大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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☆( 1年間366日分の日々の出来事  )

B,日々の恐怖

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C,奇妙小説

☆(  しづめばこ P574 )                          

日々の恐怖 5月31日 絵巻物

2013-05-31 19:00:23 | B,日々の恐怖





     日々の恐怖 5月31日 絵巻物





 私の生まれた家の近くに寺がある。
この寺には地元では有名な絵巻物が保管されていて、お盆の期間だけ本堂に祭られ一般公開される。
 絵巻物に描かれているのは地獄の風景。
お盆の間だけ地獄の釜の蓋が開いて亡者達が現世に戻ってくる光景だが、この絵巻物にはこんな逸話がある。
 御開帳されている絵巻物を見ている時、カタン、カタン、と蓋が開くような音を聞いてしまうと、その人は近い内に死ぬ、というものだ。
 私がまだ幼いころ、近所のおじいさんが茶飲み話にそんなことを言った。
そんなの嘘だ、そう私が言うと、おじいさんは笑いながらこう答えた。
だけどこれは昔から言われている話なんだ。
本当か嘘か、多分もうすぐわかる。
俺は昨日お寺にお参りに行った時、そんな音を聞いた気がする。
もし俺が死んだらその話は本当だという証拠だ、と。
 おじいさんはその後、一ヶ月も経たない内にポックリ死んだ。
いつも早起きなおじいさんが朝食にも姿をみせないので家族が様子を見に行くと、すでに布団の中で冷たくなっていたということだ。
 偶然なのかもしれない。
でも、私は未だに怖くてその寺に行く気になれない。














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日々の恐怖 5月30日 駐車場

2013-05-30 19:30:44 | B,日々の恐怖






    日々の恐怖 5月30日 駐車場






 14年前、六甲のとある住宅地で起きた事件です。
当時出来たばかりの大型スーパーです。
夕方は買い物客の主婦たちや、横の公園からスーパーの駐車場まで入り込んで遊んでいる子供たちで賑やかです。
 俺と友達グループも駐車場の段差の縁に腰掛けて、カードを交換する遊びに夢中になっていた。
すると外の道から駐車場に入る入り口付近から、

「 ギャーーー!!!ギャッッ!!ギャッ!!!ギャーーーー!!!」

というものすごい叫びが聞こえてきた。
子供ながらに瞬時に、事故か?と皆で振り向くも、

「 ウワ~~!!!ヒャーーー!!!!」
「 ワッ!!ワッ!!!」
「 ヒャーー!!!キャーー!!!」

と異常な悲鳴が伝播していく様子に、俺たちも他の客も一瞬凍り付く。
 近くにいた警備員が周りに向かって

「 だめ!!はなれて!!はなれて!!!」

と大声で呼びかける。
 店員が何人かでてきて、ある者は立ちすくみ、若い女性店員やパートのおばさんは悲鳴の渦に加わリ叫び始める。
近寄っていいのか、逃げた方がいいのか、判断が付く前に何人もの店員や居合わせた男性に、

「 ここから出なさい!!家に帰って!早く!!」

と怒鳴られ、俺たちはカードをこぼしこぼししつつ、起こっている出来事じゃなく、生まれて初めて見る大人が心底怯える様子に恐怖し、その場から逃げ出した。

 当時テレビでも取り上げられてた記憶があるんだが、近所に住む老女が、数ヶ月前に夫に病死されたのだが、どうしていいのか判断が付かなかったらしく、やがて遺体が痛み首と胴体が離れたのをきっかけに、死亡届けを医者に書いてもらおうと思い、近所のスーパーマーケットの駐車場で山一つ向こうの総合病院まで乗せていってくれる人はいないかと相談に訪れたのだった。
 老婆は小さな肩掛け鞄の中に失効した夫の免許証と現金千円(後に線香代と話す)、そして空いた両手で胴体から自然脱落した夫の頭部を抱えて駐車場へと入り、

「 どなたか病院へお願いできませんか?」

と周囲へ声をかけたのだった。
 なお彼女の自宅は電話とガスが停められた状態で、彼女自身知人もなく生活保護のみに細々と頼り、弱りに弱ったすえでの行動だったのであろう。
 未だに俺は実家に帰ったとき、あの駐車場を通りかかると胸に慄然とした恐怖を覚える。
俺は現場を直接見たわけではない。
しかし、その事よりも大人たちが恐怖に叫び続けるあの夏の夕方の赤い湿った時間が、今でも脳裏にこびりついている。
















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日々の恐怖 5月29日 上司

2013-05-29 18:43:48 | B,日々の恐怖





   日々の恐怖 5月29日 上司 





 今から6年前に当時の上司から聞いた話です。
現在は結婚しているその上司ですが、当時は祐天寺で一人暮らしをしていました。
僕も一人暮らしを考えていた時期だったので、いろいろ話を聞いていました。

自分「祐天寺ですかー、いいところですね。
   ちなみに家賃って幾らぐらいなんですか?」
上司「3万。」
自分「安い!なんでそんなに安いんですか?」
上司「だろ。そのかわりそのアパート、
   住んでるのはみんな外人。中国人とか。」
自分「へー、それにしても安いですよね。」
上司「うん、だって恐いのが出るもん。」
自分「・・・またまた~。で、どんなのが出るんですか?」
上司「うん、夜になると女が天井から首吊ってぶら下がってる。」
自分「・・・。」
上司「会社から帰ってドアを開けたらぶら下がってることもあるし、
   夜中目を覚ますと上からぶらさがってるよ。」
自分「いや、ぶら下がってるって・・・。怖くないんですか?」
上司「俺は幽霊とか信じないから、別に怖くないね。
   ただぶら下がってるだけだし。というか、もう慣れたよ、ハハッ。」

 後日、社内の複数の人に聞いてみたが、その上司の部屋でぶら下がってる女を見た人が3人いた。
見えない人も勿論いたが・・・。
もし本当に毎日その女がいるとしたら、そこに8年も住んでいた上司の方が恐ろしい。















