖 4月19日 名前

2013-04-19 19:24:10 | B,日々の恐怖







     日々の恐怖 4月19日 名前







 数年前、親父が死んだ。
食道静脈瘤破裂で血を吐いた。
最後の数日は血を止めるため、チューブ付きゴム風船を鼻から食道まで通して膨らませていた。
 親父は意識が朦朧としていたが、その風船がひどく苦しそうだった。
その親父がかすれた声で、「鼻を入れ替えろ、鼻の名前を入れ替えろ」と言った。
俺や家族は、チューブを通す鼻の穴を入れ替えろ、という意味だと思ったんだが、名前が何を意味しているのか分からない。
結局、意識も混濁してるようだから、言い間違えくらいあるだろう、と言う結論になった。
 親父はその次の日に亡くなった。
慌しく葬式を手配した。
その葬式の準備中、献花の配置がおかしいことに母親が気が付いた。
遠縁の親戚からの花が真ん中にあって、親父の勤めていた会社社長からの花が端っこに追いやられていた。
 それで、母親が葬儀屋さんに言った。

「 すいません、あの二つの花を入れ替えてください。
大変でしたら、花に付いてる名前を入れ替えてください。」

その時、俺と祖母が同時に気付いた。

「 今、なんて言った。」

鼻の名前を入れ替えろ、と、花の名前を入れ替えろ。
親父はこのことを言いたかったのだろうか。
お世話になった会社社長に失礼を働くのが嫌で、こんな予言を残したのだろうか。 
献花は葬儀屋さんによって移動したが、もう真実は分からない。
















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日々の恐怖 4月18日 影踏み鬼

2013-04-18 19:49:27 | B,日々の恐怖






     日々の恐怖 4月18日 影踏み鬼






 学校の側のバス停で最寄り駅までのバスを待っていたときのことだ。
普段は自転車を利用しているが、朝から怪しい雲が垂れ込めていたのでバスにした。
だが予想は外れ雨は降らず、さらにKと遭遇してしまった。
 隣でKがべらべらとうるさく何か喋っていたが、いつものことなので聞き流す。
それよりも前方にいる女性のほうが気になっていた。
明らかにイライラとした様子で、何度も繰り返す舌打ちが耳障りだった。
 ふと雲間から太陽が顔をのぞかせた時だった。
Kがふいに声を落として呟く。

「 あ~、あ~、うん、良くない、これはいかん。」

脳内に誰か住んでるんだなと思っていると、おもむろに女性の背後に忍び寄った。

「 ○○さんの影、踏~んだ!」

女性がぎょっと振り返る。
Kは嘘くさい棒読みで、

「 子供心に戻るのって大切だよね!」

と言うと、何事もなかったように僕のほうへ戻ってくる。
顔を背けてみたが、確かに彼女の不信なものを見る目つきの先には僕も含まれていた。
 ほどなくしてバスがやってくると、女の人は車内に知人を見つけたのか甲高い声を上げて乗り込んだ。
相手方が、○○さんと声を掛けていたのが聞こえた。
 僕達は、○○さんから離れた場所に座った。

「 あの人と知り合いかなんか?」

Kはニヤリと笑う。

「 時々乗り合わせるんだよね、美人じゃん?」

ストーカーだった。

「 影踏みには魔を解き放つって意味があるんだよ。
なんつか、あの人の影は淀んでて不安定だっただろ。
美人を放って置く訳にはいかんよ男として。」

僕には、あの人の影がKが言うようには見えなかった。
だが、言われると影を踏む前と踏んだ後ではガラリと纏う空気が変わった気がした・・・、ような気がするようなしないような・・・。

「 なんつか、隠してても出る、体調悪いとか元気ないとか。
そういうヤツの影を、名前を呼んで踏んでやんの。」

Kはそう言った。

「 ちゃんと名前を呼んで相手が気付くように踏むのが重要なんだ。
影は、体とは同じで違うもう一人の自分だから。
自分が踏まれたことを認識させるんだよ、自分が意識していないとしても。
俺の影は、くっきりぱっきりして実に綺麗っしょ!」

Kの影なんて見ようとして見たことなんてないが、うっとうしいぐらい元気だからKの方式で行くと、そういうことになるんだろう。

「 あんま、むやみやたらと人前に影を晒さんほうがいいよ。」

そうも言ったが、それでは闇に生きるしかない。
僕は生まれたときから昼の人間だ。
 ふと思いついてKに聞いた。

「 それじゃKは永遠に鬼なんだな。」

ヤツは答えた。

「 そうだよ。」

Kの影踏みの話を聞き流しているうちに駅に着いた。
 ○○さんとその知り合いらしい人が賑やかに降りていく。

「 お前の影はぼんやりしていて実に薄い。
たまに登校してても気がつかないときあるしな。
俺様が踏んでやろう。
Sの影踏~んだ!
はい、確かにこれこのように踏みました。」

