大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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☆(  しづめばこ P574 )                          

日々の恐怖 6月30日 チャルメラ(1) 

2019-06-30 09:34:18 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 6月30日 チャルメラ(1) 




 彼女は中学校に上がるまでアパートに住んでいたのだが、そこには冬になると時々、ラーメンの屋台がやってきたそうだ。
 さすがに人力ではなくトラック屋台だったが、夕方になると誰もが知る、

“ チャララ〜ララ〜。”

という音楽を鳴らし、赤提灯とのれんをつけた、どこか哀愁漂う昔ながらのラーメン屋台だったという。
 ラーメン屋台はいつも、アパートの敷地の隅にある小さな公園で客を待っていた
彼女は常々、一度でいいからそのラーメンを食べてみたいと思っていたが、屋台が来るのはいつも不定期で、おまけに母親が夕食の支度に取り掛かる時間にちょうど重なるため、

「 今晩はラーメンにしようよ。」

とねだっても一蹴されていたそうだ。
 結局、彼女はラーメンを食べる機会のないまま、アパートを引っ越してしまった。
悔いが残ったためか、屋台の細部までよく覚えており、特に、トラックに描かれた、

「 あれって、龍・・だよね・・・・?」

と誰かに確認したくなる微妙な絵は、忘れたくとも忘れられないという。








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日々の恐怖 6月28日 お釣り(2)

2019-06-28 09:25:02 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 6月28日 お釣り(2)





 疑問顔の私に、店長は説明してくれました。

「 お釣りを渡そうとすると、何故か硬貨や紙幣がつるつる滑って取りづらくなることがあるんだよ。
その前後の客だと、問題なく取れるのに・・・・。」

 取り損ねるだとか、取り落とすとか、取ろうとして空振りする、というニュアンスではなく、本当につるりと滑って取れないらしい。

「 何度か滑ってから、ようやく取れるんだけどね、だけど・・・・。」

そこまで口にしておいて、店長は言い淀む。

「 滑ってお釣りが渡し難かった客は、どうも近い内に金銭トラブルになるみたいなんだ。」

 それは自発的なものだったり、事故だったり、他人の借金に巻き込まれたり、とにかく金銭的に不幸な目に遭っているのだそうな。

「 たまたま、お釣りが渡し難かった客の知り合いが買い物に来て、投資で大損こいて自殺したって話を耳にしてね・・・・。」

 そんな話に呼び寄せられたわけではないのだろうが、今まで覚えている範囲で渡し難かった客が金銭トラブルで不幸になってるという話が伝わってきたのだとか。

「 これって、どういうことだと思う?」
「 金銭的な不幸に遭う人を見分ける、店長さんの能力とか?」
「 なんだ、そんなの・・・・。」

二人して乾いた笑いを浮かべたあと、店長はポツリと呟いた。

「 もしかして金銭的な不幸を与える能力なのかもなあ。
中には凄く人の良いお客さんもいたんだよ。」

そう呟いて煙草に火をつけた。
 ここで一応、私は宣言してみる。

「 取り敢えず、店長ところで買い物はしません。」

店長は、

“ テヘッ・・・・!?”

と笑ってから、

「 しまった、一人客を逃がしたか・・・。」

再度の乾いた笑い合い。
 ただ、次の台詞には笑えなかった。

「 けど、うちの店だけじゃないかもしれないよ?」











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日々の恐怖 6月26日 お釣り(1)

2019-06-26 11:09:52 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 6月26日 お釣り(1)




 コンビニ店長と世間話をしました。
そのときに出て来た話です。
 コンビニ店長がいろいろな客の様子を話してくれました。

「 コンビニにはいろんな客が来ます。
すごく丁寧な応対をしてくれる客、あからさまにコンビニ店員を見下してくる客、声が小さくて何を言ってんだか分からない客、延々と独り言を呟きながら店内をうろつく客、とまあ様々な感じの客が来ますね。」

それで私が、

「 一番困った客は、どんなのですかね?」

と聞くと、店長はしばらく思案した末に、

「 お釣りを渡し難い客がいるんだけど・・・・。」

と答えました。
 私が、

「 お釣りが渡し難い・・・・・?」

と店長の答えを復唱しつつ、

“ あまりにも強面すぎて声もかけられない客、という意味だろうか・・・・??”

