日々の恐怖 11月16日 ろろく石(2)
その頃、親父は獅宝堂という骨董屋の主人と親しくなりました。
その人は小柄な老人で、親父が金があると目をつけたのか、ちょくちょく家に尋ねてくるようになったのです。
ある日、親父は家族に向かって、
「 この間から、家の中がちょっと変だったろう。
どうもあのサンゴの根付けが原因らしい。
獅宝堂さんから聞いたんだが、ああいうものはお女郎さんの恨みがこもってるかもしれないってね。
だが、そういうのを打ち消す方法もあるって話だ。
それで、これを買うことにしたよ。」
と言って、一幅の掛け軸を見せました。
それはよくある寒山拾得(中国唐代の2人の禅僧)を描いた中国製で、それほど高い物には思えませんでした。
そしてそれは和室の床の間に飾られることになりました。
掛け軸が来てから家の中の異変はいったん収まったようでした。
相変わらず猫は書斎へは入らないものの、植木は元気を取り戻し、物が腐りやすいということもなくなったのです。
親父は、
「 古い物はほとんどが人間の一生以上の歴史を持っていて、中には悪い気を溜め込んでしまっている物もある。
そういうのの調和を取るのが骨董の醍醐味だと、獅宝堂さんから聞いたよ。」
と悦に入っていました。
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