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超微量硫黄同位体比分析を考古学に応用する

2020-02-15 | 科学・技術
 理化学研究所仁科加速器科学研究センター雪氷宇宙科学研究開発室の高橋和也専任研究員、望月優子室長、近畿大学理工学部の南武志教授(研究当時)らの共同研究グループは、独自に開発した試料採取法と高感度な硫黄同位体比分析法を組み合わせ、島根県出雲市の京田遺跡(約3,500年前の縄文時代後期中葉に営まれた大規模な集落跡)から出土した超微量の赤色顔料(朱:組成は硫化水銀)の産地同定に成功した(2019年11月26日発表)。
 本手法は、世界中の壁画や遺物表面に存在する朱の解析に広く適用可能であり、今後、文化財科学の分野で一般化するものと期待できる。
 背景
 鮮やかな赤色を呈する朱は、古代社会において壁画や土器などの装飾に広く使用された。なかでも古代日本では、辰砂(しんしゃ)鉱石から得られる朱を用いていた。辰砂鉱石の産地である鉱山は日本および中国に多数存在し、日本のいくつかの鉱山は縄文時代から朱の採取に利用されてきたと推定されている。朱の産地を知ることで、古代における朱の流通状況が明らかになり、当時の日本社会の貴重な情報を得ることができる。
 朱の産地を特定するには、朱の構成成分である硫黄(S)の同位体比を調べる方法が用いられる。硫黄の同位体のうち、中性子数が16、17、18、20のものが自然界に存在し、自然界に多いのは32Sと34Sであるため、硫黄同位体比は34S/32Sを測定し、それを標準物質であるキャニオン・ディアブロ隕石中の硫化鉱物の割合と比較する方法で得る。標準物質との偏差の千分率(パーミル:‰)として表し、δ34Sと表記する。
 δ34S (‰) ={(34S/32S)試料/(34S/32S)標準物質-1}×1000
 δ34Sは辰砂鉱石の産地で差がみられる。また、辰砂は化学的には非常に安定であるため、δ34Sは古代から変化なく現在に至っていると考えられ、試料のδ34Sを分析し、各地の鉱山の辰砂のδ34Sと比較すれば、産地を推定できる。
 考古学に応用するに、硫黄同位体分析の高感度化と対象物を傷つけない試料採取法、両方の開発に取り組んだ。
 研究手法と成果
 硫黄同位体比(δ34S)分析では、まず試料から取り出した硫黄化合物を酸化的条件で燃焼させ、硫黄酸化物として取り出し、純銅を詰めた還元管に通すことで、二酸化硫黄ガスとする。この二酸化硫黄ガスをガスクロマトグラフィーに通して窒素や二酸化炭素を分離した後、安定同位体比分析用質量分析計に導入すれば、試料のδ34Sの値を得ることができる。
 従来の硫黄同位体比分析では、朱として50~100マイクログラム(μg、1μgは100万分の1グラム)程度の量を必要としていた。この量は硫黄としては200ナノモル(nmol、1nmolは10億分の1モル)程度に相当する。これに対し、高橋専任研究員らは2018年に、試料から取り出した二酸化硫黄ガスを高感度化する装置を開発し、従来の1/100程度の量の0.5μg(硫黄として2nmol)の朱のδ34Sを分析できる技術を開発しました。これは、試料から発生した二酸化硫黄ガスをいったん液体窒素温度(-198℃)に冷却・凝縮させることで、実質的に濃縮する効果を利用している。この結果、まさに「目に見える程度の一粒」の朱でも、δ34S分析が可能な感度を得ることに成功した。
 今後の期待
 近年、考古学分野における科学技術を利用した解析の果たす役割は非常に大きくなっている。分析技術の発展と共に、次々と新たな知見が得られるようになってきた。本研究で用いた、高感度硫黄同位体分析とユニークな試料採取法を組み合わせた分析手法は、現時点では理研独自のものです。