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日々の恐怖 5月28日 写真

2013-05-28 19:54:13 | B,日々の恐怖







    日々の恐怖 5月28日 写真







 Tさんが写真の話を始めた。
よくある話なんだろうけど、実際に体験してみたら奇妙なことだった。
十数年前になるけど、仕事で現場監督やってて、工事現場の現場写真撮ってた。
 先輩のKさんの作業しているところを写真に撮ってその日に現像した。
次の日の夕方に写真整理しながら、その作業中のKさんの写真を見ると足がない。
それで、おかしいなと思って写真を調べた。
 立った状態で作業しているKさんの足は写真には写ってないけど、左右で作業している作業員の足はちゃんとある。
光の加減でこうなったと思いたかったが、心霊写真なんてよくテレビでやっている。
 隣の机に座るKさんが「どうしたん?」とオレに言ったんで、ヤバイかもと思って「別に・・・」と言って誤魔化し、その写真はKさんには見せなかった。
 でも、その作業中の写真は現場では重要な作業の写真だし、撮りなおしも効かないし何とかならないかと、いつもの写真屋に行った。
 それで、写真屋の社長に聞いた。

「 この写真何かおかしいよね?足がないけど。露出?」
「ちょっと、待ってて・・・。」

数分後、写真屋の社長が笑いながら、

「 これ、TV局とかに投稿すれば?たぶん、そんな写真。ははっ。」
「 まじで・・・?」
「 だって、Kさんの足だけ写ってないなんて考えられないし、Kさんの後ろにあるトラックはきれいに見えてる。
足だけが透けてる感じだよね。」
「 えー、勘弁してよ、もー。」

なんて言いながら、写真のネガを二人で凝視した。

「 やっぱりネガにも写ってないねー。」
「 写ってない。」

 結果を言えば、それから数日後、Kさんは飲酒運転で大事故を起こす。
両足が切断とかじゃなかったけど、とにかくKさんの両足の折れた大腿骨が、槍のようにもうすぐで肝臓に突き刺さる直前だった。
 たまたま、救急病院にいた当直の外科の先生が、交通事故で運ばれた血だらけの患者を運びながら、両足の位置がおかしいと考えて調べたところ、Kさんの両足は腰から上に随分とめり込んでいたそうだ。
オレはその話を明け方の5時に聞いて、寝ぼけた頭の中であの足のない写真を思い出す。
あの足のない写真はまだ会社のオレの机の中にしまったままだった。

「 実はこんな写真なんだけど・・・。」

会社の事務員に、神主の知りあいがいて、半信半疑でその写真を見せることにした。
もしかしたら、そんな写真を撮って、ほったらかしにしていたオレがいけないのかもしれないと思ったからなんだけど。
 神主はごくごくフツーに、

「 お祓いしなきゃね・・・。」

と、言いながらその写真とネガを丁寧に持ち帰ってくれた。
 後日、足のない写真はちゃんとお祓いした、とその神主から手紙が届いた。
手紙の最後のほうに、オレについて書かれていた。

「 T君はもう随分前に、事故で左足の大腿骨を骨折しましたよね?」

“ だから何なんだ?
もう随分前の話じゃないか?
十代の時に単車で事故っただけだろ?”

思い出したら止まらなくなった。
初対面の神主とやらに自分の過去を見られるなんて、って感じだった。
 神主はその手紙の最後に、

「 あなたの身近な親族で、足の不自由な人はいませんでしたか?」

と書いて、“?”でその手紙は終わっていた。
いたよ、じいちゃんが。
オレが生まれた時からずっと車椅子だった。
 じいちゃんの葬式の日に、生前ずっと愛用していたお茶碗をみんなの前で割った時、確かにまだ5才のオレの左ふくらはぎにその破片が刺さって3針縫った。

“ 何かあるのか?何かあるのか?
足のない写真を撮ったオレが悪いのだろうか?
Kさんにとって、そうなんだろうか?”

あれからKさんはずっと車椅子なんだ。
















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日々の恐怖 5月27日 爺さん

2013-05-27 19:20:02 | B,日々の恐怖







    日々の恐怖 5月27日 爺さん






 仕事で滋賀県で働いてるんだけど、一昨年の冬初めて滋賀県に来た時にあった話です。
天気予報で「今週末に初雪が降るでしょう」って放送してて、実際、週末夕方頃から雪が降り出した。
 いつも通り23時頃に退社してコンビニに寄って晩飯を買い込んで店を出たところ、いきなり声をかけられた。

「 京都まで乗せてってもらえませんか?」

コンビニの軒先を見ると60代位の品のいい爺さんがいて、こちらをニコニコと見ている。
ベレー帽にマフラー、ロングコートで小さなセカンドバッグを持った小柄な爺さんだった。

「 近所に住んでるんで、京都にまでは行かないんですよ。」

自分の車が京都ナンバーだったので京都に行くのかと思い声をかけたらしいのだが、ここから京都へは一時間以上かかる。

「 福井県から歩いてきたんだけど、雪がひどくなってきちゃって困ってたんだ・・・。」

自分の前の勤務地が福井県で、福井の人に親切にしてもらってた事もあって不憫に思い、ここから少し先にある駅までならと思い、車に乗せてあげる事にした。


 以下は爺さんが車の中で俺に語った事。(やや、うろ覚え・・・)

 爺さんは静岡県清水市の出身で、福井市に住むテキヤの元締めの男にお金を二千万貸している。
そのお金を取り立てに来たのだが、男は住処におらずお金を回収し損ねた。
その男の家の近くに宿をとって張ってみたが、戻る気配がない。
宿泊でお金を使ってしまって手持ちのお金は無いが、清水市の事務所には二億円ある。
もう一人、広島に大金を貸している男がいるので、そちらの男からは何としてでも回収したい。
だから、少しでも早く広島方向に移動したい。

 俺は爺さんのそんな話を聞きながら、ひょっとしてボケ老人かな・・・、なんて感じてた。
 初雪初日とはいえ、福井・滋賀県境は豪雪地帯で爺さんの履いてる革靴では歩いて来るには無理がある。
しかも、傘を持っていない。
爺さんの話を話半分で聞きながら、駅に向かった。
車内には床屋の様なキツめの臭いが漂っていた。
 爺さんを駅で降ろし自分は帰宅したんだが、
始発まで時間は長いし、又、ヒッチハイクでもするのかな?
駅で寝泊まりするのかな?
なんて不思議に思いながら爺さんを見送った。


