道展などに所属する日本画家たちが毎年開いている「北の日本画展」。
昨年から3年連続で、テーマを設けた企画展を併催しており、ことしは「日本画、ニホンガ?にほんが。」となっているので、旧来の日本画の枠にとらわれない作品がかなり出てくるのではないかと予想していたが、いつにも増してオーソドックスな、写実的に女性や花などを描いた作品が目立った。
これを
「安心して見られる」
ととるか
「物足りない、個性に乏しい」
ととるかは、意見の分かれそうなところだ。
実名を出すのはアレかもしれないが、加藤拓、谷地元麗子、佐藤綾子、中島涼沙、高橋潤といった面々が出品していれば、全体の印象はもうすこし変わっていたかもしれない。
・小島和夫
題の「オーランガバード」は、インドの石窟群のある地名。臼杵は大分県で、筆者も昔、ここにある摩崖仏を見たことがある。
仏教発祥の地の仏像と、大陸東端の仏像を描いた大作2点で、人間の信仰心を静かに問う。一見、色彩は地味だが、よく見ると、インド側にはピンクが、大分側には金色がまぶされ、画面に精彩を与えている。
・平向功一
以前から「バベルの塔」をテーマとする寓意的な作品に取り組んできた。
今回の「GULLIVER」は、画面の下半分が、これまでのバベルの塔と同様の器械群で占められ、その上に、縄でくくられた巨人が横たわっている。ただし、ガリバーは、もがいているようなのだが、仰角気味の構図のため、表情などはわからない。したがって、平向さんの絵のもうひとつの特徴である「無人」という印象は、これまでと変わっていない。
小品の「IKAROS」も風変わり。5枚の羽や塔屋、滑車などを備えた紡錘型の奇妙な機械が空を飛行している。下界は、砂漠の街が広がり、前景にはカタパルトのようなものが描かれている。
・伴百合野
額装も軸装もしていない縦長の紙本3枚による組作品。回廊の風景を、透視図法を生かして描いているが、ほかの場面を重ね合わせたり、ガーゼをコラージュして、風景画を多層化している。
・竹澤桂子
竹澤さんはいつも若者をモティーフにしており、「現代」と密着していこうという強い姿勢を感じる。紫のストッキングをはいて携帯電話を手にする少女、赤いいす、i-pod、コーラなど、リアルかつポップさがまぶしい。
・上野秀実
上野さんは、道展とこの「北の日本画展」でしか見たことがないのだが、なかなかの表現力だと思う。そして、今回の作品などもそうなのだが、若い夢やあこがれの挫折という裏のテーマがあって、全体を重厚なものにしているように感じられるのだ。
今回描かれているのは、はだしで、かばんをさげたまま横たわって目をつむる少年。指の先には、床の上の恐竜?の骨骼図がある。
・野口裕司
道内の「日本画家」で最も先鋭的な表現に取り組んでいるひとり。
「ごろり」は八曲四双の屏風スタイルの作品だが、支持体は透明な樹脂で、墨による線が全体を覆う。
「流転」は動画。墨の線が増えたり、消えたりするシンプルな作品。
あらためて墨による表現を問うた作品だと思う。
・前田健治
これも、現代の墨画があるとすればどうあるべきか-という問題意識を秘めた作品ではあるまいか。いわゆる「水墨画」とは異なる地点で、モノクロームのリアルな画面を追求している。
・川井坦
一見、ありふれた写実的な静物画だが、複数の視点を取り入れている。
つまり、テーブルクロスは真上から、人形などは斜めから、壁の絵は正面からとらえられているのだ。なのに、不自然さはあまりない。キュビスム以来の問題意識を自然に消化した作品といったら、言い過ぎだろうか。
・北口さつき
ぐっと押し出てくるような強さをはらんだ女性像を得意としていた北口さんだが、人間の描き方はややあっさりしてきた印象。
・吉川聡子
あいかわらず達者だなあ。「n2w3」は、いうまでもなく札幌の北2条西3丁目。背景のコンビニエンスストアはほとんど青の諧調で都会的に処理され、横断歩道の手前で傘をさしている茶髪の女性だけがリアルな色彩で、引き立つようになっている。彼女の傘だけが透明で、あとの傘は模様つき。プロのイラストレーターとしての実力を発揮しつつも、そこにとどまっていない。
・千葉晃世
白い箔をならべたように見えるが、手書きで、正方形を99個描いているのがユニーク。それ以外は、白と黒のみで表現された冬の荒野と疎林だ。あらためて「日本画らしさ」を問うているようにも見える。
・小林文夫
これだけ作品があるのに風土性とがっぷり組み合っているのは小林さんぐらいしか見あたらないのは意外。徳丸滋さんとも共通する簡素な構図で、トドマツ林を描写している。
・朝地信介
年輪のような奇怪な文様を茶と白だけで大画面に展開している。「何か」がきしむような音が聞こえてきそうだ。
・駒澤千波
