大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 4月25日 再会(4)

2024-04-25 11:34:52 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 4月25日 再会(4)





 その声は、ある時は歌いながら、またある時は怒鳴りながら、しつこく奴に語りかけた。
奴はとうとう根負けして、その声に耳を貸した。

「 会話が成立したんだよ。
ここが分裂病と違うところだ。」

奴は声の主にその証拠を見せろと言ったらしい。

「 あの体育教師が事故って死んだだろ。」

奴を目の敵にしていた教師が死んだと言うのだが、そんな事実は無かった。

「 A子から告ってきたよ。」

学校でも美人で人気があった女の子が、奴に付き合ってくれと言ってきたそうだが、彼女は他の男とずっと付き合っていた。
 俺がその事を否定すると、奴は自信ありげに答えた。

「 新聞の切り抜きもあるし、A子からもらった手紙もあるんだ。」

おまえの妄想だと言うと、奴は笑いながらぼろぼろになった学生証を見せた。

「 最初のうちはうまくいってた。
受験勉強なんて睡眠学習だけだったしな。」

奴は声のアドバイスに従って、一日中寝ていたそうだ。

「 でも一人暮らしを始めてから、おかしな事がずっと続くようになった。
見たことも無い景色を見て、会った事も無い人間のことを覚えていたりした。」

偽りの記憶と本当の記憶の狭間で奴は混乱し、誰からも相手にされなくなったと言う。
さらに、偽りの記憶の方が鮮烈だったりして、奴の現実は圧倒されてしまったらしい。









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日々の恐怖 4月17日 再会(3)

2024-04-17 19:23:06 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 4月17日 再会(3)





俺は悲しくなって奴の肩に手をかけた。

「 俺××だよ。
そっちこそ俺のこと忘れたのか?
それより、どうしてここにいるんだ?
向こうの大学に行ってたんじゃないのか?」

奴は何も答えず、自分の頭を手でなでている。

「 立ち話もなんだ、どっかファミレスでも入るか?」
「 いや、人がいる所じゃ緊張してしゃべれない。
誰もいない静かな場所がいい。」

奴はそれだけ言うと、自分の自転車にまたがった。
そして行く先も告げず、いきなり立ちこぎしながら走り出した。
 辿り着いた場所は、倉庫が立ち並ぶ埠頭だった。
奴は自転車を降りると、自動販売機でお茶を買った。
それから防波堤に腰掛け、ポケットから薬袋を取り出すと、幾つかの錠剤を飲んだ。
その間、会話は無かった。
俺が隣に座り、二、三話し掛けるが、目を閉じてうつむいている。
 成す術もなく真夜中の海を眺めていると、奴は急に切り出した。

「 俺はもうすぐ死ぬけど、これから話すことを信じて欲しいんだ。」
「 自殺する気か?」

驚いてそう言う俺の顔を、奴は初めて見つめた。

「 医者の馬鹿にはこう言った。」

奴は落ち着いて、至極まともに見えた。

「 俺は悪魔に魂を売った。
その返済が近づいてる。
返済を拒否してるから、俺は毎日責められてる。
どいつもこいつも同じ事を言う。
精神分裂病だとさ。」

奴は取り留めの無い話を始めた。
それをまとめるとこういうことだった。
 ある日、頭の中で声がした。

『 俺の言うとおりにしろ。
そうすれば、おまえの希望を叶えてやる。』

奴は最初その声を無視した。











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日々の恐怖 4月11日 再会(2)

2024-04-11 17:34:51 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 4月11日 再会(2)





 それから二年の月日がたったある日、俺はバイト先の古本屋で奴に再会した。
うだつのあがらない退屈な日々を過ごしていた俺は、時々奴のことを思い出していたのだが、
その再会は思いも寄らぬ事だった。
奴は深夜閉店間際に現れた。
 一目でその異様さに気が付いたが、それが奴だと分からなかった。
つるつる頭に銀縁めがね、白髪まじりの無精ひげ。
がりがりに痩せこけていた。

「 すいません、もう閉店なんすけど。」

俺は立ち読みに耽る奴に声をかけた。
顔の肌はアトピーで荒れ、眉毛は無かった。
それでもかすかに面影があった。

「 もしかして○○?」

思わずそう訊ねると、奴はあらぬ方をきょろきょろ窺いながら、
後ずさりするみたいに店を出て行った。
ショックだった。
あれが本当にあいつなら、完全に気がふれていると思ったからだ。
 その夜、複雑な気分のままバイトを終え、原付の置いてある駐車場に向かった。
シートからヘルメットを取り出そうとすると、不意に背後から声を掛けられた。
奴は自動販売機の影に潜んでいたらしい。

「 俺のこと分かるのか?」

突然のことで驚いたが、俺はすぐに気を取り直して答えた。

「 ○○だろ?」
「 本当にそう思うか?」

ああ、やっぱりこいつ頭がおかしくなってる。

「 中学からの付き合いだ。
忘れるわけないだろ。」









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日々の恐怖 4月6日 再会(1)

2024-04-06 14:28:15 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 4月6日 再会(1)





 かなり前の話になる。
ある日、俺は中高時代に友人だった男と二年ぶりに再会した。
まず、そいつのことを紹介しないと話は始まらない。
少し長くなるが、興味のある人は聞いてくれ。
 そいつと俺が通っていた高校は、まあ平凡な進学校というのか、
市内で五番目くらいのレベル、というと想像できるだろうか。
そんな高校の落ちこぼれグループに、俺とそいつはいた。
中途半端なヤンキーですらない、今思うと恥ずかしいツッパリみたいなものか。
くだらない事でいきがる、バカそのものだった。
 で、そいつは三年になってからがらっと人が変わった。
何があったのか知らないが、受験勉強に専念し始めた。
学校にいる間は、休み時間もずっと勉強していた。
俺らとの付き合いを一切断ち、傍から見ると呆れるくらい一心不乱に勉強した。
 成績も夏休み前くらいから急上昇し、ついに二学期は試験以外登校しなくなった。
そして、冬休み前の試験では、ついに学年トップになった。
教師も見てみぬ振りをした。
クラスからも完全に浮いて、机の上にはいつも花瓶がのっている有様だった。
 俺は密かに奴に憧れていた。
ストイックを通り越して狂っているようにも見えたが、絶対に中途半端ではなかった。
そんなことができる人間に、俺は畏敬の念を持っていた。
 やがて受験シーズンが到来した。
俺は市内の無名私立大に何とか滑り込み、あいつは有名国立大に合格した。
学校でもウン十年ぶりの快挙だった。
卒業してすぐ、みんな浮かれ騒ぎで夜の繁華街に繰り出す中、あいつは飲み会に一度も参加することなく、
誰の賞賛も受ける気はないらしかった。








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