 翌日、職場のパートのおばちゃん達に昨日こんな変な事があったよ、なんて話をしたら、おばちゃん連中が一斉に、

「 うわ~、懐かしい!」
「 久しぶりに聞いたわ~!」

と言われた。
 俺は意外な反応にどういう事か尋ねてみた。
おばちゃん連中の中に旦那さんが運送業の人がいて、その人から面白い話が聞けた。
 おばちゃんが結婚で滋賀県に来た30年程前に、旦那さんの運送会社で有名な幽霊目撃談があったらしい。
 福井と滋賀の県境近くに深夜までやってる食堂があったのだが(今は潰れて廃屋らしい)、そこの駐車場に広島まで乗せてくれと頼みに来る爺さんの幽霊が出る、というもので昔は地元で凄い数の目撃談があって、かなり有名な話だったそうな。
だが、ここ最近は10年以上目撃談も無く、皆忘れかけていたらしい。
 俺は滋賀県に赴任して間もなかったので、いきなりそんな話を俺がした事で、おばちゃん連中は皆一様に驚いていた。
確かに、爺さんが俺に語った“手持ちのお金が無い”って話も、「何でCDでお金を下ろさないんだ?」とか「携帯電話で清水市の事務所の人間を呼んで、お金を持参させるとかしないんだ?」って疑問も、30年以上前の時代にそんなもん無かったのかもしれない。
 昔は車が止まりやすい県境の食堂にいついていたのが、時と共に食堂も下火になり、爺さんの幽霊も活動場所を国道沿いのコンビニに移したんかも・・・。
 俺の車のドアはちょっと特殊で、爺さんでは上手く開けられないだろうと思って、ドアは俺が開閉してあげたんだけど、もし、俺がそうしなかったら、あの爺さんの幽霊どうやってドア開けたんかな・・・?
それにしても臭いといい、コートに付いた水滴といい、完全に人間としか思えない外見や雰囲気だった。


















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日々の恐怖 5月26日 マンガ本

2013-05-26 19:04:13 | B,日々の恐怖








     日々の恐怖 5月26日 マンガ本







 何年か前、絶版になってしまったマンガを探しに水道橋の古本屋街をハシゴしたことがある。
ビルとビルとの間に歴史を感じさせる小さな古本屋があって何気なく入ってみると、目当てのマンガが全シリーズ揃って置いてあり、私は嬉しくなって全巻買い求めスキップしたい気分で家へ戻った。
 同じマンガのファンだった友人にメールで知らせると、仕事帰りに遊びに行くという返信が届いた。
私は友人が来る前に全部読んでしまおうと、コーヒー片手にマンガを読みふけった。
 全部で7巻のマンガを5巻目まで読んだ時、ブックカバーがやけに厚いことに気がついた。
前の持ち主が几帳面だったのか、このマンガの全巻には元来のブックカバーの上からビニールのカバーがかけられていて丁寧にセロテープでとめてある。
だが、5巻目のブックカバーだけは他のに比べて厚みもあり少し重いのだ。
カバーと本体の間に何か入っている、そう思った私はブックカバーをはずしてみた。
出てきたのは茶封筒だった。
 封筒の中にはメモのような物が折りたたんで入っており、それを取り出そうとした時、数枚の写真が一緒にこぼれ落ちた。
拾い上げてみると女の人の写真だ。
 一人で写っているものもあれば、数人で写っていたり、街を歩いている姿を遠くから写したようなものもあった。
写真に写っている女性はみんな違う人だったと思う。
気味が悪いのは、どの写真も必ずひとりだけ顔の部分が切り取られていることだった。
 イヤ~な気分だったが、メモに何が書いてあるのか気になった。
そこで、内容を確かめるためにメモを広げると、今度はそのメモの間から小さな紙が落ちた。
何枚もの小さな紙は、どうやら写真から切り取られた顔の部分のようだった。
 私は切り取られた顔を、興味半分で先に出てきた写真にはめ込んでみた。
けれど、どれもこれもピッタリ一致しない。
大きさが違っていたり、明らかに写真の材質や色合いが違っていて顔と写真は一枚も完全にはまらない。
 メモには、

“ これを読んだ人は連絡を下さい。”

と短いメッセージが書かれてあって、電話番号が記載されていた。
 そこへちょうど友人が遊びに来た。
私が写真とメモを見せると、友人はおもしろがって電話してみようと言う。
私は気持ちが悪いからやめた方がいいと反対した。
 友人はその時は諦めたフリをしてマンガを読んでいた。
しかし、私がトイレから戻ってくると、友人が部屋の電話を使って誰かと楽し気に話している。
 あんまり楽しそうに話しているので、最初は友だちと話しているのかと思ったのだが、電話は一向に終わる気配がなく、天気のことだとか、最近話題のニュースだとか、とりとめもなく会話がはずんでいる。
私は隣で友人をつっついて、

「 誰と電話してるのか知らないが、いい加減に切れよ。」

と耳打ちした。
友人は相づちを打ちながら、私の住所と電話番号を相手に告げて受話器を置いた。
 何だか胸騒ぎがして、今の電話の相手が誰だったのか問いただしてみると、例のメモの電話番号にかけてみた、とあっけらかんと言うのだ。
 私はギョッとし、怒りが込み上げてきた。

「 見ず知らずの人間に、しかも、あんな気持ちの悪い写真を持っていたようなヤツに、どうして勝手に住所や電話番号を教えるんだ!」

そう怒鳴っても、友人は平気な顔をして、

「 けっこう普通の優しそうなおじいさんだったよ。」

と言うのだ。

「 とんでもないヤツだ、お前は!」

と散々非難したが、友人は何ごとも無かったようにマンガを読み終えると、さっさと家に帰ってしまった。


 その夜、10時を過ぎた頃、不意にインターホンが鳴った。
友人が昼間かけた電話のことが気になっていたので、私は無視していた。
ところがインターホンはしつこく何十回も鳴り続け、あげくにドアをドンドン激しく叩くようになった。
 さすがに近所迷惑だと思ってドア越しに返事をすると、答えたのは聞き覚えのないおじいさんの声だ。

