日々の恐怖 11月21日 ろろく石(3)
ある日のことです。
当時自分は中学生でしたので和室に入る用などめったになかったのですが、たまたま家族が留守の時、学校で応援に使ううちわが和室の欄間に挿されていたのを思い出して、取りに行ったのです。
すると家の中には誰もいないはずなのに、なぜか人の話し声が聞こえてきます。
ごく小さな声ですが、和室の中からです。
ふすまの前で聞いているとこんな感じです。
「 これで収まったと思うなら浅はかな・・・。」
「 ただ臭いものに蓋をしたにすぎないだろ・・・。
今に、もっとヒドイことが・・・。」
どうも二人の人物が会話をしているようです。
コミカルな声調だったのであまり怖いとも思わず、一気にふすまを開けて見ました。
しかし当然ながらそこには誰もいませんでした。
ただ床の間の絵を見たときに、なんだか2人の僧の立っている位置が前とは違っている気がしました。
そしてそれから2,3日後、夜中に家に小型トラックが突っ込んでくるという事故が起きたのです。
塀と玄関の一部を壊しましたが、幸い家族にケガ人はありませんでした。
親父はこの事故のことでずいぶんと考え込んでいましたが、それからはますます骨董買いに拍車がかかりました。
古めかしい香炉、室町時代といわれる脇差、大正時代のガラス器などなど。
そしてそのたびに家に変事が起こり、また収まり、そしてもっとヒドイことが発生するといったくり返しになりました。
骨董に遣ったお金もそうとうな額にのぼったと思います。
「 あっちを収めればこっちの障りが出てくる、考えなきゃいけないことが十も二十もある。
こらたまらんな・・・・。」
親父はノイローゼのようになっていました。
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