一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『なぜ世界は不況に陥ったのか』

2009-06-11 | 乱読日記

副題に「集中講義・金融危機と経済学」とあるように池尾和人慶應大学教授と池田信夫氏(肩書きは上武大学教授ですがブロガーなり評論家としての方が有名?)の今回の金融危機を経済学のベースで語ろうという対談型式の本です。

前半部の投資銀行がどう変質していったかというあたりはちょっとはしょってる感じもありますが、現在の金融危機を経済学の切り口できちんと整理していて、私は経済学の体系的な知識もなく最新の事情に詳しいわけでもないですが、すんなり頭に入ってきます。


もっとも

(池田)
 一般の人々の理解はそこから一周ぐらい遅れていて、まずIS-LMみたいな大学のときに習った図式がずっと頭にあって、政府が総需要を刺激したら需給ギャップがなくなると単純に考える人が多い。実はあの図式は、価格が一定だという前提があるのです。価格が動くとすると、賃金を下げたら労働需要が増えて失業はなくなるはずです。それがなくならないのは、賃金や価格の硬直性があるからです。
 だから大学で習うマクロ経済学は、ミクロと矛盾したことを教えています。ミクロでは価格はフレキシブルに動くのに、マクロでは価格が動かない経済学を教えている。大学院以上でやっている経済学と、学部で教えている経済学との間に大きな違いがあって、一般の人はいまだにマクロとミクロを別々のロジックで考えることに大きな問題があるということに気づかない。
 専門家の中ではそういう矛盾のない論理体系になっているのに、官僚とかメディア(政治家はもっとひどい)の中には、いまだに古いケインズ的な図式が残っています。

などと池田氏得意の上から目線の発言も出ますが、「一般の人々その1」としてはそういうもんか、というしかありません(苦笑)
ただ、全般的にはわかりやすく整理されていて、現在の議論の混乱しているポイントなどもきちんと指摘してくれています。

(池尾)
本来の意味でのインフレーション・ターゲティングという金融政策の運営枠組みの話と、かつて我が国で主張されたインフレ目標「政策」というのは、似て非なるものなので、はっきりと区別しなければならない。

(池尾)
水準の問題と振れの問題を区別すべきだということです。経済状況が悪いといっても、本来の水準そのものが低下しているのか、本来の水準はもうちょっと高いのだけれども、振れの問題として下振れしてそういう状態になっているのかで意味がまったく違います。

などなど。

まあ、このようにわかりやすい指摘は池尾教授の発言に多いようには感じました。


プロローグに本書を「『半教半学』の福沢精神に基づいて、池田信夫さんと私(池尾)が、いずれが教授役いずれが聞き役という区別なく互いに議論しあうという形・・・」と表現していますが、池尾教授の方が福沢先生だったんでしょうね。

コメント
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