「 さっき電話をくれたあなたに届け物を持って来たんです。」

得体の知れない者への恐怖というか、相手のありえない行動が恐ろしくなり、そんな物はいらないし電話をかけたのは友人であることを告げると、おじいさんはどうしても届け物をもらって欲しいと言い張る。
 20分くらいそんな押し問答をしている内に、おじいさんは諦めて帰って行った。
ここまで邪険にされればもう来ることはないだろう、と一安心してその晩は眠ることができた。
 ところが次の日、私が仕事から帰ってくると隣の部屋のおばさんが声をかけてきた。
親切で愛想のいい隣のおばさんは、顔を会わせればいつも挨拶をしたり旅行のお土産欠かさない律儀な人で、わりと親しくしていた。
 おばさんは私に紙袋を手渡すと、品のいい初老の男の人が渡して欲しいと言って預けていきましたよ、と言う。
私は返す言葉もなく紙袋を眺め、内心ゾッとしていたが、おばさんの手前、紙袋を受け取らないわけにはいかなかった。
 心ならずも紙袋を受け取ってしまった私は、部屋に入って紙袋ごとゴミ箱に捨てた。
だが、中身が気になって気になって仕方がない。
非常識な年寄りがいったい何を持ってきたのか、確かめずにいられなくなった。
 私はゴミ箱から紙袋を引っ張り出すと、中身を確認することにした。
紙袋の中には単行本サイズの紙袋が一つ入っていて、中身は古本屋で買った例のマンガだった。
同じマンガの3巻だけが一冊入っている。
 パラパラめくっていると、また写真が出てきた。
今度は一枚だけで、やはり見知らぬ女の人の写真だ。
前回の写真と違うのは、顔の部分は切り取られておらず、かわりに目玉の部分がズブッとくり抜かれていた。
 以来、あのおじいさんが訪ねてくることはないが、どこかでこっそり自分を見ているような気がして、ちょっと怖いのだ。











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日々の恐怖 5月25日 扉

2013-05-25 19:24:37 | B,日々の恐怖








     日々の恐怖 5月25日 扉







 Nさんはエレベーターの管理、修理をしている。
ある日、病院のエレベーターが故障して止まってしまった、と連絡を受けた。
 すぐに車を飛ばしたが、到着した時には2時間がたっていた。
現場へ向かうと、人だかりがしている。
中には看護婦が閉じ込められているらしい。

「 大丈夫ですかあっ!」

Nさんが呼びかけると、怯えた女性の声が返ってきた。

「 出してください、はやくここから出して!」

がんがん扉を叩く音がする。

「 待ってください、今すぐに助けます。」

道具を並べ、作業に取り掛かった。

「 扉から離れていてください!」

と叫ぶ。

「 はやくはやくはやく!」

がんがんがんがんがん!!

「 扉から離れて!」

Nさんはもう一度叫んだ。

がんがんがんがんがんがんがんがんがんがんがんがん!!!

扉は狂ったように内側から叩かれている。
ちょっと尋常ではない。
パニックになっているのだろうか。
周りの人も不安げに顔を見合わせている。
 見かねて院長が扉に近寄って、怒鳴った。

「 扉から離れなさい!危険だから!」
「 離れてます!!」

女の悲鳴のような声が聞こえた。

「 暗くてわからないけど・・。
ここ、なにかいるみたいなんです!」

Nさんはぞっととした。
じゃあ、今目の前で扉を殴打しているのはなんだ?
 つとめて考えないようにして大急ぎで作業にかかった。
扉を開けたとき、看護婦は壁の隅に縮こまり、しゃがみ込んで泣いていた。
 彼女曰く、電気が消えた後、何者かが寄り添って立っている気配がしたという。
気配は徐々に増え、Nさんが来る頃には、エレベーターの中はそいつらで一杯だったそうだ。
















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日々の恐怖 5月24日 配水管

2013-05-24 21:13:48 | B,日々の恐怖






    日々の恐怖 5月24日 配水管






 昔、配水管の点検するアルバイトをしてた。
地下に潜って管に異常は無いか調べる仕事。
ちょっとした冒険みたいで毎度ワクワクしながら働いてた。
 まだ始めたての頃、管に潜ると人がいることがあるから気を付けろって先輩に言われた。
人を見つけたらまず声をかけて、何も言わず逃げていくヤツは絶対に追うなと。
何度か潜って分かったけど、場所によっては人が住めるような管があって住み着いてる浮浪者に遭遇することもあった。
 浮浪者はまあ安全なのだけど、その頃はまだ左翼の過激派なんかがぼちぼち活動してた頃で、過激派が居住してたらしき跡も見つけたことがある。
今思うに結構危険な仕事だった。
 10メートルも潜ると完全に真っ暗で正直言ってかなり怖い。
一度、奥の壁全面にみっちりお経みたいな文字が書かれていたことがあって戦慄した。
そんなこんなで楽しく働いてたある日、川にあるあの横穴から中に入ってく仕事がきた。
このタイプの管は最深部まで行くと、配水管の合流点にたどり着くことがある。
色々なとこから水がぶわって流れてて、中には巨大な滝もあって絶景の一言につきる。
それを見るのが楽しみで意気揚々と中に入って行った。
 20メートルくらい進んだところで、奥に人影らしきものを発見。

「 そこで何してる!?」

とさっそく声をかけたけど、返事が無い。
 そこは増水したら水が流れるし、まず人が入り込むような場所じゃない。
ゴミでも詰まって見間違えてるのか、それとも何か悪さしようとしてるんじゃないかと、とにかく確かめることにした。
 近づいてみるとやはり人間っぽくて微妙に動いてるから、

「 おい、危ないからでろ!」

と声かけながらさらに接近。
すると向こうも奥の方に逃げていく、なんか金属で壁を叩くような妙な音させながら。
 ちょっと仕事に慣れっこになってた俺は捕まえてやろうと追いかけた。
けど、気づいたら合流点の手間まできてて危うく落ちる所だった。
その上、人はどこにもいなくて滝の音とキンッキンッって音だけがコダマしてた。
 慌てて逃げだして入り口で見張りしてた先輩にそのこと話たら、だから追うなって言ったろと叱られた。
他にも何人か見た人がいるらしくて、業界じゃ有名な話だったらしい。
俺はそれで潜るのが怖くなってやめてしまった。


















