写真表現の可能性を探ろうと、札幌の野呂田晋さんらが毎年メンバーを集めて開いているグループ展。
こういうタイトルなので、道内にとても多いネイチャー系や、ポートレイトは、出る幕はない。実験的な取り組みをする写真家や画家が、毎年少しずつ顔ぶれを変えて出品している。
今回は昨年から10カ月ほどしかたっていない。
そして、vol.2 や vol.3 のときにあった、充実したFacebook ページが見当たらない。
野呂田さんが多忙で準備できなかったのだろうか。
そのために、3日午後1時半から3時間にもわたるアーティストトークの時間をもうけていたのだろうか。
出品者が11人もいるとはいえ、3時間は長丁場である。
野呂田さんは体調不良の由で当日は欠席し、となりの会場で開かれていたグループ展「群青」の主宰者である丸島均さんがなぜか司会を務めていた。
先の画像で奥の壁に貼ってあるのは、神成邦夫さんの「北海道図鑑」。
手前にあるのは、河口真哉さんのインスタレーションである。
四角い箱の中を、懐中電灯で照らしながら見るというスタイル。
「北海道図鑑」は神成さんが最近取り組んでいるシリーズで、複数枚のおなじ大きさの、横位置のプリントを規則正しく並べている。
一見、名もないどこかの風景のようだが、種を明かせば、空も地面も撮影地が別々なのだ。
vol.2 のときは、3×3=9 枚だったが、今回は11×11=121枚!
空も草もサロベツ、苫小牧、夕張、札幌、渡島管内長万部町、オホーツク管内の遠軽町や斜里町、稚内、北見など、バラバラだ。
ところが、近づいて見ると…。
おそろしく解像度を低くしている。
それぞれのプリントは、80×60ピクセルぐらいしかないという。
初期のテレビゲームのグラフィクスみたいに、輪郭が角張っているのだ。
神成さんによれば、こういう画像はコンピューターソフトが勝手に補正してスムーズなものにしてしまうことがあるため、かえって出力が大変だったという。
会場では
「神成さん、5千万画素の超高精細カメラを持ってるのに何してんですか笑?」
「或る意味、神成さんの自己パロディのような作品」
などと、来場者のツッコミを受けていた。
ふだん自分が目にしているものは何か。
自分はほんとうにそれを見ているのか。
いろいろなことを考えさせる作品ではある。
手前は、おぎのようこさん「内包する」。
旧作のプリントの裏側が表になるようにまるめて、絵画用の額5個の内側に積み重ねている。
来場者は手にとって、すき間から内側をのぞくことができる。
奥の壁面は新堀元太さんの「越冬」など。
シカをとらえたモノクロの3点組み。
奥の右手は、道展協会賞の若手画家、河口真由美さんのインスタレーション「ヒカリガの群れ」。
市民ギャラリーのピクチャーレールから何本も垂れ下がっている展示用のチェーンをなんとかして作品にできないか―という発想からできた作品。
このチェーンを、幼虫がぶら下がる糸に見立てたという。
きれいな景色を見ていたら目の前に急にシャクトリムシが降ってきて視界をさえぎられた経験が反映しているそうだ。
細い板には随所に虫の写真がコラージュされている。
それにしても、チェーンに板を取り付けるだけで、たいへんな手間がかかりそうだ。
「Tetsu Osumi」さんの「interface -大地と大気をつなぐもの-」。
かつて都市風景や窓をテーマにしていた作者だが、今回は自然寄りのスタンス。
樹木の画像を重ねて、キャンバスプリント7枚に出力した。
次は、初参加の岡崎はるなさん「すみれの畔」。
街角などのスナップ11枚組み。
今回の顔ぶれの中では、あまり「写真か?」という感じではなく、わりとふつうの写真といえるかも。
藤女子大写真部の出身ときいて「なるほどな~」と納得してしまった。
ほかの大学写真部に比べると藤女子大だけは作風に共通点が多いのだ。
苫小牧の高橋徹さん「境界と揺らぎ」。
今回では唯一となるモノクロフィルムの写真。それを、黒いビニールでこしらえて水を入れたプールにうかべている。
なんだか暗室作業の風景のように見える。
上からのぞき込むと水面に自分の顔がうつるのがおもしろい。
中央の鳥は、苫小牧川の河口附近にすみついている飛べない白鳥なのだそう。
本人はいずれも「生と死」を意識させる写真と話している。
日高管内浦河町の画家田中郁子さんは、毎日続けている一種の絵日記「アナログ日記」のイメージを野呂田さんに託して、プリントアウトしてもらったもの。
離れて見ると、一原有徳さんの「SON ZON」を思い出すなあ。