中央に立っている女、左にうずくまる人物。その上に鳥が立ち、女の後ろには象の鼻のようなものが右から左に伸びる。動物の描写はあいかわらずうまい。以前よりも輪郭線が強調された上に、画面全体に、雨を聯想させる絵の具のしたたりが目立ち、画風の転換を予想させる面も。
出品作は次のとおり。
佐藤弘美子 野の譜
大塚博子 Friend III
樋口雪子 卓上
伊藤洋子 クリスマスツリー
安榮容子 カリフォルニアにてオリーブ
カリフォルニアにてジャスミン
カリフォルニアにて時計草
小島和夫 想(オーランガバード)
想(臼杵)
平向功一 GULLIVER
IKAROS
櫻井明子 晴れ着
今橋香奈子 風横株(←すいません、ちょっと自信ないです)
今井緋紗子 四季の宴
横川 優 雪の舞
熊崎みどり 回帰
伴百合野 旅の日記より コルドバにて
竹澤桂子 おおぜいのなかのわたし
野口絹代 みち
上野秀実 Life
野口裕司 ごろり
流転
田村直子 山菜採りの日
前田健治 幹
岡 恵子 象のお守り(同題3点)
早春譜
はまなす
川井 坦 梅花
人形とハイビスカス
村木 愛 石づくりのサイロ
陳 曦 旅の思い出
苗族の人
河内厚子 ひととき
馬場静子 初夏
北口さつき SAVE OUR SHIP
千葉 繁 生命
池田さやか ケープ
花びら
齋藤美佳 雨あがりに
中野邦昭 ムスタグアタの夜明け
月の日の雪
富山真祐 機
丸野仁美 想う
吉川聡子 N2W3-雨-
内崎さき子 寒風の跡に(石狩)
古瀬真弓 待つ
大塚さつき 春、咲く
鈴木恭子 爽秋
高木久仁子 12月
小林智恵子 寒林
山本孝子 白い譜
舟山敦子 風を聴く
千葉晃世 冬
佐久間敏夫 椿
二美桜
笠嶋咲好 遠雷
山内敦子 紫蘭咲く
百野道子 leaf shower
富樫はるか 降りそそぐ祈跡
小林文夫 寂
夜明け
冬日
朝地信介 成長する構造II
駒澤千波 夏至
08年5月26日(月)-31日(土)10:00-18:00(最終日-17:00)
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3 地図A)
●深川移動展=6月3日(火)-15日(日)10:00-18:00、月曜休み、アートホール東洲館(深川市1条9、深川駅前)
■第22回
■第21回
■20周年記念
■第19回
■第18回(5月17日の項)
■第17回
■01年(5月16日の項)
=第21回以外は画像なし
昨年から3年連続で、テーマを設けた企画展を併催しており、ことしは「日本画、ニホンガ?にほんが。」となっているので、旧来の日本画の枠にとらわれない作品がかなり出てくるのではないかと予想していたが、いつにも増してオーソドックスな、写実的に女性や花などを描いた作品が目立った。
これを
「安心して見られる」
ととるか
「物足りない、個性に乏しい」
ととるかは、意見の分かれそうなところだ。
実名を出すのはアレかもしれないが、加藤拓、谷地元麗子、佐藤綾子、中島涼沙、高橋潤といった面々が出品していれば、全体の印象はもうすこし変わっていたかもしれない。
・小島和夫
題の「オーランガバード」は、インドの石窟群のある地名。臼杵は大分県で、筆者も昔、ここにある摩崖仏を見たことがある。
仏教発祥の地の仏像と、大陸東端の仏像を描いた大作2点で、人間の信仰心を静かに問う。一見、色彩は地味だが、よく見ると、インド側にはピンクが、大分側には金色がまぶされ、画面に精彩を与えている。
・平向功一
以前から「バベルの塔」をテーマとする寓意的な作品に取り組んできた。
今回の「GULLIVER」は、画面の下半分が、これまでのバベルの塔と同様の器械群で占められ、その上に、縄でくくられた巨人が横たわっている。ただし、ガリバーは、もがいているようなのだが、仰角気味の構図のため、表情などはわからない。したがって、平向さんの絵のもうひとつの特徴である「無人」という印象は、これまでと変わっていない。
小品の「IKAROS」も風変わり。5枚の羽や塔屋、滑車などを備えた紡錘型の奇妙な機械が空を飛行している。下界は、砂漠の街が広がり、前景にはカタパルトのようなものが描かれている。
・伴百合野
額装も軸装もしていない縦長の紙本3枚による組作品。回廊の風景を、透視図法を生かして描いているが、ほかの場面を重ね合わせたり、ガーゼをコラージュして、風景画を多層化している。
・竹澤桂子
竹澤さんはいつも若者をモティーフにしており、「現代」と密着していこうという強い姿勢を感じる。紫のストッキングをはいて携帯電話を手にする少女、赤いいす、i-pod、コーラなど、リアルかつポップさがまぶしい。
・上野秀実
上野さんは、道展とこの「北の日本画展」でしか見たことがないのだが、なかなかの表現力だと思う。そして、今回の作品などもそうなのだが、若い夢やあこがれの挫折という裏のテーマがあって、全体を重厚なものにしているように感じられるのだ。