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日々の恐怖 5月23日 盲腸

2013-05-23 18:10:41 | B,日々の恐怖





    日々の恐怖 5月23日 盲腸





 これは中学生の時の体験で、今でも思い出すと不思議な気持ちになります。
中学二年の二学期に、私は急性盲腸炎で緊急入院しました。
定期テストの前だったのでよく覚えています。
 明け方に腹痛を覚えてそのまま救急車で運ばれ、即日入院で手術に備えました。
手術は翌日に決まり、痛み止めを服用してその日は病室で横になっていました。
病室は6人用の大病室でしたが、入院患者は私と、その隣の人しかいませんでした。
夕方、仕事を終えた母が着替えや身の回りのものを持って見舞いにやって来ました。
 しばらく話をしていると、60歳くらいのお婆さんが病室に入ってきました。
隣の人のお見舞いのようでした。
母が「これから一週間ほどですがお世話になります。」と挨拶すると、向こうも「若いですからすぐに元気になりますよ。こちらこそよろしく。」と微笑んでくれ、とても感じの良い人でした。
 お婆さんは、隣の人のベッドのカーテンの中に入り1時間ほど話してから帰っていきました。
面会時間が終了して、母も家に帰りました。

 その夜、私は翌日の手術のことを考えて少し興奮し、すぐに眠れませんでした。
すると隣のカーテンの中から話し掛けられました。

「 やぁ、この病室に入院してくる人は久しぶりだ、ここ数週間1人だったから退屈だったよ。
どうして来たんだい?」

声の感じから、どうやらさきほどのお婆さんの旦那さんのようです。
優しい声でした。

「 盲腸です。
今日の朝に急にお腹が痛くなってしまって・・・、テストもあるんですけどね。」

などと、私は学校のことや部活のことなども話しました。
 母が帰り心細かったので話相手が欲しかったのもありますし、相手のお爺さんの声が優しかったのでスラスラと話せました。
お爺さんは笑いながら話を聞いてくれて、

「 若いというのはそれだけで素晴らしいね。大病で無くて良かったね。」

と言ってくれました。
私は、悪いかとは思いましたがお爺さんにも入院理由を尋ねてみました。

「 もう悪いところが多すぎて、何が悪いという訳でもないんだよ。
寿命と言うには早いが、私は満足しているんだ。
おそらくもう退院は出来ないだろうけれどね。」

内蔵の病気を併発しているとのことで、確かに長く話しているとつらそうでした。
 私は、急に悲しくなって、

「 そんなことはない、私が先に退院したとしても、お見舞いにも来るし、いつかきっと退院できますよ。」

と言いました。
 自分が病気になってみて、どんなに心が弱るか少しだけ分かった気がしていたので、元気づけられればと思ったからでした。
お爺さんは笑いながら私にお礼を言ってくれました。

 そして次の日、私は手術をしました。
全身麻酔だったのでその後の半日を眠ったまま過ごしていました。
目を覚ますともう夕方を過ぎており、ベッドの周りには母と父が待っていました。
あと1週間ほど入院して、経過が良好なら退院できると説明されました。
 しかし気になったのは隣のお爺さんのベッドが空いていたことでした。
病室移動かもしれないと思い、その時は、退院する日に挨拶をしにいこうと思った程度でした。
 経過は思ったより順調で、5日ほどで退院の日になりました。
私が入院道具を整理していたら、あのお婆さんがやって来ました。
私がお爺さんのことを聞こうと思いましたが、お婆さんが涙目なのに気がついてすこし動揺しました。
するとお婆さんは、

「 あの人が手紙を書いていたのよ。
渡すのが遅れてごめんなさいね。」

と私に手紙を渡してくれました。
そこには、

「 最後の夜が1人でなくて良かった。
ありがとう、元気に育ってください。」

そういうような内容が乱れた字で書いてありました。
 話を聞くと、お爺さんは私が手術をしていた日の午前中に容態が急変して、そのままお亡くなりになっていたそうです。
私は泣きながら、

「 私もあの夜はお爺さんと話せて安心できました。
心細かったけれど、とても優しく話をしてくれた。」

とお婆さんに言いました。
 するとお婆さんは不思議そうな顔をして説明してくれました。
お爺さんは喉の腫瘍を切り取る手術が上手くいかずに、声帯を傷つけてしまったために話すことはもちろん、声を出すことは出来なかったらしいのです。
最後の手紙は、恐らく亡くなる前日の夜に、自分なりに死期を悟って書いたのだろうとのことでした。
今でも、あの夜にお爺さんと話したことを思い出します。
不思議だけれど、あの優しい声は忘れないと思います。















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日々の恐怖 5月22日 サングラス

2013-05-22 19:22:52 | B,日々の恐怖






     日々の恐怖 5月22日 サングラス






 お昼休みに、いつも立ち寄る店があった。
職場の近くで値段も手頃だしランチもけっこう美味しかったので、同僚と一緒に毎日のように利用していた。
広いガラス張りの店内は昼休み時間ということもあっていつも混雑していたのだが、その中に必ず同じ窓際の席に座って外を眺めている女の人がいた。
 彼女は綺麗なロングヘア-のサングラスをかけた若い女性で、いつもひとりで外を見ている。
今考えるとちょっと変な感じだが、その頃は別段気にしていなかった。
ジロジロ見るのも失礼だし私と同じようにランチを食べに来てるんだな、ぐらいにしか思ってなかった。

 私がその女性を注意して見るようになったのは初夏の頃だったと思う。
女の人は相変わらず同じ席に座って毎日同じような長そでのシャツを着、サングラスをかけて外を眺めながらブツブツと何かを喋っているようだ。
 毎日、毎日、サングラスの彼女は店にいた。
そんなある日、いつものように店に入ると例の奇妙な女性が見当たらない。

“ あれ、あの女の人、いない。”

ふと、そんなことを思ったが、ちょうど仕事も忙しかったので、それ以上深く考えることもしなかった。
 その日は久しぶりに遅くまで残業をし、帰宅する為に電車に乗ったのは夜の10時頃だ。
アパートに着いたのは11時を過ぎていたと思う。
部屋の鍵を開けたときだ。

「 すみません・・・。」

不意に背後から声がして、私は心臓が飛び出すくらいビックリした。
振り返ると、レストランでいつも見かけるサングラスの女性が立っている。
 私は息を飲み、年甲斐もなく背筋に冷や汗を感じた。
女の人は無表情のまま、私に顔を近付けてきた。
 彼女は夜だというのに相変わらずサングラスをかけているので、その下にどんな両目があるのかは判らない。
どんな目つきで私を見ているのかも判然としない。
それがことさら恐ろしく感じられた。
 声も出せずに立ちすくんでいる私の目の前で、女の人はゆっくりとサングラスをはずそうした。
   
“ この人と目を合わせちゃダメ・・・。”

