日々の恐怖 2月4日 病院関連話(20)高校野球
学校の夏休み期間に高校生が入院してきた。
症状は頭痛、吐き気、腹痛。
でも検査をしても数値的には特に目立ったところはない。
が、どうしても入院したいと言う。
まあ、しばらく様子を見ることにしたんだけど、見ていると特に辛そうな感じはない。
日中は休憩室で宿題をしていて、時々テレビを見上げる。
テレビはずっと高校野球中継なんだけど、特に見入っているという風でもない。
ちょっと思い当たることがあり、聞いた。
「 もしかして、仮病?」
押し黙っていたのだけれど、
「 秘密にしておいてくれますか?」
少年は地元の高校で、その地域には甲子園の常連校があるのだけれど、なんと彼の高校が20何年ぶりに甲子園進出を勝ち取ったらしい。
「 すごい盛り上がりで、野球部員がいる組の生徒なんて全員応援に行くのが当然、というプレッシャーがあって・・・。
それに吹奏楽部です。
野球が弱い高校だと思ったから行ったのに・・・・。」
彼女には痛いほど気持ちが分かったそう。
実は彼女の母校がその甲子園の常連校だ。
「 吹奏楽部だったから、メンバーでもないのに参加を強制させられた。
楽器をやりたかったから入ったのに、1年でやめた。」
彼の高校の試合の日、また休憩室で宿題をしている。
テレビを見るとちょうど8回裏が終わったところ、2対1で彼の高校が負けている。
9回表を抑えられれば敗戦だ。
だが、期待に反して2塁打の後、バントが成功して1アウト3塁。
「 ちっ!」
小さく聞こえた。
次のバッターは3番、ホームランでも出れば逆転。
が、一球目を大きくスイングした瞬間、なんとバットが折れた。
バランスを崩したバッターは折れたバットの上に倒れこむように転んでしまった。
そのまま動かない。
「 ふふ・・・・。」
聞こえたような気がして見ると、宿題に目を落としている。
「 皆が皆、野球が好きってわけじゃないよね。」
彼女は言う。
「 ああいう熱狂した雰囲気ってちょっと怖い。」
少年は次の日退院した。
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