 今後、この高感度硫黄同位体分析手法が同位体分析法として一般化することで、さまざまな時代の遺物、壁画などの文化財に使用された朱の産地同定に役立てられ、考古学分野へ貴重な知見をもたらすものと期待できる。また、理研では硫黄に限らず、窒素、鉛などのさまざまな元素の同位体分析の高度化に努めており、宇宙、原子核などの分野への応用を目指す研究を進めている。
 ◆補足説明
 〇同位体
 同じ元素であって、質量数(陽子数+中性子数)が異なる原子のこと。例えば、酸素(原子番号8)の場合、質量数が16、17、18の三つの同位体が天然に安定に存在している。
 硫黄(原子番号16)は原子核に陽子が16個存在する。硫黄の同位体のうち、中性子数が16、17、18、20のものが自然界に存在し、その存在比は32S:33S:34S:35S = 95.02:0.75:4.21:0.02である。自然界に多いのは32Sと34Sであるため、硫黄同位体比は34S/32Sを測定し、それを標準物質であるキャニオン・ディアブロ隕石中の硫化鉱物の割合と比較する方法で得られる。式により、標準物質との偏差の千分率(パーミル:‰)として表し、δ34Sと表記する。
 〇辰砂(しんしゃ)
 英語名、cinnabar。化学組成がHgS(硫化水銀)で表される鉱物。鮮やかな赤い色をしており、日本では古来より、「丹(に)」と呼ばれていた。
 〇キャニオン・ディアブロ隕石
 地球上のクレーターとして有名なアメリカ・アリゾナ州のバリンジャークレーターが形成される原因となった隕石と考えられている。この隕石に含まれるトロイライトと呼ばれる鉱物(化学組成:硫化鉄)の硫黄の同位体比が硫黄同位体比分析における基準の値となっている。
 〇千分率
 1000分の1を1とする単位。パーミルと読み、記号は‰で表す。1‰=0.001=0.1%である。
 〇ガスクロマトグラフィー
 主として気体の成分をその化学的、物理的性質を利用して、分離しながら分析する手法。気体の成分分析に用いる。本研究では、二酸化硫黄を他の成分(窒素や二酸化炭素など)から分離するための技術として用いられた。
 〇安定同位体比分析用質量分析計
 質量分析装置は、分子の大きさ、構造の分析や元素組成の分析など、さまざまな用途に用いられるが、特に炭素、窒素、酸素、硫黄などの元素の同位体比を分析する質量分析装置を安定同位体比分析用質量分析装置と呼んでいる。

 今日の天気は晴れ~曇り。風が弱く、気温が高いので、寒くはない。最高気温は15℃、と初春の気温か?。
 榴岡天満宮の梅が咲いている、との報があった。早速、花見に出かける。
 榴岡天満宮の祭神は菅原道真(すがわらのみちざね)。菅原道真公と梅には深い繋がりがあり、神紋(しんもん、神社の紋)は梅。
 奈良時代に「花」と言えば梅(の花)と言うほどに古来から親しまれた花である。別名も、風待草(かぜまちぐさ)・好文木(こうぶんぼく)・春告草(はるつげぐさ)・・などと多い。平安時代中頃から、梅より桜(の花)が好まれるようになり、江戸時代以降は花といえば「桜」となった。
 ウメ(梅)・・(梅の果実も梅と言う)
 学名:Prunus mume
 バラ科サクラ属、落葉高木
 原産地は中国、奈良時代の遣隋使か遣唐使が持って来たと言う
 開花時期は1月~4月
 種類により開花期が異なる
 梅には300種以上の品種があり、野梅系・紅梅系・豊後系の3系統に分類され、梅の実を採るのは主に豊後系
 ◇榴岡天満宮
 榴岡天満宮は、天延2年(974)に平将春が陸奥国宇多郡(福島県)に勧諸したのが始まり。その後、宮城県柴田郡川内村に遷座、天文20年(1551)に国分小俵玉手崎(現在の仙台市青葉区東照宮)に移し、寛文6年(1666)に三代藩主・伊達綱宗により榴ヶ岡に遷座。寛文7年(1667)7月に丹塗りの社殿・唐門を新たに造営し、菅原道真公の真筆が奉納された。