何故だか咄嗟にそう思った私は目を逸らせ、部屋に飛び込んでカギをかけた。
 外は静かで、何も起こらない。
ドアの外に例の女性がいるのかどうかも分からなかったが、その晩は一睡もできなかった。
 数日後、私はアパートを引き払った。
またあの女がやってくるかもしれないと思うと、怖くて住んでいられなかった。
一緒にランチを食べに行っていた同僚に引っ越した理由を聞かれたので、例の店にいたサングラスの女のことを話したのだが、同僚はそんな女は見たことがない、と言った。



















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日々の恐怖 5月21日 薬剤師

2013-05-21 18:51:15 | B,日々の恐怖






     日々の恐怖 5月21日 薬剤師





 私は薬剤師で、新人の頃ある病院に勤務していた。
薬剤師は私を含めて3人で、一番下っ端の私は何でもやらなくてならなかった。
 ある日のこと、いつものように夕方近くに外来が終わり、病棟のオーダーに基づいて、注射薬の払い出しをしていた。
どういう訳かこの日のオーダーはややこしいのが多く、病棟に問い合わせをしたりしながら作業をしていると、結構な時間になってしまった。
しかも、その日のうちに薬品会社へ発注をかけなければならない薬があり、その発注書を作らなければならなかった。
 食堂に夕食を予約しておけばよかったと思いながら、発注書を作り始めたとき、内線が鳴った。
が、受話器を上げても声がしない。

「 薬局ですけど、なんですか? 」

と呼びかけるが、何の応答もない。
電話機には、A病棟のナースセンターを示す内線番号が表示されている。

“ 電話の故障か・・・?”

と思い、一旦切った。
だが、また内線が鳴る。
出るとさっきと同様に応答がない。
これが2、3回繰り返されるとさすがにイライラしてきた。
しょうがなく、調剤室を出てA病棟に向かうことにした。
 A病棟は5階。
エレベータに乗り、階数ボタンを押す。
2階、3階、4階・・・、エレベータが止まり、扉が開いたときにようやく思い出した。

“ この病棟、改装中で使われてなかったよな・・・。”

 養生シートがそこら中に貼られている真っ暗なフロア。
目を凝らすと、エレベータの出口の真ん前にあるナースセンターに、看護師らしき人間が一人立っている。
 火災報知機の赤いランプの灯で、ナースキャップ、そしてカーディガンを着た後ろ姿がうっすらと見える。
何をしているんだろうと、エレベータから降りようとしたとき心臓が止まりかけた。
その看護師の身体を透かして向こう側が見える。
 必死でエレベータの『閉』ボタンをガチガチと押した。
エレベータのドアが閉まり、再び開くまでひたすら目を閉じたまま耐えた。
そして「ちん」という音を聞くと、飛び出すようにエレベータを出た。
 一刻も早く病院を出たかった。
だが、調剤室を放ったらかしにはできないし、発注だけはしておかないとえらいことになる。
 小走りで調剤室に向かい、書き殴るように発注書を仕上げ、チェックして、ファックスに突っ込こもうとした時、また内線が鳴った。
着信音とともに、小さな赤いランプが点滅している。
 無視した。
絶対に表示を見たくない。
ファックスが送られたのを確認し、電気を付けたまま調剤室を出て鍵をかけた。
暗くなった調剤室を見るのが嫌だった。

 翌日、出勤すると、事務課の職員から「調剤室の明かりがつけっぱなしだった。」と小言を言われた。
謝りながら、「A病棟って内線が通じるんでしたっけ?」と聞くと、「えっ? 医局からも同じ問い合わせがあったけど、改装中だから通じませんよ。」と言われた。















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日々の恐怖 5月20日 農家

2013-05-20 18:18:12 | B,日々の恐怖






     日々の恐怖 5月20日 農家






 平成4年の夏の話です。
当時はまだ北東北まで行くと機関車が客車を引っ張ってる普通列車が沢山あって、その写真を撮りに良く行ってました。
ただ、今みたいにレンタカーが充実してなかったので、列車で行って、駅から歩いて写真撮ってました。
 あれは奥羽線の北のほう、大釈迦と言う駅から歩いた時の話です。
午後3時頃に駅へ降りて、そのまま線路沿いを弘前方面へ歩いていったのです。
途中で何枚も写真を撮って、気がつけば夕暮れを通り過ぎ暗くなる頃でした。
 国道7号線こそ車がビュンビュンと走っていたのですけど、線路沿いの道は薄暗く、茂みからは蛙や虫の鳴き声がしてました。
駅へと急いだのですが、運悪く足を滑らせて用水へ落っこちました。
 用水は2mほどの深さがあって、自力では這い上がれません。
とっさにカメラバッグと三脚を放り投げて身一つで落っこちたのです。
膝くらいまで水につかっていて、おまけに蚊が凄いしくもの巣だらけになりました。
ただまぁ、若かった事もあって無様に落っこちず上手く着地したのが救いです。
 さて、どうやって脱出したもんかと思っていたのですが、まともに這い上がれそうな所は一箇所もありません。
これは困ったな、と。
当時はまだ携帯電話もなかったです。
 しばらくしたら用水の上に人の気配がしました。
思わず『すいません!用水に落っこちました!助けてください!』と声をかけました。
そしたら何も言わずに竹のはしごが下ろされたんです。
上がって見たら小柄なおじいさんとおばあさんが並んでました。
 お礼を言って駅へと急ごうかと思ったんですが、手招きして早口の津軽弁で何か言ってるんです。
言われるがままについて行ったら、踏み切りの近くの農家に入っていきました。
何かと思ったら、風呂に入って飯を喰っていけとの事でした。
 最初は断ったんだけど、ありがたくいただく事になって、風呂に入り飯を喰い、おじいさんとアレコレ話をしまして、泊まって行けと言われたんですが、仲間が青森駅前のホテルにいるので最終列車で青森へ帰ると話し、丁重にお礼を言って財布を開けたんです。
メシ喰って風呂に入って『ありがとう』じゃ拙いです。
 財布を空けたら5000円札が姿を現したんで『良かったらタバコ代にでも』と、置いていこうと思ったんですけど、どう言うわけか頑として受け取ってくれなくて。
 で、列車の時間もあったもんだから、繰り返しお礼を述べて駅へ向かった訳です。
で、その夜はそのまま青森へ行って仲間と合流して、駅前の食堂で飲みなおして寝たわけです。
 次の日、弘前行きの列車に乗って車窓を眺めていたら、踏み切り沿いに立ってたはずの大きな農家が無いんです。
気になって気になって仕方が無くて引き返し、駅から歩いて行ったら、確かここだと言う場所は雑木林になってました。
 駅間の踏み切りは6箇所で、段々怖くなって結局大釈迦まで歩いたんですが、全部の踏み切りを回ったけど、そもそも踏み切り沿いに家なんか立ってないんです。
畑だったり田んぼだったり、或いは雑木林とか荒地とか、そんな感じで。
前の晩に見た、ぽつんと立ってる一軒家の大きな農家なんてもんが影も形もありません。
 当時はおかしいなぁとしか思わなくて、何か勘違いしたんだろうと思っていたのです。
でも確かに風呂に入ったし飯食わしてもらったし、一体自分はどこで何をしたのか、未だに謎です。