主宰の野呂田さん「being and eating -flesh#2.0-」。
欠席していたためメッセージを寄せていたが、それによると「今回は考えるのをやめた」とのこと。
旧作のイメージが大量に氾濫している。
さて、最後の2枚は、阿部雄さん「はい、やってみます」。
「ヘンな夢の映像化」という主題の10枚組み。さすがにそんな奇妙な夢はたくさん見ないので、生成AIが考えてくれた夢を実際に映像にしてみた。
財布から蝶々が飛び出す夢
シャンプーの泡で家を建てる夢
自分の影が踊り出す夢
靴下が空を飛ぶ夢
巨大太巻が列車になる夢
ラーメンが毛糸に変わってしまう夢
声が漫画のセリフのようになる夢
ポストに牛乳を注ぐ夢
筆者の写真がへたなのでわかりにくいが、たとえば1枚目の中央が「靴下が空を飛ぶ夢」である。
これらを現実化させるのは、けっこう大変だったらしい(節分でもない時期の太巻の入手も)。そりゃそうだろうなあ。
こういうコンストラクテッドフォトの変形みたいな写真に取り組む人は道内にはほとんどいないし、おもしろい試みだと思った。
2024年2月28日(水)~3月3日(日)午前10時~午後7時(最終日~5時)
札幌市民ギャラリー(札幌市中央区南2東6)
過去の関連記事へのリンク
■素材としての写真拡張展 写真か? vol.2 (2022)
■ちかしとおし 神成邦夫・山岸せいじ展 (2019)
■公募 第10回茶廊法邑写真展 (2018)
■神成邦夫展 Surface HOKKAIDO (2018)
■第4回丸島均(栄通記)企画 群青―ぐんせい― (2017)
■神成邦夫写真展 HORIZON ―北海道―内界と外界の境界線 (2016)
■「Photo Session 1006」My White Season (2010)
■PHOTOGRAPH EXHIBITION MOVE 3 part1 (2010)
■野呂田晋展「偽POP偽(仮)」(2019)
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■さっぽろフォトステージPart2 (2009)
■河口真由美個展 夢の通ひ路(2022)
■第6回 群青 -2週間10部屋の展覧会- 【前期】(2019)=高橋徹さん出品
■田中郁子展 つながるさきへ(2022)
ファイナル バックボックス + will win 展 (2022)。【告知】はこちら
【告知】第48回北海道抽象派作家協会展/第4回バックボックス展 (2021)
【告知】will win 展 ~描くしかできない人達 (2020)
■第3回 バックボックス展 (2019)
■第46回北海道抽象派作家協会展 (2019)
■第63回新道展 (2018)
■バックボックス展
(2018)
■第四十五回北海道抽象派作家協会展 (2018年4月)
■44th 北海道抽象派作家協会展 (2017)
■TAPIO LAST 終章 (2016)
■第6回 群青 -2週間10部屋の展覧会- 【後期】(2019)
■nor-hay展 「林教司を偲ぶ会」(2018)
■第2回 #札幌PEN部 写真展 (2018)=阿部雄さん
こういうタイトルなので、道内にとても多いネイチャー系や、ポートレイトは、出る幕はない。実験的な取り組みをする写真家や画家が、毎年少しずつ顔ぶれを変えて出品している。
今回は昨年から10カ月ほどしかたっていない。
そして、vol.2 や vol.3 のときにあった、充実したFacebook ページが見当たらない。
野呂田さんが多忙で準備できなかったのだろうか。
そのために、3日午後1時半から3時間にもわたるアーティストトークの時間をもうけていたのだろうか。
出品者が11人もいるとはいえ、3時間は長丁場である。
野呂田さんは体調不良の由で当日は欠席し、となりの会場で開かれていたグループ展「群青」の主宰者である丸島均さんがなぜか司会を務めていた。
先の画像で奥の壁に貼ってあるのは、神成邦夫さんの「北海道図鑑」。
手前にあるのは、河口真哉さんのインスタレーションである。
四角い箱の中を、懐中電灯で照らしながら見るというスタイル。
「北海道図鑑」は神成さんが最近取り組んでいるシリーズで、複数枚のおなじ大きさの、横位置のプリントを規則正しく並べている。
一見、名もないどこかの風景のようだが、種を明かせば、空も地面も撮影地が別々なのだ。
vol.2 のときは、3×3=9 枚だったが、今回は11×11=121枚!
