日々の恐怖 5月27日 ぎい(2)
思い出すのは、いつもそこだけだ。
きっかけもなく、白昼夢のように、ふと思い出す。
前後の記憶はどれだけ頭をひねっても思い出せない。
だからそこに至る経緯も、その後どうなったのかも、彼女にはわからない。
ただ、思い出した直後は、不思議と懐かしむような気持ちになるそうだ。
「 そういえば、そんなこともあったなあ。」
そんな心持ちになるそうだ。
首吊りのシーンを思い出した感想としては、かなり変だと思う。
怖いとか、悲しいとかなら、わかるのだが。
「 一応、調べたけどね。
私が小さい頃にそんな死に方した人はうちにはいなかったよ。」
「 じゃあ、実際に見た記憶じゃないのか。」
「 それは、わからない。」
彼女曰く。
彼女の実家に晴れ着の幽霊が出る、という話は昔からあったそうだ。
建て替える前の実家は昭和の初めに建てられた古い家だったが、その家が新築だった頃から幽霊話があったという。
その因果はあまりに古くて、詳細はわからない。
「 きっと私は、小さい頃にその幽霊を見たんだと思う。
その記憶を、時々思い出してるんじゃないかな。」
実際に誰かが死んでいれば、それは怖い記憶となるだろう。
見知った人の死であれば、悲しい記憶になるだろう。
だが幽霊は、そのどちらでもない。
実際に死体を見つけたわけでも、知り合いが死んだわけではない。
だから怖いとか悲しいとは感じない。
ただ、懐かしむような気持ちになるだけ。
彼女はそう解釈しているという。
ところで、建て替えた後の現在の実家では、二階のある部屋では頻繁に家鳴りがするそうだ。
なにかが軋むような音。
” ぎい。”
そんな音が、時々するという。
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