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日々の恐怖 5月19日 民宿

2013-05-19 18:03:26 | B,日々の恐怖








      日々の恐怖 5月19日 民宿







 これは学生時代、山中湖で住み込みのバイトをしていた時のお話です。
バイト先は山中湖の平野という場所にある大きな民宿だった。
民宿とは言え、利用するのは大学や高校の夏合宿がメインで、体育館やテニスコートなどもあり、規模的にはかなり大きなもの。
ここは友人の親戚で、私は友人に誘われて7月初頭から8月末まで働く予定になっていた。
 民宿にはコンクリート4階建ての本館と、木造の建物が4つほどあり、一階部分が通路で繋がっている。
本館はかなり大きく、各階には廊下を挟んで部屋が10室ずつあった。
 住み込みで働く人たちは数人でグループになり、駐車場の脇に建てられたプレハブ小屋に寝泊りしたが、私と友人は本館4階の非常階段横に設置されたプレハブに泊まることになった。
 ここは他より待遇の良い場所だ。
駐車場のプレハブ小屋は木影が無く、昼間は容赦ない太陽がギラギラ照りつけてサウナ状態になるのに比べ、このプレハブは地上から離れているうえに木影があり、昼間も快適に過ごせた。

 8月に入った頃、友人は急に里心がついて休暇をとりたいと言い出した。
民宿には東京から来た剣道部が20名ほど泊まっているだけで、予約もなかった。
ちょうど暇ということも幸いし、友人は3日間休みをもらって家に帰ってしまい、私は一人でプレハブ小屋に泊まる事になった。
 民宿での仕事は朝早くから始まる。
午前4:30には食堂に降りていって、朝食の準備にとりかからなくてはならない。
なので、お昼御飯を食べた後、12:30から午後3:30までバイトは休憩時間に入り、みんな疲れて昼寝をするのだ。
 友人が家に帰ってしまってから3日目の午後、私は早朝からの仕事でくたびれきって昼寝をしていた。
ふと目を覚すと、室内がやけに暗い。
ゴロゴロと雷の音が聞こえた。
夕立ちがくる前の、薄暗く、湿っぽい感じがした。
 時計を見ると、まだ3時。
仕事開始めまで30分はあったが、雷の音もだんだん近くなるし、小屋のトタン屋根にバタバタと雨も降ってきたので、下に降りて行くことにした。
 いつもなら、非常用の螺旋階段を使って降りて行くのだが、この外付けの非常階段には屋根がない。
夕立ちはかなり激しく降っていたので、私は本館の階段を使う事にした。
 私と友人が4階のプレハブ小屋を使っているので、この階の非常扉には鍵がかかっていなかった。
扉を開けると、本館4階の廊下がまっすぐ伸びている。
唯一の宿泊客である剣道部の学生は離れの木造に泊まっていて、本館には誰もいない。
 お客さんがいないので、電気もついていないし、各部屋のドアは空気がこもらないよう開けっぱなしになっていた。
薄暗く、まっすぐ伸びた廊下の突き当たりに階段があり、私がそこを目指して歩いていくと、客室のドアの前を通り過ぎるたび、両端の部屋の窓から雷の光が目の端に見えた。
 廊下はやけに長く感じられ、私はまっすぐ前だけを見て歩いていた。
各部屋は廊下を挟んで左右対称になっているので、両側のドアはそれぞれ同じ位置にある。
ドアの前を通ると、両側の目の端に、なんとなく左右の部屋の内部が見えた。
 ひとつ、ふたつ、みっつ、長い廊下に苛々しながら歩いて行くと、6つ目のドアの前を通り過ぎた時、左側の部屋に誰かがいた。
小さな子どもがこちらに背を向けて、テレビの前に座っている光景が、確かに目の端に見えたのだ。
 私は立ち止まり、もう一度部屋を覗いた。
テレビの前に確かに子どもが背を向けて座っている。
部屋の入り口には小さな運動靴が一足、きちんと揃えて置いてあった。
電気もつけない部屋に、小学生低学年くらいの子どもが一人で座っているのだ。
 テレビではワイドショーをやっていたが、音は聞こえない。
この民宿には子どもはいないし、親戚の子が遊びに来る、なんて話も聞いていなかった。
どこの子だろうと思いながら私が声をかけると、その子は私に背中を向けたままテレビの電源を消した。
 何にも映っていないブラウン管に、前向きの子どもの上半身が反射して見えた。
白いTシャツに紺色の半ズボンをはいて、体育座りをしている子ども。
それを見て、私は違和感を覚えた。
洋服や手足はかなりハッキリ映っているのに、顔だけが不自然にボヤけてよくわからない。私の心に湧き上がってきた恐怖が合図だったように、その子が首だけを動かしてこちらを振り向こうとした。
 私はゾッとしてその場から逃げ出した。
背後では、あの子どもがドアから首だけを出してこっちを見ているような気がして、とても振り返れない。
 後ろを絶対に見ないようにして階段まで辿り着くと、転びそうになりながら駆け降りた。
頭上の階段の手すりから見下ろされているような嫌なプレッシャー、あの時の恐ろしさは今でも感覚的に残っている。
 すでに仕事を始めていた民宿の奥さんに不気味な子どものことを話すと、近所の子どもが勝手に入ってるのかもしれないからもう一度確認してきて、と言われたが・・・・私は絶対に嫌だと言って断わった。
それで、遅れてきた他のバイトが見に行ったのだが、猫の子一匹見当たらなかったようだ。

 3日ぶりにバイトに戻ってきた友人にその出来事を話すと、笑い飛ばされた。
だが、そのあと急に真顔になって、去年バイトに来た時も同じような経験をした人がいたと教えてくれた。
その人はバイトを続けられなくなって、辞めてしまったそうだ。
















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日々の恐怖 5月18日 質屋

2013-05-18 17:40:16 | B,日々の恐怖






     日々の恐怖 5月18日 質屋






 今から7、8年前、老舗質屋のご主人さんと話す機会がありました。
その時の会話です。


実家がずっとやってたんでねぇ・・。
サラリーマンもしましたが、結局30になったぐらいに継ぎました。

じゃあもう10年くらい?

