赤く腫れあがった私の腕を見て 沈鬱な表情の女
夜の時間の流れは 何時になく遅い
はなから幸せなど信じていないと あなたはそっと呟いた
月光花の香りに唆(そそのか)されて 女は私の手を取った
冷ややかな感触の他には 何者にも浸食されていない美しさがあった
白い肌には戦争の後の生傷が口を開いていた
そこから滴る血に 私は求めるように舌を這わせた
女に温度を感じたいとは思わなかった
ただこの虚無感を埋める為に 喉を潤したかったのだ
その時 女は微笑みながら大きく私を打った
目の前が暗澹(あんたん)と虚しさの空隙(くうげき)に堕ちて行くかのような質感だった
女はそして 倒れた私に近づき 小さな唇で接吻を施した
何もかもがくだらなく感じた瞬間であった
そして女は私の唇をつまみながら声小さく云った
「あなたはいつでも逃げ続けている」
夜の気配が更に深刻さを帯びる時間
私はそのまま女の言葉を聴きながら悦に入り込んでいた
女から発する音感が堪らなくとある一点を刺激していた
そして女は何も解らないといった表情をすると
途端に怒りに切り替わり 持っていたナイフで私を切り刻んだ
痛みは存在しなかった 可憐(かれん)なる血の飛沫(しぶき)だけが
視界の中で乱舞している 私は如何(いか)なる生を全うしたのだろうか
こうして彼女に見離され 流浪(るろう)に身を任せていた私を襲う悲劇の雨
何か私を厭(いと)う気持ちがあって彼女は私を怨むのか
夜の冷たい花はこうしてまた 深淵に散って行く
暗い場所に咲く花ほど 孤独に包まれた感情を抱いている事を
彼女は知っているのだろうか
夜の時間の流れは 何時になく遅い
はなから幸せなど信じていないと あなたはそっと呟いた
月光花の香りに唆(そそのか)されて 女は私の手を取った
冷ややかな感触の他には 何者にも浸食されていない美しさがあった
白い肌には戦争の後の生傷が口を開いていた
そこから滴る血に 私は求めるように舌を這わせた
女に温度を感じたいとは思わなかった
ただこの虚無感を埋める為に 喉を潤したかったのだ
その時 女は微笑みながら大きく私を打った
目の前が暗澹(あんたん)と虚しさの空隙(くうげき)に堕ちて行くかのような質感だった
女はそして 倒れた私に近づき 小さな唇で接吻を施した
何もかもがくだらなく感じた瞬間であった
そして女は私の唇をつまみながら声小さく云った
「あなたはいつでも逃げ続けている」
夜の気配が更に深刻さを帯びる時間
私はそのまま女の言葉を聴きながら悦に入り込んでいた
女から発する音感が堪らなくとある一点を刺激していた
そして女は何も解らないといった表情をすると
途端に怒りに切り替わり 持っていたナイフで私を切り刻んだ
痛みは存在しなかった 可憐(かれん)なる血の飛沫(しぶき)だけが
視界の中で乱舞している 私は如何(いか)なる生を全うしたのだろうか
こうして彼女に見離され 流浪(るろう)に身を任せていた私を襲う悲劇の雨
何か私を厭(いと)う気持ちがあって彼女は私を怨むのか
夜の冷たい花はこうしてまた 深淵に散って行く
暗い場所に咲く花ほど 孤独に包まれた感情を抱いている事を
彼女は知っているのだろうか