そう言ってKは僕の影をぐりぐりと踏んづけた。
あれだけ出ていてた太陽が引っ込んですぐさま雨が降り出した。
 魔を解き放つということが実際あるのかどうか解らない。
だがK自身にそんな力はなかっただろうと思っている。
それは、確信に近い。
理由は自分が心底ヘコむだけなので話したくない。
 別れしなにKが付け加えた言葉がある。

「 影を踏むのにはまだ理由があるんだけど、Sはやらんほうがいいなァ・・。」

あれが何だったのかは解らないままだ。




















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日々の恐怖 4月17日 リハ

2013-04-17 19:02:09 | B,日々の恐怖






     日々の恐怖 4月17日 リハ






 開業医を営んでいるWさんの話です。
当院は少ないですが、一応入院施設もありまして、時間内救急指定を登録してます。
私は囲碁が趣味で、本来入院患者さんとの個人的な交流はマズいのですが、当時入院をされていたプロ棋士のFさんと毎夜静かに手合わせをしていました。
 Fさんの部屋は三人部屋で、同室には二週間前に機械事故で右肘以腕切除の、Yさんのベッドもありました。
Yさんの手術後数日は、Yさんの御家族が院泊されてましたが、Yさんの肩がリハで動かせるようになったその頃には、もう一日一回見舞い程度になっていました。
後はリハを続け、傷口の治療なので、私の仕事は術後経過程度で残りはセラピストと義手技師の仕事でした。

 日課の消灯前の手合わせをFさんとしていると、「先生は囲碁お強いんですか?」と、Yさんから声を掛けられました。
当院に救急で運ばれてから、ずっと塞いでおられたYさんに声を掛けられて、普段なら「おや、ご機嫌は如何ですか?」など返すところですが、その時の私は、「え、いや・・・。」と、間抜けに応えるしか出来ませんでした。
 今でこそ老眼の眼鏡は必需品ですが、その頃の私は目の良さが自慢でした。
その私が目の錯覚と思える程の、驚きの不可思議な光景がそこにありました。
 Yさんは上体を起こした状態でベッドに座っていて、胸の高さにマグカップが浮いているのです。
私は声も出せずマグカップを眺めていると、Yさんの包帯を巻いた右腕が動き、カップが動いたかと思うと、おもむろにYさんはカップを煽り、残りを飲んでしまわれました。
またYさんの右腕が一旦下がり上がると、マグカップがすうとベッド横のチェストテーブルに着地。
まるでYさんの見えない肘の先が、マグカップを動かしたように見えたのです。
私は失態を隠すように、「飲み物を看護婦に持って来させます。」と、取り繕うのが精一杯でした。

 囲碁の後、談話室で先程の光景を反芻していると、Fさんがやって来ました。
「先生も見ましたか?」と言われ、「ええ。」と短く答えました。
Fさんは、先程の現象はカーテンで見えなかったのですが、昼等に幾度か見たそうで、私の表情で、それが何か分かっていたようです。
「彼にはまだ右手があるんでしょうな。」と、Fさんは私の授業料の缶コーヒーを啜りながら付き合って戴きました。
ちなみに本人には言ってないそうです。

 しばらくして、Yさんは術後経過も良好で、義手リハのため専門の病院へ移りました。
そして、セラピストの報告書に目を通していると、メモ欄に、

『 足元に何かが落ちる音がして、見ると自分が飲んでる缶ジュースのリングプルが落ちていた。
自分でどうやって缶を開けたのか覚えていない。』

旨のことが書いてありました。
私は、あの能力があれば義手も必要ないのでは、と考えると今でも不謹慎な笑みが出てしまいます。

PostScript
 若い方の為に補足しますと、昔の缶ジュースは今のプルタブと違って、リングプルという方式で、完全に缶から抜いてしまわないと飲めませんでした。
昔の道路の片隅にはよく、このリングプルが落ちている光景が見られたものです。




















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しづめばこ 4月17日 P256

2013-04-17 19:01:45 | C,しづめばこ
しづめばこ 4月17日 P256 、大峰正楓の小説部屋で再開しました。


小説“しづめばこ”は読み易いようにbook形式になっています。
下記のリンクに入ってください。(FC2小説)

小説“しづめばこ”



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