そうなりますね・・。

その頃と今と違う?

やっぱり厳しくなりましたね~。

業界が?

いや、不景気になると、けっこう質屋業界は安定するんですけど・・。
ま、人様の幸せ考えたら、安定したらアカンのですけど。(笑)

じゃあ規制とか?

そうです・・。
ネットで商品横流ししたり、オークション詐欺する人間増えてきたので、我々のように店舗でやりとりする業界にも、しわ寄せきてますわ。

昔はそうでもなかった?

僕が継いだ頃はボチボチ厳しくなってましたけど、親父がやってた頃は、それこそ、昔の映画のシーンみたいなこともあったみたいですよ。(笑)

めっちゃ興味ある・・。
旦那さんは体験したことないの?

僕もね、1回ありましたよ。

聞きたい。(笑)

めっちゃ雨の日でしたわ・・。
100円傘閉じて、まあまあビショ濡れで、ニット帽目深のコート姿のおっちゃん、入ってきてね・・。

うう・・ハードボイルド。

目ぇ合わさへんのですよ・・。

どうみてもヤバい感じなんや?

ま、人目を忍んでくる業界ですからね・・。
初見はみんなだいたいそうなんですけど。

で・・?

それが、コートの胸元から、新聞紙に包んだこれ(ひとさし指で弾くまね)、カウンターに置いてね・・。
「値段わかるかっ?」
って、一言。

こ、怖いわ・・、というか怖くなかったん?

そりゃもうドキドキものですよ。(笑)

むこうはなんて?

「50でええから。」って。

リアルな値段?本気なんやろね?

カウンターの下にね、警察直通の警報ボタンありますし、そういう類いのヤバい人はみんな知ってる。

物取りではほとんど来ないもの。
要はお金に早く換えたいだけなんですよ。

いやァ、俺やったら強盗?って絶対思うわ。

先にブツ置いた時点で物取りやない。
僕ら商品より、人見てるんで・・。
物取りで脅してるのか、ほんまにお金に換えたくて来てるんか、見極めなあきませんねん。

でも、換えれないっしょ?

当たり前ですやん。(笑)
でも冷静に対応せんと、命が危ない。

なんて言うたん?

「申し訳ございません、当店では取り扱っていませんので、お持ち帰りください。」
って、ゆっくり、はっきり言いました。(笑)

かっこいい~。

いやァ、脇は汗びっしょり・・。
ボタンを押そうとしてた指は震えてましたわ。

すぐ押したらええのに?

むこうも、ブツをすぐ置いてくれたんでね・・。
後々警察来て、いろいろ聞かれるの面倒やなって踏みとどまりました。(笑)

ニット帽おっちゃんは素直に帰ってくれたん?

「すぐいるんやけどな~ここはアカンかっ?」って。
サッとブツしまって、出ていきました。

5万でも無理?って粘られても困るし。(笑)

ほんまですわ・・。
今じゃ考えられん話ですけど。

考えられへんとは?

まず、持ってこんでしょ?来たら強盗。(笑)

やねぇ・・でも、それもってウロウロされてもな~、な話。
いずれ、どこかで罪犯しそうやけど。

持ってることがもう犯罪。(笑)
通報ボタンね・・、意外と押せないっちゅうか、動揺してる時って、どっか頭飛んでますねん。

すぐ警察かけつけてきたら、逆切れされるとか・・、そっちが怖かったかもです。
とにかくこの場から消えてくれ~、にまずなりますねぇ。

かも。

なかなか冷静になれるもんじゃない、・・です。(汗)













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日々の恐怖 5月17日 エレベーター

2013-05-17 18:09:52 | B,日々の恐怖





     日々の恐怖 5月17日 エレベーター





 俺が引越し屋に新人で入ったころの話です。
3月の繁忙期、前の現場が長引いてしまって次のお客さんの作業開始が午後4時を回ってしまった。
最初から繁忙期だから作業開始は遅くなるって分かってたみたいで、そのお客さん全然怒ってなかったけど、俺たちはまだその次の現場があったんでとにかく急いでいた。
 8階建てのマンションの8階がお客さんの部屋で、俺は新人だったから台車を転がしながらエレベーターで上がったり下がったりだけの役目だったんだけど、そのエレベーターの調子が悪いって言うか、変なんです。
 誰も居ないのに4階で勝手に止まって勝手にドアが開く。
俺が「閉」ボタンを連打するけど、ドアの閉まり方もとにかく変。
なんか引っかかってる様な感じ、ガーーーン、ガーーン、ガンみたいな。
エレベーターって安全装置がありますよね、ドアの片側についてるヤツ。
アレが誤作動してる感じ。
 同様に8階もそうなるんです。
8階は俺らがエレベーター呼んでるから当然止まるんだけど、閉まり方がおかしい。
4階よりももっと閉まるのに時間がかかる、ガーーーーン、ガーーーン、ガーン、ガンって。
苛々しながらも、やっと作業が終わった。
 次の現場も他のクルーが入ってるから行かなくていいって事になって、ホッとしながらトラックの近くで後片付けしてたらお客さんが降りてきた。

「 お~結構、積めるもんだね~、入りきらないかと心配してたよ。」

とか何とか言って感心してた。
 んで、先輩たちとお客さんがなにやら小声で話してた。
よ~く聞いてみると、最近このマンションで飛び降り自殺があったらしい、独り者のサラリーマンの。
4階で飛び降りて、死ねなくて、折れた足を引きずりながらエレベーターで8階まで上って、そっから飛び降りてやっと死ねたんだって。
なんか警察の現場検証だとそう言うことらしい。
なんか俺、そのサラリーマンの悲しい執念を思うと胸が痛くなった。
もう成仏しろよって。















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