そんな疑問状態が私の顔にもろに出ていたのだろうか、

「 違う違う・・・・・。」

と、店長は苦笑いを浮かべながら首を横に振りました。










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しづめばこ 6月25日 P560

2019-06-25 17:50:44 | C,しづめばこ


 しづめばこ 6月25日 P560  、大峰正楓の小説書庫で再開しました。


小説“しづめばこ”は読み易いようにbook形式になっています。
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日々の恐怖 6月24日 彼の妹(3)

2019-06-24 10:38:54 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 6月24日 彼の妹(3)




 しかし、彼はどこか浮かない顔でため息をついた。

「 先日、久しぶりに妹に会ったんです。
今度結婚するんだと言うので、祝いに飲みに行ったんですよ。
少し照れくさかったけど、意外に話が盛り上がって、お酒も進みましてね。」

楽しい話のはずなのに、彼の顔はますます暗くなり、私は不安を感じた。

「 子供の頃の思い出話で盛り上がっていた時です。
妹が、

『 お兄ちゃん、昔大怪我して、頭を縫ったことがあったよね。』

と言い出しました。
 怪我は何度もしましたが、頭を縫うほどの怪我をしたのは、七歳の時の一度きりです。
妹は続けて、

『 玄関でふざけて飛び降りて、段差で頭打っちゃったんだよね。
私近くで見てて、びっくりしたよ。』

と言いました。
怪我の原因はその通りでしたが、妹はその時、生まれてないんですよね。」

 私が

「 他人から聞いた話を、あたかも自分で経験したかのように思い違いをすることは、ままあることですよ。
妹も、両親などから聞いた兄の怪我の話が心に残り、そのような勘違いをしていたのではないですか。」

と言うと、

「 そうだといいんですが・・・・・。」

と、彼はもう一度ため息をついた。
 そして、

「 僕が怪訝そうな顔をしたからでしょうね。
妹は、しまったというような顔を一瞬だけしました。
その時の顔にね、久しぶりに例の違和感を感じたんです。
僕の妹は、こんなだったかなって・・・・・・。
まぁ、酔っ払いの感覚なんて、あてになりませんよね。」

彼はそう言って、力なく笑った。








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日々の恐怖 6月22日 彼の妹(2)

2019-06-22 09:34:15 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 6月22日 彼の妹(2)




 妹の違和感について、彼は心当たりがあったという。
実は彼と妹との間には、妹が生まれる五年前に、性別も分からぬうちに流れてしまったもう一人のきょうだいがいたのだ。
 妹が生まれるずっと前に、

「 もうすぐお兄ちゃんだよ。」

と父親に頭を撫でられた記憶、肩を落として静かに泣く母親の記憶が、おぼろげに残っているという。

“ 一目会うこともできなかったそのきょうだいは、きっと女の子だったのだろう。
普段は妹に寄り添い見守ってくれていて、妹が妹でない時は、きっとその子が妹に変わって世の中を見ているのだろう。”

彼はそう思っていたという。
 年の離れた兄妹は、彼が進学して家を離れたことを機に、会う回数がぐんと減った。
妹が成人した頃には、彼女の様子に違和感を感じることもなくなったという。

「 いい話じゃないですか・・・。」

私は心からそう言った。








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日々の恐怖 6月20日 彼の妹(1)

2019-06-20 10:08:24 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 6月20日 彼の妹(1)




 彼には八歳離れた妹がいるのだが、その妹について、彼は子供の頃から不思議な感覚を持っているという。
彼に言わせると、

“ 時折、妹が妹でない時がある。”

というものだ。
 どこがどう違うのか、それを説明することはできない。
ただ、朝起きておはようと言った時、食事中、歩いている後ろ姿、何気なくこちらを向く仕草、あくびの後、眠っている最中でさえ、

“ 今は、違う。”

という違和感を感じるのだという。
 両親にそれを告げても、意味がわからないと相手にされなかった。
彼自身、意味がわからなかったのだから、仕方のないことだった。
 妹が妹でないと感じる時間は、一瞬の時もあれば、長くても三十分程度だった。
なので、そのうち彼も気にしなくなった。


 






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日々の恐怖 6月19日 嫉妬(3)

2019-06-19 10:24:24 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 6月19日 嫉妬(3)




 彼女がバツの悪さを感じた時だった。

「 やだ、なにこれ!」

叫んだのは母親だった。
なんだなんだと彼女と祖母は母親の手元を覗き込んで、言葉を失った。
 母親が開けていたのは三人官女の箱だった。
そのうちの一つの人形には、首から上がなく、おまけにまるで暴行を受けたように着物がめちゃくちゃに乱れ、あちこち破れていた。

「 ネズミかしら?」
「 他の箱はどう? 確認しなきゃ。」

慌てる祖母たちの横で、彼女はふと視線を感じた。
 こわごわ振り返ると、お雛様が彼女を見ていた。
いつもどおりの取り澄ましたような顔だったが、その時はなんともいえず恐ろしく見えたという。