今回描かれているのは、はだしで、かばんをさげたまま横たわって目をつむる少年。指の先には、床の上の恐竜?の骨骼図がある。
・野口裕司
道内の「日本画家」で最も先鋭的な表現に取り組んでいるひとり。
「ごろり」は八曲四双の屏風スタイルの作品だが、支持体は透明な樹脂で、墨による線が全体を覆う。
「流転」は動画。墨の線が増えたり、消えたりするシンプルな作品。
あらためて墨による表現を問うた作品だと思う。
・前田健治
これも、現代の墨画があるとすればどうあるべきか-という問題意識を秘めた作品ではあるまいか。いわゆる「水墨画」とは異なる地点で、モノクロームのリアルな画面を追求している。
・川井坦
一見、ありふれた写実的な静物画だが、複数の視点を取り入れている。
つまり、テーブルクロスは真上から、人形などは斜めから、壁の絵は正面からとらえられているのだ。なのに、不自然さはあまりない。キュビスム以来の問題意識を自然に消化した作品といったら、言い過ぎだろうか。
・北口さつき
ぐっと押し出てくるような強さをはらんだ女性像を得意としていた北口さんだが、人間の描き方はややあっさりしてきた印象。
・吉川聡子
あいかわらず達者だなあ。「n2w3」は、いうまでもなく札幌の北2条西3丁目。背景のコンビニエンスストアはほとんど青の諧調で都会的に処理され、横断歩道の手前で傘をさしている茶髪の女性だけがリアルな色彩で、引き立つようになっている。彼女の傘だけが透明で、あとの傘は模様つき。プロのイラストレーターとしての実力を発揮しつつも、そこにとどまっていない。
・千葉晃世
白い箔をならべたように見えるが、手書きで、正方形を99個描いているのがユニーク。それ以外は、白と黒のみで表現された冬の荒野と疎林だ。あらためて「日本画らしさ」を問うているようにも見える。
・小林文夫
これだけ作品があるのに風土性とがっぷり組み合っているのは小林さんぐらいしか見あたらないのは意外。徳丸滋さんとも共通する簡素な構図で、トドマツ林を描写している。
・朝地信介
年輪のような奇怪な文様を茶と白だけで大画面に展開している。「何か」がきしむような音が聞こえてきそうだ。
・駒澤千波
中央に立っている女、左にうずくまる人物。その上に鳥が立ち、女の後ろには象の鼻のようなものが右から左に伸びる。動物の描写はあいかわらずうまい。以前よりも輪郭線が強調された上に、画面全体に、雨を聯想させる絵の具のしたたりが目立ち、画風の転換を予想させる面も。
出品作は次のとおり。
佐藤弘美子 野の譜
大塚博子 Friend III
樋口雪子 卓上
伊藤洋子 クリスマスツリー
安榮容子 カリフォルニアにてオリーブ
カリフォルニアにてジャスミン
カリフォルニアにて時計草
小島和夫 想(オーランガバード)
想(臼杵)
平向功一 GULLIVER
IKAROS
櫻井明子 晴れ着
今橋香奈子 風横株(←すいません、ちょっと自信ないです)
今井緋紗子 四季の宴
横川 優 雪の舞
熊崎みどり 回帰
伴百合野 旅の日記より コルドバにて
竹澤桂子 おおぜいのなかのわたし
野口絹代 みち
上野秀実 Life
野口裕司 ごろり
流転
田村直子 山菜採りの日
前田健治 幹
岡 恵子 象のお守り(同題3点)
早春譜
はまなす
川井 坦 梅花
人形とハイビスカス
村木 愛 石づくりのサイロ
陳 曦 旅の思い出
苗族の人
河内厚子 ひととき
馬場静子 初夏
北口さつき SAVE OUR SHIP
千葉 繁 生命
池田さやか ケープ
花びら
齋藤美佳 雨あがりに
中野邦昭 ムスタグアタの夜明け
月の日の雪
富山真祐 機
丸野仁美 想う
吉川聡子 N2W3-雨-
内崎さき子 寒風の跡に(石狩)
古瀬真弓 待つ
大塚さつき 春、咲く
鈴木恭子 爽秋
高木久仁子 12月
小林智恵子 寒林
山本孝子 白い譜
舟山敦子 風を聴く
千葉晃世 冬
佐久間敏夫 椿
二美桜
笠嶋咲好 遠雷
山内敦子 紫蘭咲く
百野道子 leaf shower
富樫はるか 降りそそぐ祈跡
小林文夫 寂
夜明け
冬日
朝地信介 成長する構造II
駒澤千波 夏至
08年5月26日(月)-31日(土)10:00-18:00(最終日-17:00)
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3 地図A)
●深川移動展=6月3日(火)-15日(日)10:00-18:00、月曜休み、アートホール東洲館(深川市1条9、深川駅前)
■第22回
■第21回
■20周年記念
■第19回
■第18回(5月17日の項)
■第17回
■01年(5月16日の項)
=第21回以外は画像なし