空も草もサロベツ、苫小牧、夕張、札幌、渡島管内長万部町、オホーツク管内の遠軽町や斜里町、稚内、北見など、バラバラだ。
ところが、近づいて見ると…。
おそろしく解像度を低くしている。
それぞれのプリントは、80×60ピクセルぐらいしかないという。
初期のテレビゲームのグラフィクスみたいに、輪郭が角張っているのだ。
神成さんによれば、こういう画像はコンピューターソフトが勝手に補正してスムーズなものにしてしまうことがあるため、かえって出力が大変だったという。
会場では
「神成さん、5千万画素の超高精細カメラを持ってるのに何してんですか笑?」
「或る意味、神成さんの自己パロディのような作品」
などと、来場者のツッコミを受けていた。
ふだん自分が目にしているものは何か。
自分はほんとうにそれを見ているのか。
いろいろなことを考えさせる作品ではある。
手前は、おぎのようこさん「内包する」。
旧作のプリントの裏側が表になるようにまるめて、絵画用の額5個の内側に積み重ねている。
来場者は手にとって、すき間から内側をのぞくことができる。
奥の壁面は新堀元太さんの「越冬」など。
シカをとらえたモノクロの3点組み。
奥の右手は、道展協会賞の若手画家、河口真由美さんのインスタレーション「ヒカリガの群れ」。
市民ギャラリーのピクチャーレールから何本も垂れ下がっている展示用のチェーンをなんとかして作品にできないか―という発想からできた作品。
このチェーンを、幼虫がぶら下がる糸に見立てたという。
きれいな景色を見ていたら目の前に急にシャクトリムシが降ってきて視界をさえぎられた経験が反映しているそうだ。
細い板には随所に虫の写真がコラージュされている。
それにしても、チェーンに板を取り付けるだけで、たいへんな手間がかかりそうだ。
「Tetsu Osumi」さんの「interface -大地と大気をつなぐもの-」。
かつて都市風景や窓をテーマにしていた作者だが、今回は自然寄りのスタンス。
樹木の画像を重ねて、キャンバスプリント7枚に出力した。
次は、初参加の岡崎はるなさん「すみれの畔」。
街角などのスナップ11枚組み。
今回の顔ぶれの中では、あまり「写真か?」という感じではなく、わりとふつうの写真といえるかも。
藤女子大写真部の出身ときいて「なるほどな~」と納得してしまった。
ほかの大学写真部に比べると藤女子大だけは作風に共通点が多いのだ。
苫小牧の高橋徹さん「境界と揺らぎ」。
今回では唯一となるモノクロフィルムの写真。それを、黒いビニールでこしらえて水を入れたプールにうかべている。
なんだか暗室作業の風景のように見える。
上からのぞき込むと水面に自分の顔がうつるのがおもしろい。
中央の鳥は、苫小牧川の河口附近にすみついている飛べない白鳥なのだそう。
本人はいずれも「生と死」を意識させる写真と話している。
日高管内浦河町の画家田中郁子さんは、毎日続けている一種の絵日記「アナログ日記」のイメージを野呂田さんに託して、プリントアウトしてもらったもの。
離れて見ると、一原有徳さんの「SON ZON」を思い出すなあ。
主宰の野呂田さん「being and eating -flesh#2.0-」。
欠席していたためメッセージを寄せていたが、それによると「今回は考えるのをやめた」とのこと。
旧作のイメージが大量に氾濫している。
さて、最後の2枚は、阿部雄さん「はい、やってみます」。
「ヘンな夢の映像化」という主題の10枚組み。さすがにそんな奇妙な夢はたくさん見ないので、生成AIが考えてくれた夢を実際に映像にしてみた。
財布から蝶々が飛び出す夢
シャンプーの泡で家を建てる夢
自分の影が踊り出す夢
靴下が空を飛ぶ夢
巨大太巻が列車になる夢
ラーメンが毛糸に変わってしまう夢
声が漫画のセリフのようになる夢
ポストに牛乳を注ぐ夢
筆者の写真がへたなのでわかりにくいが、たとえば1枚目の中央が「靴下が空を飛ぶ夢」である。
これらを現実化させるのは、けっこう大変だったらしい(節分でもない時期の太巻の入手も)。そりゃそうだろうなあ。
こういうコンストラクテッドフォトの変形みたいな写真に取り組む人は道内にはほとんどいないし、おもしろい試みだと思った。
2024年2月28日(水)~3月3日(日)午前10時~午後7時(最終日~5時)
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(2018)
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