「 それからは、お雛様が怖くて怖くて。
でも自業自得でとても理由を言えないから、飾るなとも言えず。
毎年恐怖のひな祭りを過ごしました。」
「 人形の呪い、ですか?」
「 さぁ?
まぁ、ネズミや虫が人形を荒らす、なんてことは、後にも先にもないことでした。
もちろんその時も、ボロボロになった三人官女以外に被害はありませんでしたしね。」

彼女は肩をすくめて苦笑した。

「 でも呪いなら、三人官女じゃなくて私に災いが来ると思うんですよね。」

 彼女の言葉に私は頷いた。
確かにその通りだ。

「 そうじゃなかったということは、呪いというより、嫉妬かな。」
「 嫉妬・・?」
「 自分以外の女が、自分の花嫁衣装を着て婚約者の隣に収まるなんて、考えただけで、はらわたが煮えくりかえるでしょう?」

彼女はそう同意を求めたが、私はその笑顔に薄ら寒さを感じたのだった。








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日々の恐怖 6月17日 嫉妬(2)

2019-06-17 09:38:15 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 6月17日 嫉妬(2)




 その年の片付けの際、彼女はこっそりお雛様と三人官女の一人の首を取り替えた。
人形の頭は胴体と細く短い棒で繋がっており、少し引っ張るとすっぽりと抜けたため、犯行は簡単だった。
 頭と胴体がややちぐはぐになってしまった人形を、素早くそれぞれの箱にしまう。
いつもそうしているように、人形の頭は傷が入らないよう薄い紙で覆って、箱を閉めた。

「 今年はよく手伝ってくれるねぇ。」

祖母のそんな褒め言葉に少々後ろめたさを感じながらも、彼女は自らの手で箱を納戸にしまった。
 さて次の年。内心ワクワクしながら平静を装い、彼女は例年のように雛人形の飾りつけに参加した。
あえて人形の箱は触らず、祖母と母親の反応をこっそり観察していたのだが。

“ あれ・・・?”

祖母が丁寧に箱から取り出したのは、いつも通りのお雛様だった。
美しい衣装にふさわしく、大きくふくらました髪型に金色の飾り、なにより高貴な顔立ち。
 彼女はこの日に備え雛人形の顔立ちを予習していたので、それが三人官女のものではないことはすぐにわかった。  

“ いたずら、バレてたのかな・・・・?”

もしかしたら、祖母は彼女の思惑などとうにお見通しで、人形を元どおりに戻していたのかもしれない。








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しづめばこ 6月15日 P559

2019-06-15 12:10:54 | C,しづめばこ


 しづめばこ 6月15日 P559  、大峰正楓の小説書庫で再開しました。


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日々の恐怖 6月14日 嫉妬(1)

2019-06-14 11:25:17 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 6月14日 嫉妬(1)




 彼女が生まれた時、祖母は初めての女孫だと大変喜んで、七段飾りの豪華な雛人形を奮発して購入してくれたそうだ。
物心着いてから、毎年二月半ばになると、祖母と母親と彼女の三人で雛人形を飾り付けるのが恒例だった。
 しかし彼女は、うっとり人形を眺めるよりは、外で遊ぶ方が好きなタイプだった。
そのため、雛人形の飾り付けも片付けも、退屈な作業だったという。
 ある年彼女は、退屈しのぎにとんでもないことを思いついてしまった。

“ 人形の首を取り替えたら、来年おばあちゃんたち気付くかな・・・?”

 毎年行っているとはいえ、年に一回のこと。
雛人形を出す際には、ああでもないこうでもないと、祖母たちは見本図や昨年の写真を片手に大騒ぎするのが通例だった。
 そんな騒ぎの中で果たして、人形の頭が変わっていたら気がつくだろうか。
雛人形は高価なもので、それでなくても大切にしなければいけないものだということは、わかっているつもりだった。
しかし、一度いたずら心についてしまった炎はもうどうすることもできなかった。








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日々の恐怖 6月13日 喫茶店(4)

2019-06-13 18:15:21 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 6月13日 喫茶店(4)




 思いがけない話が聞け、私はますます呆気にとられた。
予約席は亡き戦友のもの、という話に勝るとも劣らない、不可思議な話だ。

「 お父様は、何かご存知だったのでしょうか?」
「 何も知らなかったと思いますよ。
僕と違って真面目なもんだから、あの席をどうにかしようと、真剣に考えてましたね。
ここは俺の店なんだから俺が座ってやる、なんて言って、一日中座ってたこともありましたよ。
席がひんやりしてたもんだから次の日風邪を引いて、それが元の肺炎で亡くなりましたけどね。」
「 それは、それは・・・・・。」

