日々の恐怖 4月25日 再会(4)
その声は、ある時は歌いながら、またある時は怒鳴りながら、しつこく奴に語りかけた。
奴はとうとう根負けして、その声に耳を貸した。
「 会話が成立したんだよ。
ここが分裂病と違うところだ。」
奴は声の主にその証拠を見せろと言ったらしい。
「 あの体育教師が事故って死んだだろ。」
奴を目の敵にしていた教師が死んだと言うのだが、そんな事実は無かった。
「 A子から告ってきたよ。」
学校でも美人で人気があった女の子が、奴に付き合ってくれと言ってきたそうだが、彼女は他の男とずっと付き合っていた。
俺がその事を否定すると、奴は自信ありげに答えた。
「 新聞の切り抜きもあるし、A子からもらった手紙もあるんだ。」
おまえの妄想だと言うと、奴は笑いながらぼろぼろになった学生証を見せた。
「 最初のうちはうまくいってた。
受験勉強なんて睡眠学習だけだったしな。」
奴は声のアドバイスに従って、一日中寝ていたそうだ。
「 でも一人暮らしを始めてから、おかしな事がずっと続くようになった。
見たことも無い景色を見て、会った事も無い人間のことを覚えていたりした。」
偽りの記憶と本当の記憶の狭間で奴は混乱し、誰からも相手にされなくなったと言う。
さらに、偽りの記憶の方が鮮烈だったりして、奴の現実は圧倒されてしまったらしい。
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