一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

ブルドックソース高裁決定(その1)

2007-07-21 | M&A

頭の上の蝿を追いかけるのに忙しくてニュースにひとことのようなエントリが続いてますが、遅ればせながらブルドックソースの高裁決定について。

そもそもこの買収防衛策自体が、スティール・パートナーズの新株予約権を現金で買い上げて損はさせない(というより出口を提供して利益を確定させる)もので、しかも株主総会の特別決議によっています。
一方でスティール・パートナーズも事前の質問に対し自ら会社経営をする意思がないと言ってしまっています。
なので「損してない(というより儲けた)からそれ以上文句を言うなよ」という結論になるのは当然かなという感じです。


地裁ではスティール側にも「株主としての経済的利益が平等に確保されていること」(=買収者に損をさせてはいけない)が要件になっているようにも見えましたが、高裁では

と、「過度の財産的損害を与えない」のであればいいと言っています。

また、地裁は権限分配論的な書きぶりですが、高裁は(このタイプの)買収防衛策の発動は株主総会の(特別)決議によらなければならないとも言っていないように読めます。


それはそれでいいのですが、今回の買収防衛策は結局は会社の現金でスティール・パートナーズの株式を買ったと同じことになるわけで、経営陣の防衛はできたけれども企業価値の防衛はできなかったのではないか、という疑問が残ります。

よしんばそうだとしても株主総会の特別決議を経ているので、大半(2/3)の株主が会社が損してもいいと言ってる、という理屈はありえます(多分高裁決定も大背景にはそういう判断があったのではないかと)。


しかしもし経営者と買収者が取得価格を裏で握っていたとすると、会社が特定の株主から株式を取得する場合には、他の株主も自分の株を同条件で取得することを求めることが出来る(会社法160条3項)のに比べて、他の株主が自分の株式を処分する機会を奪っていることにならないでしょうか。

特定のものからの株式取得は株主総会の普通決議で可能ですが、取得相手の株主は議決権を行使できません(会社法160条4項)。
たとえば40%の株式を保有している株主から会社法160条の買取手続きで買い取るには(全員が議決権を行使したとして)他の株主の30%超の賛成が必要な一方で、今回のような特別決議において取得条項付新株予約権の発行を決議する場合(当該株主にも議決権がありますから)他の株主の26%超の賛成があれば買い取ってもらえることになります。

今回はスティールからの仮処分申し立てでしたが、他の株主からの仮処分申し立てがあったても同じ判断になったのでしょうか。
また、一般株主から取締役に対し株主代表訴訟が提起された場合も特別決議の承認をもって「みそぎ」になるのでしょうか。

これについては

ちなみに、前記した本件の経緯に照らしてみると本件においては、この価格より定額であったとしても買収策としての相当性を欠くものではないとの評価も考えられる。なお、この点については、前記の経緯からして、我が国において類例も乏しく、過去に経験のない突然の外資ファンドの公開買付けに混乱した中での対応策であったともいえることからすれば、他の株主に不当、不合理な不利益を強いるものというのは的外れであり、本件総会の特別決議はこうした諸事情を了承した上での他の株主の意思表示と解すべきものである。

とあります。
しかし、株主が「こうした諸事情を了承」していたかというと疑問です。
スティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンド-エス・ピー・ヴィーⅡ・エル・エル・シーによる当社株券等に対する公開買付けへの反対の意見表明並びに新株予約権無償割当て及び関連議案の定時株主総会への付議に関するお知らせ
でも

なお、かかる396円という取得価額は、本日平成19年6月7日現在の本公開買付けにおいて公開買付者の提案する当社普通株式1株当たりの買付価格1,584円に本新株予約権無償割当てにより見込まれる希釈化の割合(4分の1)を乗じて得られた金額であり、本新株予約権無償割当てを通じて公開買付者に経済的損害を何ら与えないようにすることを目的として決定された金額です。

という説明しかなく、スティール・パートナーズの影響力を法的に安定した形で排除するために経済的対価については保守的にした(平たく言えば経済効果だけから言えば「盗人に追い銭」だ)けどいいでしょ?という議案の提示にはなっていないように思います。

取締役には過去に経験のない突然のことへの対応への混乱を容認しておきながら、株主はこのような混乱した状況下での議案に対し「こうした諸事情」を十分理解したうえで判断できる能力があると認めているのはちょっと妙な感じがします。


地裁・高裁決定の結論自体には異議はないのですが、今回の買収防衛は会社自体は防衛できなかったような感じがして仕方がないもので。

コメント
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