 私はかける言葉が見つからなかった。
彼の言い方だと、先代の死はまるであの予約席のせいなのだが、店主はあまりにもあっけらかんとしていた。

「 その、戦友云々の話がどこからきたかはわかりませんけど、そんないい話になっているんなら、大歓迎ですよ。
親父も僕も、そこの席の由来を聞かれた時はいつも適当にはぐらかしてましたから、お客さんの間で憶測が憶測を呼んだ結果なんでしょうけど。」

 店主はそう言って笑った。
私はコーヒーを一口含み、この店主にこの味が付いていれば、どんな噂が出回っても客足に影響はないだろうと、心中頷いた。








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日々の恐怖 6月11日 喫茶店(3)

2019-06-11 09:21:40 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 6月11日 喫茶店(3)




 店主は途端に渋い顔になる。
店内を見渡し、私の他にはまだ誰も客がいないことを確認した。

「 絶対に他言しないと約束してください。
客足に響くと困りますから・・・。」

私が頷くのを見届けてから、彼は話しはじめた。

「 いや、大した話ではないんですけどね。
親父が定食屋を改装してこの喫茶店をはじめてから、なぜだかあんなことになったんです。
 あの予約席のプレート、いくら片付けても、朝になったら勝手にあそこに置かれてるんですよ。
もちろん、誰も触ったりしてませんよ。
プレートを捨てても、いつの間にかあそこに戻ってきてるんです。
それにあの席、妙にひんやりとして寒気がすると思ったら、別の時は、今しがたまで誰かが座ってたような温もりが残っていることもあってね。
 正直、気味が悪いんです。
一度椅子ごと撤去したこともあったんですがね。
次の日私が来たら、店の窓ガラスが全部割れていて、それも内側から。
 その後も雨漏りやら空調の不調が続いて、結局椅子を戻したんです。
そしたら、店内の不具合もピタリと止まって。
その後はもう、あそこの席は初めからないものとして、無視することに決めました。
放っておけば、特に害はないのでね。」








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日々の恐怖 6月9日 喫茶店(2)

2019-06-09 10:49:52 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 6月9日 喫茶店(2)




 それは、息子である今の店主にも引き継がれている。
雨の日や薄曇りの日には、その席にじっと腰掛ける若い男性の姿が、うっすら見えることもあるのだという。

「 なんですか、それは・・・・。
常連さんたちに担がれたんでしょう。」

店主はコーヒーを淹れながら、私の話を豪快に笑い飛ばした。
知人から聞いた喫茶店の不思議話を、店主ご自身からも伺おうと、店を訪ねた時のことだ。
 呆気にとられる私にコーヒーを出しながら、店主はまだクスクスと笑っていた。

「 うちの店の由来は、確かにその通りですけどね。
親父は若い頃病弱で、戦争には行かずに済んだんですよ。
だから、約束を果たそうにも戦友はいないんです。」
「 では、あの予約席は・・・?」

 私が視線をやった先は、カウンターの一番奥の席だった。
そこには知人の話の通り予約席と書かれた金色のプレートが置かれ、椅子には上等そうなクッションが乗せられていた。

「 あぁ・・、あれはですね・・・。」








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日々の恐怖 6月8日 喫茶店(1)

2019-06-08 10:18:36 | B,日々の恐怖



 日々の恐怖 6月8日 喫茶店(1)



 そこは、雰囲気の良いジャズが流れる喫茶店だった。
中に入るとコーヒーのかぐわしい香りが漂い、音楽は耳に心地よい。
何時間でも居座れるような空間で、実際店内にはいつも、長居の常連客の姿があった。
 現在切り盛りしている店主は二代目で、初代は戦後の混乱期、小さな定食屋からこの店を始めたそうだ。
そして晩年、念願だったジャズ喫茶へ趣旨変更したらしい。
 この店のカウンターの一番奥の席には、いつでも予約席のプレートが置かれている。
しかし、実際に誰かが座っていることはない。
 その席は、先代店主の戦友専用のものらしい。
先代店主は戦時中、出征先で戦友たちと夢を語らった。
そして、いつか自分が大好きなコーヒーとジャズの店を開くから、その時はお前たち必ず来いよと約束したそうだ。
 先代店主はなんとか生きて帰ることができたが、戦地で命を散らした者も大勢いた。
そんな戦友たちとの約束を守るため、先代店主は彼ら専用の席を作り、他の誰も座らないよう予約席のプレートを置いたのだという。







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