このギャラリーのすぐ近くに工房を構える屋中秋谷さんが、木工に取り組んで40年をなるのを機に、旧作から新作までを並べる初の個展を開きました。
パン屋さんが隣りの敷地に建てたばかりのギャラリーで、屋中さんはこけら落としの次の展示になります。
今回のような展覧会は初めてですが、いかにも回顧展のようなかたちとは違って、年代順に並べるようなことはしていません。
床の上に(コンクリートブロックの小さな台座に載っているものもありますが)点在している作品を見ると、2002年の個展のときに筆者が漏らした「屋中さんがむりにこしらえたんじゃなくて、木のなかにもともとあったかたちをほりあてたみたいですね」ということばが、あらためて浮かんできます。
かたちが、屋中さんの作為ではなく、木の声に耳を傾けて、その結果、自然に生まれてきたかのように見えるのです。
冒頭の画像、いちばん手前は「絵本を囲む椅子たち」。
大小のスツールが、まるく配置されていますが、高さや幅がそれぞれ異なるため、片付けるときはまとめて収納できるようになっています。
よく見ると、留め具にあたる部分の色が、違う木を用いているので、色が違っているのがおもしろい。
小さな子どもたちが、幼稚園や保育園などで、絵本の読みきかせや紙芝居をじっと見ているようすが目にうかんでくるようで、楽しい作品です。
その奥、右手に見えるのは、「微睡の休息」。
今回は、1993年にアートギャラリーさいとう(現さいとうギャラリー)のあったビルの4階のスペースで開いた個展「休息のかたちへ」の出品作が何点か出ています。ほかに「慈しむ休息」など。
屋中さんは、自然な曲線を帯びた作品を最初から作っていたわけではありません。
今回の出品作で、いちばん古いのが、上の画像の左「TLIANGLE '87」。
直線を主体にした中にひねりを加えた角材のようなかたちを並列させ、幾何学的な立体を制作しています。
その後、材木屋さんと付き合っているうちに、丸太を加工するようになり、だんだんと作風も変わっていきました。
大作「うつわ『環状の調べ』」も、丸太から作っています。
ところで、「うつわ」というには、いささか大きすぎるのでは?
そう聞くと、屋中さんは、「自分は『台』を作っていたんだなあ、とある日気づいたんです」と言います。
なるほど。いすも、尻を載せる台だと言えそうです。
冒頭の画像で、奥に見える、コンクリートブロックの上の平らな作品は「うつわ『豊穣』」と題されています。
会場には、次に掲載した画像のような、皿や置物などもたくさんあり、皿の中には「台」を意味する「うてな」という題のものもありました。
上の画像で、右の壁に掛かっているのは「響の象(デンさんに捧ぐ)」。
早逝した知人のタブラ奏者を追悼するのに作ったものだそうです。
息子さんに漆で協力を仰いだ「木の楽譜」などの盆、さらに、ペン置き、ペーパーナイフ、一輪挿しなどもそろっています。
小さな木片を組み合わせて円形にした、木のボタンもあります。
ところで、話はすこし戻りますが、屋中さんの「台」の話は、示唆するところが非常に大きいと思います。
西洋の彫刻では「作品」と「台座」にはれっきとした序列があります。台座は台座でしかありません。台座は、作品と世界を分かつものであり、作品と世界をつなぎとめるものであります。
もっと言うと、上が「芸術作品」で、下の台座は「職人が作る物」です。
屋中さんが「台」というとき、それは、自分が作るものは、芸術作品というより台座だという、謙遜も含まれているのではないかと推察します。
しかし、東洋では、そこの序列はあいまいだと思います。
屋中さんの作るものが、完全な創作(これは、いわば擬制なのですが、それはそれとして)というよりもむしろ、いわば自然とのコラボレーションであり、主体と客体の二項対立を脱構築しているのと同じく、「作品」と「台座」の上下関係もあいまいになっていて、どちらが偉いという状態を超え出ているとはいえないでしょうか。いうなれば、主客二元論を超えた地点にあるのです。
ですから、台を作る人というのは、じつはけっして卑下ではなく、誇らしい言明なのだと思うのです。
「体が動くうちにと思って(旧作も展示するような個展を)やったけど、これが最初で最後」
と屋中さん。
「以前、或る書家に言われた『素朴の素朴が見たい』ということばがずっと引っかかっている。これからは、それに取り組んでいきたい。ただ、悟ったようなのは作りたくないし、枯れたようなのも作りたくない」
見ごたえのある個展です。
2015年4月21日~29日(水)午前10時~午後6時(最終日~5時)
ギャラリー バーンヤードサッポロ(手稲区西宮の沢4の1)
□http://www.ryokusha.com/
■第2回作品展 安藤豊と屋中秋谷・植田莫 蛍のひかり・夢あそび/屋中秋谷・厚子+植田莫・洋子作品展 夢の途中・旅の途中…」(2006年)
■屋中秋谷「木の中の小宇宙」(2004年、画像なし)
■屋中秋谷「木の中の小宇宙」展(2003年)
■屋中秋谷「栗より出でし十三の月」 (2002年)
・JR発寒駅から約1.65キロ、徒歩25分
・地下鉄東西線、宮の沢駅1番出口から約1.29キロ、徒歩17分
・宮の沢駅バスターミナルから、ジェイアール北海道バス「宮58 富丘線」手稲駅南口行きに乗り継ぎ、「西宮の沢4条1丁目」で降車、約80メートル。「42」「宮42 発寒団地線」手稲山口団地行きも、若干遠回りするが、「西宮の沢4条1丁目」を通る
・宮の沢駅バスターミナルから、ジェイアール北海道バス「琴29 琴似西野線」JR琴似駅行きに乗り継ぎ、「追分通」で降車、約400メートル、徒歩6分。JR琴似駅、地下鉄琴似駅からでも乗れる
・ジェイアール北海道バス「手稲追分」から約620メートル、徒歩8分
(宮の沢駅から宮44、宮45、宮55、宮57、宮59、宮65、55、57、66、80)宮の沢駅からも、札幌駅前や北1西4からも。
※駐車場有